「ブラックサンダー、お話があります」
宝塚記念出走登録の記者会見の数日後、僕の教室にはミホノブルボンが現れた。
朝の始業前を迎える30分ほど前だろうか、そこそこに他の生徒達も集まっていて、先日の引退会見と僕の記者会見の効果もあってか、周囲からは注目されているためにざわつきが絶えない。
だがこちらを見据えるミホノブルボンはそんな多数の視線を気にすることもなく、真っすぐに僕の所へとやって来た。
乱れの無い歩様、声色からはいつものサイボーグミホノブルボンに違いは無い。
「珍しい。僕の名前を言い間違えずに話を切り出す事が出来たのはミホノブルボン、お前が初めてだったりするよ。
でもギャグパート路線で話進めたいときに結構必要な下りだからさ、次は乗ってくれると助かる」
「必要なら、後に実行しましょう。ですが、私の問いに答えていただいてからです。ブラックサンダー」
目は口ほどにモノを言う。
今のミホノブルボンは普段の性格からは想像できないほどに、その瞳に怒りを宿している。それは何故か。
「ライスさんとのコラボ動画、拝見しました。宝塚記念で勝利と引き換えに、ライスさんを〝抱く〟と」
勿論、原因は僕さ。
諸悪の根源とネットでは称される僕こと、ブラックサンダーがお前の神経を削ぐために行った悪逆非道だ。
僕の手元にあるスマホが保存された動画のシークーバーを移動させて件のシーンへと直行させてはミホノブルボンへと見せつける。
映し出されたのは金髪ウィッグにサングラスをかけたチャラ男を装った僕と、気恥ずかしそうに画面をチラ見するライスシャワーだ。
『僕が宝塚記念で1着を取ったら、ライスシャワーがどうなるか……分かるよね?』
『ら、ライスは!ブラックサンダーさんが宝塚記念で勝ったら、だ、抱かれます!』
『ブルボンライス派の奴ら、聞いてるかぁ?契約は今まさに結ばれた!推しカプが奪われるサマを見せつけて、お前等の脳を焼いてやんよ!』
『た、助けて~、ぶ、ブルボンさん~、ら、ライスがこのままだと、だ、抱かれ、ちゃうよ~』
『おいゴルァ!チームの断りなくウチのライスになんて事喋らせてやがんだッ!!勝手に動画なんて取りやがって!!』
『ライス!カチコミに―――間違えたッ、助けに来たよ!』
『お、お兄様!?お姉さま!?ち、違うの!こ、これには理由があって―――』
『うぉっ!生放送ガチトラブルだ!やべぇ!5分足らずで同接が200、300……まだ増える!!チャンネル登録者数もうなぎ登りに――――』
『ブラックサンダーさ~ん?ミスターXトレーナーが呼んでますよ~、あと生徒会長さんと理事長さんも~』
『ぐ、グラス!?ま、待て!薙刀はマズイ!カメラに向けるな!何して、おいコラ、待てって――――』
動画はここで途絶えている。その時間、5分59秒。
生放送で行っていた動画の内容は今後の僕が挑戦する宝塚記念によるものだった。
宝塚記念を勝利した暁に、僕がライスシャワーを抱くという言質を取る為に設けた動画作戦。
これの作戦の本質は、宝塚記念に対する知名度をあげる目的もあるが一番はミホノブルボンに揺さぶりを掛けることだ。
僕には確信があった。ミホノブルボンは本気でライスシャワーの事を嫌ってはいない、と。
あれだけの罵詈雑言を電話で口にして、傍から見ればライスシャワーに愛想を尽かした、興味をなくした非情なウマ娘だと思われるかもしれないが。
その後のミホノブルボンの顔には明らかに後悔の念があったのは確かなのだ。
何らかの理由があって、あのような言葉を吐かざるを得なくなった。そう僕は考えている。
本心では、ライスシャワーの事を想い続けている筈だ。今も変わらず。
だから僕は、揺さぶりを掛ける事にした。
わざと動画でミホノブルボンが反応するように記者会見で、先日投稿した動画で、ライスシャワーを餌にミホノブルボンの反応を見る。
本当にミホノブルボンがライスシャワーの事を嫌いになったのなら、僕の動画に反応せずに無関心を貫くはずだ。
だがミホノブルボンはこうして僕の前に現れた。これは彼女がまだライスシャワーを心配していることの表れだった。
正直、このままミホノブルボンが現れなかったどうしようかと思った。
数万以上する撮影機材は壊されるし、理事長とシンボリルドルフには厳重注意を食らう始末。
だが、その犠牲も必要な犠牲だったというワケだ。
さぁ、後は僕が彼女の敵を演じるだけだ。
かませるだけ、かましてけ。
「ライスさんに……何をしたのですか」
先に口を開いたのは、ミホノブルボンだった。
「といいますと」
「私の経験上、ライスさんがあのようなセリフを公衆の面前で口にすることには強い抵抗がありました。『緊張』と『羞恥』……相当なストレス値をライスさんから推測……」
「僕がライスシャワーを脅したって言いたいのか?ミホノブルボン。だけど、お前には関係のない事だ。僕がどこでライスシャワーを抱こうが、ニシノフラワーを抱こうが、ハルウララを抱こうが、理事長を抱こうが、だ。それに……お前とライスシャワーは親友ではないのだろう?もう気にする存在じゃないはずだ」
「それは―――」
虚を突かれたか、ミホノブルボンは言葉を詰まらせた。
今のミホノブルボンに対して、ライスシャワーという存在が想像以上に有利に働いている。
器材は損額数万以上に及ぶ損害に見合う成果だ。
「ウマ娘のレースは公的であり、互いの信念を比べ、競い合う神聖な場です。一個人の欲を満たすような、モラルの低下を招くような事はあってはならない。
ましてやそれが私の引退レースで行われるのは、看過出来ません」
故に、とミホノブルボンは続ける。
「トゥインクルシリーズ、そして全てのレースに臨むウマ娘の尊厳を守る為にブラックサンダー、あなたの暴走を私が止めます」
「止める、か……大きく出たよなァ!ミホノブルボン!でもなぁ、ウマ娘だって、いつまでも強い訳じゃねぇんだぜ」
スイッチが入った。今のミホノブルボンの瞳には僕がしっかりと映りこんでいる。
友であるライスシャワーを魔の手にかける敵として、確かに認知されている。
「レースに臨むウマ娘の尊厳を守る」という大義名分を得た彼女には、僕と戦うには十分すぎる理由を得たはずだ。
「強い奴が集まる宝塚記念。シニアとクラシックが交わる最初のG1。だけど格上シニアのウマ娘が出走する宝塚記念にクラシックのウマ娘が勝ったことは歴史上ない。それが常識だった。いつの間にか当たり前になってた」
だが、常識は破られるものだ。
そして、歴史は塗り替えられるものだ。
ウオッカが夢を叶えた日本ダービー。
ダイワスカーレットが夢の扉を開いた有馬記念。
葦毛のウマ娘は走らない、を覆したオグリキャップとタマモクロス。
なんの予兆も、前触れもなく、歴史には突如として風穴を開ける日が必ず来る。
クラシックのウマ娘が宝塚記念を制覇するという、そんな日が。
「歴史なんて……変えてやるよ、僕が」
現役最強を越えて、その名を歴史に刻んでいい。
舞台は整った。待っていたのは、この瞬間。
「勝負しろ。ミホノブルボン……」
「受けて立ちます。ブラックサンダー」
互いが互いの目を見て、送り合う視線は自らの「敵」と認識した瞬間だった。
歴史も変えるなら、その運命だって変えてやる。僕は彼女に、ミホノブルボンに対して不敵な笑みを浮かべて見せたのだった。
そして時は流れる。
互いがトレーナーの作戦と練習を組みながら、それぞれが敗北できない理由を背負いながら宝塚記念という決戦に向かって。
――――そして宝塚記念、5日前。
レースのまであと大体3話あたり。ちなみにグラスちゃんは動画の後めちゃくちゃ怒ってたそうです。まだその怒りは収まっていません。
マスターXはこの後もう一回謝罪会見を開きました。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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