ある意味、不運と言わざるを得ないのか。
それはレースが開始して、第1コーナーに入る前に起こった。
ゲートが開いた瞬間、僕は出遅れなくスタートを決めた。
そのまま加速して、内側の方へと切り込んでいく。今回は外枠からのスタートの為、先頭でハナを進むためには加速後にポジションを変えていく必要があった。
しかし、
「悪いね」
「ここはもらうよ」
『内枠有利を生かして先頭を取ったのは2番オアシスと3番グリーンデイ!
その二人をすぐ後ろにブラックサンダーだ!後方の15人のウマ娘がこの3人を追う形でレースは展開していきます!』
僕がハナに出ようとする以前に行く手を遮る者がいた。
他の逃げウマ娘二人が、僕よりも先に直線で加速して来たのだ。
今回の2、3番……つまり、僕より内側からスタートしたのだから外から寄せる僕よりもハナのポジションを奪う事に利があるのは彼女達である。
・・・・・ハナは取られたか、しかもこの位置取り。
先頭を進むのは2番だが、その左斜め後方に3番が追走する形だ。
逆扇のように進む彼女たちを追い抜いて加速するには内側を抜いていくか、外を越していく必要がある。
だが、今回は内側のバ場は稍重だ。水を含んでいて滑りやすいし、無理して進もうものなら力を入れなければならないし、その分スタミナを消費する。
しかし、外から抜きに掛かろうとすると3番が壁になって塞いでくる。進むべき道は塞がれてしまった。
僕は先頭を取られることにかなりストレスを感じた訳だが、ここで無理に前に出ようとは思わなかった。その理由は一つである。
皐月賞はスタート直後に急な坂がある。
第1コーナーから第2コーナーの中間まで高低差2mの坂はあの『淀の坂』に比べれば大した事が無いが、中山レース場は最終直線にまたこの坂を昇らなければならない。
しかもゴールに向かって一度下りで沈んでからの上り坂なので、必然的に傾斜は上がっている。
だから、ここから始まる坂で無理に追い抜きをかけて体力を消耗してしまっては、スタミナに不安のある僕は最後の直線でいっぱいになってしまうのだ。
先頭を進む2、3番は僕がそうやって無理に追い抜きにかけさせようと罠を張っているのだろう。
弥生賞の時にブラックサンダーと言うウマ娘が2000m以上の距離に不安があるというのを研究されていたようだ。
逃げウマ娘にとって重要なハナを取られてしまった訳だが、ハナを取られたからと言って動揺する僕ではない。
ポジション争いに敗れたのであれば、逆転の可能性を信じてあらゆる策を講じていく。
最初の坂を登る段階で、僕は2番の背後に回った。
「なっ……ブラックサンダーの存在が……消えた!?」
「ここなら気持ちよく走れる」
前のウマ娘との距離を1バ身も無い感覚で追走し、壁を作る事で走る際の空気抵抗を極力減らす。
スリップストリームと呼ばれるこの技術は陸上競技における1600mリレーにおいても有効だ。
身体にぶち当たる風が無くなるだけでも、力んで走る必要が無くなるし、スタミナの温存にもなる。
今先頭は彼女たちに譲るが、無理してハナを進める分オーバーペースでスタミナを多く消費する。
最終コーナーでスパートをかける前にスタミナを温存できてる僕の方が勝負を仕掛ける上で有利のハズだ。
それに、真後ろを取るという行為を生物は本来嫌うものだ。
あのゴルゴ13も、背後を取ろうものなら『俺の後ろに立つな』と言いながら女を殴りつける程。
死角を取られるという事は、生殺与奪の権利を相手に与えるという事らしい。
水柱の富岡義勇が好きそうなセリフだ。
簡単に言うと、自分の真後ろに気配を感じたら、誰でも気持ち悪い気分になるというものである。
ストーカーが女性を追いかける際に姿を隠す事で相手に恐怖を与えるように、真後ろを取られるというのはウマ娘にとって恐怖やそれ相応のストレスを与えるのだ。
「僕はこれから、ストーカーウマ娘になる」
ライスシャワーがメジロマックイーンに背後からプレッシャーを掛けたように、前方のウマ娘に熱い視線を送る。
視線の先には、今日まで鍛えぬいてきたそのウマ娘の美しいハムストリングスが勝負服の隙間から覗かせている。
素晴らしい。
芝が捲れるほどのパワーを秘めた見事な脚だ。
日々の鍛錬によって形成されたソレはまるで輝く真珠のようだ。
「―――ッッ!?な、なに!?なんか背筋がッッ」
前方のウマ娘が僕のプレッシャーに充てられた事により更に加速する。
どうやら掛かったようだ。神の悪戯か。
自分のペースを乱されたウマ娘は前に行きたがるようになり、その分自分のスタミナを消費する。
作戦が功を奏したのだろう、このまま前に進み続けてくれ。
恐らくこの不良バ場なら後方のウマ娘達も大外から抜きに来るはず。
比較的にコーナーの内側に寄っている僕達逃げウマはたったの3頭だ。
最終直線では大外を回る後ろのウマ娘達よりもタイムロスが少ない。
「はっはっはっ……くっ!」
そして僕の魔術(偶然)によって掛かったウマ娘は恐らくゴールまでこのスピードを維持することは難しいだろう。
コーナー手前でバテてコーナーの曲がりで大きく寄れた箇所に僕が身体をねじ込んで、内から一気に抜き去る。
スリップストリームでスタミナを温存出来た分、スパートは掛けられるだろうし大外から捲くってくるウマ娘達からの距離を離せれば、スタミナに不安がある僕にも勝ち目は幾らか見えてくる。
・・・・よし、ここからは我慢の時だ。僕は辛抱強い、残り1500mは無理に勝負に出る必要もない、このままスタミナを温存して――――。
そう意気込みながら、最初の坂を登り終えた直後だった。
前を走る逃げウマ娘の蹴り出した芝の土が僕に目掛けて飛んできたのは。
「ぎぇッ!?」
掛かった事が原因で前のウマ娘は更に前に行こうと加速したらしい。
その際に、不可抗力で、僕の顔面に拳一つ分の土が直撃した。
咄嗟に目を瞑るも間に合わず、口や鼻、そして左目に見事入った。
「いっでぇッ――――エフッ、エフッ!!」
ウマ娘の脚力で舞い上がった土だ。
その威力を至近距離で顔面に受け止めればただでは済まない。
口に含まれた土が齎す独特の苦みと、鼻に侵入してきた土が喉を犯す。
左の眼球を焼くような痛みに、僕は叫ぶ間もなくバランスを崩した。
・・・・・しまったっ!ここは内ラチッ!?
左目が開かなくなった事によって左右の平衡感覚がズレていく。
気づけば僕は本日絶賛稍重の内ラチコースに入り込んでしまっていた。
ドスン、ドスン、と微妙に乾いたような形跡のある芝だが力が入っていないのか、思いっきり踏み込んで地面を蹴っても前に上手く進まない。
態勢を立て直さねば、そう考えはするものの、口や気道に入り込んだ土が齎す身体への不快感や目の痛み、自身が減速していくという多くの事象を一度に味わった僕が即座に対応できるかと言われればそんな訳もなく。
『おおっとブラックサンダー!?急激に逃げの先頭集団から離されていくぞ!?
スピードが落ちて、ずるずると下がっていく!?ハナを進むウマ娘から2バ身以上……離されたァ!これはどうした事かブラックサンダー!いつもの逃げではなぁい!!』
残り1500mを切る頃、僕が稍重バ場から抜け出すと先頭の逃げウマ娘とは大分距離が離されていて。
全体のウマ娘の中で5番手までに順位を落としてしまっていた。
逃げ切りをベースにレースを展開するウマ娘にとって、中盤でこの位置から捲くり、勝利することはほぼ絶望的である。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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