僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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あけおめオラ催眠ッ、催眠解除催眠ッ!催眠で寝正月しろッ!
今年もこんな感じで不定期ですけど書いていきますね。


51.響き渡るのは本心か

 

 

 修羅だ。修羅がいる。

 

 

 体育館倉庫の前を捜索していた学園のウマ娘はこの場所にミホノブルボンもしくは、ブラックサンダーがいることを確信していた。

 理由は、普段使われることのない取り壊し予定の倉庫という絶好の隠れ場所という条件と、見るからにこの場所に立ち入ってはいけないといわんばかりに一人のウマ娘が凛と佇んでいたからだ。

 

「いいお昼休みですね~」

 

 栗毛の髪は風で小さく靡き、大地に咲く美しき華を思わせる少女。

 だが、その華奢な体からは想像できないような、戦いとは無縁そうなのほほんとした表情から到底感じられない、この場にいるウマ娘達を進ませんとする〝何か〟があった。

 

 

 大地に根強く踏みとどまろうとする大樹の如き威圧感だ。

 微笑みの裏に隠された刃の如き殺意。

 

「ここから先は立ち入り禁止だそうで~、お引き取り願います~」

 

 可憐さは見た目だけ、実際の所彼女の正体はいまかいまかと抜く事を待ちわびる鞘に収まった刃のようだった。

 

 

「ここより先に進まんとするならば、私と刃を交える覚悟のある者だけ……前に――――」

 

 

 手にした長物に刃は無い。ただの棒だ。

 だが、そこにいた全てのウマ娘達はその少女が持つ長物の先に鈍く光る鋼の刃がある事を幻視する。

 

 

 おのずと数名いるウマ娘達から「ひっ……」という小さな悲鳴が聞こえ、恐る恐る一歩下がり始める。

 まるで蛇に睨まれた蛙が如く、その少女を前にウマ娘達は飛び掛かる事も出来なかった。

 近づけば己の命に関わるのだと生命としての本能がそう告げていたのである。

 

 

 

 

 

 

 きっと、これが最後のチャンスなのだろう。

 ミホノブルボンと話せる機会は。

 

 

「ニシノフラワーが心配していたぞ。〝最近のブルボンさんは何か思いつめたような顔ばかりしてます〟―――ってさ」

 

「フラワーさんが……」

 

「この前、抱こうとした時にさ」

 

「え」

 

 

 自然な導入だ。

 何事にも会話をスムーズに進めるためのネタは自前で用意しておかなければならない。

 ミホノブルボンの部屋の同僚と何度か関わる機会があって本当に良かったと今更ながら思う。

 

 ちなみに、ニシノフラワーは抱けなかった。

 抱き締めようとしたら、その近くで昼寝していたセイウンスカイが邪魔をしてきたからだ。

 

 

 

「スマートファルコンだって……逃げシスのメンバーが過疎ってるから僕を急にメンバーに入れようとしてきたぞ」

 

「逃げ切りシスターズの新メンバーにブラックサンダーを推薦したのは私なので……」

 

 

 お前か。お前が僕を推したのか。

 やたらと最近スマートファルコンが練習中に先回りしてメンバー勧誘にくるのは。

 しかも僕がダートコースでトレーニングしてるときに限ってあり得ないスピードで追い抜いてくるから逃げられない状況でやってくるのでどうしようもない。

 

 

 だが、逃げ切りシスターズの活動まできっちり次のメンバーの補填を考えているあたり、彼女は、ミホノブルボンは。

 

 

「……本気なんだな。トゥインクルシリーズの引退も、トレセン学園からいなくなるのも」

 

「……」

 

 

 言葉にせずとも、伝わることがある。

 表情だけでも、本人の意思というのは見えてくるものだ。

 彼女がたとえ、感情に乏しいサイボーグと呼ばれていたとしても。

 

 

「肉体的ピーク……」

 

「あ?」

 

 返答なのか、良く分からないがミホノブルボンが言葉を口にする。

 

 

「ウマ娘の成長と言うのはある一定時期を経過するとそれ以上の向上は見込めなくなります。

 スタミナや、スピード、果ては食欲にいたるまで、著しい減退が確認されているのは、ブラックサンダーも理解しているかと」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 熟すのが早いか遅いにかかわらず、全てのウマ娘が直面するうであろう能力の限界。

 急激な能力の低下ではないものの、緩やかに、確かに、そのレース人生の終わりへと向かって行く。

 

 

「クラシックの菊花賞後、私は怪我をしました。大きな怪我です……二度と走れなくなるかもしれないという状態から復帰した私は本来のスピードとスタミナに戻す為に多くの時間を要しました。それでも、最盛期には遠く、復帰始めは着外になることもありました」

 

 

「復帰するってのはさ、難しい事だ。自分が思っている以上に、自分の身体は思い通りに動かないんだ」

 

 

 グラスワンダーの復帰戦となる毎日王冠の経験もある。

 数か月振りの本気で走るレースで体が思い通りに動かず、結果に結びつかない事にミホノブルボンは苦戦を強いられたに違いない。

 

 

 だからこそ、そこからは肉体と技術を両立させるのだ。

 レース展開、位置取り、仕掛けるタイミング、天気、風、走法、食事、睡眠、理論、etc……。

 身体能力で後れを取るならば、膨大に存在する知識からレースに活かし、埋め合わせをするしかない。

 

 

 勝手な持論だけど、これが長く競技生活を続けていく秘訣だと僕は思っている。

 

 

「私のピークは今です。技術的にも、肉体的にも」

 

 ミホノブルボンは続ける。

 淡々と、それでこそ、機械のようにだ。

 

「グランプリレース連覇。これほど栄誉ある戦績を残して引退することが出来るウマ娘は決して多くは無いと思われます。

 継続して勝利することの難易度の高さ、現在の能力値を維持しながらのトレーニング。

 強いままで、勝利したウマ娘として私はレース人生を終えたい。ならば、タイミング的にも今がベストかと――――」

 

「それで、さ。いいのかよ、お前は」

 

 

 レース人生後のウマ娘の為に、戦績と言うキャリアは重要だろう。

 解説や指導者として抜擢された際には実績から説得力がそこら辺の解説者より上だ。

 だからこそ、まだやれそうなのに……という状態のウマ娘が早めの引退を決めてしまう事も少なくないのだ。

 

 

 ミホノブルボンも、そうなろうとしているのだろう。

 グラスワンダーのように、グランプリを3連覇したという偉業は恐らく後世にまで語り継がれる。

 単純に連覇するというミホノブルボンが目指す実績も充分なキャリアに繋がるはずだ。

 

 

 道理的には間違いは見当たらない。

 社会人面接ならばその完璧に構築された引退理由に面接官も納得するだろう。

 

 

 だがミホノブルボン、それが通用するのは二次試験までだ。

 最終面接の、人事部のお偉いさん(自称面接官歴30年のオッサン)の前では通用しないぞ。

 僕もトレーナーになる前は一般企業とか受けて最終面接に行ったけど、その手のオッサンに「キミ、嘘ついてるね。目を見れば分かるよ」と一蹴されて見事最終面接で不合格を貰ったクチだ。

 

 

 当時はエントリーシートを家で破り捨てて怒り狂っていたが、あの面接官のオッサンの言うように顔とか目とか会話を交えれば分かってしまう事があるのだろうと思った。

 だからだろうか、確実に今の僕になら、分かる事がある。

 

 

「それは、お前が望んでいることじゃないだろう」

 

 

―――彼女、ミホノブルボンは嘘をついている、と。

 

 

 

「ここ数年、お前の実績を調べたんだ。特に、怪我から復帰した後の事をな」

 

 

 菊花賞後、骨折の怪我を治療して臨んだ数戦。

 確かに着外、入着を繰り返しており、曲がりなりにも二冠ウマ娘としての力を感じさせない平凡な戦績だ。

 試合勘や、スピードとスタミナなどまだ完全に戻ってはいなかったのもあるだろうが、完全に燃え尽きかけたウマ娘だった。

 

 

 だが、ミホノブルボンの戦績はある日を境に一気に好成績に向かい始める。

 まるでそれまでの平凡なタイムが嘘だったかのように、ミホノブルボンはレースで勝ち始めた。

 始めは糸を針の穴に通すかのような勝ち筋から、それはやがて安定して、強大なものへと変貌していく。

 

 

 その実力は、異常な強さを発揮し始めてからの連帯率100%。しかも全て1着。

 機械的な走法は相も変わらずだったが、ミホノブルボンを見た観客やウマ娘達は彼女が纏う雰囲気の変化に気付いた。

 

 

 まるでそれは、鬼が宿っていたかのような強さだったという。

 そして、その強さを発揮するようになった時期は―――、

 

 

「7月からのレースだ。夏合宿中もお前は遠征でレースに出ていたと聞いている……そして前の月である6月、何のレースがあったかと言えば……宝塚記念だ」

 

 

 トゥインクルシリーズの前期の総決算であるグランプリレース。

 クラシック勢とシニア勢が入り乱れるビッグレースだが、その日はただの宝塚記念ではない。

 ミホノブルボンにとって、特別な日となった宝塚記念の筈だ。

 

 

 

 何故ならその日の宝塚記念は、あのライスシャワーが出走し、レース中に骨折した日なのだから。

 

 

 

 あの日、スタンドでライスシャワーを応援していたミホノブルボンはライスシャワーが命に関わる大怪我をした瞬間を目にした。

 関東からの刺客など、周囲からの酷いバッシングに充てられながらも、前走の天皇賞春で勝利して自身の幸せを掴み取った少女が崩れ落ちる瞬間を。

 

 

 ライスシャワーは言っていた。「もう一度、ブルボンさんと走るんだ」、と。

 ミホノブルボンが怪我をしていた際に交わした約束が、ライスシャワーの怪我で消え去ろうとしていた。

 

 

「お前は、ずっと……ライスシャワーの為に、レースを走っていたんじゃないのか。

 彼女が再びターフに戻れるように、自分と競い合えるように、そう願っていたんじゃないのか」

 

 

 親しい友人としてだけでなく、再戦を誓い合ったライバルとして。

 いつか再び戦うその日まで、己だけは強く在り続けなければならないと。

 ライスシャワーに力強いミホノブルボンを見せ続けなければならないと。

 

 そんな願いが込められた走り方だった。

 だからこそ、分からない事がある。

 

 

「どうして、今それを辞めようとするんだ。せっかくここまで頑張って来たのに……

 ライスシャワーだってお前がレースで勝ち続けて来たからこそ、今も復帰を目指しているんだろう?」

 

 命に関わる怪我をした者が再びレースを走れる保証はない。

 重度の怪我をしたウマ娘が学園を出ていくことも考えなくてはならないことだってある。

 だからライスシャワーが今も学園にとどまり続けているのは、レースを継続する意思がまだ残っているのだ。

 それは間違いなく、ミホノブルボンと再び対決する約束を果たす為である。

 

 

 その約束を破棄しようとする行為のようなものだ。

 今のミホノブルボンの電撃引退は。

 だから理解できなかった、彼女が引退する理由が。

 

 

 

「貴女は――――知らないから、そんな事が言えるんです」

 

 

 目を伏したミホノブルボンが口を開く。

 その言葉には僅かながらだが、悲しさと怒りの感情が籠っていた。

 

 

「奇跡は不確定な要素を私はトウカイテイオーさんがあの有馬記念を勝利するまで信じていませんでした。

 トゥインクルシリーズでも初となる365日ぶりのG1レース勝利は多くの怪我に悩むウマ娘に可能性という道を示したと考えられます……私も、そうでした」

 

 ミホノブルボンが続ける。

 

「私もトウカイテイオーさんのように、絶対に諦めない、勝利する姿を見せ続けていればきっと……あの娘はもう一度、ターフに戻って来てくれると……その可能性を信じました」

 

「だったら!」

 

「でも―――その可能性が逆に誰かの命を奪う事があるのだと、ブラックサンダーは考えたことがありますか」

 

 僕の言葉を遮る彼女の、ミホノブルボンの言葉は深々と降り積もる雪のように冷たく、何かを諦めたようだった。

 

「だから私は、終わらせることにしました。私の最善を――――」

 

 

 唾を飲み込み、一呼吸をしたミホノブルボンは、

 

 

 

 

「―――私は、ライスさんとは戦いません、2度と」

 

 唐突に、先ほどよりも声を少し張って激白を始めた。

 

 

「怪我をした貴女が再び全盛期の状態でレースに復帰することは不可能だと考えます。

 今まで私がレースを走り、勝利を続けていたのはより強いライスさんと戦う為……今のライスさんは私に勝利するどころか、競う事すらも難易度が高いと考えます。

 よって――――、」

 

 また、一呼吸を置いてミホノブルボンは言う。

 

「―――ライスさんは、貴女はもう私にとって勝負する価値のない相手だと、そう判断しました」

 

 

 

 何を言っているんだよ、オイ。

 と、耳を疑うようなセリフがミホノブルボンの口から次々と出てくる。

 

「私はライスさんの事が嫌いです」

 

 激白はまだ続く。

 

「目も合わせたくないくらいに。いつもマイナス思考で、卑屈になっている姿が、嫌いです」

 

 静かに、プログラムされたかのような口調で吐かれる毒の言葉の数々。

 

「高学年なのに、魔法とか絵本とかの内容を信じている貴女が……嫌いです」

 

 

 おい、ブルボン、落ち着けよ。

 

 

「2度と私はライスさんと走らない。これは決定事項です。

 素直に、退学を推奨しますし、ライスさんが退学しないのなら、私が宝塚記念の後に誰よりも早く退学してやります」

 

 

「落ち着けって!ミホノブルボン!」

 

 

 遂に声を出して、ミホノブルボンの激白を止める。

 ミホノブルボンも僕が止めに入ったのを見計ったのか、そこで言葉は途絶えた。

 

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

 肩で息をしているのは、疲れているからではない。

 典型的に、他者の悪口を言いなれていない証拠だ。本心ではない、きっと。きっとだ。

 

 

 だが、これが誰かに……ましてや本人に聞かれてしまっていたらと考えると、僕はぞっとしてしまう。

 そして、そんな想像をしなければ良かったと、僕はこの時に思った。

 

 

「おい、ミホノブルボン、今手に持ってるのはなんだ(・・・・・・・・・・・)よ」

 

「……」

 

「それ、スマホ……だよな…僕からの位置からだと画面はよく見えなかった……けど、通話モードだったてぇのは分かるんだ……さっきまで繋がってたのも、な」

 

「……」

 

「黙るなよミホノブルボン、教えてくれ……一体、誰に連絡をしていた(・・・・・・・・)……そして、それはいつから(・・・・)だ……」

 

「……貴女のような、勘の良いウマ娘も嫌いですよ」

 

「ッッッ!!」

 

 

 抑えきれない激情と共に僕はミホノブルボンへ向かって走り出す。

 親の仇を取るかのように両の腕を伸ばし、その手はミホノブルボンの制服の襟をがっちりと掴んだ。

 

 

 勢いがあまり、僕達二人は真後ろに敷かれていた体操マットの上に倒れこんだ。

 どれくらい放置されていたのか知らないが、尋常ではない量の埃が舞い上がる。 

 目に異物が混入しまくる状態からか目は痛いし、喉も気持ち悪い。

 

 

 だけど僕は、胸倉をつかんだまま体操マットの上に押し倒したミホノブルボンを見下ろし続ける。

 ミホノブルボンは生気を失った瞳で僕を見つめ、彼女の顔の右側には画面が点灯したままのスマホがあった。

 

 

 僕はそのスマホの画面を見なければ良かったと思った。死ぬほど。

 

 

 画面には発信履歴が表示されており、最新の履歴から先ほどまでミホノブルボンがスマホを使って通話をしていた事は明らかだった。

 

 

 

 そして通話相手の名前は、ライスシャワーだった。

 

 

「ブルボン……何やってんだお前ェッッ!!!」

 

 

 通話時間は約1分半。それは逆算すると、僕とミホノブルボンが会話を始めて、彼女がライスシャワーに対しての発言をし始めたくらいの時間だ。

 だから、ミホノブルボンのライスシャワーに対する罵詈雑言が全てライスシャワー本人に対して聞かれていたことを意味する。

 

 

 

 

 

 

 




シリアスすぎて何かで中和しないといけないな。皆、ガチャ引きまくってスイープとスぺちゃんサポカ完凸しよう!
振袖グラスちゃん可愛すぎて発狂した。


悲報、遂にブラックサンダーさん、ミホノブルボンを押し倒してしまう。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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