明日からなのにレースウマが一体も完成してないモンゴルウマ娘です。
初夢というのを、皆さんご存じだろうか。
「初夢」とは、新しい新年を迎えるにあたり最初に寝た日の夜に見る夢の事である。
元日オンリーだけではなく、1日はずっと起きていて2、3日に寝た時に見た夢をその年の初夢と解釈しても良いらしい。
日本古来の風習らしく、調べたら室町時代からそのような夢と縁起に関係した話が存在していたという。
七福神の宝船。
一富士二鷹三茄子。
四扇五煙草六座頭。
七丁髷八薔薇九歌舞伎。
後世に語られる上で後付けになった要素も多少はあるものの、僕らが初夢に関して聞いたことがある言葉はこれくらいだろうか。
「……酷い初夢だった」
背中に鈍い衝撃を受けたことで強制的に目覚めさせられた身体を起こし、自分がベッドから落下した事に気付く。
時計を見るや、時刻はまだ四時半という中途半端な時間帯。
睡眠による回復の効果は薄く、むしろ疲労感も覚えながら僕は柄にもなく汗を搔いていた。
それもそのはずである。
僕のウマ娘になってから迎えた新年に相応しい初夢は雪の大地の上で自決するという内容だったからだ。
途中まで真面目に自殺の事を考えていたけど、ノータイムで雪が降る外に移動してるわ死に装束に着替えてるわ、介錯人グラスワンダーの掛け声が天誅だったりとか。
ツッコミどころが満載のブラックサンダー自決劇だったわけだけど、どれもこれもネタにするには現実味がありすぎる内容である。
夢なんだけど、夢ではない。
実際に起こらなさそうで、起こりそうな。
そんな曖昧な事象、それが夢である。
「僕、なんか悪いことしたっけ……」
自らの罪状を脳内で思いつく限り浮かべるが首を傾げるほどに該当するものが無い。
ハルウララを人参を対価に頬ずりしたり。
マヤノトップガンとメリーゴーランドごっこをしたり。
ナリタタイシンを背後から抱き着いて驚かせてみたりして。
グラスや彼女たちのトレーナーが血眼になって僕を追ってきた気がするけど。
だけど、僕は自称清廉潔白、驚きの白さを持った清純なウマ娘だ。
はぐれ刑事のタイトルで言うなら、ウマ娘清純派である。
スマホの画面を見ると、桐生院からのメールが来ていた。
以前の後輩トレーナーの件でブラックサンダーにお世話になったという内容であった。
文面まで夢の中で見た内容と一緒だった、怖すぎる。
「うわ……やっちまった」
ある事に気付いた。
僕の中で、昨年の総決算である年末でしでかしてしまった失態を今更ながらに自覚し、後悔する。
寝ぼけた頭が徐々に鮮明になっていく上で、明らかになった事実に僕は頭を抱えた。
「僕、ガキ使最後まで見てねェじゃん……」
新年のスタートにしては、最悪すぎる。
そんな事を思いながら、僕は再び布団の中に入り二度寝を決め込むのであった。
〇
新年のイベントと言えば初詣である。
あの後無事に起床した僕は朝食を取り、身の回りの整理を簡単にした後で外へと出る。
1月1日。
学園には一部の生徒達が実家へ帰省をするなどしてはいるものの、各施設を運営できるくらいにはスタッフが勤務しているのを見る限り、いつものトレセン学園の風景が見て取れていた。
僕も人間だったころは実家に里帰りをしている所なのだが、ウマ娘の肉体な事は家族には伝えていない為に帰ることが出来ない。
時間はかなり余っていたこともあり、今年のレースの振り返りや自身のレースを映像で見て研究していたがそれも飽きる物である。
学生という身分に肉体が戻ったからか、この際だから惰眠も貪れるだけ貪って遊べるだけ遊ぶか、と自堕落な年末を過ごしていた。
具体的には、今年発売されていたがプレイする時間もなかった積みゲーを消化したり、
年末のみ放送される格闘技やお笑い番組を見たりしていた。
するとどういう訳か、グラスワンダーがやって来て「だらしないですよ、トレーナーさん」と年末料理である年越し蕎麦を作ってくれたのだが、これがとても美味かった。
年越し蕎麦なんて、インスタントのたぬきの蕎麦だったからちゃんとまともな年越し蕎麦を食べるのは実家にいる時以来かも知れない。
彼女は実に優れたお嫁さんになる事だろう、旦那さんになる者は幸せだな。そんな事を思いながら神社の前へと辿り着く。
鳥居の前で待ち合わせをしている少女、グラスワンダーと目が合うと彼女は手を振ってくれた。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう、グラス。今年もよろしくな」
「いえいえ、こちらこそ~」
朗らかに笑うグラスワンダー。
去年まで骨折によって付けていた足のギプスは10月の段階で外されている。
歩けるようになったグラスワンダーは日常生活に支障を来さないレベルに回復していた。
「お、初めて見る装い……」
「ええ。初詣ですから少しおめかしをしてみました……その、どうですか……?」
そう言うグラスワンダーの服装は鮮やかな色をした振袖であった。衣装違いガチャの前触れか。
落ち着いた碧の地に水仙の花の文様が彩られている。
水仙は正月に満開となる花だ。三連水仙の花飾りを付け、グラスワンダーの勝負服とどこかよく似た、彼女らしい大和撫子の上品さと可愛らしさを表現した振袖。
このまま薙刀を持ち出しても、武家に仕える女傑のような感じがしてカッコよくもある。
これがゴーストオブツシマの鎌倉時代であったのなら、北条政子とタッグを組んで蒙古兵を殲滅していたに違いない。
はっきり言って、非の打ちどころがない程に美しい。
和服が似合いそうなウマ娘はトレセン学園でも何人かいるだろう。
モデルもやってるゴールドシチーとか。
シンボリルドルフとエアグルーヴとか。
というか、基本的にトレセン学園のウマ娘達は何を着させても似合いそうではあるが、僕にとって和服が一番似合うと思うウマ娘はグラスワンダーだけだ。
「ああ……似合ってるよ、すごく。とても綺麗だ」
「そ、……そうですか、ありがとうございます…では、祈願しに行きましょう。
お客さんもたくさん来て、境内の方も賑わってきたみたいですし……ふふ」
瞳を見合わせて数秒、やがて頬を朱に染め始めたグラスワンダーの方から視線を外すと彼女はそう言って前を向き、人の群れが出来つつある境内の方向を見た。
骨折という怪我を完治させた彼女は軽い足取りで進んでいく。僕もグラスワンダーの事を追いかけた。
二人して他の参列者と並び、順番がくるまで暫く待つ。
実家にいた頃は日を跨いだ夜中に神社へと向かい、そこで初詣に行っていた事を思い出す。
夜に揺らめく焚火の炎がやたらと綺麗で子供のころからそれ見たさに毎年神社に向かっていた。
眠くて怠いけど、あの焚火を目にするとテンションが上がる。男子特有の症状だろうか。
漸く順番が来て、僕はふと考えこむ。
・・・・さて、何を祈願しようか。
数秒程の時間を要した後、これだな。と決めて両の手を二度合わせて叩く。
『グラスが復活しますように』
それは僕のレース結果次第なんだがと、自身に言い聞かせるも神頼みもしたくなるというもの。
学園に戻ったら、マチカネフクキタルの占いの館に行って今年の運勢を占ってもらおうか。
「お、屋台がいっぱいあるな……学園に戻るのも早すぎるし、ちょっと寄ってこうか」
「いいですね」
境内にはいくつもの出店が並んでいて、人もそこに集まっていた。
正月の神社は人が集まるからなのだろうか、この手の商売は繁盛しているに違いない。
「おでんに甘酒、ベビーカステラ、人形焼きもありますよ。おいしそうですね~」
「よし、グラス。好きな物を頼んでもいいぞ」
「いいんですか?」
「新年のめでたい日だからな。それに、グラスが興味ありそうだったから」
トレーナー時代の貯蓄はまだ大分残っている。というか、この前口座を確認したら残高が増えていた。
ウマ娘になってからも、学園側からトレーナーとしての給料は忘れずに振り込まれていたので、トレセン学園がそこら辺は良心的だなと思った瞬間である。
それに、僕が浪費家ではないのもあってか懐事情に関してはそれなりに潤っているのが現状なのだ。
金銭に無頓着なのかと言われればそうではなく、外出した時はグラスのコンディショニング管理の一環として使用することが多い。
レースの結果に応じたご褒美でおいしいご飯を食べたり。
遊園地などに連れて行っては、気になっているパフェなどを買ってあげたりと。
「ではお言葉に甘えて……ベビーカステラを宜しいですか?」
あれ、コイツ食ってしかなくね?
僕は頷き、ベビーカステラの屋台で僕とグラス用に一つずつ買う。
正月の冷気に充てられてカステラからじんわりと湯気が見えており、作りたてなのか、生地がまだ暖かい。
寒空の下で乾燥した鼻腔に届く甘い香りは僕達ウマ娘の食欲本能を刺激する。
「あむっ」
カステラを一口、グラスは甘美に酔いしれるように顔を緩ませる。
「~~~~」
食べる事で幸せを摂取しているというのか。
幸福を噛みしめているというか、そんな感じの表情。
普段が普段で、和菓子の方にしか興味が無いのかと思っていたけど洋菓子も普通に食べるのだとグラスワンダーの担当三年目にして新たな発見。
「うむ、うまい」
僕もカステラを一口頬張り、その感想を口にする。
さもクッキングパパで至高の料理を作成し味見して納得いく出来だった時の荒岩主任のように顎をしゃくれさせた。
その後は彼女が興味を示した出店を回って、その都度欲しいものを買っては食べていく。
気付けば、僕の財布は空っぽになった。
今は店を回り終わって、やる事も無くなりトレセン学園に戻る途中だ。
僕の両手には出店で買った商品や破魔矢などの正月グッズでいっぱいである。
買い込んだ食べ物は冷蔵庫に保存が効くので、今日の夕方や夜にでも夜食代わりに食べる算段だ。
その道中、隣を歩いていたグラスが口を開いた。
「新年という事で、ここは一つ〝抱負〟というのを掲げてみませんか?トレーナーさん」
「抱負?」
聞き返した僕に対してグラスはええ、と頷き、
「トレーナーさんの目指す道は如何ほどかと」
彼女に「道」と言われて、その意味を理解できないわけではない。
新年を迎え、僕のデビュー期間は終わりを告げて、いよいよクラシック戦線へと突入する。
5月の期間を過ぎるまでは、僕は同じクラシック期のウマ娘達としかレースが出来ないがそれ以降は先輩であるシニア勢との戦いにも参加が可能だ。
クラシック期には、G1等の格式高いレースが数多くある。
その中でグラスが問う、「道」と称されるもの。
ウマ娘が一生に一度しか通れない、トゥインクルシリーズが最も盛り上がる時期。
「どっちの冠を目指すかって、話か」
三冠路線か、ティアラ路線を進むのか、そういう話だろう。
ミスターXにも年明けには決めて置いてくれ、と言われていたな。
「皇帝・ブラックサンダーを目指すか、女帝・ブラックサンダー……どちらでもネームド的にはイイ感じがするなァ」
「あらら~、でしたら生徒会長さんや副会長さんをその前に倒さないといけませんね~。2代目を継ぐウマ娘として」
「勝負のハードルが高すぎる」
今の僕の実力では、シンボリルドルフとエアグルーヴを相手に逃げ切れる程のものはない。
だが、いずれは越えていかなければいけない相手である。目の前のグラスワンダーにいつか皇帝越えと女帝越えを見せてやろうではないか。
「3冠路線を進むよ」
やけに澄み切った東京の空を見上げて、僕は言った。
「三冠の中には日本ダービーがあるだろ?僕ってほら、現役時代だと全日本選手権とか行けなくてさ。インカレの予選どまりで。
〝日本の全国1位〟っていう響きにメチャクチャ憧れてるんだよ、僕。
女王様の冠に興味が無い訳じゃない、だけど、男の夢ってやつかな……うん、そうかもしれない」
ダービーに挑めるのは一生に一度だけ。
そんな事を僕はウィニングチケットが言っていたことを思い出す。
夏の甲子園、日本シリーズ、全日本選手権に匹敵するほどの大競争。
「男子たるもの、生まれたからには地上最強を目指せって範馬勇次郎も言っていた。
本能的なものが叫んでるんだよ、僕は〝こっち〟だって」
「なるほど。では、無敗の三冠ウマ娘目指しますか?トウカイテイオーさんのように」
「無敗の三冠、またハードルが上がった……あぁ、でも無敗、三冠、最強、どれも最高の響きだ。
狙いたい……ただ出場するんじゃなくて、名誉も栄冠も僕の物にしたいな……そんな強い気持ちが湧いてきてるよ」
これが、ウマ娘のみが持つ「勝利への執念」、というものだろうか。
大観衆が見守る中、冠を手にするためにターフを駆ける光景を想像しただけでも興奮が止まらない。
「……ふふ、これは私も復帰を急がねばなりませんね。
復活した暁には私も全身全霊を以って、トレーナーさんに挑み、ブラックサンダーを討ち取らせて頂きます」
口角がつり上がる。
グラスワンダーの視線に思わず息を吞んでいた。
あの怪物、グラスワンダーが僕を倒したい、そう思ってくれている。
ギプスを外した彼女は復帰に向けたリハビリメニューに取り組んでいる。
ランニングすらも息を上げてしまうほどにブランクがある状態だが、地道な筋力トレーニングで下地を作り、ランニングによる走行はまだ時間がかかる。
だけど、徐々に彼女は復活の兆しを見せ始めている。それだけでも、僕が走り続ける意味はあるというものだ。
「あぁ、その時は共にターフの上で」
決着を付けよう、と言葉にせずとも僕達は目だけで意思を疎通させる。
いいだろう、やって見せろよグラス。ただし、レース中に薙刀で命だけは取りに来ないでな。
「そこの黒いウマ娘!待つデース!」
その時だった。
決意を胸に学園へ戻るその帰路の途中、元旦の冷えた空気を切り裂いて、僕達の前に「怪鳥」が現れたのだ。
次回、怪鳥襲来。
・山々田山能の秘密。
③現役時代、100mのベストタイムは大学生の大会で出した10秒90。
ちなみに2020年の全国高等学校陸上競技選手権大会(リモート)では96名の高校生が参加してましたが、トップが10秒32、最低でも10秒82のタイムでした。大学生の山々田トレーナーですら勝てません。というか、スプリント競技に関しては10年くらい前から中学生で10秒台が見られるようになってきましたね……皆生まれながらにしてターボエンジン積んでんのかな。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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