僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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久しく投稿出来てませんでしたので。
決して地固め因子厳選に心が折れて消えてたわけでないので……。
皐月賞ラストで原因不明の発熱で倒れたブラックサンダーはお部屋で療養中。

その間に、皆があんま知りたいくなさそうだけど山々田山能くんの過去話をちょっとだけ。今回はそういうお話。


27.山々田山能は夢を見る

 

 

 

 

 

 

 

―――――人は睡眠時、夢を見る事がある。

 

 

 何かに喜んでいた事とか。

 何かに怒っていた事とか。

 何かに哀しんでいた事とか。

 何かを楽しんでいた事とか。

 

 

 人生の喜怒哀楽、人によって見る夢の内容は様々だ。

 

 

 ウマ娘の肉体を手にした僕でも、それは変わらないらしい。

 僕は今、ウマ娘の身では珍しい高熱を引き起こして自身のベッドで絶賛休養中なのだ。

 39℃近くまでに上昇した体温の息苦しさが微塵も感じられないほどに、僕は快適な空間にいる。

 それが、僕が今夢を見ているという結論に至っている。

 

 

 目を閉じているというのに飛び込んでくる視界はまるで映画館にでもいるかのようだ。

 

 映し出されている夢の内容を見て、僕は「ああ……」と、思う。

 僕が見ている夢は、僕の過去の……山々田山能が人間の頃だった時の夢だ。

 

 

 高校時代のお話。

 僕がまだ、陸上競技に人生を費やしていた頃のお話。

 「楽しかった」のか、「楽しくなかった」と問われれば、僕はそこにプラスαで「あまり思い出したくない」という項目を追加する。

 

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけ僕の昔話をスクリーンに映し出される映像を僕自身によるナレーションで回顧することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『人より速く走れる』というのは、総じて気分が良いものである。

 かけっこや、学校での体育、部活の野球、サッカーなどのスポーツではその一点だけでも優れているだけでヒーローになることだって出来る。

 

 

 そして、稀にクラスの中には抜きんでて足の速い人間というのが一人や二人はいるだろう。

 なんか次元が違うんじゃないかと思わせるくらいのスピードで走る奴とか。

 隣に居合わせて、同時にスタートした瞬間に走る気が失せるような奴とか。

 

 

 僕が()()だった。

 人間の頃の山々田山能という男は、当時の学校で誰も追いつくことが出来ない『最速の男』と言われていたのだ。

 

 

 

「おおー、50mを5秒6か……先生、小学生の体育のテスト色んな子の50m走を見てきたけどこんなタイム出したのはお前が初めてだぞ山田ァ」

 

「先生、僕の名前は山々田です」

 

 体育の教師はとにかく「すごい」と褒めてくれた。

 クラスメイトからも同じような事を言われた。

 

 

「こんなん、こんなんチーターや!」

 

「イダテンの生まれ変わりや!」

 

「サイボーグ009や!加速装置や!」

 

 

 勿論、「スゲー」と言うやつもいれば、「先生、僕ヤマくんと走りたくないです」と僕と走る際に教師に堂々と申告するクラスメイトもいた。

 

 

 それを差し引いたとしても、僕は気分が良かった。

 誰よりも速く走れるということ、誰よりも速くゴールできるという事にこの時の僕は少なからずとも優越感を覚えていた。

 

 

 だってそうだろ?

 速く走れるだけで毎年の運動会では注目の的だ。

 リレーの種目になれば、僕は絶対の勝利を呼び込む最強のエースになれる。

 

 

 人間、一つだけでも優れている物があれば、こんなに気持ち良くなれるというのを僕は小学生にして知ってしまった。

 

 

 

 この時の僕は小学生という事もあってか、結構クソガキだったと思う。

 いつか、この脚で天下を取るんだと、世界最速の男は僕なんだと、それは揺るがない真実なのだと思うようになった。

 

 

 当然、そういったイキり小学生である僕の夢双は中学時代で終わりを告げた。

 

 

 

 中学から陸上部に入部してからは、色々な大会に出場し多くのスプリンター達と競うことになった。

 最初はそこそこ勝てたと思う。でも、途中から……地方を越えて県とかの少し大きな大会になると、僕より速い人なんてたくさんいた。

 

 

 僕は、「分からされた」のだ。

 

 

 僕より、一回りもガタイのいい中学生。

 僕より、一回りも背の低い中学生。

 でも、僕よりも圧倒的に足が速い人達。

 

 

 僕が小学校の時のように勝てなくなるのは当たり前だった。

 当然、負けまくった僕は凹んだし、僕の実力なんてこんなものだったんだと泣くこともあった。

 

 

 だけど、不思議と「もう走るもんか」なんて思う事は無かった。

 むしろ、もっと速さについて極めたいと思うようになった。

 

 

 走る事について、考えるようになった。

 速く走る事について、深く考えるようになった。

 タイムを良くするためには、どうすれば良いのか。

 

 

 誰よりも速くなるためには、何をすればいい?

 どうすれば、今の僕より強くなれる?

 

 当時、中学校の試合で喫した敗北は多くの事を僕に教えてくれた。

 

 

 

――――僕の周りには、こんなにも速い人がたくさんいる。

 

 

 井の中の蛙だった僕は、大海を知った。

 その未知の世界で戦うために、僕は変わらなければならないと思ったのだ。

 

 

 負けて不貞腐れて沈んでいくよりも、次の事を考えよう。

 競技者としても、人としても、強くなろうと。

 

 

 

 そこから、僕の人生は一変する。

 ただの駆けっこ大好き少年から、陸上選手として競技人生を駆け抜けていった。

 

 

 トップアスリートの執筆した著書や月刊陸マガとかを買ってはその練習方法を自ら試したりして、ノートに纏めたりした。

 高校生活だけでも、僕の自作した練習ノートは十冊以上になる。

 また、夏冬と期間が限られている中で稼いだバイト代で新しいシューズとか、ラダーとかメディシンボールとか練習器具を購入した。

 

 

 貧乏な高校とかだと器具は実費なんよ。

 

 

 勿論、僕はその練習方法や知識をチームの皆と共有した。

 『誰かに教える』、という事は自分の持つ知識を再確認させるから。

 体育教師の息子だった僕は、その血を継いでいたからか、同じ部の皆からは「分かりやすい」となかなか好評であった。お陰で、陸上部の短距離メンバーの平均タイムが上がったので、僕は次第に人に何かを教える事が楽しくなっていった。

 

 

 だから、高校3年の春に100mで10秒99という記録を出した時、僕は心底嬉しくなって、堪らなかった。

 10秒台、それは短距離選手が頂点を争う際には避けては通れない壁。

 ワンピースで例えるなら、グランドラインの入り口であるリヴァースマウンテン。

 

 

 日本一速い男を決めるための最初の難関。

 でも、そこに高校生活三年という年月をかけて漸く、その争いの中に入っていく事が出来る。

 

 

「やったッ!やったぞッ!僕にも―――僕にだって出来るんだッ」

 

 

 僕の走りにはまだまだ改善の余地がある。

 タイムの伸びしろはむしろここからのハズだ。

 つまり、僕はまだまだ速くなれる。

 

 

 10秒99が、10秒98、10秒88と縮まっていくイメージが浮かんでくる。

 まだ実際にタイムが伸びた訳でもないのに、自らが高みに登る事が直に感じられたかのような気持ちの昂ぶり。

 

 

 日本人初の9秒台だって、夢じゃないかもしれない。

 そう思ってしまうくらいに、僕のテンションは爆上がりだった。

 

 

 

 そして、今年こそ行けるかも知れない、と僕は胸の内で思うようになった。

 3年生として最後のインターハイ、もしかしたらその争いの中に食い込んでいけるかも知れないと。

 

 

 いや、行けるかもしれないではない、『行くんだ』。

 多分とか、恐らく、とかmaybeではない、『絶対』で。

 

 

 高校生活、走る事だけを考えてた僕を回りのクラスメイトは真面目に「頑張れ」と言う者もいれば、そう思わない者もいる。

 

 

 「インハイ?無理でしょ」とか、「こんな公立高校で頑張ったってさぁ」とか、「そんだけ頑張って結果出なかったら惨めだよ」、「やるだけ無駄無駄」とか。

 

 

 そんな奴らのノイズを掻き消すように、今日まで必死に走って来た。

 校庭のグラウンドでしか走れない、小さな高校だけど夜遅くまで皆と走った。

 皆が「時間だ」と帰る中、僕は一人警備員に声を掛けられるまで走り続けてた。

 次の日の授業がままならず、寝ていたことを担任に咎められたこともあったとも。

 

 

 辛くても、楽しい日々だった。とても。

 

 

 これまでの日々があったからこそ、僕は僕のままで居られた。

 「速さ」を追い求める僕で居られたのだ。

 

 

 さぁ、行こう全国へ。

 僕の脚を奴らに見せつけてやろう。

 

 

 今年の夏の主役は僕だ。

 そう言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて、僕はまたタータンを走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人は自らの人生において、主人公と成り得るだろうか。

 ゲームで言う、プレイヤーとか、そんな感じの存在に。

 

 

 

 ドラクエで言う勇者、みたいな。

 ピーチ姫をクッパから助け出すマリオ、みたいな。

 危機的状況に必ず駆けつけるスペース・コブラ、みたいな。

 ワンピースのモンキー・D・ルフィ、みたいな。

 

 

 己の力であらゆる困難を打ち砕き、自らの我儘を押し通す者達。

 一人の選択肢で全てのENDすらも書き換えてしまう者達。

 

 

 

 そんなものになれたら、といつも思う。

 

 

 だけど、そんなものになれるのは本当にごくごく一部の人間なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、全高校総体陸上競技男子100m決勝がこれから始まります』

 

 

 

 高校男子最速を決める戦いが始まる、アナウンスがテレビから聞こえる。

 4月からの激しい予選を勝ち抜いてきた優俊8名が真っすぐに100m先の白線を見据える光景がある。

 

 俺が。

 俺が。

 俺が。

 

 そんな感じで闘争心を剝き出しにしている男達が求めるのは高校最速の称号。

 タイムも凄い。なんと全員の平均タイムは10秒72。熾烈な戦いを極める事は間違いないだろう。

 

 

「……」

 

 

 家の机で積んだ参考書と、問題を解く為の筆を取る手を止めて親の温情で設置させてもらった一昔前の箱型テレビを見つめる高校男子が居た。

 

 

 勿論、それは僕だった。

 

 

 

 インターハイ決勝の舞台に、僕の姿は無かった。

 インターハイ本戦どころか、地区予選の2組で姿を消した。

 

 

 ベストコンディションによるベストタイムを叩き出したさ。

 本番のレースでは0.02秒くらい縮まったのかな?それも届かなかった。

 

 

 近年、スプリント競技においては若手の成長が著しく高い。

 去年まで中学生だった者達で10秒台をマークした者や2年で飛躍的にタイムが伸びた者達が今年の予選に蔓延っていた。

 そんな化け物達で溢れるハイレベルな大会に僕の10秒入りたての記録など、霞んで当然だった。

 

 

 

 陸上競技のシーズンは終わるのが早い。

 都内では室内競技の大会も始まったりして、インハイを賭けた予選は5月の中旬に行われる。

 そこで勝ち抜いた者達だけが7月の本戦に参加する権利を得る。

 

 

 つまり、地区予選で敗北した僕のような者達は5月の中旬が終わればそこで強制的にシーズンが終了するのだ。

 そして、三年生は進学や就職を控えていることもあり、秋季の大会や国体に参加する時間はほぼ無いに等しい。

 

 

 だから5月で引退することになった僕は、こうして今、受験勉強に勤しんでいる。

 大学でも、陸上競技を続けるために体育大学を目指していた。

 

 

『On Your Marks……set―――』

 

 

 テレビの中で審判の雷管による音が無言の場内に甲高く響き渡る。

 全員が一斉に好スタート、出遅れた者は誰も居ない。

 最初の20mで加速を終え、40から50mでトップスピードに達して、ゴールするまで殆どの選手が横並びでゴールした。

 

 

 テレビ画面に記録されたタイムは10秒58。

 記録にも歓声が上がり、最後胸の差で抜き出た4レーンの選手が自分が勝った事を自覚して右腕を天に突きあげていた。

 

 

 嬉しそうに。

 誇らしそうに。

 ()()()()()()歓喜を極めた瞬間なのだろう。

 

 

「……問題解くかー」

 

 

 テレビの電源を消して、再度僕は問題と睨めっこ対決を開始する。

 からん、と傍のコースター上に置いた麦茶の中の氷が半溶けの音を知らせる。

 

 

 季節は夏、暑さから窓を開けた外では蝉の鳴き声が鬱陶しいほど鳴り響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 




初めてウマ娘が出てこないお話を作ってしまった。
さぁ、気を取り直してキタサンブラック引いてくんぜ~(すり抜けエルが見える見える)

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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