セイウンスカイに水族館プロジェクトというゲームをプレイさせて「釣りなんかイヤァ!!」と曇らせてあげたいバロックスです。
トレセン学園のトレーニングルームはどれも高額な器材が並んでいる。
ルームランナーだけでも部屋一室をまるごと使用して20台以上は置かれているし、ウェイトリフティングエリアは12か所、その他器材を含めて二階までがトレセン学園のトレーニングルームである。
これだけ規模の大きなジムなのも、全国各地から有能なウマ娘達が日々集まってきている事に他ならない。
人々のトゥインクルシリーズに対する興味と、その舞台で活躍を願うウマ娘達の為に学園側も設備に対する投資は惜しまないのだろう。
今日は日曜日で、多くがレースに出走したり、身体を休ませたりと極力トレーニングはしないような日の為ジムの中にウマ娘の姿は少ない。
そのがらんとしたジムの、ウェイトリフティングエリアで一人のウマ娘が鏡の前に佇んでいた。ミホノブルボンである。
「……脈拍正常、異常なし……これよりバーベルスクワットを開始します」
バーベルの両端に取り付けられた尋常ではない数のプレート。
25Kgのプレートが四枚で100Kg、10Kgのプレートが2枚、このバーベルだけでも20Kgあるので合わせれば140Kgの重量にてスクワットを行う。
「――――フッ」
若干左右のプレートの重さでしなりかけているバーベル中央に首を傷めないようにサポートを巻いてから、姿勢を低くした状態で肩に担ぐと小さく息を吐いて立ち上がる。
「1、2、3……」
直立から腰を引いて、徐々に姿勢を低くしていく。
ミホノブルボンは140Kgという重さを感じながらも、目の前に映し出されるリフェクスミラーで正面を確認しながらスクワットを行う。
スクワットは、ただ重りを担いでしゃがんだり立ち上がったりを繰り返すトレーニングではない。
ウェイトトレーニングにはそれぞれ正しい動作があり、それを意識したかしていないかでトレーニング効果は大きく異なるのだ。
腰を突き出し、視線は下げずに正面を向き、膝を前に出さない。
身体を真下へ沈ませていくようなやり方だ。
この動作を行う事でトモ部分に負荷を掛ける事が出来る。
膝を前に出すように行えば大腿四頭筋を鍛える事が出来る。
目的に沿った方法でトレーニングを行うのもウェイトリフティングの難しい所だ。
「膝の角度、90度をキープ。トモ部分への負荷を確認。
姿勢修正、誤差の範囲内、修正必要なし……メニューを継続」
自分のトレーニング動作に問題はないかを確認し、ミホノブルボンはスクワットを続けていく。
先ほどよりも速く、しかし、正確な動作で。体幹を一度も崩すことなくペースを維持し、セット数をこなしていく。
「ブルボン、調子はどうだ」
肩で息をしながらセットのラストを終えた瞬間、後ろに立っていた瘦せ型の男性に声を掛けられる。
彼は左胸にトレセン学園のトレーナーバッジを身に付けていて、ミホノブルボンの関係者……つまりはトレーナーだ。
「マスター。3分12秒前からこちらに居たのは分かっていました。何故黙ったまま見ていたのですか?」
「なんだブルボン、気付いてたのか。セットメニューに集中してたから終わるまで待ってればいいかなってね……今日はもう終わり?」
ミホノブルボンのトレーナーはスポーツドリンクのボトルと大量の汗を流しているミホノブルボンにタオルを手渡す。
トレーナーである以上、例えオフの日に練習をしていても担当ウマ娘の管理は徹底しておかなければならない。
休みの日に無理なトレーニングをして故障してしまわないようにだ。
「バーベルスクワット140Kg×7セットが終わったところです。本日は運動負荷をあまり掛けない調整を行っていたので」
「それほんとに調整してんのかな……」
「はい。あとはこのままストレッチをして終了する予定でしたが」
汗をスポーツタオルで拭うと白い生地からは花のような柔軟剤の香りだ。
ミホノブルボンが気に入っているタイプの香りだった。トレーナーが洗ってくれたのだろうか。
「そっか……なら俺にも手伝わせてくれ」
「マスター自ら……?構いませんが」
簡単な整理体操を行ってからストレッチルームの床にシートを敷くとそこにミホノブルボンを座らせるとストレッチする。
トレーナーはミホノブルボンの後ろに立ち、背中を押したりする柔軟の補助を行う係だ。
「ここ最近はデスク作業ばっかで現場に来れなかったからな、他の娘のプランも考えないといけなくてブルボンの事見てやれてなかったから」
「そんな事はありません。チームメンバーが増えたことでマスターのタスクが増えているのは仕方のない事です。
限られた時間の中でそれぞれのメンバーのレースプランやメニューをマスターが作らなくてはならないのですから。
私は今やこのチームでは一番在籍が長いウマ娘です。三年間のトゥインクルシリーズを走る過程でマスターが付き添わなくても自分の事は自分で出来るようにはなったつもりです」
「でもこの前、試合前に駅の改札エラー起こして遅刻しかけてたような……」
「頻度は少なくなったハズ……です」
スマホ、ゲームセンター、エレベーター、とにかく機器を対象にしてエラーを起こしてしまうのがミホノブルボンだ。
その肉体から電磁波でも出しているのだろうか、三年経った今でもそのメカニズムは解明されていない。
「昔、父が見ていた怪獣映画では、電磁波に釣られて大群の怪獣が現れて街を破壊していました。
この問題を解決しなければ、私が原因で日本の……いえ、世界の危機の可能性が」
「ブルボンのお父さん、ガメラ2の観過ぎだよ。大丈夫、レギオンなんて生物この世界にはいないから」
雷が鳴るとへそが取られるという迷信を信じていたり、今のやり取りといい、ミホノブルボンの天然さは三年経っても健在だ。
三年、という月日は人を変えるには十分すぎる時間だ。
ましてや中等部、高等部のウマ娘達は皆が10代の少女たちで、多感なお年頃のような時期の者達が多い。(一部例外は存在するが)
精神的に未成熟な者達である彼女は常に勝利を目指してレースに挑む。
その過程で勝利と敗北の狭間でメンタルが安定することは稀なのだ。
ミホノブルボンのトレーナーは機械的に、冷静に言葉を発していて、とても落ち着いた様子だとは思うが、その内心はかなりの影響が出ている。
尻尾や耳の動きを注視していてもそれは分かるが、何より彼女の場合は……ミホノブルボンの場合は顔に出やすいのだ。
菊花賞でライスシャワーに3冠を阻まれたときはまさにそうだった。
「脚を見せてくれ、ブルボン」
一通りのストレッチを終えて、トレーナーはミホノブルボンに言われ抵抗することなく右足を差し出す。
その右足は過去に菊花賞を終えてジャパンカップへの調整中に怪我をした足である。
無敗の三冠の夢も阻まれ、故障というその年を最悪の状態で終えたブルボンにとっては泣きっ面に蜂を思い出させる怪我。
もっとも、ミホノブルボン本人は悔しい想いをしたものの、それがきっかけで奮起し、走る意欲を更に増幅させて見事なプラス思考を働かせていた。
真にメンタル的にダメージがあったのはウマ娘ではなく、トレーナーの方であったのだが。
割れ物を扱うかのようにトレーナーの両手はミホノブルボンの脚に優しく触れていく。
膝周り、その裏から脹脛に掛けて鍛え抜かれた曲線に沿っては痛みを感じない程度に時々揉んで、筋硬度を確かめる。
「ん……」
「痛いか?すまん」
「いいえ、問題ありません」
身体を身じろぎ、小さく声を漏らしたミホノブルボンに、思わず痛い想いをさせてしまっただろうかとトレーナーは不安になったが、そうはならなかったようだ。
先週の試合から明けて暫くレストを挟むように言ってはいたが触診した感じはまだ疲労が残っている様子である。
しっかり休息を取れば大事にならない程度のものではあるが。
ミホノブルボンのトレーナーは触れただけでそのウマ娘の疲労の蓄積具合が分かる。
これはトレーナーとしてミホノブルボンと三年間のトゥインクルシリーズで培った能力である。
「ブルボン、筋疲労がまだ抜けきっていない。恐らくは試合疲れだけではこうはならない……ブラックサンダーとの坂路走以外にも一人で追加メニューをやっていたな」
「……申し訳ありません、マスター。たしかに、ブラックサンダーとの坂路走後に自らに追加で5本の坂路走を課しました。
しかし、自身のスタミナと疲労度を計算した上での追加メニューです。問題は無いと自己判断しました」
「……怪我だけは駄目だ、怪我だけは―――」
無敗の三冠ウマ娘を逃した当時、ミホノブルボンのトレーナーは酷く落ち込んだ。
その敗北をバネにしたミホノブルボンの姿にまた心を打たれて、次の試合に向けて進みだした。
だが結果的に故障して、そのシーズンを棒に振った。
同僚、先輩、理事長から「気に病むことは無い」と気遣われたが、トレーナーである彼はそうはいかなかった。
彼女の父にも、頭を下げた。
幼少の頃からミホノブルボンは三冠ウマ娘になる事を夢に、走って来た。
周囲が短距離路線で展開を促す中、一時期お世話になっていたベテラントレーナーに自ら中・長距離路線の出走を打診するほどに。
その懸命な想いを応援したいと思ったから、トレーナーはミホノブルボンの担当を申し出た。
彼女の夢の為に、メニューを作った。
ハードなトレーニングだったが、ミホノブルボンは夢を目指して文句を言わず、その努力を続けていた。
だが、3冠を取れず、怪我をした今となっては、ミホノブルボンの夢を自分が潰してしまったのではないかと思ってしまう。
自分が、自分がもっとしっかりしたトレーナーだったら――――、
「怪我はマスターのせいではありません」
自責の念に駆られるトレーナーはミホノブルボンの声を聴く。
心の声でも聞こえたか、こちらの意図に構わずミホノブルボンは言葉を続けていく。
「ハードなメニューも、距離適性の変更も、全て私が望んだこと。
そして、私一人では決してそれは成し得なかった。
2000m以上の距離を走る事も。
皐月賞と日本ダービーの勝利も。
それが出来たのはあなたが……マスターが居てくれたから」
何故か言い直して、ミホノブルボンはトレーナーの泣きそうな顔を見て、その頬に手を添えた。
「だから、もう……そのような顔をしないでください」
サイボーグと言われる彼女からは想像できないような柔らかな笑み。
誰かを労わるような、心から気遣うような気持で溢れた笑顔。
少しだけ、いや……だいぶ救われた気がする、とトレーナーは思った。
「ありがとう、ブルボン。でも暫くはメニューの量を落とそうな」
「了解です。マスター」
三年間で、人は成長する。それはウマ娘も同じだ。
その成長する過程で良くも悪くも、「変わっていく」。
指導していたトレーナーとして、今のミホノブルボンは間違いなく良い方向へ変わっていた。
教え子の大きな成長を心から喜ぶことが出来るのは親だけではなく、その育成に関わったトレーナーの特権でもあるのだろう。
「休息が充分に取れ次第、本来のメニューに戻します……私は勝利しなくてはいけません、
〇
「今日は日本ダービーだが、どうだ?ブラックサンダーは勝てそうか?」
「私の推測が正しければですが――――」
トレーニングジムを後にし、トレーナールームで休憩をしていたミホノブルボンにトレーナーは尋ねる。
ミホノブルボンは坂路走で感じ取ったあの黒いウマ娘の少女の走力を計算した上で、はっきりと言うのだ。
「確かに彼女のスタミナは大きく上昇しました。皐月賞よりも、スピードもパワーもそれは間違いないでしょう」
ですが、とミホノブルボンは続ける。
「それでも、東京2400mを走り切るにはまだスタミナ不足。
推定2200mの距離から最高速度を維持することは困難だと思われます」
「つまり、ブラックサンダーは日本ダービーに勝てないと?」
「……」
その無言は、肯定を意味するのだろう。
無常にもそう訴える彼女の瞳の視線はモニター内に映し出される東京レース場のスターティングゲートへと向けられていた。
明日はダブル友人サポカピックアップゾ…… 石を崩す準備をしなくては。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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