『スプリングステークス』。
コースは中山芝1800m、内回り。
皐月賞の優先出走権が3位以内に与えられるトライアルレースである。
以前は出走権が5着以内だったり、色々な大人の事情によって内容が変更されたレースだ。
皐月賞は勿論の事、日本ダービーのクラシック戦線、NHKマイルカップの前哨戦として注目しているファン達は多いはずだ。
今日、中山のレース場で出走するウマ娘は12人。
その中にはメルティロイアルだけではなく、彼女と同じチームに所属しているマインというウマ娘もいる。
それだけではない。
年度表彰ウマ娘であるマリーグッデン、重賞ウマ娘フランチルーラー、ここまで2戦2勝のモガミノハマデという錚々たるメンツ。
途轍もなく、ハイレベルなレースになると実況も、観客も誰もが期待しているに違いない。
その中一番人気を手にしたのは紛れもない注目株であるメルティロイアルだった。
ゲートにウマ娘が枠入りをしてからほどなくして、レースは開始された。
序盤、いち早く前へと飛び出したのは逃げ先行策を取るウィスルトン。
その後ろに着いたのはマイン、注目のモガミノハマデ、マリーグッデンは先頭から離れて6,7番手の位置を取る。
1800mという短いペースだからか、後半に動きが激しくなるのを見越してだろう。
ハイペースな競り合いに巻き込まれないように後方から一気にペースを上げるというのが、二人の考えている作戦か。
そして一番人気であるメルティロイアルはウィストンが引き連れる集団、後方から2バ身ほど離れた所に一人ぽつんといた。
観客も、実況席も誰もが思う。
まだ序盤だ。慌てるような時間ではない。
中盤になれば徐々に上がってくるだろう。
最後の方で捲れるのか?ナカヤマの直線は短いゾ。
先頭を走るウマ娘よりも、最後方のウマ娘が注目される。
この時、メルティロイアルという一番人気のウマ娘の注目度は群を抜いていた。
第二、第三コーナーから中盤に差し掛かって、バ群に大きな動きも見られず先頭ウィスルトンは変わらない。
そして残り距離が1000mを切ってもメルティロイアルが最後方という事実もまた、変わっていなかったのだ。
未だに後ろにいるメルティロイアルに観客達も次第に焦り始める。
え?残り800mでその位置は不味くない?
怪我か?不調か?休み明けで調子が戻って無いのか?
中山の直線は短いゾ。
そして実況席も観客達の気持ちを代弁するかのようにマイクを鳴らす。
『レースは残り1000m、メルティロイアルは
さぁ、第3コーナーから第4コーナーにかけて、中山レース場の桜並木の下、桜並木の下を駆け抜けていくウマ娘達!
しかしメルティロイアルは未だに殿だ!ここから第4コーナーを回れば最後の直線!最後の勝負だ!中山の直線は短い、この距離から間に合うのかメルティロイアル!』
先頭の逃げ先行していたウィスルトンが最後の意地を振り絞って足を懸命に動かす。
二番手に着けていたマインもスリップストリームで温存していた体力と脚をここぞとばかりに使って、先頭と抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げる。
重賞ウマ娘であるマリーグッデン、連勝ウマ娘であるモガミノハマデが垂れてきた先行ウマ娘達の合間を縫って上がってくる。
『順位が激しく入れ替わる!先頭はウィスルトンかラスターマインか!それともフレンチルーラーか!
後方から凄まじい勢いで上がってくるマリーグッデンかモガミノハマデか!
メルティロイアルはこの距離はもう届かない!残り200m、ここからではまず――――』
厳しいか。
実況も、観客席の人間が誰もが諦めた言葉を口にしようとした時。
中山レース場の観客席と実況席の人間たちは後方で激しい唸りと共に芝が捲り吹っ飛んでいく光景を見た。
『―――!?め、メルティロイアルだ!メルティロイアルが内を突いた!』
それはまるで、暖気運転を終えたエンジンが漸くフルスロットルで踏み込んできたかのようなパワーだった。
ハイスピードニトロエンジンを搭載した重戦車がターフを駆け抜けていくようだった。
バ群の中に切り込んで、一歩二歩と大地を蹴れば、前にいるウマ娘との距離を格段に近づけ、三歩目には超えていく。
残り100mの所で6、7番が塞いでいたコースを中央からぶち抜いた後、内から外へとポジションを変えたメルティロイアルはそこから更に加速する。
『し、しかしメルティロイアルは未だ中団!メルティロイアルは未だ中団だ!
先頭争いはマリー!モガミ!マインになるか――――いや!外から!外からメルティロイアル!
大外から!大外からメルティロイアル!凄い脚だ!上がってくる!
メルティロイアル!躱した!躱した!躱した!躱しました!一着はメルティロイアル!一着はメルティロイアルです!』
「GIAAAAAAAAAAAAA!!!」
ゴール後、ガッツポーズしたメルティロイアルは野獣の如き叫びをあげる。
その叫びに応じるかのようなスタンドから割れんばかりの歓声。
規格外のパワーあふれる走りに誰もが目を奪われた瞬間だった。
レース終盤のポジションチェンジから尋常ではない加速。
最後方からの直線一気。
『豪脚』ならぬ『鬼脚』を炸裂させたメルティロイアルはこの日、スプリングステークスを制した。
誰もが無理だと言われたあの位置から、誰もが諦めていたあの場所から、豪快に一位を捥ぎ取っていった彼女が観客達に与える衝撃は恐らく一生忘れられないものになるだろう。
『スプリングステークスを制したのはメルティロイアル!
ルドルフ二世と呼ばれる実力を、このレースでもしっかりと見せつけてくれました!
春の皐月賞はもうすぐ!今年のクラシック戦線から目が離せません!!』
〇
テレビの中でウィナーズサークルに立つメルティロイアルを見届けると、画面を見入っていたナリタタイシンとウイニングチケットに背を向けた。
「ん?どうしたの、ブラックサンダー」
気づいたナリタタイシンが僕に声を掛けていた。
ウイニングチケットは未だに目を輝かせて画面を食い入るように見つめている。
「別に。ただ、ちょっと走ろうかなって」
「そっか」
「ああ、また会いに来るよタイシン」
「二度と顔見せんな」
「フフ、照れるなって」
ナリタタイシンが床を靴先でトントンと小突く動作を見た僕は命の危険を察知してその場から早急に立ち去った。
テレビの向こうでは割れんばかりの歓声が、メルティロイアルに向けられているのだろう。
学園の廊下を歩きながら、練習用のジャージとシューズを取りに行く道中で僕は胸の中がざわつくのを感じていた。
ナリタタイシンやウイニングチケットを見た時も、あのスプリングステークスで見せたメルティロイアルを見てからだ。
圧倒的実力を持った強者に会うたびに僕の胸の中に小さく火が灯るのを感じる。
背筋にひんやりとした感じ、でも嫌じゃなくて、血流が激しくなり脈を打つのが速くなるのを感じる。
恋にも似たようで、似ていないもの。
これは久しい感覚だ。
「そうか……これが、武者震いってやつか」
安心してしまう。
二十歳を越え、レースからも離れていた僕が他者の走りを見て闘争心を焚きつけられるなんて。
胸の高鳴りを抑えながら、僕は自室へと行く足を早めた。
この沸き上がる衝動は、僕がまだまだ若いという証である。
ヴァルゴ杯ももうすぐですね…育成しなきゃ(使命感
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
-
スペシャルウィーク
-
セイウンスカイ
-
キングヘイロー
-
キタサンブラック(ロリ
-
サトノダイヤモンド(ロリ