僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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日本ダービー開幕。
毎度の事ですがたくさんの評価と登録、本当に感謝してます。
今回の短距離チャンミは珍しくA決勝まで残れたのでカワイイカレンちゃんと芝のサイレンススズカと化したスマートファル子で初のプラチナ目指しま。



35.府中2400mの旅

 府中の空に、盛大なファンファーレの音色が鳴り響く。

 何度かG1レースで聞いたことがある音だ。覚えがある。

 

 

 担当ウマ娘を送り出して、観客席からこの音楽を聴いていたトレーナーである自分にとっては聞き慣れた音だ。

 でもウマ娘の身体になって、レースに出るようになって、このファンファーレも今の僕にとっては特別なものになっていた。

 

 

 そして、この日本ダービーで聞くファンファーレは全てのレースにおいて最も特別な意味合いを持つものになる。

 世代のウマ娘にとって、一生に一度しか行われないレースだからか、その意味合いはワールドカップで選手たちが試合前に合唱する国家と同じものだと、僕は思うのだ。

 

 

 ターフの上で、出走するウマ娘達はファンファーレを聞きながらも屈伸運動をしたり、コースをじっと見ていたり、何か祈るような仕草で両の手を併せている娘も見られる。

 でも、その表情には怯えという感情は一切見られない。誰もが、自らの勝利を望んでいる。

 彼女たちと距離を近くにしただけ、その場所だけ、異様に熱を感じた。自分の勝利を、夢の成就を、信じてやまない彼女たちの情熱だ。

 

 

 ギラギラして、キラキラしているもの。

 炎のように熱くて、宝石のように美しいもの。

 ダービーに懸けるその想いは、ここにいる全てのウマ娘が一緒だった。

 

 

 

―――――『勝ちたい』。

 

 

 そんな子供でも大人でも、競技に携わるプレイヤーならば誰もが抱くであろう競争意欲が僕の肌を通して、電気のように伝わってくる。

 この異様な雰囲気を醸し出す彼女たちに、僕は覚えがある。

 ある夏、テレビの画面越しに見たインターハイの、あるいはインカレ、日本選手権、オリンピックの決勝でファイナリスト達見せるソレと同じだ。

 

 

 

――――あぁ、ここが……そうなんだ。

 

 

 世代最強。その座を賭けて、日本一を目指す至高の領域。

 日本優俊と名高い者を決めるレースの場に、この僕が存在している。

 

 

 夢見ていたけど、ずっと届かなかった世界。

 

 でもこれは夢なんかじゃない。

 厳然と僕はここにいる。

 僕の鼓動の高鳴りが、確かにそれを教えてくれる。

 

 

 陸上選手山々田山能として、ウマ娘ブラックサンダーとして。

 

 

 

 

 

 

 ゲートまでの枠入りは順調だった。

 18人のウマ娘はファンファーレが終わってからも無言で、静かにそれぞれの定められたゲートへと納まっていく。

 観客達からは〝落ち着いている〟と思うかもしれない、だけどその実、僕の両隣からひしひしと充てられている熱気は今から問答無用にスタートを決めかねない熱気で溢れている。

 獰猛な獣たちが、今か今かとスターティングゲートが開くのを待っているかのようだ。

 

 

 

 これから走る覚悟は出来てるか?僕は出来てる。

 

 

 殺気にも似たこの威圧感に、僕は飲まれない。

 むしろ、夢の舞台に立てた事に対して喜びを感じていただけではなく、この舞台だからこそ、全力で走る事に意識を向けていたからだ。

 

 悔いのないように。

 例えどんな結果が待ち受けていたとしても。

 最後まで僕自身を信じて走りぬく。

 このレースを走る為に、僕はその覚悟を決めていた。

 

 

 

『各ウマ娘、ゲートに納まりました』

 

 

 しん、と静まり返ったレース場。

 観客達が息を呑んだのも束の間――――ゲートが開いた。

 

 

 

『始まりました日本ダービー!各ウマ娘、勢いよく飛び出して!最初の直線!先行争いが始まる!

 大きな出遅れはありません!さぁ、最初は誰が行くんだ!?誰が行くんだ!?誰が行くのか!?

 さぁ、行った行った行った行った!12番ブラックサンダーが前に行った!1番のボンボヤージュを抑えて、第1コーナー手前で皐月賞ウマ娘のブラックサンダーが先頭を取りました!

 メルティロイヤル、フリーナイトジュエル、皐月賞で実力を示したウマ娘二人は今回も最後方からのレースを進めていきます!

 1コーナーからこれから2コーナーへ向かう所、やはり大方の予想通りブラックサンダーが集団を引き連れていく形!』

 

 

 レースの序盤、逃げを信条とする僕のような逃げウマ娘がハナを取ることが出来たのなら、来る時までポジションとスタミナを管理する為にペースを落とす。

 そうしなければ、とても2400mという距離を走り切る事は難しいからだ。

 

 後方から続く足音からして、1,2バ身。

 それほど離せていない。しかし、後続が無理に追い抜こうとしない辺りは彼女たちは息を継ぐタイミングを見計っているように見える。

 定石だ。普段のレース、何せ、ここにいる者達はよほどの事が無ければ2400mという距離を試合では踏むことは無い。

 ましてやダービーという大舞台ではレース展開を考えて慎重になるというもの。

 

 

 

 だけど、今回は僕の全てを出し切ると決めた試合だ。

 故に、何もかもを投げ打つ。

 命も、魂も。賭けられるもの全てを差し出すつもりで。

 

 

 

――――そして、往く。

 

 

 

 

『――!?先頭ブラックサンダー、ペースを上げた!?2コーナー手前から加速して後続を引き離していく!!

 その差2バ身から3バ身と開いて、一人旅を決め込もうとでもいうのか!?ブラックサンダー、どうした事か!?これは作戦ミスなのか!?』

 

 

 場内のどよめきが聞こえる。

 実況席も混乱しているのではないかと、そんな事を頭の中で思考する。

 

 

 思考して……消した。

 雑念を振り払い、自らの展開するレースへと入り込む。

 意識を研ぎ澄まし、頭の中を空っぽにしていく。

 

 

 不思議と、視界が狭まっていく感覚があった。

 不思議と、研ぎ澄まされていく感覚があった。

 

 

 

 周りからあらゆる音が消えていく。

 重低音の地鳴りにも似た音が、足音が遠くへかき消えていく。

 観客の声も消えて、無になっていく。

 

 

 

 ただ一つ、己の心臓の音と息遣いと芝を駆ける音だけが心地良く響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




試合最中で極度の集中状態でスポーツに没頭している感覚。ゾーンと呼ばれるのですが、今ブラックサンダーはそのゾーン状態になっています。ここのゾーンはウマ娘のシンデレラグレイで言っていたゾーンとはちょっと違う、能力の解放とは別の状態です。人のゾーンとウマ娘のゾーン……やはりZONEとウマ娘のコラボは必然だった……?

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

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