僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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担当ウマ娘とのリアルファイト、その記念すべき第一回目となります。
もう夏も終わるから、11月までには宝塚終わらせたいところ。
メイドインアビス見てたらミスターXがボンボルド卿に見えて来た。
こっちのイメージもありだと考え始めた今日この頃。


49.グラスワンダー謀反の巻

 

 これはまだ、山々田山能がウマ娘になる前のお話。

 

 

 1月の寒空の下、新年を迎え賑わいを見せる商店街をグラスワンダーは歩いていた。

 その隣には初詣に行っていた自身のトレーナーの姿もあった。

 トレーナーは朝から終始眠そうな顔をしていて、隙あらば欠伸をしていた。どうやら、年越しでゲーム三昧に勤しんでいたようだ。

 

 

 グラスワンダーのクラシックロードは前途多難に満ち溢れていた。

 骨折で春シーズンを棒に振り、続く復帰戦のレースで凡走を繰り返し、世間からは「早熟」だの、「終わった」だの、自分の意志とは真逆の世間の評価を浴びせられることもあり、屈辱の日々を過ごしていた。

 

 

 しかし、年末のグランプリレースである『有馬記念』でグラスワンダーは堂々一位になり復活を果たした。

 その時はトレーナーと勝利の喜びを分かち合い、共に感極まって泣いてしまった程だ。

 そんな復活劇から約一週間、これから新しい年を迎え、トゥインクルシリーズでも歴代の強者が集うシニアクラスへと突入するに従って、願掛けと英気を養いに来たのである。

 

 

「あれは……福引、ですか…?」

 

「そうみたいだな」

 

「これが―――」

 

 飾られた豪華な垂れ幕の下では机に置かれた赤色の抽選器を景気よく回していく一般人の姿が見られる。

 どうやら商店街で買い物の際に貰える抽選チケットを渡せば、あの福引にチャレンジできるようだ。

 

「なんだグラァス、スゲー回したそうな目で見つめてるけど。日本じゃそんなに珍しいものなのか」

 

「あ、はい。アメリカとか、海外全般の福引は基本的にスクラッチとかみたいな感じなんですよ。 

 買い物したレシートにナンバーが書いてあって、後日お店に当選ナンバーが書いてあるクジみたいですね」

 

「ほんへぇ」

 

「あとは、プライズホイールっていうルーレット方式などでしょうか。

 あのように回すタイプだとラッフルドラムが一番近いですね。やはりこの福引も日本の伝統的文化……」

 

「へぇ、海外の福引って無数のボールが入った透明な箱の中に美女が手を入れてボールに書かれた番号を揃えていくタイプじゃないのか。億万長者になるやつ」

 

 

 それは海外の宝くじでは?

 

 

 年始から話題にしては欲に塗れているな、と思うグラスワンダーは自身の財布を開く年始の買い物で手に入れていた抽選券を取り出しては、スタッフへと手渡した。

 

 

「お、挑戦するのかグラス?」

 

 物珍しそうにトレーナーが腕を組んで見せる一方で、グラスワンダーは視線をある一点に向ける。その後笑顔で言うのだ。

 

「ええ、今年最初の運試しです♪」

 

 

 結果は4等、つまりはハズレ賞だった。

 グラスワンダーのやる気が下がった。

 

 

「……」

 

 ハズレの景品であるティッシュを渡されたグラスワンダーは無言で受け取ると新品のティッシュにじーっと、空虚な視線を浴びせ続けていた。

 ふと、福引における景品のラインナップを見る。ティッシュより上の景品は3等にんじん、2等にんじん山盛、1等特上にんじんハンバーグ。

 

 

 

 特賞、温泉旅行券。

 

 

 

「運試し、運試しですから……」

 

 別に特賞を狙っていた訳ではない。強く望んでいた訳ではない。

 しかし、平常心を装いながら、新年のラッキーに巡り合えるのではないかと期待していたのもまた事実。

 

 

 グラスワンダーは己を恥じた。

 たかだか紙切れに一喜一憂し、あまつさえ気を落としてしまうなど。

 これでは自身の大和撫子を志す精神に相反するし、それどころかこれから目指す高い壁の向こう側、そびえたつ山の頂に立つことなど、遠い事のように思える。

 

 

 平常心、平常心を取り戻せグラスワンダー、そう確率、これは確率だ。そう思うようにしよう。そう思った時だ。

 

 

「グラス、実はもう一枚あるんだ」

 

 

 隣のトレーナーが差し出してきたのは福引の抽選券だった。

 所々折り目がついていて、彼がレシート類やそういった用紙を乱雑に扱っているのが容易に理解できた。

 しかし、それよりも驚きの感情の方がグラスワンダーにとっては大きくて、

 

 

「え、あ、あの……トレーナーさん、どうして……」

 

 いや、とトレーナーは頬を搔きながら、

 

「僕だと福引の開催期間なんて忘れて、終わっちゃうかもしれないからさ。

 ただの紙切れにするくらいなら、ここでグラスに使ってもらいたいと思って」

 

「いいんですか?トレーナーさんがご自身で引かなくても……また、残念賞を頂くかもしれませんよ?」

 

「それでもグラスなら、次は良いのが引けるかなって」

 

 なんという、信頼に満ちた目をするのだろうか。

 終生の友を得る、という黒田官兵衛が前田慶次に抱いた感情はこのようなものなのだろうか。

 彼の、トレーナーの言葉はグラスワンダーに勇気を与え、前に進ませてくれる。

 故に、自身も自身も彼の言葉に全幅の信頼を寄せている。

 彼は、道を進む上での大切な道標。

 

 

 だけど、それだけじゃない。

 グラスワンダーにとってトレーナーはただの導き手に非ず。

 その意味は胸に抱いた感情だけが知っている。

 彼の暖かさが、優しさが、厳しさが、幾度となくグラスワンダーを救ってきたことがその証明。

 

 

「ならば、共に」

 

「僕も?」

 

 

 決意を固めたグラスワンダーは抽選権を渡し、再び戦場へ。

 しかし、一人に非ず、共に戦う事を請い、彼へと手を伸ばす。

 

 

「ええ、去年と同じように、今年もあなたと……トレーナーさんと一緒にたくさんの事を乗り越えていきたいな、と」

 

「ふ、ふふ……そうだな。僕たちは共に、心に不退転を掲げる同士だから。やるか」

 

「はい!」

 

 二人して抽選器の前に立つと、ただならぬ雰囲気を纏うグラスワンダーとトレーナーの気に充てられた周囲が数歩後ずさる。

 それはまさしく覇気。今のグラスワンダーとトレーナーなら、海軍中将の一部は気絶させることが出来るに違いない。

 

 

「参ります」

 

 

 抽選器を回すレバーの取っては小さく、グラスワンダーの手一つで覆われてしまうくらいの小ささ。

 トレーナーはためらわず、恐れず、グラスワンダーの手に自らの手を重ねて見せる。

 

 

 乾燥しているのか、少しだけカサカサとした感触が伝わる。でも構わない。

 重ねた手と手だけが互いの熱を伝え合う。心は重なっている、そんな気がした。

 

 

――――精神一到何事かならざらん

 

 

 抽選器が周り、胴内の玉と壁が打ち合う音が響き渡る。

 ゆっくりと、互いの手に込められた力は常に一定で、しかし確かな想いを込めて、胴は回る。

 

 

 

 回って、回って、排出口が頂点を迎え降り始めた時、勢いよく一粒の球が転がり出た。

 

 

「あー、残念賞~!ごめんね、はい、コレ景品のティッシュね~。ハイ、次の人どうぞー!」

 

 

 グラスワンダーのやる気が下がった。

 その後何度か機会があればグラスワンダーは福引をしていたが温泉旅行券は、結局手に入らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃき、と金属の鎖が音を立てて部屋に響き渡る。

 

「グラス……これは一体、どういうことだ」

 

「どういうこと、と言いますと」

 

 右腕に嵌められた手錠は僕を離さず、拘束するという役目を充分に果たしていた。

 この手錠は僕がミホノブルボンを捕まえるために用意した特別な手錠、アグネスタキオン制の対ウマ娘捕獲用の手錠だ。

 

 

 どこまで検証したかは定かではないが少なくともゾウが乗っても壊れないらしく、そんな頑強な捕獲道具であればウマ娘の力などでは破壊出来ない事ぐらいは分かっている。

 

 

 問題は、何故それをグラスワンダーが持っていて、あまつさえ僕を捕えようとしているのか。それだけが僕には分からなかった。

 

「今はのほほんとしている場合じゃない。ミホノブルボンはこの間にもどんどん遠くへ行ってしまうし、下手をすると昼休みから学園を早退する可能性だってある。引退レースが近いからその調整と理由を作って学園に戻らないことだって出来るんだ。今日くらいなんだ、グラス!ミホノブルボンを説得できるのは……ライスシャワーの為にも――――」

 

 

 言葉を紡ごうとした瞬間、強烈に僕の身体が前へと引っ張られる。

 手錠を掛けられた右手をグラスワンダーが引いたのだ。

 

「なっ!?ちょ!待てグラ―――」

 

 強靭な力を前に僕は踏みとどまろうと後ろの方向へ体重を掛けようとしたが不意に手ごたえが無くなるのを感じた。

 その瞬間、グラスワンダーが前に踏み込んでは右肩を僕の正面に構えて、身を屈めて、

 

「破ッッッ!」

 

「がふっ!?」

 

 

 胸部に、衝撃。

 ウマ娘の力で行われるグラスワンダー渾身の当身。

 

 

 その衝撃は凄まじく、まるで岩にぶち当たったかのようなもので、成す術もなく僕の身体は後方へ飛び、トレーナー室の壁際へと押し込まれる。

 151cmの小柄な体格のグラスワンダーに対して僕は一切抗う事が出来なかった。

 身体の力の流れを利用されただけではない、純粋な力勝負にも負けていたのだ。

 

 

「大人しくしていただけますか?」

 

 僕の背中に壁が当たると、即座に空いている左手をグラスワンダーの右手が抑える。

両の手を壁に押し付け、完全に僕の動きは封じられてしまった。

 

 

「先ほど、トレーナーさんは言いました。ミホノブルボンさんの為だと、ライスシャワーさんの為だと。

 ですが、この程度の拘束も抜けられない実力しかないあなたに何が出来るというのでしょうか」

 

 碧の瞳は真っすぐに僕だけを見つめ、僕の動きを封じる手からは一部の油断も隙もなく。

 彼女から放たれる殺気はレースを走っていた現役よりも更に研ぎ澄まされているような気がした。

 まるでそれは、喉元に刃を当てられているかのような、蛇に睨まれた蛙の気分だった。

 

 

「ごふっ……えふっ、えふっ、うぅ……」

 

「それに、体力も殆ど残っていないでしょう。そんな状態で、あの二冠ウマ娘であるミホノブルボンさんを捉えるなど、今のあなたでは到底無理な事」

 

 だから、とグラスワンダーが一息。

 

「この私が、往きましょう」

 

「!?」

 

 堂々と、そして粛々とした口調でグラスワンダーは言った。

 胸に当身された衝撃で息を整える間もない僕に、聞こえるように耳元で言ったのだ。

 

「この私、グラスワンダーがミホノブルボンさんの首級(みしるし)をトレーナーさんに捧げます」

 

「さ、捧げるって何を!?首級って言ったよね!?それって生首のことだよね!?物騒すぎるぞグラスワンダー!!」

 

 脳内TSUSIMA。

 鎌倉武士がウマ娘化した少女、その異名に偽りなし。

 今の彼女なら単騎で薙刀を振り回して暴れ回るトレセン学園の生徒を軽く蹴散らしながら、ミホノブルボンを仕留める事も可能だろう。

 

 

「この程度の拘束を振りほどけぬ者に、戦う資格などあり得ませぬ。春先からのトレーニングを重ね、復調してきた私ならば、問題はありませんよ。だからここは大人しく私の吉報をお待ちになっていてください」

 

 

 不屈を体現したウマ娘、グラスワンダーが僕を捉える力は相当なものだった。

 僕はおろか、並のウマ娘でもこの腕力に抗えるものは多くは無い。

 壁を背に、両の腕を抑えられた僕自身の無力さを嫌と言うほど教えてくる。

 

 

 

 待つのは、得意だ。

 トレーナーだったから、ウマ娘をレースに送り出して、勝利して戻ってくるのをひたすら待つのが普通だったから。

 今回もそうだ。グラスワンダーの方が、疲弊している僕の代わりに十分な戦果を出してくれる……それでいいじゃないか。

 

 

 グラスワンダーも乗り気だ。

 競う相手が二冠ウマ娘となれば、相手にとって不足ナシだろう。

 強者が強者を狙い、競う、レースと同じ弱肉強食の世界だ。僕にはそれが今出来ない、そういう仕方ない状況なんだ。

 

 

 

 

 だから僕は、何もかもグラスに任せ、ミホノブルボンの捕獲の報をこのトレーナー室で待とう――――そう、思ったのだ。

 

 

 

 思ったけど、それは駄目だと、そう思った。

 

 

 

「それは、出来ない」

 

「!?」

 

 否定の言葉にグラスワンダーが顔をしかめた。

 僕を抑える腕に少なからずだが、押し返すような抵抗が見られたからだ。

 

 

「確かにグラス、お前が適任なんだろう。

 スピードも、パワーも、スタミナも、今の僕ではミホノブルボンに迫れる実力を有していないかもしれない。

 全てお前に任せてしまえば、どうにかなってしまうのかもしれない。

 僕なんかが居なくても、解決できてしまうかもしれない」

 

 

 立ちふさがるは限界と言う壁。

 それはいつだって、ヒトの時だって、僕の前に立ち塞がって来た。

 競技者としてスピードの壁に挑み続けて、尚超えることが出来ず、一度は折れてしまった事もある。

 

「無駄な事を……このまま走り続ければ、ただ我が身を傷つけるだけだと、何故気付かぬか」

 

 僕の抵抗をグラスワンダーが容赦なく封殺しようとする。

 手首を握り、骨を軋ませるほどの握力で圧迫し、コンクリの壁に僕の腕を擦りつけるように、強引に押し込む。

 

「気付いているさ、今の僕の身体がどれだけ消耗してるかって……ちゃんと休まなきゃいけない時期なんだってことも」

 

「それならッ」

 

「それでもッ!!」

 

 語尾を強めて迫るグラスワンダーに返すのは抗いの言葉。

 僕としての、決意を纏った言葉。

 

「それでも、僕は行かなきゃならないんだ。ミホノブルボンの元に……それがライスシャワーの願いだから」

 

 心の叫びを聞き、ライスシャワーの願いを叶える者として僕は進まなきゃいけない。

 僕は誓ったんだ。必ず、ミホノブルボンとライスシャワーをもう一度会わせると。

 身を犠牲にして、そこまでを成そうとする理由はあるのかって?野暮な事を言うんじゃないよ。

 

「それにッッ」

 

 徐々に、徐々にだが、僕の腕がグラスワンダーの拘束を押し返していく。

 どこにそんな力が残っているのか、グラスワンダーも僕自身もあまりよく分かっていない。

 

 

「ウマ娘は……誰かの願いを背負って走る……そうだろ?僕は、ライスシャワーの願いを聞いた者として、走る……これは僕としての、ウマ娘としての宿命だ」

 

 

 だから、と僕は視線を鋭く敵意を剥き出しにしてグラスワンダーへと言う。

 

 

「これ以上僕の邪魔立てをするというのなら、お前の事をぶっ飛ばしてでも、僕はミホノブルボンの所へ行くぞッ!

 走れなくても、タキオンの特性スタミナドリンクを飲んででも無理に走ってやるッ!

 僕を止められるものなら、止めて見せろッ 掛かってこいよグラスワンダーッッ!!!」

 

 

「……分かりました」

 

 次の瞬間、何かを悟ったかのようにグラスワンダーは僕を拘束していた手を離し、ゆったりとした動作で腕を下した。

 何が起こるのか、槍が飛んでくるのか、脳天唐竹割が飛んでくるのか、恐ろしく速い手刀が飛んでくるのかそう思っていたのも束の間だった。

 

 

「動かないでください」

 

 どこから出してきたのか、いつの間にか手にしていた細長い得物がそこにあった。

 エルコンドルパサーがグラスワンダーを茶化した時の一枚絵に必ずグラスワンダーが所持している、グラスワンダー殺意の代名詞となっている薙刀である。

 模造ではない、確かに人の肌を切り裂く鋼の刃が光を浴びてギラリと妖しく輝く。

 己の丈ほどの長物を悠々と操るグラスワンダーは上段へと刃を振り上げると、

 

 

「ちょっ!グラスッ!タンマ!!タンマ――――!!!」

 

 

 なんの躊躇いもなく、僕に向かってその刃を振り下ろした。

 しかし、痛みなどなく、次に僕が耳にしたのは何かが鈍い音だった。

 

 

「おろ、手錠が」

 

 僕の手を拘束してた手錠が無い、正確には真っ二つに両断されて床へと落ちている。

 ウマ娘の力でも破壊出来ないと言われているアグネスタキオン製の手錠をグラスワンダーが破壊したのだ。

 遂にグラスワンダーは流桜を取得したらしい。今ならば、天竜人の作り出した首輪も難なく破壊することが出来るだろう。

 

 

「まったく、あなたという人は本当に困った方ですよ、まったく……」

 

 薙刀を仕舞い、グラスワンダーが大きくため息をついて、肩を落としていた。

 

「ウマ娘になっても変わらないんですね……己の身など顧みず、私の知らない所で無理をして……私が怪我をしていた時期に散々無理をするなと仰っていたのに―――私の毎日王冠の後も、トレーナーさんはそうやって……」

 

「あー、あのー、あの時はだな、うん、僕も周りが見えてなかったというか……」

 

「でも、トレーナーさんならきっと、ウマ娘になっても。その心は変わらないのだと、そう思っていました。トレーナーさんは、そういう人だから」

 

 なので、とグラスワンダーは続ける。

 

「ミホノブルボンさんを、捕まえましょう。二人で……今より、グラスワンダーはトレーナーさんを加勢に入ります」

 

 一たび眼つきを変えれば、グラスワンダーは再び鎌倉武士へと姿を変える。

 心強い援軍の登場に、僕は感謝をせずにはいられなかった。

 

「ありがとう……恩に着るよ、グラスワンダー」

 

「ふふ、ではいずれ何か褒美を頂かなければなりませんね~」

 

「ああ、そうだな。なら、それ相応の褒美じゃなきゃ……グラスワンダー、僕と一緒に温泉旅行に行こう」

 

「ふぇっ!?トレーナーさん、い、いまなんと!?」

 

「え?だって、多分この温泉旅行券の話、多分ゴルシの嘘だぜ?理事長の放送の声も予め録音してたのを流してたぽいっし……そうなったら、この後に頑張ってミホノブルボンを捕まえても報酬はゼロなのは分かってるからさ……それに、僕らは他の同世代の奴らと違って、温泉旅行には行けなかったからな」

 

 

 正月の時、福引で温泉旅行を狙っていたグラスワンダーを思い出す。

 あの時は何度やってもティッシュだったので、相当確率悪いのかなと思ったけど、確か同期でスペシャルウィークが温泉旅行券を当てていたらしい。

 それどころか、他の黄金世代のウマ娘達もショッピングモールの景品や、懸賞やらで温泉旅行券を当てたらしく、同期で温泉旅行に行っていないのはなんと僕とグラスワンダーだけだったのだ。

 

 

 当時は僕も予定を変更してなんとか連れて行こうと考えていたが、当時はマルゼンスキーがドリームトロフィーリーグに行くだの、エルコンドルパサーに喝入れられるだの、不退転を破り捨ててNEW不退転を掲げるなど、詳しくはストーリーを見やがれ案件で色々あって、ここで無理に予定を組むのは難しいと思ったのだ。

 お陰で時期は逃すは、次の年は怪我に見舞われたり、僕がウマ娘になったりと、ほんとバタバタしていたのだから尚更である。

 

 

「僕のトウィンクルシリーズが落ち着いたら、そうだな、グラスの予定も合わせてどこか有名な場所に行こう。

 この際だからグラスが頑張ったトゥインクルシリーズの労いを込めて、うんと遠出しようか………ああ、そうだ。岩手とか東北県内には秘湯が多いって言うから、外泊許可も貰っちゃおうか。どうせなら一緒に長く楽しみたいし」

 

「ちょ、ちょっと…あ、あの!な、なんでこんな急にぐいぐい来るんですかッ!!い、いきなりすぎます!いったん落ち着いてください!止まってください!」

 

「今の僕はノンストップガールだ」

 

「えぇ……」

 

 まるで化けの皮が剥がれたかのような豹変ぶりを見せるグラスワンダーに困惑しながらも、しかし珍しい反応が見れて嬉しいものだと思いながら、僕は思わず笑ってしまう。

 

 

「まぁ、それもちゃんとミホノブルボンを捕まえてから、だな。改めて礼を言うよ、グラス。僕の我儘を聞いてくれて」

 

「い、いえ……こ、こほん。誰かの願いを背負ってしまったのですから……トレーナーさんが意地を通すのなら、私は止めはしませんので―――――できれば、私の願いも聞いて欲しかったのですけど……」

 

「ん?グラス、最後はなんて言ったんだ?よく聞こえなくて」

 

「な、なんでもありませんよ!ほら、昼休みも終わってしまいます。急がなければ」

 

「そうだな、じゃあまだ探していない体育館方面を探してみようか。あそこなら隠れる場所も結構あるし」

 

 

 そう言って、僕達はトレーナー室を後にした。

 向かうは逃げ続けているであろうミホノブルボンの元だ。

 

 

 

 大丈夫だよ、グラスワンダー。僕は大丈夫だ。

 

 

 

 心の中で、僕はグラスワンダーに言う。決して届くことは無いかもしれない心の声を。 

 お前は僕に無理をしてほしくなかったんだろう?手錠を使ってでも、多少強引に僕を傷めつけてでも、日本ダービーの疲れが残っている僕に無理な負荷を掛けさせまいとしてくれたんだろう?

 

 

 自分が故障をした立場だから、クラシック期を棒に振ったこともあったから、悔しい想いをしたから。

 そんな彼女が僕を止めに入るのは、当然の事だったのかもしれない。

 一度は敵対しようと見せたけど一転して協力してくれたのは、僕が一度進みだしたら止まらないって知ってるからか。はたまた、ただの諦めか。

 

 

 だからもう一度言わせてくれ、僕の我儘を聞いてくれてありがとう。グラスワンダー。

 

 

 

 

 僕の手を握り、引いてくれる彼女の掌に僅かな熱を感じながら僕達は学園の廊下を駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにこの作品の黄金世代は皆が温泉旅行に行っている引き強共なので……。


ゾウ < ウマ娘 < アグネスタキオンの手錠< 薙刀装備グラスワンダー
レース以外でもしっかりと最強を目指し続けるグラスワンダー、素敵です。

お話の中でちらっと出ましたが、毎日王冠の後に山々田トレーナーは無理し過ぎて身体を一度壊しました。その時のお話もいずれ。
感想、いつもありがとうございます。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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