僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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畜生、レオ杯Aグループ決勝に辿り着けない……ウンス、水着マルゼンの力がこれほどとは……現在の加速スキル逃げウマには差し型のウマ娘は不利だとでもいうのか。

だがまだ時間はある……ウンスマルゼン絶対先頭取らせないウマ娘を育成して蓋するしかねぇ!
独占欲、今回めっちゃ刺さりますね。


13.初詣、怪鳥襲来

 そのウマ娘は、振袖姿で石垣の上に立っていた。

 そのウマ娘は、深紅のマスクで不敵に笑っていた。

 

 ダート芝でもなんぜもござれ、でも出来れば芝で走りたい不撓不屈の大怪鳥。

 

 

 グラスワンダーのルームメイト、そのウマ娘の名は―――、

 

「世界最強!エルコンドルパサー、翔ぶが如くに颯・爽・入・場・デェェエス!!!」

 

 

 ウマ娘の卓越した身体能力で石垣の上から飛び上がったエルコンドルパサーと名乗るウマ娘は振袖姿にも関わらず高所からの前方宙返りを行い、見事に着地を決めた。

 

 

「お前は……エルコンドルパサー……」

 

「ホゥ、ブラックサンダー……このエルを知っているとは中々ジョウホウツーデース」

 

「あぁ、知ってるとも……芝A特性にも関わらず、アプリ実装初期からなかなかダート枠が埋まらないから砂の上を走らされていた〝砂のサイレンススズカ〟と呼ばれたあの――――」

 

「ノォォォウッ!!?なんという不名誉な覚えられ方!?しかも砂のサイレンススズカはスマートファルコンデェエス!!」

 

「いや、でもお前たしかウマ娘界のアマゾンスピリットになるって言ってたじゃん。

 〝一体ダートのレースは何の為に存在しているんだ?

  芝のレースの落伍者を救済する為か?

  芝コースを休ませる為か!?

  観客の目を休ませない為のバリエーションか?

  そうじゃねぇだろ……オレ達はオレ達で頂点決めんだろうがッ!〟――って」

 

「言ってないデース!!育成内容にも無い事実を捏造しないでほしいデェェス!!」

 

 エルコンドルパサーは僕の言葉を否定し、即座に戦闘態勢に入り、構えを取る。

 その独特な構えはプロレスの物だ……彼女の趣味なのだろうか。

 

 

 当然、ウマ娘・エルコンドルパサーの事を知らない僕ではない。仮にも、僕はウマ娘になる前はトレーナーだったのだから。

 それにエルコンドルパサーとレースすることも過去にあったため、彼女のトレーナーとは飲みの席でも一緒だったことがある。

 

 

 グラスと同じ海外からトレセン学園に来たウマ娘、エルコンドルパサー。

グラスワンダー、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイロー、名だたるウマ娘の中に入る『最強世代』の1人だ。

 

 

 NHKマイル杯。

 ジャパンカップ。

 サンクルー大賞。

 そして、凱旋門賞2着。

 

 世界最強を自称する彼女の自信に裏付けるのはその圧倒的実力にある。

 そんな誰もが認める強い、と言われるウマ娘・エルコンドルパサーが僕に何用か。

 

「グラスを懸けて勝負デース!」

 

「は?」

 

「グラスを懸けてエルと勝負するデース!」

 

「は?」

 

「だから隣のグラスを懸けて、このエルと勝負を――――」

 

「いや、エルコンドルパサー、そもそもなんでグラスワンダーを賭けの対象にして僕と勝負する必要があるんデース?」

 

「口調を真似するなデース!この世界最強エルが!ブラックサンダーに勝負を挑む理由は!

 グラスをそのブラックサンダーの毒牙から守るためデース!」

 

「何を申す……」

 

 鍛冶師たかに「侍の戦いじゃねぇ」、と言われた堺井仁の如き返し。

 しかし深紅の振袖を揺らすエルコンドルパサーは怯まない。

 

「ここ最近、いろんなウマ娘にちょっかいを出してるという噂を聞いたデス!

 ウララやマヤノだけでなく、ナリタタイシンやニシノフラワー……挙句の果てに小学生のウマ娘にも手を出してる恐ろしい奴デース!」

 

「ブラックサンダーさん?」

 

「グラス、誤解だ。僕は単純に幼いウマ娘達と友情を育んでいただけなのだから」

 

 友情トレーニングを行うには、それなりのコミュニケーション値を高める必要がある。

 僕の不足している能力を補うのには、彼女たちとの触れ合いが不可欠だったのだ。

 

 当然、山より高く、海より深い慈愛の心を持つグラスワンダーならば、僕の事情を勿論理解して―――

 

「後で説明してくださいね?」

 

 ―――くれなかった。

 これはあとで3時間くらい正座させられるのは確定かな。

 

 冷や汗を浮かばせる僕。

 一方で、エルコンドルパサーも腕を組んで言うのだ。

 

「というか、なんでグラスはコイツと歩いてるデース!」

 

「……ブラックサンダーさんと一緒に初詣へ行っていたのですが。 

 エルも朝からいなかったじゃないですか、今日の初詣はあなたのトレーナーさんと一緒に行くって」

 

「だから、なんでよりにもよってブラックサンダーなんデース!?」

 

 

 よりにもって……、その言われは心外である。

 僕ほどの人畜無害なウマ娘など、世界を探して10もいるだろうか。

 クレンザーの如く磨かれた、ウルトラマンの如き光の心を持つ僕が、エルコンドルパサーの言う悪行を行う事など、あり得ない。

 ましてや、相手がグラスワンダーとなれば尚更だ。

 

 彼女にイタズラ半分で手を出そうものなら、正当防衛による薙刀斬首刑がもれなく即日で行われることだろう。

 

 

「とにかく、ライバルとして!友人として!

 グラスが不良ウマ娘の手で人生狂わされるのを黙って見ていられないのデース!」

 

 

 何という事だ。

 どうにも、エルコンドルパサーの視点からだと僕はいつの間にか不良認定されてしまっているらしい。 

 言われもない事実だ。誤解も誤解である。甚だしい限りだ。

 

 少しだけ怒りの感情が湧いてくる僕であったが、それは僕の隣人も同じようだったみたいで、

 

「エ~ル~?」

 

「ケッ―――!?」

 

 笑顔であるものの、その仮面の下には明らかに修羅が潜んでいた。

 エルコンドルパサーがグラスワンダーの威圧感に気圧され、思わず息を呑む。

 こういう時、僕の事を怒りつつも、味方の時は味方でいてくれるグラスワンダーの存在は非常に有難い。

 

「ブラックサンダーさんの悪事が本当の事であれ、それ以上彼女の事を不良という括りで決めつけるのは侮辱というもの。

 必要以上の言葉は相手の心を傷つけます……同じ学園に属する者同士です。レースでの気遣いは不要ですが、共同生活の場ではそれを心掛けるべきでは」

 

「う、うぅ……グラス…」

 

 その毅然たる口調でエルコンドルパサーを説き伏せる姿はまさに武士の家に生まれた大和撫子。 

 流石はルームメイトだ。お互いの事を良く分かっている。僕にもこのようなルームメイトが欲しい……一人部屋が固定だから無理なんだけど。

 

「だからエル、ブラックサンダーさん……腹を切りなさい」

 

「その言葉で纏めるな!そして最終的には僕に飛び火している!?」

 

 希代のワンダーウマ娘、グラスワンダーは知人友人にも容赦しない。まるで冥人だ。

 

「で、でもグラス!エルは心配なんデス!」

 

 たじろきながらも、エルコンドルパサーは言う。

 

「自分で歩けるようになってから、最近はあまり部屋にいない事が多いじゃないデスか!

 そしたらグラスがブラックサンダーと一緒にいる事を良く見るようになって……う、うまく言えマセンが、心配なんデース!

 せっかく復帰に向けて、一生懸命トレーニングし始めたのに!これで復帰が遅れたら……っ」

 

「エル……それこそ誤解というもので―――」

 

 

 これはいけない。

 

 僕を巡って、二人の仲の良い同居人が争いを起こしてしまっている。

 僕という存在は罪、何という事だ!二人のウマ娘を狂わせてしまうほどの存在、それが僕! 

 ちょっとテイエムオペラってる場合ではなく、真剣に彼女たちの誤解を解く必要がある。

 

 

 だが、二人とも如何せん気難しい所がある。

 今のエルコンドルパーは僕に対して非常に懐疑的だ。

 グラスが上手く説明をしても、エルコンドルパサーは恐らく受け入れないだろう。

 

 

 ならば、当事者である僕が出来る事は、たった一つ。

 エルコンドルパサーの意識をグラスにではなく、僕に向けさせよう。

 

「フッフッフッフ……その通りだ。オサイチコンコルド……グラスワンダーは、僕に囚われているんだ」

 

「〝コン〟の部分しかあってないデェス!って、囚われてるというのはどういう意味デスか!?」

 

「フフ……彼女は僕に恥ずかしい秘密を握られていてね。抗えないのさ、こんな風に」

 

「―――!」

 

 グラスワンダーの肩を抱き寄せて見せると、エルが口をあんぐりとさせた。

 ややあって、肩を震わせるエルは顔を真っ赤にしながら、

 

「ままっままま待つデース!恥ずかしい秘密って!秘密ってなんデース!」

 

「人には言えないような、とーーーーっても恥ずかしい秘密だよ」

 

「ご、ゴクリ……それは一体……」

 

「聞きたいかエルコンドルパサー、いいだろうよく聞くがいい。

 あれは2年前の〝毎日王冠〟の時に――――」

 

「ちょ、ちょっと何を言おうとしてるんですか!!」

 

 

 クク、アドリブとはいえグラスも中々良い演技をしてくれる。

 おかげでエルコンドルパサーの怒りの矛先はしっかりと僕に向けられているぞ。

 

「このように、僕の言動を止めたくなるくらいに恥ずかしい秘密なのだよ。

 彼女は決して、僕に抗えない、囚われの姫ということさ」

 

「何という事デス……ブラックサンダー、今ハッキリしたデェス!

 アナタはこのエルが倒すべき、宿敵だという事を!!!」

 

 怪鳥、エルコンドルパサーの目に炎が宿る。

 紛れもなく、僕を敵と認定している……そういう眼つきだ。

 

 彼女たちの仲を破綻させないためにも、僕が間を取り持ってやろう。

 

 エルコンドルパサーの「悪者(ヒール)」として。

 迷うことなく正義の為に力を振るえる為のシチュエーションを僕が用意しよう。

 

「なら、奪いに来いエルコンドルパサー!取り返してみろ!

 それに僕たちは所詮ウマ娘、こういう時に雌雄を決するならどうすればいいか、分かっているだろう……?」

 

「そうだッ!レースだッ!今季のレースで!アタシは、ブラックサンダーを倒して見せる!

 そして私の大切な友人を取り戻して見せるデェス!!」

 

 怪鳥の瞳はまさしく獲物を狩る為のもの。

 だがこちらがただで狩られるだけの獲物ではない事を理解している。

 抵抗し、あわよくばその喉元に食らいつこうとしている獲物であれば、手加減などせず、圧倒的な力で叩き伏せる、そんな矜持すらも感じさせる熱気の籠った視線。

 

 

 彼女がその気なら、僕も最後まで抵抗して見せる……この拳で。

 

 

 拳という名の脚で。

 

 

「約束しよう、エルコンドルパサー。お前と決着をつけるその日まで、僕は彼女に……グラスワンダーに一切危害を加えないことを誓おう」

 

「ブエーノ!決戦の日、忘れることなかれ!その身にエルの名を刻みつけてやるデスよ!」

 

 

 それは間違いなく宣戦布告。

 だがいつ、どのレースでエルコンドルパサーと決戦を迎えるのかをまったくもって決めていないんだけど。

 しかし、そんなに時間は掛からないはずだ。日本ダービーが終わり、本格的なクラシック戦線が始まれば、彼女は勝負を持ちかけてくるに違いない。

 

 だが、その来るべき日を待つのも些か興が乗らない。 

 ここは一つヒールらしく彼女に一発かましてやろうじゃないか。

 

 

「互いにナイスバウトを……ところでエルコンドルパサー君?キミ、ダンベル何キロ持てる?」

 

「ケ――ッ!?」

 

 

 僕は両手に持っていたお祭りの戦利品を二袋、エルコンドルパサーの目の前へと放り投げた。

 中身は焼き鳥やベビーカステラ、夜の夕食用にとっておいた食べ物しか入っていない。

 

「おわっ!?――っとと……」

 

 食べ物を粗末にする…そんな下劣な行為をエルコンドルパサーが無視できる筈もない。

 彼女は僕の予想した通りに、地面へと落ちる前に袋を両手でそれぞれ掴み取っていた。

 

 

 エルコンドルパサーの両手を塞ぐ、そこに僕のこれから行う非道の全てがある。

 

 

「―――ッッ!?」

 

 

「あぁ、そのまま動かない方がイイ……動いちゃうと―――ケガするかもな」

 

 淀みの無い、洗練された動作でエルコンドルパサーの視界の下から接近する。

 彼女からすれば視線を逸らされた隙に僕がいつの間にか真下からワープしてきたかのように錯覚するだろう。

 

 

 僕はそのままエルコンドルパサーの顔に手を伸ばし、彼女のトレードマークである深紅のマスクを――――、

 

「ほい」

 

 いとも簡単に掠め取った。

 

 

「ノオオオオオオオウッ!!?」

 

 エルコンドルパサー、そのマスクの下に隠された顔は……美少女だ。

 普段の活発で元気な姿を想像していると、仮面を外した時のギャップでやられてしまうかもしれないほどの美少女だ。

 

「や、やめ―――!ま、マスクを返すデェス!エルの、エルのマスクを!!」

 

「返してあげない」

 

 僕は慌てて顔を隠そうとも、両手の袋のせいで動作の遅れているエルコンドルパサーよりも速く、スマートフォンを取り出してはカメラモードに切り替えて、

 

「撮り続ける……」

 

「うわあああ!?」

 

 カシャカシャカシャカシャカシャ、と。

 僕は魂の16連写で、エルコンドルパサーの素顔を撮影し続ける。

 

「や、やめて…ゆ、許して……み、見るな…です」

 

「決して、許してあげない……撮り続ける」

 

 エルコンドルパサーは必死に顔を隠していたが、その声は上ずり、瞳には涙を浮かべていた。既にさっきまでの勢いはない。

 語尾にハートマークを浮かべそうな、邪悪な笑みを浮かべて僕はスマホの画面、シャッターのボタンを操作し続ける。

 

「泣いても、拝んでも、祈っても……決してキミを許さない、撮り続ける」

 

 

 その所業、満身創痍のマホメド・アライjrに容赦ない攻撃を加えた愚地独歩の如く。

 

 

 驚くなよ、エルコンドルパサー。

 こんなの、グラップラー刃牙の世界なら日常茶飯事だぜ?

 

「クク……何を驚いている世界最強……戦いで相手の弱点を突くのは常識じゃないか。

 お前の得意としているプロレスでも、()()()()戦い方もあるだろう……?」

 

 

 見事なヒール役を演じる事が出来ていると思う。

 今の僕はさながら、スコーピオン白鳥の如き極悪ヒールと化しているだろう。

 これが後楽園ホールなら確実にブーイングの嵐だろうし、ファンレターも凄まじい罵詈雑言の数々になるはずだ。

 

 

「ひ、卑怯です……こんなの、正々堂々じゃない……ウマ娘の戦い方じゃない……です」

 

「何を申す」

 

 不意を突いたとはいえ勝敗は明らかだろう。

 口調も年相応の勢いを欠いた少女の物になった。

 大胆不敵に悪を成してこそ、絶対の悪役(ヒール)

 エルコンドルパサーが輝ける「太陽」ならば、ブラックサンダーは夜にこそ輝く「月」である。

 言うなれば、光と闇。

 相容れぬ存在。

 

 その相反する2つがぶつかり合うこそ、惹かれた者達が一斉に熱気を持つ戦いになる。それがプロレスだ。

 

 

 だから僕のこの悪行はまさしく悪役(ヒール)のソレであり、プロレスの興行そのものだ。

 

 

 ただ単にグラスワンダーとエルコンドルパサーの仲を取り持つはずが、エルコンドルパサーに敵対してしまう事になってしまったんだけど。

 

「決戦の地で待つぞエルコンドルパサー、それまでにはそちらも負けてくれるなよ」

 

「くぅ!!」

 

「アリーヴェデルチ」

 

 何故かイタリア語だけ残して僕はその場を去る。

 悪役はクールに去るのが当たり前だ。スピードワゴンも言ってた。(言ってない)

 

 

 その2つの袋はくれてやろう。

 せめてもの謝罪の意味を込めてだ。

 ついでに写真は1枚だけ消して残りは全部消去だ。

 

 

 

 かくして、僕はエルコンドルパサーの宿敵となったのだった。

 ちなみに、グラスにはあの後部屋でしこたま怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エルコンドルパサーに羞恥プレイさせたいだけの人生でした。
ちなみに残した1枚の写真はエルのトレーナーに送り付ける用です。
嫉妬シテルパサー爆誕。

評価・感想、または誤字報告等いつもしてくださってる方々、ありがとうございます。匿名などでも気にせず、感想などを書いてくださると次回の執筆の燃料になるのでよろしくお願いします。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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