僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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日本ダービー編ラスト。長かったですね。
新シナリオ、楽しいですね、ステータスやたら盛れるで今まで作れなかったS+とか量産できちゃう。
青汁、青汁を寄こすのです。


39.ダービーの後は、ただ燃え尽きて

 4人のウマ娘達がもつれ込む様にゴール板へ雪崩れ込んだ。

 死力を尽くして脚を使い果たした彼女達はゴールへ辿り着くと一斉に足を止めてその場に倒れこむ。

 倒れた者の中には過呼吸に陥った者もいて、そのレースがいかに過酷なものだったかを物語っていた。

 

 

「はぁ……はぁ…はぁ…」

 

 

 順位がどうなったのか分からない。 

 自分がゴールするのに必死で他のウマ娘などに目も暮れなかった。

 自分が最初にゴールしたと信じてやまない彼女達は息を荒くしながらも順位が確定するまで掲示板を食い入るように見つめている。

 

 

 何秒経ったのだろうか、何分経過したのだろうか。

 身体から流れる汗が勝負服を濡らし、額を何度も拭って見せる。

 

 

「……」

 

 

 心臓の音が大きく脈打つのを感じながら、僕もずっと順位確定の瞬間を静かに待っていた。

 まるで受験発表の当日で自分の番号を探すかのような期待と不安。

 

 

 そして、電光掲示板にゴールしたウマ娘の番号が映し出され、番号の横にはすぐに確定の文字。

 慌てず、僕の番号を上から探して、少しずつ目線を下げて、ようやくその番号を見つける。

 

 

 

 

 

 

 

「4着……」

 

 4着、という確かに映しだされたその数字。

 その番号を見た瞬間、これまで疲れを知らないかのように立っていた僕は膝から崩れ落ちる。

 がくん、と膝カックンでもされたかのような力の失い方で、前へとつんのめった僕は慌てて両の手を地面につけて、四つん這いの状態で堪えた。

 

 

 だが、

 

「……あれ」

 

 身体が動かない、正確には脚が。

 

 

 どこか折れたのなら、痛みがあるはずなのにそれすらも感じない。

 だけど動かそうとしても、脚は生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えていて、それすらも叶わない。

 

「ちくしょう……エネルギーゼロか」

 

 かつて、日本ダービーで驚異の大逃げを繰り広げたアイネスフウジンも、ゴール後はほとんど動くことが出来なかったという。

 限界を超えて、スピードとスタミナと根性を使い切った僕の身体には肉体を動かすエネルギーは一つも残っていなかったという事だ。

 

 

 地面と顔が近いからか、嗅覚にはむせ返りそうな芝の匂いが届く。

 

「…あー、くそ」

 

 疲れすぎた身体に容赦なく襲い掛かる眠気のようなもの。

 意識がまどろんで、どこか遠くに行ってしまいそうな。

 でも、分かる。これは、きっと死ぬようなものじゃない。

 

 

 全身から力が抜けていく。

 瞼からも、空いていた口が閉じて、僕の身体は生命維持に必要な最小限の活動だけを残して機能を停止する。

 

 

「おいッ テメェこの、ブラックサンダー!またテメェに負けたじゃねぇかッ!

 あんなガンガン飛ばして最後まで行くとは思わなかっ――――って、コイツ気絶してんじゃねぇかオイッ、ブラックサンダー!起きろッ!

 担架ッ 担架持ってこい――――って、うおおおっ!?なんだテメェ!イリアステル三皇のリーダーみたいな恰好でホバリング移動してきやがって!!」

 

『失礼。私は彼女のトレーナーだ。早急に彼女を医務室へ運ぶ必要がある。

 どきたまえ、医療班がここに来るまでの時間が惜しい』

 

 意識が消し飛ぶ前に僕が最後に見た視界には汗だくになってこちらに寄って来たメルティロイアルとホバリング移動してターフの中に入り込んできたミスターXの姿だった。 

  

 

 

 

 

 

 

 

『えー、ただいま倒れてしまったブラックサンダーをミスターXトレーナーが自ら駆け寄って、抱えて運んでいきます。

 足が完全に地面から浮いた状態でバックに戻っていきます。他の倒れたウマ娘達の安否や明らかに人外ムーブをかますトレーナーに突っ込まずにはいられませんが我々も実況者です。いかなる事態にも動じずに実況を続けていきたいと思います……芝内さん』

 

 

『はい……』

 

『終わりましたね、日本ダービー……って、芝内さん?めちゃくちゃ泣いてますね』

 

『ええ、私、どんな結果になっても受け入れるつもりでいました。

 ブラックサンダーちゃんが勝っても、負けても、彼女の一生懸命走った姿を否定せずに、実況者として、ファンとして応援するつもりでいました。

 けどね、もう、最後ね、叫びながらさ、追い抜かれても最後まで諦めないで走るあの娘の姿見てたらですね……駄目でした。

 やっぱりですね、推しが一歩届かず負けちゃうっていうのは……やっぱ辛ぇわ』

 

 

『……そりゃぁ、辛いでしょうが。でも、これがトゥインクルシリーズ、日本ダービーというレース。

 競い合えば必ず勝ち負けが付く。

 ですが、勝者の涙も、敗者の涙も、ダービーウマ娘と言う称号にひたむきに走った彼女達の想いも、決して無駄にはなりません。

 事実、今日のレースはブラックサンダーが展開を作ったと言っても過言ではありません。

 皆があの青鹿毛のウマ娘に振り回された。

 誰もがあの漆黒の勝負服がラスト数メートルまでトップになるとは思いもしなかった。

 ウマ娘ブラックサンダー、これから先、シニア勢のウマ娘とも競い合う中でその力を更に開花していくかもしれませんね』

 

『そうですね。だからブラックサンダーちゃん!今日は凄かった!感動した!ゆっくり休んで元気になってください!』

 

『うん、だから芝内さんもちゃんと実況のお仕事してね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は医務室に運び込まれて、30分後に目を覚ました。

 ベッドに横になっていて、両脚には氷嚢が何個も当てられていて、あまりの冷たさに覚醒せざるを得なかったという状況だ。

 

『惜しかった。実に』

 

 ここまで運んでくれたミスターXそう呟いていた。

 仮面の下で、本当に残念がっているように見えた。

 最終直線、ラストの数メートルで後ろの三人のウマ娘に追い抜かれた僕ではあったが、その差は僅差だったらしい。

 1位から3位までハナ差、クビ差、ハナ差で、トップと僕の間は1バ身もなかったという。

 

 

「感謝するよ、ミスターX」

 

 トレーナーである彼に一言礼を言ったが、ミスターXは小さく顔を振って見せた。

 

『私はキミを勝たせることが出来なかったトレーナーだ。

 憎まれる事はあっても、感謝される理由はないよ』

 

 

 そうだとしても、僕のスタミナ不足を補うためにメニューを組んだり、ミホノブルボンとの坂路を走らせるように手配をしてくれた。

 僕を勝たせるための最善の手を尽くしてくれたのだ。僕はウマ娘として、トレーナーである彼を感謝せずにはいられない。

 

 

「2400mという距離はこれで不可能じゃなくなった。まだまだトゥインクルシリーズははじまったばかりだ。

 レースの改善案はいくらでもある。ペース、スピード、駆け引き、メニュー、あらゆる点で伸ばせる点をこのダービーで僕は見出した。

 それらを克服して一夏を越えて、2400を安定して走れるようになれば10月の菊花賞も見えてくる……ふふ、二冠ウマ娘にでもなってみるか」

 

『ブラックサンダー……』

 

「これからも、よろしく頼むよミスターX、いや……トレーナー」

 

『ライブまで時間はある……今はしっかり休養することだ。今日を終えたら、暫くは疲労を抜く事だけを考えよう。

 次のレースも、メニューの事も……その後から決めるんだ』

 

 

 そうだな、と僕が頷いた後、ミスターXは足取りを重そうにしていて……いや、ホバリング移動だから分からないけど、そんな感じがした。

 

 

「おわっちゃったかー……」

 

 

「トレーナーさん……」

 

 

 起こした身体からは嘆息のような、安堵感のようなため息が出た。

 隣の椅子に腰かけたグラスワンダーがこちらを心配そうな目で見ていた。

 心配なんてさせるものじゃないな、と思った僕は言わなければならないと思った。

 僕達の間に隠し事は無し、だ。思っている事があるなら、迷わずに口にする。

 

「はは、そんな顔するなよグラス。別に骨折したわけじゃないし、ちゃんとアイシングと休息を取っていればライブの前には動けるようになるさ」

 

「……」

 

「それよりも4着だよ?日本ダービー4着。1番無理だったけど、僕がクラシックで4番目に速いウマ娘だっていうのは、自慢……出来ないかもしれないけど、誇りには思うよ」

 

 

 喉が詰まるような感覚と、少しだけ声が震えそうになって、ぐっとこらえて、彼女に今できる精一杯の笑みを作って見せる。

 それが、彼女を安心できるほどのレベルに達しているのかは分からないのだが。

 

 

「いやぁ、でも惜しかったなァ。ほんと、ラストのコーナー曲がるまでずっと僕が先頭だった事に気付かなくてさ。

 自分の感覚に任せてペースもクソもない、大逃げを日本ダービーでやるなんて、自分でもどうかしてるなって思ったよ。

 今なら思うんだけどさ、コーナー付近で息を入れたりするタイミングとか、序盤から中盤にかけてのレース展開を作るのは大事だと思ったな……それが出来ていたら――――」

 

 

「……」

 

「それが、出来ていたら……」

 

 それが、出来ていたら。

 それは、競技者であればレースが終わった後に何度でも思うことだった。

 

 

 スタートで。

 序盤で。

 中盤で。

 終盤で。

 

 

 あの場面で。

 あのコーナーで。

 あのタイミングで。

 

 

 もっと、()()していたら。

 もっと、()()出来ていたら。

 

 

 違う結果になっていたんじゃないかな、と。

 

 

 

 ダービーウマ娘として、人々からの喝采を一心に受けて、歴史に名を刻んでいたのは僕だったんじゃないかと。

 

 でも、それはもう終わった事で。

 どうしようもない事で。

 変える事の出来ない事実で。

 

 

 無限に湧いてくるこの気持ちはきっと、悔しさなのだろう。

 

 

 気づけば、僕は膝懸けを思いっきり握り締めていた。

 尋常じゃない力で、そしてその肩は小刻みに震えていて。

 

「出来て、いたら……」

 

「トレーナーさん」

 

 そんな僕を見て、グラスワンダーは言うのだ。

 凛とした花のような美しさをもつ彼女は、しかし、勝負の厳しさを良く知るウマ娘だ。

 僕らの間に、妥協など許されない、ストイックウマ娘であるグラスワンダーから、今の甘ったれた僕の姿を情けないと思うかもしれない。

 

 

『これが勝負の世界です……誰もが通る道…不退転の覚悟をお忘れか』

 

 

 そんな感じの叱咤激励を食らっても仕方がない、そう思っていた。

 

 

 

 

 

「我慢、しなくていいんですよ」

 

 

 予想外だった。

 怒られると思った。

 情けないと言われると思った。

 だけど、それを裏切るくらいに、彼女から放たれた労わる言葉はこの上なく暖かくて、優しくて―――、

 

 

「……っ!」

 

 不意に、僕の視界がぼやけて、視線を慌てて膝へと向けた。 

 同時に、胸の奥から込み上げてくる感情に飲み込まれまいと、必死に顔を伏せたまま言葉を作る。

 

 

「……ちょっとだけ、一人にしてくれないか。僕は………………………………………………すこし、泣く」

 

「はい……」

 

 

 

 その言葉を聞いてグラスワンダーは部屋を出て行った。

 扉の締まる音がした後、たった一人だけの空間になった医療室の中で僕はやがて、泣いた。

 

 

 

 ウマ娘ブラックサンダーの日本ダービーと、アスリートである山々田山能の日本一への夢はこうして終わりを告げたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして日本ダービーから2週間後。

 

 

「それでグラス、ブラックサンダーはあれから元気がないんデース?」

 

「ええ、ダービーが終わってからは何かと上の空で……」

 

 

 

 トレセン学園の登校時間、グラスワンダーとエルコンドルパサーはそんな事を話し合っていた。

 

 

 日本ダービーのライブが終わった後で例の如く高熱が発生して、暫く学園を休んだ後は一切走る事を禁じられている。

 想定した以上に肉体に掛かった負荷が高いためか、2週間経ってもブラックサンダーがターフの上で走る姿を見てはいない。

 しかし、それ以前に今のブラックサンダーからはあまり覇気が感じられないのだ。

 

「ショック、だったんデスかね……やっぱり」

 

「そうかもしれませんが……というよりも、ずっと夢だったダービーで、日本一を競うという夢が彼女の中で果たされてしまったから……」

 

「目標を失ってしまった……というワケですか?」

 

 

 恐らくは、そういう事なのだろう。

 あれからブラックサンダーはどこにいても上の空状態だった。

 

 授業中はいつも窓の外を見ていたり。

 ミスターXやグラスワンダーとの会話はあまり耳に入っていない。

 

 

 アグネスタキオンの実験も生返事一つで体が緑色になる薬品を飲んでしまい、一時期あだ名がグリーンサンダーになってしまった。

 メイショウドトウのドジで彼女が転んでしまったタイミングでブラックサンダーがぶつかってしまい、エアグルーブの管理する花壇を破壊してしまっても、カワカミプリンセスの唐突な正拳突きが誤って腹に当っても、ゴールドシップのわざとらしい跳び蹴りがさく裂しても、ブラックサンダーは何食わぬ顔で、

 

 

『あっ、ダイジョウブッス』

 

 

 と、死んだ魚のような眼でその場を去っていくのだ。

 

 

「仕方のないことかもしれません」

 

 

 グラスワンダーは思う。

 彼の、日本一という舞台で全力を出して戦い、勝つこと。それが夢だった。

 彼がウマ娘になるまでずっと燻ぶらせていた想い……数年分くらいだろうか。

 

 

  

 それが漸く果たされたレースだったのだ。

 レース中の彼はまさに幸福の真っただ中にいたのだろう。

 だが、クラシックの中で日本一を競える日本ダービーにはもう2度と出走できない。

 

 

 彼の夢も果たされた今、それは彼からブラックサンダーの走る理由が無くなってしまったという事にならないだろうか。

 無気力、とまでもいかないがモチベーションが上がり切らない、それが生活に影響が出てしまっている所だろう。

 

 

 それは、かつての怪我で走る意欲を亡くしていたグラスワンダーと同じだ。

 ならば、グラスワンダーが出来る事はただ一つである。

 

 

「今度は私が……私の走る姿で、あの人には闘志を取り戻していただきます」

 

 

 かつてブラックサンダーの走りによって復帰できたように、自分もまた、ブラックサンダーの為に走りたい、そのために今度の復帰戦で勝利を飾る……グラスワンダーはそう意気込んで止まなかった。

 

 

「フムム……エルとの勝負も控えているのデスから、こんな所で足踏みしていては困りマース!!エルも手伝うデース!!」

 

「あら、意外と心配してくれてるんですねエル」

 

「違うデース!簡単に捻っちゃつまらないからデース!」

 

「そうですか、ふふ……」

 

 

 レースは終わった。 

 夢は終わった。

 走る理由が無くなったかもしれない。

 でも、それだけじゃない事を教えてあげなくては。

 

 

 彼に、ブラックサンダーに。

 彼がそうしてくれたように。

 今度は自分が頑張る番だと、そう思っていた時だ。

 

 

 

 

 

「グラス!グラスワンダー!!」

 

 

「ぶ、ブラックサンダーさん?どうしたんですか一体……」

 

 

 目の前に現れたブラックサンダーは一っ走り終えたかのような疲れた様子で大きく息をしている。

 最近は走る事もしなかったのに、走りざるを得ない事態が起きたという事か。

 

 ただ事ではない、そう思い彼に尋ねたのだが。

 

 

「グラス、今から僕のいう事に疑問を持たずに、まず落ち着いて聞いたうえで了承してほしい事があるんだ」

 

「は、はい……?」

 

 その手は真っすぐ伸びてグラスワンダーの両肩を掴む。

 がっちりと掴まれた肩は外側からものすごい圧を掛けられていて、流石のグラスワンダーも身を縮こませる。

 そして、ブラックサンダーの顔が近い。 

 額の汗が見え、吐息が感じられる距離だ。流石のグラスワンダーもいつにない真剣なブラックサンダーの表情を見て息を呑む。

 

 

 やがてブラックサンダーは懇願するような顔で言うのだ。

 

 

「グラスワンダー、お前をこの場で抱かせてほしい」

 

 グラスワンダーも、エルコンドルパサーも、そして周囲のウマ娘達も耳を疑った。

 そして、珍しく教室で居眠りをしていたアグネスデジタルは何のセンサーが働いたか意識を覚醒させ、現場へと急行した。

 

 

 




シリアスじゃ終わらせない。ここから先は基本いつもの日常と同じ感じ。
高校、大学の頃に抱いていた夢、日本一の舞台で競い合うというのが人間である山々田山能の夢。それを主軸にしたお話でした。
皐月賞も勝ったからダービーも勝たせたかったです。でも、勝つこと以外に重要な事があると思い、話を練り直して、彼の想い出にケリをつけるという形に持っていきました。ルドルフが言っていたように、夢は形を変えていく、それがウマ娘の走る理由になるように、ブラックサンダーのレースはまだ終わりません。
さて、激しいレースの後確定で発生する高熱やら大逃げ作戦が生んだ疲労やら不安要素がいっぱいありますが日本ダービーの次は一体なんのレースに走るんでしょうね。


投稿の間隔は開くと思いますが、短めの文章でも楽しんでもらえる話を作り続けていきたいと思っています。


次回、VS抱かせてもらえないグラスちゃん
ひたすら困惑するグラスちゃんをお楽しみに。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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