僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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辛い……アオハル育成上手くいかない…、このままではチャンミが……


21.ブラックサンダーの勝負服

 ウマ娘はG1レースに出走することになると普段着ているジャージとは別の衣装が与えられることになっている。それが勝負服だ。

 

 この勝負服を着てレースを走る事はウマ娘にとって名誉な事であり、自分の勝負服を得るという事は自分の強さが認められた証でもあるのだ。

 

 

 勝負服は1流デザイナーが最初から全て手掛けるものもあれば、ウマ娘からデザイナーに希望を伝えて作り上げる場合もある。僕は後者だった。

 僕の勝負服、ブラックサンダー専用の晴れ着には僕自身も一人の関係者としてありたいと思ったから。

 

 

 ブラックサンダー、と言う名前なので黒を基調に。

 黒シャツ、黒のショートデニム、膝下まで伸びたダークブーツは男の頃には履く機会が無かったので結構戸惑った。

 ブーツで芝走れんのかい、って疑問に思ったけど勝負服はデザイン性だけでなく機能性も拘るらしい軽くて、ウマ娘の力にも耐え得る頑丈なものだった。

 

 

そういえばトウカイテイオーも結構ゴツイブーツ履いて走ってたな、とそんな事を思い出す。

 

 

 黒のチェスターコートを羽織り、指ぬきグローブを両手に嵌めていく。

 全体的に黒が基調の勝負服だが、所々に黄色のラインがコートやブーツに描かれている。

 

 黒い稲妻、ブラックサンダーに相応しい勝負服だ。

 最初は黒シャツ部分がブレザーだったので「これじゃマンハッタンカフェと被るから」という理由で僕はデザイン変更している。

 手袋も搭載されていたがこれも同じ理由で敢えて指抜き型にした。

 左足に巻かれた革ベルトが中々洒落たセンスである。

 

 

 なにせ、これから重賞レースでずっと着続ける勝負服だ。

 僕個人の拘りと言うものを幾つか提案しても罰は当たらないだろう。

 

 勝負服を着た当時の周りの反応は様々だった。

 

 

『意外にかっこいいな』。

『お菓子っぽくない』。

『少し厨二心が入ってないか……』。

『マンハッタンカフェの衣装違いですか?』。

『スカートじゃないのか……』。

『ブーツを脱がせてあげたい……そして履かせてあげたい』。

『スパートをかけた時、コートが翻った瞬間に見える健康的な太腿が俺を狂わせる』。

『太腿いいよね』。

『ああ、太腿……イイ…』。

『なんかアサルトリリィみたい』。

『ブラックサンダー、実はウマ娘じゃなくてリリィ説』。

 

 

 

 朝日杯のレース後にネットで漁ってたらたまたま目撃したウマ娘好きの同士が集まる『ウマちゃんねる』にはこのような書き込まれていた。

 最初はブラックサンダーについて多数の怪文書が出回った時は流石にやる気が下がりかけたが、逆に僕、ウマ娘姿だとそれなりにウケがいいんだな、とある種、自分の姿に対する自信が生まれて次第にそれは『スゲェ!なんか見られると気分が上がるな!』というポジティブなものになった。

 

 

 断じて、『見られることで興奮する変態ウマ娘』ではないという事をここで明言しておくことにする。

 

 

 

 ウマ娘の勝負服と言うのは不思議なものだ。

 あんなに走りにくそうなデザインをしているというのに、彼女たちは一切気にも掛けないようにレースを走る。

 トレーナーの視点ではそのメカニズムというのが全く分からなかったが、ウマ娘になってそれが漸く理解できた。

 

 

 この服を着ていると、不思議と力が湧いてくるのだ。

 それは、直接パワーが+100とかされるものじゃなくて、どちらかと言うと精神的なもの。

 気合が入るような、気持ちが昂るような、いい気分になれるような……そんな感じだ。

 

 

 

 

「よぉ、ブラックサンダー」

 

 

 

 メインレース場へと向かう地下バ道、その道中を進むにあたり背後から声に僕が振り向けば、その相手はあの一番人気のメルティロイヤルだった。

 ルドルフ2世と呼ばれる彼女もまた、自らの勝負服に身を包んでこの皐月賞に臨むウマ娘の1人である。

 奇しくもシンボリルドルフと同じ緑色の勝負服、だが全身の筋肉が多すぎるせいか華やかさにはやや欠ける。

 シンボリルドルフが玉座が似合うウマ娘ならば、メルティロイヤルは戦場が似合う猛将と呼ばれるのが相応しいウマ娘だろう。

 

 

「今度は名前間違わないんだな」

 

「お前の名前、今でも食ってる菓子の名前と一緒だからな、すぐ覚えるぜ」

 

「嘘つけ、じゃあなんであの後2回ほど間違えた。学園ですれ違った時も僕の名前をブルーインパルスって間違えてただろ。

 遂に黒くもサンダーもなんでもなくなってたじゃないか」

 

「怒んなよ、あんま根に持つなって……イライラしてっとその内ハゲっぞ」

 

「誰が磯野波平だ!」

 

「いや、言ってね―よ」

 

 地下バ道に喧騒が響く。

 僕とメルティロイヤルが並ぶと本当に同じ中等部なのかと疑いたくなる。

 僕が身長151cm、かたや179cmだ。なんとあのヒシアケボノに迫るサイズ。

 細身の僕と筋骨隆々としたアマゾネス体型と比較するとその差は歴然である。

 

 

 暫くして歩くと照明の灯りしかない地下バ道の出口が見える。

 薄暗いこの場所よりも遥かに輝く、太陽によって照らされているターフ。

 そこは言うまでない、僕達ウマ娘の戦場である。

 

 

「悪いが皐月賞は俺が貰うぜ」

 

「始まる前から勝利宣言かよ」

 

 悪びれず言うあたり、相当な自信を持っているように見える。

 スプリングステークスからメルティロイヤルは乗りに乗っているようだ。

 あの最後方から差し込んでくる豪脚、いや鬼脚……これは非常に厄介だ。

 

 レース終盤であの追い上げが迫ってきたら、いくらリードを保っている逃げに徹するウマ娘でも捲られかねない。

 だが僕はあのグラスワンダーのトレーナーである。

 このレースで試されるのはいかに動じず、追い上げてくるウマ娘に対処できるかというメンタル。

 今こそ、3年間グラスワンダーに背後から刺され続けてきた経験を生かす時だ。

 

 

「先に行かせてもらうぜ、テメェら全員肉団子にしてやるよ」

 

 そう言ってメルティロイヤルは僕より先にレース場へと駆けていく。その瞬間、一番人気らしい場内の大歓声がこの地下バ道にも聞こえてきた。

 

 

『狙うは三冠、ルドルフ2世の名に恥じない1枠から1番人気、メルティロイヤル!

 スプリングステークスで観客を震わせたあの鬼脚を、この皐月賞の舞台でも見せてくれるのか!!』

 

 

 

 戦いは何が起きるか分からない、僕が想定していた以上の展開がこの皐月賞で起こるかもしれない。

 あらゆる事象を想定して、冷静な判断力を下せるように今の内に掌で人の文字を書き起こしておこう。

 

 

「人人人人人……ん?」

 

 

 人差し指で文字を描きながら、言葉にしても呟きながら視線を下げていた僕は思わず脚を止めて、上を見た。

 

 

「お……」

 

 

 目に飛び込んでくる芝の他に観客席を埋め尽くす人、人、人。

 その全てが、鳴りやまんばかりの声をブラックサンダーという、一人のウマ娘に向けて放っている。

 こんなに注目された事なんて、僕はウマ娘になってからの試合では多分ない、勿論陸上競技の試合でも無い。

 

 

 身体を通して伝わる圧倒的な圧力に思わず目を見開く。

 観客達の声援が、びりびりと身体に響いてくる。

 

 

 朝日杯とは比べ物にならない重圧感、伝統あるG1レース……これが皐月賞か。

 

 

 ぼうっとその場から周囲を見渡していると、実況の声がこちらに響く。

 

 

『2代目皇帝の前に立ちはだかるは黒き稲妻!

 黒い勝負服に身を包んでやって来ました3番人気ブラックサンダー!

 今日も見せてくれ、稲妻の逃げ!さぁ行け私の推しウマ娘!皐月賞の冠を目指して!』

 

 

 やたらと私情が入り込んだウマ娘紹介だった。

 なんか一番人気の紹介よりも熱が入ってる気がする。

 後であの人色々な方面から怒られそうだな、と僕は実況席でテンション高めに身体を動かしている男にそんな事を思うのだった。

 

 

 不思議と緊張はしていなかった。

 一度は高鳴ったこの胸はまだ早めの鼓動を刻み続けているが、呼吸が苦しいという感覚は無い。

 

 自分が入るべきゲートを目指して走り出す。

 恐ろしい程に僕の脚は、というか身体全体は軽かった。

 エンドルフィンが過剰に分泌しているのか、視覚を通して僕の脳に届く情報が、僕のウマ娘としての本能を、走る者としての気持ちを昂らせる。

 

 

 

 その途中でゴール付近の最前列、制服姿のグラスワンダーとアグネスタキオンが居たことに気付いて僕は速度を緩めた。

 

 

「―――」

 

「グラス……あぁ、そうだな」

 

 口を開かず、視線を僕から離さず。

 凛とした、空色の瞳と見合う時に僕は少しだけ我に返る。

 大観衆の中、騒音にも似たこの場内でまるで一人だけ別の空間にいるかのような、泰然自若を体現したようなグラスワンダーの佇まいを見て、僕自身も冷静にならなければならないと思ったのだ。

 

 

 距離は違えど、僕はそういう事を言われている気がした。

 

 

 ゲート前に立って、深呼吸をして心拍数を落ち着かせる。

 最後のウマ娘が枠入りしてからレースが始まるから、トリを務める者は気楽に入れるから良い。

 充分に間を取った後で枠入りを完了させると、左右からの異様なまでの視線があった。他のウマ娘達だ。

 

 

「今日は逃げ切れると思うなよ」

 

「逃げがアンタだけの専売特許だと思わない方がイイね」

 

 

 おお、怖い怖い。これは相当にマークされているな……同じ逃げウマ娘だ。

 同じ脚質だから、先頭の奪い合いになる事は必至だ。だから逃げウマ同士は互いに睨みを利かせる。

 逃げウマだけではない、それ以外のウマ娘達からも彼女たちのような視線をひしひしと感じる。

 

 

「どうやら、1番人気よりも人気者らしい」

 

 

 2000mは、僕にとって不安な距離だ。

 今日までトレーニングを重ねていたが、弥生賞の追いつかれ具合からスタミナ面が不安視されている。

 もしスタミナ管理をミスったら、後ろから差し切られる可能性がある。 

 

 

 だからだろうか、今日こそは僕の首を取らんとばかりに周りのウマ娘から殺気を感じるのは。

 だがそんな殺気、グラスワンダーとの3年間で慣れっこだぜ!

 

 

 

 

 

 

『さぁ最後のブラックサンダーが枠入りが完了させました。

 血のプライドと人々の願いを乗せて、皐月賞今スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁお客さん方、やきそばはいかがねー!レースを前に腹ごしらえのやきそばはいかがかねー!」

 

 

 レースが始まる数分前、一人のウマ娘が中山レース場の観客席で『特製やきそば・皐月賞限定』と書かれ立ち売り箱を首から下げて声掛けを行うウマ娘がいる。

 

 

「今なら皐月賞を記念した限定焼きそば販売してるよー!さぁ買った買ったぁ!

 ソースはブラックサンダー味とロイヤル味、他数種類の組み合わせで無限にトッピングできんぜェ!」

 

 

 腰まで届く長髪の芦毛と170は越えているであろう体格の良さ、顔つきの良さが目立つウマ娘。

 静かにしていれば、黙って普通の格好をしていたら誰もが美人だと口を揃えて言うだろう。

 

 

 以外にも、そのウマ娘が売る焼きそばは中々に売れていた。

 レース開始前だからか、昼前だから作り置きしていた100個の弁当ももう僅かである。

 

「へっへっへ……」

 

 

 芦毛のウマ娘はこれから始まる祭りという名のレースに興味津々と言った感じの笑みを浮かべていた。

 その視線の先、ゲートを前にして佇んでいるブラックサンダーへと。

 

 

「さぁて、今年はどんな面白ェヤツが皐月賞勝つのか……ゴルシちゃん、ワクワクすっぞ!!」

 

 

 そのウマ娘、名前をゴールドシップという。

 かつて皐月賞を制したウマ娘はかつてない強敵……否、絡んでいて面白そうなウマ娘を探すべく、この中山レース場に現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 皐月賞開幕!
 尚、天候は晴れですが前日の雨によって若干の稍重というバ場状態となっております。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

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