フルアーマーフクキタルちゃんツモれたので暫くはフクキタルメインでミッションこなしていこうかな。ハニバのミッションがアオハル杯育成20回とか長すぎんよ。せめて十回くらいにして……
トレセン学園の授業日程は、主に午前が座学。そして午後はコースにて実技練習である。
午前中は死んだ魚のような眼をしているツインターボも、午後の身体を動かすという実技になれば水を得た魚のように走り回る。
試合が近いウマ娘は軽めの調整をしたり、普通に追い込みを掛けてトレーニングをしたりとレースに向けての取り組み方は様々だ。
誰もが次の試合に勝つために、意欲的に練習に励んでいる。
トレセン学園では当たり前となっている光景だ。
うおおおお!とか、だああああ!とか車に匹敵するスピードで走っている彼女たちを見ているとかつての陸上競技時代のスプリンターとして、揺さぶられるものがあるが今はそういう話はナシだ。
「……お、いたいた」
僕はルドルフとの会話の後、スキルである急ぎ足を発動させたかのような速さで練習場へと向かうと、コース全体を見渡せる芝生の上で一人佇んでいるウマ娘の少女を見つけた。
栗毛の長髪を揺らし、碧の宝石のように綺麗な瞳をしたその少女こそ僕の担当ウマ娘。
「グラスワンダー」
「あ……トレーナーさん」
グラスワンダー。
かつて、スペシャルウィーク、エルコンドルパサー……トゥインクルシリーズで『黄金世代』、『最強世代』を築き上げたウマ娘の一人。
『希代のワンダーウマ娘』、それがグラスワンダーというウマ娘。
『宝塚記念』、『有馬記念』を制した『グランプリ3連覇ウマ娘』。
何度もケガに見舞われても、立ち上がり、重賞レースをもぎ取り、あのスペシャルウィークを打倒するほどの復活劇を見た者は彼女を『不死鳥』と呼んだ。
立てば武士、座れば大和撫子、歩く姿は不退転。
それを体現しているグラスワンダーと僕の……トレーナーとウマ娘としての付き合いは長い。
「どうしたんだよ、グラス。こんな所で……もっと近くで皆の走りを見ないのか」
「……ええ、遠くからの方が私も皆さんの走りを全体的に見渡せますから。それに、今の私の脚では下の方まで降りるのに少し苦労しますし……」
お淑やかな、大和撫子そのものに憧れを抱き、いつしか日本伝統の文化を理解し過ぎて、武士のような心を持った彼女。
勝負には不向きな性格とさえ言われたグラスワンダーはその心の奥に激しい闘争心を宿していたなど、誰も知る由も無かっただろう。
実際に僕が他のウマ娘(ハルウララやマヤノトップガン)に話しかけている時は薙刀を持ち出してこちらの首を刈らんとする死刑執行人の如く襲い掛かってきた。
笑顔で抱きしめようとしただけなのに、一体何が悪かったんだい?グラス。
だが、今のグラスに武器を手に持ち、戦場に駆け出すような覇気はない。
外で次のレースに向けて頑張るウマ娘を見ては、自らのギプスで固定された左足を一瞥する。
彼女は今、故障中の身だ。
グラスワンダーは栄光を掴んだ有馬記念の翌年、惨敗を重ねる事が多かった。その原因は『太り気味』。
その年から、グラスワンダーは何故か食事を多く摂るようになっていた。
普段から自己管理を徹底しているグラスワンダーの事だから、多少の食べ過ぎはあってもレースに影響するまでの事は無いだろうと考えていたが、この過信がいけなかった。
僕はその時の僕に出逢たのなら次は全力で止めろと伝えたい。
何とグラスワンダーはレースに影響するまでの激太り状態になっていた。
僕だってトレーナーだ。これ以上の体重オーバーはレースに関わるので彼女に食事の制限を持ちかけたのだが。
『グラス!待て!それ以上は駄目だ!』
『はむっ、むっ!むぅ!』
『僕の手を噛むな!だからと言ってこら!タンポポまで食べ始めるな!』
『むぅう!むうぅううん!』
グラスは止まらなかった。
何かに取り憑かれたように目の前の料理を食していく彼女をトレーナーである僕は止めることが出来なかった。
結局、重量増加によるパワーは上がったグラスワンダーではあったが、持ち前の末脚は圧倒的重量の前に見る影を失った。
レース中盤からレース展開を運ぶ差し型のウマ娘である彼女にとって後半の追い上げが効かなくなるのは致命傷に近い。
誰にも追いつけず、追い抜けず、スピードを上げれないまま、驚異的な末脚を欠いたグラスワンダーは掲示板を外す事が多くなった。
年明けレース4連敗、という事もあって僕は強制的に食事の量に制限を掛けた。
勝利を得ることが出来なかったグラスは言うことをやっと聞いてくれたのか、本来の食事量に戻り、トレーニング量も増え、順当に本来の体型に戻っていった。
そして本来のスピードを取り戻してやっとこれから『怪物』グラスワンダーの復活だ。目に物を見せてやろう、と意気込んだ復帰戦。
その日のレース、グラスワンダーは掲示板を外すだけでなく、レース後に左足の骨折が発覚した。
普段の走りならば、恐らく彼女が勝っていたであろうレースだ。
敗北した今でも、トレーナーである僕はそう思っている。
敗戦、敗戦、敗戦、そして故障。
過去のレースでも怪我に悩まされたグラスワンダーであったがその度に立ち上がってきた。
だから、今回もまた不屈の闘志を燃え上がらせて立ち上がるだろうと、思っていた。
だけど、今度ばかりはその不屈の闘志にヒビが入ってしまったようだ。
あの時から、グラスワンダーは覇気を失ったようにぼーっとすることが多くなった。
リハビリのメニューや復帰後のプランについてのミーティングもどこか遠くを見ているようで、その場に居ないかのようにグラスの耳に僕の言葉は届いていなかった。
いつもの朗らかな笑顔は変わらなかったが、明らかにいつものグラスではなかった。
専門医に聞いてみた所、一種のメンタルダウンという話だ。
レースに何度挑めども勝利を得ることが出来ず、掲示板を外し続けたグラスには精神的なストレスが溜まっていた。
それが自らの犯した過食だったとしても、それを克服するように努力して、我慢に我慢を重ねて、練習を重ねて、同時にまた身体に負荷を重ねていた。
久しぶりのレースで加減も効かなかったこともあってか、自らの出力に身体がついて行かなかったのだ。
「それでも、立っているよりは座っている方がイイだろ?ほら、折り畳み式の椅子、持ってきたからさ」
「ふふ、準備が宜しいことで」
「そりゃそうさ。僕はグラスのトレーナーだからな……ほら」
手に持っていた折り畳み式椅子を展開して足場の安定した場所に置き、グラスワンダーを手招きする。
椅子はグラスが骨折してから、彼女が外出している時、僕が彼女に用があるときにその両方が重なった時の事を考えて自費で購入した。
手招きに応じたグラスを支え、ゆっくりと座らせると、彼女の持つ松葉杖を受け取る。
彼女が練習以外でここから風景を眺めることはよくある事だった。
今まで怪我をした時も、こうやって他のウマ娘の練習を見て自分を奮い立たせるのが彼女の怪我をしたときの過ごし方である。
彼女のトレーナーを続けていれば、その目を通して彼女の闘争心が溢れんばかりに燃え上がっているのが分かるようになっていた。
だけど今、朗らかに笑みを浮かべるグラスの瞳には闘志は宿っていなかった。
「どう思うグラス。他の娘を見て」
「……はい、皆さんが気持ちよく走っている姿を見ると〝羨ましくて、いいな〟って思います」
周りのウマ娘の走りを見ても、「いいな」としか思えない。
昔ならば自らに不甲斐なさを感じ、羨むよりも、悔しいという気持ちが先に出ていた。
今は悔しくないのだ。
絶対に走りたい、という想いがない。
次は絶対に負けない、という意思が無いのが僕にはわかった。
「……ごめんなさい、トレーナーさん」
「何に謝ってるんだ?グラス」
「生徒会長さんから既に聞いたと思います。私が、この学園を辞めたいという意志を伝えたことを」
グラスは顔を見られないように、僕もまた彼女の顔を見ないようにした。
スイーツ、スイーツと意味不明な声出しを行うウマ娘たちの練習風景を眺めながらグラスは続ける。
「己の限界を察してしまった。
あれほど無様な
授業中、いくら学業に励もうとも身に入らず、上の空……心ここにあらず。
なにより、ウマ娘の本能である、〝勝ちたい〟という想いが湧いてこないんです」
それは、恐らくウマ娘の誰もが恐れる怪我だった。
骨折や、炎症などでは済まされないし、そんなものよりも厄介で治療も困難な怪我、『心の怪我』だ。
『勝ちたい』、という欲求が失せるということはレースをするウマ娘にとって走る意味を失う事と同義だ。
中には勝つことよりも走ることが楽しいという者もいるが、それはごく少数だ。
全てのウマ娘の心の元に根付く、この勝利への欲求があるからこそ、ウマ娘は走り続けることが出来る。
それが無くなれば、走れない。
それが無くなってしまったら、彼女たちのレース人生は終わりだ。
「世間はこう思っているはずです。
〝怪物〟グラスワンダーは『もう終わった』、と」
「ネットやテレビで流れている言葉をそのまま鵜呑みにするんじゃない、グラス」
これも一つの心を病んだ原因だろう。
グラスは連敗を重ねる中、シーズン中にネットを検索してヒットしたウマ娘の掲示板をトレセン学園理事長から見せられたことがある。
推しのウマ娘を応援するサイトの中には、調子の上がらないウマ娘を罵倒するような連中も少なからずいた。
ネットに住まう住民だから、彼らは容赦ない罵声を書き込むことが出来る。それは自分たちには危害を与えるものではないと分かっているからだ。
例えるならそれは、虐めっこを遥か遠くの丘から一方的に投げつけるような行為だと言ってもいい。
理事長はこの書き込みを消すように管理者に問い合わせ、処置をしてくれた。
その後で、グラスワンダーの事を出来るだけ気にかけてほしいとも言われた。
だけど、グラスはその書き込みを既に閲覧してしまった後だった。
「あんなもの、一時の物だ。言わせておけばいい、時間が経てば自然と―――」
「いいえ、世間だけじゃない……私自身でさえも―――」
「グラス」
「ごめんなさい」
自分のウマ娘としての限界を、自分自身が見定めてしまったら、本当に終わりだ。
他の誰でもない、自分自身で決めつけてしまえば、そこでグラスワンダーのレースは終わってしまう。
だから、その先の言葉を僕は嫌でも言わせない事にした。
僕自身でさえも、彼女から、そんな言葉を聞きたくはなかったのだ。
だけど、彼女の口から言わせないだけで、こちらから掛ける言葉が浮かんでこなかった。
こういう時、僕の先輩だったらなんて言うのだろうか。
先輩は、僕がチームを運営する前に居た先任のチーフだった。
優しく、だけど芯のある人でその人が良く言っていた言葉を思い出す。
『トレーナーがウマ娘に出来る事は、最大限、彼女たちの心に寄り添ってあげる事だ』。
練習プラン、目標レース、コンディショニング管理、どんな形でもいい。
ウマ娘が心に抱く想いを無駄にしない事、それが一番大事だと、先輩は言っていた。
ウマ娘の心に寄り添ってあげる、というのは必ずしも正解がある分けでない。
彼女たちを奮い立たせるために叱咤激励をすることもあれば、共に泣いたり、笑ったりすることもあるだろう。
願いを一緒に叶えることも。
願いを一緒に諦めることも。
グラスワンダーの心は擦り切ってしまっている。
自分自身の不甲斐なさと、世間からの心無い言葉に打ちのめされてしまった彼女にとっての『願い』は、レースの世界から去る事なのだろう。
僕は二つの選択肢を迫られている。
レース界から去りたいというグラスの願いを叶えてあげるか。
レースの世界でもう一度輝かせたいという、僕の願いを諦めるか。
どちらを取っても、地獄のような二択だ。
彼女にとっても、僕にとっても。
どちらが正解なんだろう。
これ以上グラスが悲しむのが辛い、トレセン学園に居ることが苦痛だと感じるのであれば彼女の願いを叶えてあげるのが、トレーナーである僕に出来る事の一つだろう。
これも、ウマ娘に出来るトレーナーが出来る事だと自身に言い聞かせながら。
だけど、また彼女が奮起して、怪物と言われたあの頃のようにターフを駆ける姿を見たい。
最高のウマ娘である彼女と、トゥインクルシリーズを駆け抜けていきたいと思う自分がいる事もまた事実だ。
「今日はもう遅い、辺りも暗くなってきた。体を冷やしたら、治る怪我だって治らなくなる……明日また話そう」
他のウマ娘たちが練習を切り上げる夕方まで待って、漸く絞り出したセリフがコレ。
最低最悪の魔王様びっくりの、引き延ばすことでしか場を繋ぐことが出来ない哀れなトレーナーが居た。それは僕だった。
渋々頷いたグラスワンダーを寮前まで送り届けて、「またな、グラス」と声を掛けたがグラスは会釈をしただけだった。
こういう時は上手く煙に巻いた、なんて思わない方がイイ。
問題の先延ばしが良くない手段だというのは現代の政治の様子を見ていれば明らかであるのと同じように。
まあ、こうやって彼女の決断を渋る行為を取っている時点で、僕の考えは大方決まっているようなものなのだが。
如何せん、心も度胸も未熟な僕には彼女を納得させる自信が無かったのである。
情けない話である。三年も彼女のトレーナーをやっているというのに。
「復帰プラン、考えないとな……先輩の書棚に人体医学の本が大量に積まれてたよな、アレ何本か借りさせてもらおう。
桐生院から貰ったトレーナー白書もこの際、もう一度読み直してみるか……」
全ての可能性を模索しなければならない。
彼女が、グラスワンダーがもう一度ターフの上を走ってくれる可能性を。
「やれることは……まだあるはずだ」
今日の夜は恐ろしい程に暗い。
トレーナー宿舎に戻る途中、どうやら人気の少ない所に入ってしまったようだ。
外灯の光さえも、この場所は微妙に届かない、完全な設備を揃えているトレセン学園にも穴というのはあるものだ。
さて、こんなところで誰かに襲われたりしたら溜まったものではないな、と内心でそう思っていた時だった。
「えっ」
次の瞬間、ゴンッという鈍い音が僕の後頭部から響いた。
同時に途轍もない衝撃によって揺さぶられた脳は僕から言語能力と平衡感覚を根こそぎ奪い取る。
道中に倒れるのは必然だったと言うべきだろう。
僕は背後から不意に、何者かに殴られたのだ。
正体が分からないが、このトレセン学園に侵入してこんな事をする輩に不審者以外の単語が当て嵌まらないわけがない。
意識が朦朧とする。
言葉を発することさえ出来ない。
あぁ、三女神様、僕はここで死んでしまうのか。
僕がここで死んだら、グラスは悲しむだろうか。
そんな事を思っていると、僕を殴ったであろう犯人が僕の顔を背後から髪を掴んで持ち上げた。
ダメージを負いすぎた僕の身体は抵抗も出来ず、成すがままである。
犯人を一瞬だけ視界に収めたが背後の外灯とぼんやりとした視界が重なって、判別する事は出来なかった。
犯人は空いている左手に持った何かを取り出すと、僕の口を開かせて、突っ込んだ。
液体のようなものが口を通して、体内に入り込んでいく感覚を覚えたのも束の間、僕の意識は深い闇へと沈んだのである。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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