僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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アオハル杯、楽しそう……。



14.2月18日

 時の流れというのは早い。

 いつの間にか新年が明けて1月を迎えたかと思えば、既に1月も終わって2月に突入している事に気付くくらいに。

 一体、僕の時間の管理は誰がしているというのか、時間泥棒にでも知らず内に遭遇してしまっていたのか、そもそもタイムパトロールは何やってるんだ、と存在もしない時空管理局の職務怠慢を嘆きながらも、僕ことブラックサンダーはカレンダーを見やる。

 

 2月18日。

 

 

 皇帝シンボリルドルフの凛々しい顔が擦られたトレセン学園限定のカレンダーに記されている今日の日付がある。

 しかし、その日付には赤い蛍光ペンでしっかりと囲まれていた。

 

 まるで、この日が僕にとって特別な日だと言わんばかりに。

 

 

 ふと、携帯の画面にて時間を確認する。

 「彼女」と約束していた時間、こんな昼に呼び出す僕も礼儀がなっていないというか。

 こういった取り決めは夜にやることが適切なのではないかと思うのだが。

 

 

 さて、2月18日は僕の担当ウマ娘であるグラスワンダーの誕生日である。

 

 

 誉ある武士、希代のワンダーウマ娘は着実にケガからの復帰を目指し、日々トレーニングに励んでいるのだ。

 体力、筋力が低下した今となっては筋力トレーニングや体幹トレーニングを中心に運動の為の基礎を作っている最中。

 建築で例えるなら、家を建てる前の土台づくりといったところだろう。

 

 

 本格的な成長が過ぎている分、ブランクがあるので他のウマ娘よりも調整や復帰のトレーニングはシビアだ。

 疲労度の蓄積度合いは以前より高く、速度も全盛よりも遅いかもしれない。

 

 

 それでもターフを駆けるために、僕とレースをするために修練を重ねる彼女を応援せずにはいられない。

 そして今日はグラスワンダーの誕生日だ。これを盛大に祝わずにしてなんだというのか。

 

『トレーナーさん、失礼します……』

 

 ドアをノックする音共に扉の向こうから聞き覚えのある少女の声。

 本日の主役とも呼ぶべきグラスワンダーの登場だ。

 

「入っていいぞグラス」

 

 僕は隅に置いていた紙袋から大きなクラッカーを取り出すと扉のやや上を向けて構える。

 この時の為に用意していたアグネスタキオン特注のクラッカーだ。彼女の発明だから火を噴くとか、本当に施設を壊す破壊兵器だと思うかもしれないが通常の3倍の量で中の紙細工が飛び出す仕組みになっている。ウマ娘など一瞬で全身を包んでしまうほどの量だ。これでグラスワンダーをびっくりさせてやろう。 

 

 

 APEXでショットガン角待ちするかのように卑劣な笑みを浮かべながら、僕はその瞬間を待つ。

 満を持して扉が小さく軋んだ後、ゆっくりと開かれた。

 

 僕は即座に彼女に向けて特大クラッカーを発射した。

 パンっ、という乾いた破裂音とともにその体積にどんだけ詰め込んでいたんだと言わんばかりの紙細工がダマになってグラスワンダーに降り注いだ。

 

 

「グラス、誕生日おめでとうー!」

 

 

 全身を紙細工に包まれているグラスに祝いの言葉を投げかける。

 頭部から足先まで絡んでいる姿からは、まるでバイキンマンの卑劣な罠に引っ掛かって身動きが出来なくなったアンパンマンのようだ。

 

「……」

 

「あれ、グラス……?」

 

 紙細工塗れの身体を解こうという動作すらもなく、グラスからは返事がない。

 これは、本気で彼女の事を怒らせてしまったのだろうか、姿を現したら薙刀を構えて襲ってくるのかもしれない。

 度が過ぎた行動というのは如何に善意であっても、相手にとって迷惑になるというのか。

 

 

 今日は何枚で下ろしてくる宣言をするのだろうか、と眼前の脅威に身構えていると紙屑団子から動きがあり、中からグラスワンダーが重い動きで姿を現した。

 

「あ、トレーナーさん……」

 

「グラス、どうしたんだ。目元、凄いクマだぞ」

 

 漸くこちらに気付いたグラスワンダーの顔は酷く疲れている様子が見てとれた。

 いつものように朗らかに、優しい笑みを浮かべている彼女からは想像もつかない、細目と生気のない顔つき。

 寝不足なのだろうか。

 

「実はここ最近、あまり眠れていなくて……昨日も寝付けず、2時間ほどしか……ふぁ」

 

 頭についた紙細工をどかす気力するないのか、代わりに取ってあげると深い睡眠欲に駆られたのか小さく欠伸をするグラスワンダー。 

 体調管理などは徹底していて、夜更かしをするイメージが少ない彼女だが、一体どうした事だろう。

 詳しく話を聞いてみると、意外な事が分かった。

 

 

「耳から変な音がして気になって眠れない?」

 

「はい、どうにも耳の中で何かあるように違和感が……時折ガサッっと引っ掛かるような感じがあって…」

 

 片耳を摘まんではため息をつくグラスワンダー、相当参っているようだ。

 恐らく、耳の手入れ不足によるものだろう。ウマ娘の耳はヒトの耳より大きく、外からのゴミが入ってしまうから手入れが重要だ。

 ウマ娘で耳にカバーを付けている娘がいるのは、装飾以外にそういった要因を防ぐためなのだとか。

 

 

 肉体の些細な変化に敏感なのもウマ娘という生物の特徴だろう。

 特に耳に関しては前後左右に稼働できるし、人間よりも音を拾う事に優れているが非常にデリケートな部位だ。

 精密機械の稼働部位に異物が混入すると器材自体も不調を来すというモノである。

 

 グラスワンダーは耳の違和感によってストレスが溜まっているからか、酷い寝不足に悩まされているようだ。

 

「申し訳ありません……ですが、この程度の事で保健室の方にお世話になるのも憚れまして……。

 自分で手入れを行おうにも上手く出来ず……」

 

 自分で何とかしようとしたが、人の耳と違ってウマ娘の耳を自ら手入れするのは難しそうだ。

 

 普段の気難しさも相まって、ここまで症状が悪化するまでに我慢するようになってしまったらしい。

 さて、どうしたものだろうか。

 

「せっかく、私の為にトレーナーさんが誕生日を祝ってくださったというのに……私ときたら、この体たらく……潔く腹を―――」

 

「いや、切らなくていい。そんな顔をするなよ、グラス。

 今日はお前が生まれためでたい日なんだぜ、出来ればお前には笑っていてほしいんだよ」

 

「うぅ…お気遣い感謝します……」

 

 

 少しだけ元気を取り戻したように見えるが、疲れた笑みが先に目立ってしまっている。

 どうしたものか、これほどの重度の寝不足ならば、すぐさま寝かせてあげたいのが本音で、誕生日を祝っている場合ではない。

 

 

 しかし、原因を取り除かない限りは寝付けないのを繰り返してしまうので結局寝不足は解消されないままだ。

 

 

 ならば、と僕は考える。

 こういう時、コンディションを解決するために思考するのもトレーナーである僕の役目だ。

 地球の本棚をもし僕が使えるのなら、このような思考時間などあってないようなものですぐにグラスを助ける名案が浮かぶのだが……。

 

 

 

 あぁ、母なる大地、地球よ。僕にグラスを助けるアイディアを!

 

 

「ん?母なる大地……母……そうか、閃いたぞ」

 

 その時、山々田トレーナーに電流走る。

 

 

「トレーナーさん?」

 

「グラス、ここで10分ほど待ってくれるか」

 

「え、あ、はい……ですが、トレーナーさんはどちらへ?」

 

「我らが母の助力を……というのは冗談だ。

 グラス、お前のその寝不足、僕が今日解消してみせよう」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、理解が追いついていないグラスを部屋に残して、僕はこの異常事態を解決すべく自らの部屋を飛び出したのである。

 

 

―――それから10分後。

 

 

「待たせたな」

 

 各方面を回り、必要な道具を用意した後に僕はスネークの如く自室へ舞い戻った。

 

「お帰りなさい、トレーナーさん」

 

「なんだグラス、わざわざ机の椅子に座って……遠慮せず僕のベッドの上で休めばよかったのに」

 

「そのような大それた事は流石に……それに、耳がまだこのような状態なのでひと眠りするのは難しそうで――――っ」

 

 頭を押さえる仕草を見せて、これは本格的に不味いと思った。

 寝不足から頭痛まで併発しているらしい、体力も削られてやる気ゲージは紫の絶不調、体力ゲージは真っ赤というところだろうか。

 

「えっと、トレーナーさん……その手に持っているたくさんの道具たちは…一体何に使うおつもりですか?」

 

 

 両手にしている道具を持って帰って来た僕を見て疑問に感じたグラスワンダーにそう言われた僕は準備を進めながら答える事にする。

 

 

「これな、グラスの不調を解消するために必要なものさ」

 

「私のこの不調を……?一体、どうやって」

 

 不思議に思うのも当然だろう。

 僕が持ってきたのは謎の液体の入った小瓶、お湯の張った桶、数枚のタオル。

 そして懐に忍ばせていた、グラス不調解消のカギとなる道具を取り出し、持ち出してきた道具をベッドの周りに配置しては足をグラスの方に投げ出すように座り、自らの膝をたんたん、と叩いて見せる。

 

 

「グラス、僕のベッドにおいで。今からお前の耳掃除を行う」

 

 複数の匙、綿棒、俗に言う、耳を手入れする為の道具を見せつけながら、僕はきょとんとしているままのグラスワンダーに言った。

 

 

 

 

 

 




ウマ娘の耳掻きって人の耳掻きと違って横を向かず、正面を向くんですよね……なんかいいなって思いつつ、スーパークリークの耳掻きってすごい破壊力在りそうといけない妄想してしまうモンゴルウマ娘です。
山々田トレーナーは担当ウマ娘の不調をしっかりと自身で解決するために奔走するトレーナーの鏡。

誤字報告、感想、いつもありがとうございます。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

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