僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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だいぶ時間経ってしまったんですが、いつぞや日間ランキングに13位と言う順位になる事が出来ました。短編小説以外でこの順位は自分でも初の快挙で、この作品を評価してくださった読者の皆様に今ここで感謝の言葉を。ありがとうございます。


36.身体は女、心は男、姿形が変わっても無くならないものを2文字で述べよ

 

 レース場にいた全ての観客は思った。

 

 あの走りは無謀な作戦だ。

 そのペースで走り切るのは無理に決まっている。

 どうせ直線までは持たないだろう。

 

 

 それは客席だけでなく、レース中の何人かのウマ娘そう思っている。

 

 

 『ダービを逃げて勝つのは難しい』。

 そんな言葉をトレーナーやウマ娘達は知っているからだ。

 

 だが例外が存在するのも知っている。

 かつて、逃げの戦術を打ってこの日本ダービーを制したウマ娘がいたことを。

 

 

 それは、桃色の勝負服に身を包んだ逃げウマ娘。

 風のように走り、塵のような彼女をメジロライアンを含めた後方のウマ娘達は捉える事が出来なかった。

 

 

 このダービーを見守る全てのトレーナー達は思う。

 ブラックサンダーは、あのダービーウマ娘と同じ……アイネスフウジンと同じ戦術でダービーを制するつもりなのか、と。

 

 

「まさか……走り切れる自信があるのか……2400をあのペースで……」

 

「は、ハッタリだ!この短期間でスタミナ不足を克服できる筈がない!!」

 

「全員潰そうっていうのかよ……」

 

 

 皐月賞の時点でブラックサンダーが2000m以上の距離を苦手としているという事が割れているのだから、この日本ダービーではスタミナを意識してスローペースのレース展開に持っていくのだと想像していた。

 

 

 トレーナー達が想像通りなら、スタミナを意識して縦長の間隔にならなければ最後の直線525.9mで上がりの瞬発力勝負だ。先行のウマ娘にもチャンスが来やすい。

 だが実際のレースでブラックサンダーが選んだのはハイペースによる消耗戦だ。

 

「た、たのむぞ!相手のそのペースはブラフなんだから!無理に脚を使わされるなよ!?」

 

「今日でお前が負けたなら、オイラの生活ままならぬ!」

 

 あの殺人ペースに巻き込まれたら最後、追い込みに懸けるトップスピードを維持する体力が無くなってしまう。

 ブラックサンダーは絶対にあのペースは維持できない。だから、担当ウマ娘には前に行かずにじっと堪えていて欲しい。

 

 出走中17名のウマ娘のトレーナー達は不安を隠せなかった。

 そして、不幸な事にその不安は的中するのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックサンダーの突出したペースは他のウマ娘全てを動揺させた。

 

 

 スタミナに不安がある筈では?

 この短期間で克服した?

 2400を走れないという事がブラフ?

 皐月賞の危うげな勝利はこの時の為に?

 

 

 

『あれは、嘘ではない。ブラックサンダーは2400mを走れる!?』

 

 

 疑問は確実に焦りへと繋がっていく。

 あのペースでこれ以上進まれていったら、いかに長い直線だとしても離されたリード差で捲くり切れない。

 焦燥感は身体に作用し、自然とブラックサンダーの姿を視界に納めた他のウマ娘達は無理をしてでもペースを上げて、追撃に入った。

 

 

 800mを通過し、未だ先頭を走るブラックサンダーのペースは緩むことは無い。

 それどころか、先ほどよりも走りが伸びてきているように見える。

 

 

「この……っ!負けるかッ」

 

「ダービーウマ娘は……渡さない!」

 

 

 ギアを一段階上げる。

 自分たちにも意地がある。

 ダービーウマ娘になる為に、日本一の名を手にするために。

 

 

 自らが手にする〝夢〟を推進剤にして黒い稲妻との距離を少しずつ詰めていく。

 それが結果的に脚を使わされているとは知らずに、だ。

 

 

 

『ブラックサンダー、第3コーナーまで依然ハナは譲りません!1000mのタイムはなんと59秒台というハイペース!

 前目につけているボンボヤージュ、グッドルックス、オアシスと3バ身差!後方のフリーナイトジュエルは位置を上げて8番手!メルティロイヤルはその後ろ外目を突いて9番手! 

 縦長の展開になっています!坂を優駿達が駆けあがっていって、間もなく第4コーナーを間もなく通過する所で第4コーナー中間は変わらずブラックサンダーが突っ切っていきます!』

 

 

 

 1800mという距離を走っても、未だにペースを落とすことなくハナを進むブラックサンダー。

 第4コーナーの標識が目に入って、誰もが焦りだす時間帯。

 だが後続にいるウマ娘達の中で冷静な者達もいたのだ。スタミナと後半の追い上げに自信がある差しのウマ娘達だ。

 

 

 このウマ娘達は確証はなかったが、ブラックサンダーが後半の直線までスタミナを維持できない事を見抜いていた。

 トレーナーの指示もあったが、何よりもレースを実際に走っている自分だけの感覚と、己の脚を信じる事にしたのだ。

 

 それまで、じっと中団で我慢。

 ブラックサンダーに釣られてペースを上げた先行三名の後ろで逆転の機会を窺っていた。

 

 

 

 最後の直線、4コーナーを通過してから入る東京レース場の最長直線525mへ。

 この時、スタミナを使わされた先行のウマ娘には追い上げる為の脚が残されていなかった。

 徐々に、徐々にスピードが伸びなくなる。

 

 

「っ、く、そぉ……っ!!」

 

 

 ゴールが、青鹿毛のウマ娘の姿が遠くなる。

 糧に前に進もうとも、もう足に力が残されていない。

 もう少し脚を溜めていられたら、ブラックサンダーの作戦に乗せられなければ。

 

 ブラックサンダーの動きを追っていたウマ娘達のダービーはもう終わったと言ってもいいだろう。

 

 そして、『今だ』と言わんばかりに力尽きて行ったウマ娘達の真横を通り過ぎていくウマ娘達がいる。

 ブラックサンダーを追って潰れてしまったウマ娘達の後ろでずっと我慢していた差しのウマ娘達だ。

 

 

 垂れてきた先行勢を躱した彼女達はブラックサンダーと自分たちとの距離を見て、確信した。

 最後の直線の入りで3バ身もない差ならば、十分に捲くる事は可能だと。

 

 

 ブラックサンダー自身のスピードも伸びていないのも分かった。

 やはりこの距離で走り切る為のスタミナはなかったのだ、あの作戦こそブラフなのだ。

 

 

 後方に位置していたウマ娘達が一斉に前へと進む。

 己の豪脚を駆使して、スタミナを信じて、自慢の末脚を使って。

 

 

 逃げ続けるのも限界に近い稲妻へと迫る。

 

 

 

『残り500mを切った!栄光まで500mを切った!先頭ブラックサンダー僅かに伸びないか!?

 あぁ脚がもう残っていないのか!?フリーナイトジュエル、カノンキンブリー、デルメンタが迫り!大外からは巨体をぶん回してメルティロイヤルが追い上げる!

 やはり、やはりスタミナが足りないかブラックサンダー!後続迫ります!残り400m!3バ身からその差を2バ身!徐々に詰められていく!!』

 

『うわあああ!!!駄目!駄目だって!が、頑張れブラックサンダー!うわあああ!!』

 

 

 もう、だめかもしれない。

 実況も、それを見ていた観客達もテレビ越しに見ている学園の生徒達もそう思っただろう。

 見守るトレーナー達も、残り100mを切る前にはブラックサンダーは力尽きて、自分の担当ウマ娘が前へと抜け出してダービーを制する――――その筈だった。

 

 

 

『――――!?しかし、落ちません!落ちませんブラックサンダー!リードを2バ身と詰められますがそこから差が変わりません!最後に来て、まだ余力を残しているというのか!!』

 

 

 

 

 

 

「余力?そんなもの、あるわけがないだろう」

 

 

 観客席で見守っていたアグネスタキオンは冷ややかに笑うように言った。

 現状、ブラックサンダーが走り切れる最高速度の距離は2200m。そこからは徐々にスピードは落ちていく。

 だがブラックサンダーは異様なまでに集中力を発揮している。精神状態が一線を越えたことで突入するゾーンというやつだろう。

 

 

 このゾーン状態になれば、普段よりも好タイムが出たりスタミナが切れなかったりするが、その状態を加味しても2300mだ。

 それに加えて前半のハイペースな走り方をすれば、多分アグネスタキオンが考えている以上に早く限界は来ている筈。

 それでも、後続との距離を詰めさせない走りが出来ている理由は――――、

 

 

『意地、という奴なのだろうな。彼なりの』

 

「……見つかってしまったか。ゴール付近で待機していなくていいのかねミスターX」

 

『それはグラスワンダー君に任せているよ』

 

「そうかい……だけど、君がそんな根性論を口にするのは少し、意外だったよ。もっと理論派だと思っていたからね」

 

『精神は時に肉体を凌駕する……実際のスポーツでも良くあることだ。

 ここぞという時の勝負でモノを言うのは才能ではなく、それまで積み重ねてきた努力をいかに信じられるかだ。

 そして、勝利を追い求める欲求が強いウマ娘である前に彼女は、元々は陸上選手のスプリンター……そして、男の子だ』

 

 

 黒のマントを揺らして手すりへと手を掛ける。ゴールまで恐らく300mを切った。

 どんなに思いを巡らせても、数十秒も経たないうちにこのレースは終わる。

 栄光を目指して駆け抜ける一瞬の勝負、その佳境というべき場面。

 

 

 身体が限界にきて、それでもなお食い下がることが出来る理由をミスターXは口にした。

 

 

『意地があるのだよ、男の子には』

 

 

 

 

 

 




スクライドォ……(唐突なホワイトアウト)

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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