はやく仕事納めしてぇよぉ!終われば好きなだけ小説書けるのにぃ!
「一生に一度だからこそ……?」
ミホノブルボンは先の彼女の、ブラックサンダーの言葉を聞いた。
足を崩したブラックサンダーは息を吸っては吐いて、呼吸を整えてはその理由を語り始める。
「僕は日本一を懸けて戦うレースって言うのに憧れてた。
西と東、北と南の強者と鎬を削るような戦いをしたいって、ずっと思ってた訳さ」
まるで、その機会にこれまで恵まれなかったかのように。
その資格すら与えられなかった凡才の言う戯言のように。
ブラックサンダーは、自分よりクラスは下のクラシック勢だがその実力が抜きんでているウマ娘であることは今年のレース結果を見れば明らかだ。
朝日杯、皐月賞というG1を勝利した彼女はまさしく今季の注目されるウマ娘である。
実力は百も承知、自らを蔑む理由がミホノブルボンは理解できなかった。
「ブラックサンダー、あなたの発言に些か疑問を抱くのですが」
「あ、いや……深い意味はないよ。ただ単に、憧れの舞台で全力勝負したいっていうのが伝わればいいんだ」
少しはぐらかされたような気がして、だけど、やはりと言うべきか、日本一の舞台で戦う事に秘めた思いを持っているようなのは確かだ。
「周囲は僕は2400mは走り切れないと思っている……皐月で勝てたのはあくまで虚を突かれたまぐれ勝ち。
ダービーウマ娘になるのは別の娘だという噂は僕も耳にしているさ。お前もそうだろう、ミホノブルボン」
彼女の脚質はどちらかと言えばマイル。
これまでのレースにおける逃げ戦法で中距離を征くに、十分なスタミナが備わっていない。
皐月賞は彼女の言うように、大外捲くりで流れたウマ娘達の虚を突いたブラックサンダーの作戦勝ちだが、終盤の1950mで、脚は完全に止まっていた。
普段通りのバ場状態であったのなら、彼女の着順はきっと入着できたかも怪しい。
それほどまでに絶望的なのだ。ブラックサンダーの、日本ダービー挑戦は。
自分とこうして坂路トレーニングをしても、勝利できるイメージが湧いてこないほどに。
「だけど、僕は走るよ。このダービーを」
軽快に、ブラックサンダーは言う。
「やっと、踏ん切りがつきそうなんだ。
ずっと仕舞い込んできた……。
叶わないと思っていた願いを。
僕の中で燻ぶらせてきた想いを。
全部をぶつけて燃え尽きてしまってもいい。
走る例え世界が違ったとしても、それをやり遂げて、僕は漸く前に進める気がするんだ。
そのための努力を、止めたくない。
ダービーが終わって、〝ああしておけば〟とか〝こうしておけば〟なんて思わないように……後悔だけはしたくないんだ。
だから、距離がどうとか。
僕の勝利が周りから期待されていなかろうが僕は走る……勿論、出場するからには勝ちを狙う訳だけど」
確たる〝自信〟ではない、これは〝信念〟だ、とミホノブルボンは思う。
『サイボーグ』、『機械的』と言われていた頃の自分とはレースに向けている熱が違う。
自分がクラシックの時は、冷静にマスターであるトレーナーの定められたトレーニングを行い、結果を出せれば良かった。
予測の範疇を越えるような感情に支配されず、むしろ不要とさえ考えていたほどである……菊花賞で
揺るがない芯があり、それがある限り彼女は決して走る事を止めない
まるで、あの娘のようだ。ド根性というか。そんな、目に見えない部分で肉体に作用する得体の知れないエネルギー。
「羨ましく思います……ブラックサンダー」
「ん?なんで?」
痛む臀部を摩りながら、苦悶の表情を浮かべるブラックサンダーに気付けばミホノブルボンはそう言葉を漏らしていた。
「私がクラシックの頃、そういったレースに対する〝情熱〟を抱いてはいませんでしたから」
自分は、いつも誰かに教えてもらってばかりだ。
マスターであるトレーナーに。
菊花賞で自分を負かしたあの娘に。
そして、今は後輩であるブラックサンダーにもあの頃に抱けなかった情熱がどれだけ尊いものかを教えてもらった。
「あなたが私と同じ時期にクラシックを走っていたら……もっとレースに対する見方が変わるのが早くなっていたかもしれません」
「昔に拘らなくても、5月以降になれば走る機会もあるだろうさ」
「そうですね。では、ラスト一本走る……そう判断してメニューを継続しても?」
「当たり前だ。今度こそ、その背中追い抜いてやる。僕がブルボンを追い抜いたら、ブルボンのその脚を触らせてもらってもいいか?今度のトレーニングの教材にしたいんだ」
「マスターには〝ブラックサンダーのあらゆる提案は拒否しよう〟と言われているので」
「対策されてる!?」
「ちなみにその際はグラスワンダーさんに報告するように言われていますので」
「やめろォ!」
ケツワレの状態の身体へ鞭を打つように、ブラックサンダーとミホノブルボンは坂路を走り出した。
流石に体力も限界だったからか、最後の一本を終える頃にはブラックサンダーは生まれたての小鹿のように足を震わせていた。
勿論、まだまだダービーまで日数はある。
ミホノブルボンとブラックサンダーは坂を走り続けた。
「おおおおおお!!!」
晴れの日も。
雨の日も。
土日や、ミホノブルボンがレースで休みの日でもブラックサンダーは一人で坂路を走っていたという。
「ルナ……!ルナァアアアアアアアア!!!」
時折、どこかの小説家のように坂を走りながら叫んでいて周りからの視線が痛かったが、着実にブラックサンダーの坂路走は成果を出しつつあった。
そして――――、
「ラスイチィィィイ!」
「――――っ!!」
ブラックサンダーの身体がミホノブルボンとの距離を僅か鼻差の距離へと詰める。
確かに、ミホノブルボンの視界にブラックサンダーの青鹿毛が映ったのだ。
ここ数日で彼女の能力の向上ぶりは目を見張るものがある。
連日坂路練習で体力を使っている状態、そしてセットメニューのラストでシニアのウマ娘相手に猛追するなど並大抵の実力では成し得ない事だ。
「――――」
背後からの猛追、そういった場面をミホノブルボンは過去のレースで何度も遭遇している。
しかし、レースで無い練習の場面でこれほどの緊張感を味わったことは無い。
あの娘以来だ。
彼女と同じ、青鹿毛のウマ娘とレースに出て、負けてしまった時と同じくらいのプレッシャーだ。
そのプレッシャーに懐かしさを感じながら、ミホノブルボンは持てる力を絞って最後の加速をする。
「はぁ――――ッ!」
これは意地だ。
シニア勢としての。
実力のあるクラッシックの後輩と言えど、ここで簡単にハナを譲るのはかつての二冠ウマ娘の名が廃るというものだ。
「はぁ…っ、はぁ…くっそぉ!駄目だったかぁ!」
ミホノブルボンは、決してブラックサンダーを抜かせなかった。
この坂路練習の最終日までブラックサンダーにハナを取らせなかった。
「ふぅ……ふぅ…」
5本のセットメニューを終えたミホノブルボンは初めて大きく呼吸をして息を整えた。
ブラックサンダーの猛追に初めてペースを乱された。
後ろから迫ってきた彼女にハナを取られまいと、予定にない加速を余儀なくされたのだ。
恐ろしいものだと、ミホノブルボンは思う。
この短期間で、ブラックサンダーはスタミナを飛躍的に伸ばす事に成功している。
最後まで妥協することなく、ミホノブルボンのペースに付いていった事で相乗効果が生まれたのだろう。
恐らく、ブラックサンダーはまだ伸び盛りなのだ。
ウマ娘で言うところの『本格化』を迎えていない。
メイショウドトウのように、能力を覚醒する前にデビューを迎えたタイプだ。
『本格化』はウマ娘で個人差があり、季節や時期で大きく異なるのだ。
彼女が『本格化』を迎えた時、肉体が完成されたブラックサンダーの実力は如何なるものなのか、それを考えたミホノブルボンは思わず息を呑む。
今年のトゥインクルシリーズは非常に荒れるかもしれない、と。
そして5月。
遂に、ブラックサンダーは日本ダービーの日を迎えた。
以前にも書いていた通り、(いつ書いたよ)日本ダービー編はそこまで長くなりませんので。テンポよく書き進めれたらと思います。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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