「驚愕ッッ!!困惑ッッ!!これは一体、どういうことなのだぁ~~~!?」
全国から有望なウマ娘達が集まるトレセン学園、その学園内にて最高の決定力を有する理事長こと秋川やよいは、自身で理事長室で素っ頓狂な声をあげていた。
生徒達や職員達が昼休憩に入る時間帯だが、自分はまだ仕事があったので理事長室で資料に目を通していたのである。
海外で発明された画期的なトレーニング器材など、学園を盛り上げるイベントの計画の立案など、必要なら自身のポケットマネーでどれくらい賄えるかなど、だ。
そんなときだった。学園の全体放送で、ゴールドシップと自分の声が聞こえてきたのは。
「温泉旅行券!?しかも、今の声は……ゴールドシップと私!?」
自分の声が放送から聞こえて来たが、当の秋山理事長はここにいる。
己のドッペルゲンガーか生体模写した未知の生命体か、変声機能が付いた蝶ネクタイを持つ棒少年探偵出ない限り、自分の声が聞こえてくることは無いはずだ。
「し、失礼します!」
直後、理事長室の扉が開け放たれる。
慌てふためいた声を出しながら入り込んできたのは緑を基調としたスーツに身を包んだ女性だ。
トレセン学園理事長秘書である駿川たづなである。
「り、理事長!理事長~!あ、あの!先ほどの放送の件でお話が~!!」
「た、たづな!?ま、待たれよ!待たれよたづな!ご、誤解ッ!!
今の放送は私ではない!いや、放送の声はたしかに私であるのだが!実際には私ではないのだ!何を言っているのか自分でも理解できてないのだが!!」
天上天下、唯我独尊、奇行上等ウマ娘ゴールドシップが言い放った一言は学園中のウマ娘だけでなく理事長達に影響を与えていた。
そして、その影響はトレセン学園生徒会にも―――――。
「ご、ゴルシ……おのれ、おのれぇ!」
エアグルーヴは整った顔の眉間に皺を寄せながら、自身が執務する生徒会室の机を強く叩く。
一年を通して、何もしないという事がない事で有名なウマ娘ゴールドシップの行動には生徒会室の副会長であるエアグルーヴの悩みの一つだ。
「ありもしない温泉旅行券の存在をチラつかせて生徒達を煽るなど……今回ばかりは反省文だけでは済まされんぞッッ」
「……それで?どうする副会長。アタシらは―――生徒会はもう動くのか?」
隣のソファーに座っていた少女は口に咥えていた枝を揺らす。
鷹のように鋭い眼つき、立ち上がり見せつけるその背中は静かに強者としての姿を感じさせる。
シャドーロールの怪物、ナリタブライアンはただ静かにこちらの判断を仰いでいた。
「今すぐに、という必要はないぞ。エアグルーヴ、ブライアン」
「会長!?」
しかし、女帝と怪物の見据える先、生徒会の机で手を組んでいるウマ娘、皇帝シンボリルドルフは悠然と二人のウマ娘に言い放つ。
どうしたことか、いつもなら学園の規律を守るべく行動する生徒会の核となる生徒会長が、そのような事を言うとは思わなかったからだ。
「それは、ゴールドシップの蛮行をこのまま見過ごせという意味でしょうか……」
「慎重になる必要がある、という判断だよ。エアグルーヴ……既に事態は大きな波となって学園中を動かしている。
混迷極まりない暴走状態だ。一種の祭り、のようなものなのだよ……傍からそれを我々が強引に止めたとして、返ってくるのは大きな落胆とぶつけようのない熱を抱いたまま意気消沈とする生徒達だけだ」
それに、とシンボリルドルフは続ける。
「追跡対象となっているのは次の宝塚記念で引退を決めているミホノブルボンとそのレースに出走予定のブラックサンダーだ。
ブラックサンダーがミホノブルボンを追跡する形で、そこにゴールドシップが横やりを入れたと考えるのが普通だろう。……何か事情があるのかもしれない」
恐らく、事情と言うのはミホノブルボンの引退とライスシャワーの事についてなのはシンボリルドルフは推測する。
以前からブラックサンダーはミホノブルボンについて情報を知っていないかと、よく聞きに来ていたのである。
この鬼ごっこには、何かあるのだなと、そう思うようになった。
「我々は最悪の事態に備え、怪我人が出ないような配慮を取ろう。無論、その時点でこの祭りは中止だ。
理事長室とも学園関係者とも連絡を取り合う必要がある」
「しかし会長、
「ふむ。エアグルーヴ、これはなんだと思う」
そう言ってシンボリルドルフは手に持っていた二枚の紙をエアグルーヴとナリタブライアンに見せつけた。
ぴらぴらと揺れるカラフルな用紙には『温泉旅行券』の文字がでかでかと記載されている。
「な!?こ、これは温泉旅行のペアチケット!?」
「ルドルフ、本物なのか……それは」
「ああ、紛い物ではない本物の温泉旅行券だよブライアン」
驚愕するエアグルーヴと小さく鼻を鳴らすナリタブライアンは動揺を隠しきれなかった。
なにせ、商店街の福引で手に入る激レア商品の温泉チケットの本物が今目の前にあるのだから。
「そしてこの温泉旅行券の提供者は件のゴールドシップ本人だということだ」
「!?」
「!?」
その時エアグルーヴ、ナリタブライアンに電流走る。
あり得ない。あのゴールドシップが、このような催しに対して自ら景品を用意するなど……ましてや、それが温泉旅行券となれば更に疑わしいものである。
「ふむ。まさしく疑心暗鬼……と言ったところだろうか。
そうなるのも無理はない、だが商工会にも確認済みだ。なんだったら商工会には当時ゴールドシップが景品を取得した際の記念写真があるらしい。なんで撮影したかは分からないが」
「し、しかもヤツの私物なのですか!?クッ……!ますます理解できない、謎が深まるばかりだ……」
「不羈奔放。彼女はこの学園では何ものにも拘束されず思い通りに動くウマ娘だ。
彼女の突発的な行動は我々の予想などには到底納まるとは考えない方がいいかもしれない……それにしても――――」
驚いたものだ、と。
シンボリルドルフは手にした温泉旅行券を見つめて、数刻前に直接ゴールドシップから手渡された場面を思い出していた。
彼女は、ゴールドシップは校内放送の直後に生徒会室に向かおうとしていた自分の前に颯爽と現れてチケットを取り出すと。
『生徒会長!いい所にいたぜッ 今の放送聞いてただろッ!?熱い祭りが始まるからよ、ウマいこと生徒会の奴らに説明してやってくんねーか!?』
台風のようなウマ娘だと理解してはいたが、流石の皇帝もこの動きは読めなかった。
本来なら、全生徒に強制参加を促し、午後の授業すらも破綻させるゴールドシップの今回の行動は厳罰に処すべきものである。
だが、シンボリルドルフがそうしなかったのはゴールドシップの次のセリフがあったからだ。
『もしかしたらよ、ミホノブルボンの引退の件何とか出来るかも知れねぇぜ。ライスシャワーの事もな』
生徒会長として、全生徒の諸事情を把握することは難しいが、つい最近発表されたミホノブルボンの引退とライスシャワーの件は学園内では大きな話題である。知らないわけがない。しかし、知っていたとしても、一個人の進退に口を挟む猶予が無いことをシンボリルドルフは以前ミホノブルボンと対談した時に分かってしまっていた。
どうすることも出来ない。
全てのウマ娘の幸福にするという自らの理想が幻なのではないかと心に影を残すシンボリルドルフに告げられるゴールドシップの言葉は彼女に一つ問うた。
――――キミが、その問題を解決するのか、と。
するとゴールドシップはへへ、と笑い、言うのである。
『アタシじゃねぇ、ブラックサンダーがやるってよ。アタシはその手伝いをするだけだぜ。マグロ漁船のソナーのようにな!』
ブラックサンダーが。と、ゴールドシップはそう口にしたのだ。
山々田山能というトレーナーがウマ娘に変身を遂げるという事件の過程で誕生したウマ娘。
今やクラシック戦線でもシニアの中でも知らぬ者は居ない、黒い稲妻・ブラックサンダー。
その彼に、いや、今は彼に、あのゴールドシップが力を貸す。
そして、それがミホノブルボンとライスシャワーの件を解決する可能性がある、と。
シンボリルドルフは思った。
ブラックサンダーには他者を動かすような不思議な力があるのではないかと。
実際にグラスワンダー復活の為にトゥインクルシリーズへと参戦したブラックサンダーの走りはグラスワンダーに走る闘志を取り戻させるだけでなく、多くの人々を魅了し始めている。
そんな彼女が、ミホノブルボンとライスシャワーの件を解決しようと動いている。
自分でも想像できない、予想を超える事を成そうとしているブラックサンダーに皇帝は期待せずにはいられなかった。
ウマ娘の幸福へと至る道が、そこにはあるかもしれないから。
――――ブラックサンダーに賭けてみよう。
一人のウマ娘が持つ可能性、シンボリルドルフはそれに託すことにしたのだ。
ゴールドシップは嵐のように現れてはチケットだけを渡し、またも嵐のようにその場を離れていったのである。
「まぁ、それはそれとして……流石に全校生徒を巻き込み、学生の本文である学業を疎かにする催しを白昼堂々と行うのは些か無理をし過ぎだな、ゴールドシップ。
この騒動が収まりがつき次第にゴールドシップを捕獲、今回の騒動に対しての処分を受けてもらう事にしよう。理事長も大変ご迷惑を掛けられてることだしな」
ゴールドシップの発案したミホノブルボンを捕まえる為に学園全体のウマ娘達を巻き込んだ鬼ごっこ。
そこにブラックサンダーというウマ娘を同時に捕獲すれば、限定ハチミツドリンクと温泉旅行券が付いてくるという。
温泉旅行券とは、年始のおみくじでしか手にすることのできない超限定商品。
大抵はペアチケットとなるために、ウマ娘は仲の良い友人と行くわけだが、一部の猛者は違う。
その猛者たちが温泉旅行券を使う相手は親しい間柄の友人ではなく自身を導いてくれた担当トレーナーなのだ。
時には泣き、笑い、トゥインクルシリーズを駆け抜けてきたパートナーである担当トレーナーをここぞとばかりに労わってあげたい。
温泉旅行券は三女神さまから与えてくださったウマ娘とトレーナーの最大の絆の証だという者もいるくらいだ。
そんな限定商品が目の前にぶら下がっていたら、手に入れたくなるというのがウマ娘の本能というものだ。
それこそ、他のウマ娘を踏み台にしてでも、だ。
「この騒ぎ、どうやら近いな」
「はい、生徒会室の窓からでも確認できますが……どうやら捕獲対象のブラックサンダーだけのようです」
「追いかけているウマ娘は?」
「10人ほどが纏まっていますが、集団の先頭を走っているのはサクラバクシンオーとナリタトップロードです!」
夏休みで北海道行ってきました。ビッグレッドファームさんやヴェルサイユリゾートファームなど、引退した競走馬たちと巡り合えて、癒されてきました。
ゴルシは厩舎の奥に消えても人が集まってきたらちゃんと定期的にカメラ目線で顔を出すなど、やっぱり知能の高さを見せてくれましたね。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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