僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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お ま た せ。
キャンサー杯、ボコボコにされました……ウンスもマルゼンもいないけど、推しのグラスで頑張ります。


4.大反省

『人の身体からウマ娘になる』。

 

 そんな悲運の事故に巻き込まれてしまった僕、元トレーナー・山々田山能ことブラックサンダー。

 

 

 新しく担当になった見た目がイリアステル三皇のホセみたいな、どう見ても登場世界戦を間違えてしまったトレーナーに「今の君は実力不足だ」みたいなことを口にしてきたので、

 珍しく意地になって、「レース勝つからちゃんと見とけよオォン!?」と堂々たる宣戦布告をしてしまった。

 

 

 

 そこからレースに向けての練習が本格的に始まった。

 

 

 元、ウマ娘のトレーナーということもあり、自分自身にどんな練習方法が必要とされているのかを逆算してトレーニングメニューはこなす。

 勿論、トレセン学園に所属する学生としての本文、勉学にも取り組みながらだ。ウマ娘化による体格の変化はあっても、知力の変化は特になかったようなので授業に関しては問題はない。

 

 

「トレーナーさーん、ファイト―!」

 

「ふおおおお!!!」

 

 

 トレーニングエリアでは芝のコースをひたすら走った。

 竹刀を右手に、飲料水を左手にしたグラスワンダーの補助を受けながら僕は死に物狂いで走る。

 

 

「トレーナーさんはあのウマ娘の星を目指すんです」

 

「今昼間なんだけど、そしていつの間にか巨人の星みたいなスポコン漫画が始まってる!」

 

「膝を付くのは許しません」

 

 

 体力を使い切るほどに走りまくった後、芝の上に倒れようとするとグラスは竹刀で僕の膝を叩く。

 僕とグラスの間で約束した事だ。一刻も早くウマ娘の肉体に慣れるために練習を疎かにしないように、練習がダレそうになったら闘魂注入替わりにぶっ叩く。

 

 

 パァンッ(ウマ娘パワー)。

 

 

 竹の音というのは、こんなにも気持ちが良いモノなのだろうか。

 水分を含まない、しなる竹の乾いた音は甲高く、空間に響いていく。

 疲れてしまったら、グラスワンダーがスポーツドリンクの入ったボトルを手渡す、まるでアメとムチのような相互作用が働くため、程よいバランスで練習効率が高い。

 

「なんか目覚めそうだ」

 

 

 痛みなどを超えて、脳内を満たしていく得体の知れない感覚。

 巻き起こるインスピレーション。

 

 

 その時ふとひらめいた!この出来事はブラックサンダーのトレーニングに活かせるかもしれない!

 

 

「これが不退転……!そうか、そうだったのか!

 俺たちは未来永劫、終わる事のない世界で戦い続けるために生まれてきたんだ!」

 

「違うと思いますよ?」

 

 

 ゲッター戦を浴びた戦士達の如く虚無感に囚われながらも、僕は来るべきトゥインクルシリーズへ向けて準備を進めていった。

 選抜レースでの手応えを忘れていない僕は、『次もあの流れに持っていけばまだ勝てるのではないか』と、そんな淡い期待を抱いていた。

 

 

 しかし、期待とは裏腹に僕はトゥインクルシリーズを走る上で、想像以上の高い壁にぶち当たることになる。

 

 

 

――――数か月後。

 

 

 

『さぁレースは終盤、第四コーナーを回って最後の直線!オープン戦から勝ちを築き上げてきた子も、負けを抱き続けてきた子も、誰もが凌ぎを削る第3戦だ!

 ラスト200m、戦闘集団を掻き分けて突き進んでいこうとする黒い影があるぞ!?誰だ誰だ誰だ!

 ブラックサンダーだ!黒い稲妻、ブラックサンダーだ!

 バ群暗雲を切り裂いて、今日こそ()()()()()で見せつけてくれた脅威の末脚をもう一度見せつける事が出来るのか!』

 

 

 アナウンサーの実況に熱が入る。

 観客たちのボルテージも上がっていく。

 

 

『あぁっとしかし!ブラックサンダー伸びない!抜け出せない!他の娘とのポジション争いで体力を使い果たしてしまったか!?

 脚が前に出ていないぞブラックサンダー!そのまま下がる、まだまだ下がっていく!5着、6着、他の娘がどんどんと追い抜いていく――――』

 

 

 どたっ。

 

 

 ゴールへとたどり着いた瞬間、僕は力尽きたのかのようにオールカマーで奇跡の大逃げを見せたツインターボ師匠の如く前のめりで倒れこんだ。

 僕はレースになると、転ぶことが多いウマ娘らしい。なんか一種の伝統芸となりつつあった。

 

 

 レース結果、16人中8着。

 掲示板すら入れない数字。

 お世辞に良い数字とは言えない。

 

 

「ふぅん、どうやら……他のウマ娘にブロックされてしまったようだねェ。パワーが足りない」

 

「アグネスタキオン……その助言は、出来ればレース始まる前に言ってほしいんだが」

 

 たづなさんと言い、アグネスタキオンと言い、どうしてウマ娘に重要なステータスのアドバイスをレース後に行うのか。

 

「トレーナさん……大丈夫ですか?」

 

「心配するなグラス。僕ならこの通り」

 

 ブラックサンダーのトゥインクルシリーズは辛酸を舐めさせられる状況にあった。

 

 

 最初こそ、デビュー戦を選抜レースと同じ戦法で第四コーナーカーブに掛けて抜けだし、他の集団を横からぶち抜いていく戦法で1位を手にした。

 文句なしの、順調な滑り出しだった。『アレ、今の僕ならG1レースいけんじゃね?』って思いあがってしまうほど、あまりの出来に嬉しくて小躍りしそうな勢いだった。

 

 

 それがまさしくフラグだったみたいで、『お前、押すなよ!押すなよ!』ってくらいの前振りが如くトゥインクルシリーズは僕に牙を剝いてきた。

 

 

 ブラックサンダーのレースは先頭の集団からは少し離れた所から終盤で追い上げて抜き去るのが常だったが、2戦目のオープン戦から先頭のウマ娘が外側から抜け出そうとする僕のコースを上手い事塞いでくるようになった。2戦目は終盤までバ群から抜け出せず、漸く抜け出せたときには時既に遅しと4着。

 

 

 対策を取られることは見えていたが、こうも対応が早いのは予想外。

 だが、その程度止まる僕ではない。

 

 

 押してもだめなら引いてみな、という言葉があるように外が駄目なら内で勝負。

 コースを塞ぐために外に移動したウマ娘達の間に出来た小さな隙間を縫うように抜け出す。

 

 

 大丈夫。

 今の僕はウマ娘の肉体。

 人の時とは違い、そのパワーは数倍だ。

 ウマ娘は人と同じ体格、骨格をしているにも関わらず全速力時は時速60kmで車並の走行が可能。

 アグネスタキオン曰く、神秘に包まれている。

 

 

 人間がウマ娘には力で叶わないと証明されているならば、今の僕は他のウマ娘達と少なくとも同等だ。

 

 

「オラァ!チンタラ走ってんじゃねェボンクラぁ!」

 

「ごふっ!?」

 

 

 しかし、現実というのはそう簡単に上手くいくものではない。

 

 

 どうやら僕は他のウマ娘達に比べてパワーというのが低いらしい。

 そのレースで競り合った相手があの選抜レース依頼のゴリラウマ娘だったというのもあっただろうが、他の子と内側のコース争いは悉く弾き飛ばされ、ゴールする頃には身体中ぼろ雑巾のようになり、体力を失った状態で着順など上げる為の脚も残っておらず、掲示板にすら残れない。

 

 

 どんなに足掻こうとも、どんなに前に進もうとも、全てが遮られ、無駄に終わっていく。

 

 

「トレーナーさん……」

 

「大丈夫だグラス。まだ慌てるような時間じゃない……多分」

 

 

 

 そしてレースは続いていく。

 2週間後のオープン第4戦、その日の僕は終始後方のままレースを終え、遂に着順を二桁までに落とす事となった。

 

 

 

 

 

 

 

『君の力なんて、その程度のものなんだよブラックサンダー君』

 

 

 レース後、日も傾きかけてきたトレーナールーム。

 

 

『無様だ』

 

 

 巨大なオフィスチェアに腰かけた黒ずくめの男、自称トレーナーであるミスターXは僕とグラスを前にして、そう言い切った。

 

 

『既にオープン戦を4戦終え、戦績はデビューの一勝を除いて全敗、しかも最低順位は15人中14位だ。

 お世辞でも、これから輝きを見せるスターウマ娘の卵とは言えない戦績だ。

 君がいかにあの選抜レースとデビュー戦で運が良くて勝利することが出来たか、よく分かっただろう?』

 

 

 辛辣 of 辛辣。

 辛口 is 辛口。

 

 

 この手厳しさはまるで、歳を食った上司が新社会人をいびる構図によく似ている。

 既にトレセン学園の忠実なる奴隷と化している僕は既に耐久値をカンストした壁モンスターみたいなものなのであまり効かないが。

 

 

『これ以上、為れもしない理想など捨てたまえ。

 君には不必要で、不釣り合いなものだ。

 君の今やろうとしている努力は無駄なものだ。

 このまま戦い続ければ、トゥインクルシリーズの序盤で荷物を纏めてトレセン学園から去っていく平凡以下のウマ娘と成り果てるのも時間の問題だよ』

 

 

 うーん、新人トレーナーやデビューしたてのウマ娘が聞いたら卒倒して泣き出してしまいそうな言葉だ。

 桐生院辺りなら、泣きながらトレーナー白書で殴りかかってくるかもしれない……いや、アイツは一人で公園のシーソーで遊べる図太い精神力を持った奴だ。

 この程度の文句ならば、耐えてくれるだろう。

 

 

 しかし、誰もがそんな鋼メンタルを持った社会人のハズが無い。

 少なくとも、僕の隣人はそうではなかったようだ。

 

 

「トレーナーさんにそれ以上の侮蔑は……許しません」

 

 怒りに手を震わせたグラスワンダーが刃を研ぎ澄ませたかのような鋭い眼つきでミスターXを睨んでいた。

 

 

『事実だ。

 人の身でありながらウマ娘の身体を手にし、あまつさえその力を過信し、自分は特別な存在だと、未来を切り開く主人公だと勘違いしている。

 自分の力と、この状況に酔っているに過ぎないのだよ彼は』

 

 

 メタルギアならば、〝殺戮をを楽しんでるんだよ、貴様は!〟とリキッドスネークが言うセリフとよく似ている。

 しかし、グラスワンダーは何故僕のレースの失態を色々と言われているのに対してミスターXに怒っているのだろうか。

 冷静沈着でおっとりとした性格の彼女らしくない。

 

 

『君も君だグラスワンダー。

 ブラックサンダーの走りを間近で見ている君ならば、彼の走りが如何に無意味で己の手で勝利を遠ざけているという事を理解できているだろうに。

 真実を知りながら、何故をそれを彼に教えようとしない?

 敢えてそれをしないというのならば、この先、彼は更に己を傷つけ、敗北を重ねていく……君の前から消えていくことも考えられる。

 それとも、レースから遠ざかった怪物・グラスワンダーはそんな事すらも分からない程に衰えてしまったのか?』 

 

「……っ!!」

 

「止めろ、ミスターX」

 

 

 それ以上の暴言を僕は見逃す事は出来なかった。

 レースで責を問われるのは僕なのに、隣のグラスが責められることを担当トレーナーである僕は良しとしない。

 

 

「レースで負けたのは僕だ。

 アンタの言う通り、自分の力を過信したのも事実。

 僕なら、きっと、そんな甘い気持ちでレースに臨んでいたのも事実。

 責められる非が僕にあるのは認める。

 罵倒だろうが批難だろうが受け入れて見せよう……けど、僕の事を庇ってくれたグラスワンダーを、彼女を乏しめる事は許さない」

 

 

『強がるのはいいだろう。だが、現状をどうする?

 以前渡したレース予定表、滞りなく進めば今年の年末には君は初のG1レース、〝朝日杯〟への出走があるのだよ。

 今の君の成績ではまともに出走権利すら勝ち取ることも出来ないだろうがね』

 

 朝日杯。

 それは、ミスターXが予定しているブラックサンダーの出走レースプランで、僕が最初に走ることになるG1レース。

 グラスワンダーも出走したG1レースだ。

 だが、今の僕にはそのレースを出走する為の実力が無いのは分かり切っている。

 

 

 

 一息をついて、ミスターXはトレーナールームから立ち去ろうとすると、

 

『……私の最初に言っていた言葉を、もう一度思い出せ、ブラックサンダー。

 そして、()()()()()()()()()()など、考えるな』

 

 そう言い残して、ミスターXはいつものようにホバリング移動しながらトレーナールームを後にしていった。

 もはや彼が人間かサイボーグなのかは、僕たちの間ではもう突っ込むことを放棄し、日常風景と化している事である。

 

 

 




ブラックサンダーの基礎ステの秘密。
選抜レース段階だとパワーがGしかない。


ゴリラウマ娘の基礎ステの秘密。
実は選抜レース段階でパワーがD+ある。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

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  • サトノダイヤモンド(ロリ

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