僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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先行エル、根性ダスカ、豪脚誉ワンダーのお陰で無事にキャンサー杯はAグループ進出出来ました……。しかしやはり、ウンス強い……強い……


5.夕焼けの誓い

 放課後、僕とグラスワンダーはトレーニングコースエリア付近を歩いていた。

 

 

 スポ魂ものの展開ならば、今僕たちを照らしている夕焼けの眩しさは「俺達の戦いはこれからだ」などという打ち切り作品ありがちなラスト彷彿させる程に、憎たらしい程に眩しい。

 

 

 レース後だからコースで練習するとかは無いし、ストレッチも済ませてある。

 休日だから、身体を休めているウマ娘が多いからかコース上には一人もウマ娘の姿が見当たらない。

 

 

「風が心地良いな、グラス」

 

「……そう、ですね」

 

 

 歩く理由は、特に無かった。 

 

 

 強いて言うならば、あれだけの言葉をミスターXから受けた僕とグラスワンダーの気晴らしの散歩だろうか。

 あのトレーナールームでじっとしていても、どうにもならないと思ったのだ。

 

 

「トレーナーさん…私は悔しくて、申し訳なく思います……」

 

 

 ふと、グラスワンダーが俯きながら口を開いた。

 

 

「あの方……ミスターXさんの言う通りです。

 私は、衰え切ってしまった……レースへの情熱が冷めてしまった事を思い知らされました」

 

 

「もう、あの男の言葉を気にしすぎるなグラス」

 

「ですが、私はあの方の言葉の意味が理解できませんでした……今のトレーナーさんの、ブラックサンダーの走りに何かを感じている筈なのにそれを言葉で表せない……!!」

 

 ごめんなさい、と。

 立ち止まり、拳と唇を震わせるグラスワンダーはその瞳から涙を流していた。

 

「私は……私自身を許せない!

 不甲斐なく、思うのです……!

 未熟な己に!

 精一杯走っているトレーナーさんの想いに応えられず、闘志を取り戻せない自分自身に!」

 

 

 ウマ娘はファンの期待に応える以上に、自分を支えてくれているトレーナーにも応えて見せたいと強く思う。

 グラスワンダーも例に漏れないそんな一人の少女で、僕の行おうとしている事に応えることが出来ない事に、不甲斐なさを感じ、自分自身を責めてしまっていた。

 

「やはり私はもう、レースの世界に復帰なんてしないほうが……っ!」

 

「それは違うよ、グラス」

 

 

 彼女の言葉の先を遮るように、僕は否定した。

 一つだけ、僕はレースを通して、さっきのやりとりを見て確信したことがある。

 

 ずっと考えていたことがあった。

 

 

 グラスワンダーは、果たして本当に『闘志』を失ってしまったのだろうか。

 世間は、以前のような鬼気迫る走りが出来なくなった彼女を『もう終わったウマ娘』と称した。

 だが怪我をするまで、骨折をするまでの彼女は自らの肉体を犠牲にするほどにトレーニングで追い込んでいた。

 

 

 ターフを駆ける彼女を毎日見ていた彼女のトレーナーである僕が言うのだから間違いない。

 敗北しても、何度掲示板を外そうとも、その悔しさをバネにして、苦しさの先にある勝利を目指して努力していたんだ。

 

 

 そうだ。悔しい、そう感じているのだ。

 負けた時、自分を不甲斐ないと思う時は誰だってそう思う筈なんだ。

 

 

 変わらないなら、ただ敗北を受け入れて、浸るはずだ。

 

 

 悔しさを感じるのは、そこから〝抜け出したい〟と思うから。

 心の底から〝変わりたい〟と願っているから。

 次は絶対に〝勝ちたい〟と思っているから。

 

 

 足掻き続けているのだと。

 絶望を受け入れまいとしているのだと。

 

 

 

 

「お前は僕のレースを観て、感じ取ったはずだ。

 胸が高鳴るのを。

 体温が上がるのを。

 選抜レースで僕を見ていたグラスワンダーの眼差しは確かに、僕の知っている〝怪物〟グラスワンダーのモノだった。

 レースをしたくて、どうしようもないくらいにウズウズしてる顔だった。

 背筋が凍っちまったくらいだぜ……こわっ!グラスこわっ!って思ってしまうくらいにな。

 

 僕は断言できるよ、グラスワンダー。

 お前はまだ、心の奥にあの燃え滾るような闘志を残している……今はとても小さくなってしまっているかもしれないけど」

 

 

 とても小さくて、揺らめく頼りない、炎と呼べないもの。

 それはまるで、闇夜にぽつんと光る種火のようなものだけども。

 

 例え極小の火であっても、枯れ葉や枝を元に再び大きな炎になることも出来る。

 僕は、彼女の火を再び炎にさせる為の着火剤となろう。

 

「僕のレースを観続けろ、グラス。

 悔しいと感じているお前なら、いつか……きっと、またその気持ちをレースに、ターフを駆ける為に向けられるよ。

 だから、今お前が感じている感情は、間違いなくお前だけの正しい感情だ。

 衰えたからだとか、もう自分が終わった選手だから、っていう理由のモノじゃないんだ。

 だから、戻れるよ、グラス……いいや戻ってこい、グラスワンダー……そして、もし戻って来たなら、僕はお前と……」

 

 

 夕日に輝いた彼女の頬を伝う一筋の涙を指で拭いながら、僕は言う。

 

 

「レースで一緒に走りたい」

 

「トレーナーさん……!」

 

 

 きっとこれは神様が与えてくれたチャンス。

 ウマ娘になった事、ウマ娘になれた事は、グラスワンダーと共に走る事なんだと、そう思うのだ。

 

 

「トレーナー、じゃないだろ?今の僕は―――」

 

「ブラックマジシャンガールさん……」

 

「〝ブラック〟の部分しか合ってない!?」

 

 

 

 

 『不退転』。

 彼女と共に道を歩む際に決めた不滅の覚悟を胸に、僕は彼女の帰りをターフの上で待ち続けよう。

 目に染みるほどの夕焼けに向けて、僕は心の奥でそう誓った。

 

 

「まぁ、朝日杯に出る為にも次のレースのデイリー杯に勝たないといけないんだけどな。

 朝日杯よりも格は下のG2だけど、立派な重賞レースだ」

 

 

 仮にも重賞レース。

 次年度のトゥインクルシリーズで活躍を見せるであろう年内の実力に溢れたウマ娘達が集まるレースだ。より一層、勝つことが難しくなっていくだろう。

 

 

「フゥーハハハッ!お困りのようだねぇ、ブラックパンサーくん」

 

 

「アグネスタキオン!?しまった、セリフを先回りされた! 

 僕をマーベル作品に出てきそうな、ワカンダの若き国王の名前にするな。

 いいか、二度と間違えるな、例え世界の人間がそう決めていたとしても、僕の名前は()()()()()()()()だ」

 

「名前が似ているせいか、訂正出来てないみたいだねェ……まぁ、そんな事はどうでもいいんだ」

 

 

 どうでもいいことなのだろうか。

 

 

 と、突如としてどこかの恐怖のマッドサイエンティストのように自前の白衣を靡かせて神妙なポーズを取りながら現れたアグネスタキオンに僕は一抹の不安を覚える。

 こういう時の彼女は余計な事しかしてこなかった気がするから。

 僕としてはさっさと帰ってくれ、大人しく、と願うばかりである。

 

 

 そうすると、彼女は懐から小瓶を取り出しては僕たちに見せつけてきた。

 

 

「朝日杯に出るために、君は次のレースで勝つ必要がある。その為の手助けをしてあげよう……ホラ、飲めば一定の感情の昂ぶりで体が虹色に発行する薬品だ。

 これで最終直線の際に他のウマ娘達が必死で凌ぎを削る中、一人気分アゲアゲで発光すれば目くらましで相手の視界を奪えるだろうさ、さぁ、飲め」

 

「〝仙豆だ、食え〟みたいなノリで変な薬飲ませようとするな」

 

 

 毒々しい色合いをしている瓶詰めされた液体を僕はとにかく追及するつもりはない。

 まず、アグネスタキオンに問い詰めてもまともな解が返ってくることはないだろうから。

 

 

「本命はコレさ……ここ数か月、ブラックサンダーの出場した全てのレースを記録している。

 なに、ちょっとした反省会兼、キミがこれからの試合で勝利する為に必要な事を教えてあげようと思ってねェ」

 

「そのDVDは……アグネスタキオン、一体何が狙いだ?お前の方から無償で助言を行おうだなんて」

 

「無報酬な訳ないだろう……そちらからはブラックサンダーの身体データをもらっているのだから。

 ウマ娘と化したキミの肉体はウマ娘以上にとても興味深いモノなのだよ、私が掲げる〝速度の果て〟を研究する為にもね。

 それに……私以外の人間が〝果て〟などと口にしてるのは気に食わない、あのミスターXという男に一泡でも二泡でも吹かせてやろうじゃないか」

 

 

 要するに、あのミスターXの事で腹が立ったらしい。

 それが彼女が僕に手を貸す理由なのだという。

 

 

 アグネスタキオンはくるん、と踵を返すと歩き始める。

 恐らくこの方向は無人となっているトレーナールームだろう、あそこにはここ数年のウマ娘の試合の映像が取り溜められている。

 

 

 僕とグラスワンダーはお互いに見合うと小さく肩をすかして見せた。

 いつもは考えている事は人体実験の事ばかりで、普段から異常者としてのレッテルを張られていて、周りからは近寄りがたい雰囲気を出しているアグネスタキオン。

 

 

 最初はただの変人だと思った。いや、今でも変人なんだけど。

 マッドなほうのサイエンティストと称しても問題ないくらいの奴なんだけど。

 

 

 そんな彼女も、担当トレーナーに世話されていく過程で異常性を残しながらも小さな変化が見られるようになるくらい、変わったのだ。

 

 例えば、チームの為にこうして、〝何かをしてやろう〟という所とか。

 

 

 

「おいおい、時間がもったいないよメシモットくん。

 私の夜ご飯も用意しないといけないんだから。 

 さて、元・皐月賞ウマ娘による〝ブラックサンダー逆襲セミナー〟を始めようじゃないか。

 

 あぁ、そうだ言い忘れていた……おかずは人参ハンバーグをリクエストしておこうかね」

 

「さり気無くご飯の内容盛るなよ、太るぞ。 

 あと、メシモットってなんだメシモットって」

 

 

 アドバイスがてら夜ご飯をねだる辺り、ちゃっかりしていると思う。

 仕方ない、こうなれば腕によりかけて今日くらいは豪勢な夜ご飯を作ってやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそこから数週間、アグネスタキオンの助力を受けた後。

 僕は『朝日杯』の前哨戦の一つと呼ばれるレース、『デイリー杯ジュニアステークス』に出場する事となる。




山々田山能トレーナーの秘密
①実はグラスワンダーに内緒でスーパークリークに耳かきをしてもらったことがある。


この作品の時系列は結構メチャクチャですが、大まかな時代背景は98年黄金世代世代のストーリーを主軸に作っています。登場人物もそれに関係あるキャラや、ブラックサンダーと相性の良さそうなキャラが出てきます。


感想、評価などいつでもお待ちしております。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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