……いいですか、落ち着いて聞いてください。私が投稿をお休みしている間に2023年の宝塚記念がついに終わり、ジャパンカップでイクイノックスが引退し、ドウデュース武豊が復活の有馬記念を勝ち、凱旋門賞出走の意志を表明したのです……ウマ娘ではアニメ3期でドゥラメンテ、ジェンティルドンナ、オルフェーブルとレジェンドウマ娘の名前が登場、そして2024年5月には初の劇場版ウマ娘の発表がありました……ええ、分かってます。私が最後に投稿したのは去年の8月です……ンーッンーッ!!ウゥーン!!
時間経つのはやすぎぃ!
ミホノブルボンというウマ娘はまるで機械のようだ、とよく言われる。
ある人曰く、秒刻みの正確なラップタイムを見て。
あるウマ娘曰く、表情もいつも一定だし、きっと主食もネジとかガソリンなんだよ!と。
自分のトレーナーが耳にすれば「失礼極まりない奴らだ」と怒りの顔を浮かべるだろう。
だが当の本人であるミホノブルボンは、あまり気にしてはいない。
一時は他の生徒達から畏怖され、遠ざけられたこともあり、悩みを抱えたこともあったがなにせ十年以上こんな感じで生きて来たのだ。
今更性格チェンジなど出来る筈も無いのだ。
逃げシスのスマートファルコンからはよく、「ブルボンちゃんはもっと笑顔でいこ★すごい似合うと思う!あともっと明るく!」
どのように?と具体例を示したミホノブルボンに対し、スマートファルコンはやや目を泳がせながら、「ヘリオスちゃんみたい、な?ファル子、よく分からない!しゃい★」はぐらかされた。まぁ、今更周りにどうこう言われてもこの性格を0から100まで変更するつもりはミホノブルボンにはさらさら無い。
それに、トゥインクルシリーズを通してからは周りからとのコミュニケーションも図れるようになってきている。まったく改善が無いというワケではないのだ。
必要なのは小さな変化の積み重ねだ。それが最終的には「あぁ、ブルボンちゃんって変わったねぇ……昔はもっとこう―――」という過去を懐かしむ卒業生のようになっているだろう。
だけど、自分の根本的な部分は変わらない。
無機質で、機械のように、あまり感情を出す事が得意ではない。
でも少しだけ人付き合いが出来るようになったサイボーグとウマ娘の比率にして8:2のミホノブルボンはこのまま生涯を生きていくだろう。
そう思っていた。
「先生、もう一度……説明を―――してもらっても宜しいでしょうか」
「……宝塚記念の最中に起きたあの怪我は命を落とさなかっただけでも奇跡なのです」
病院のとある一室。
椅子に座るミホノブルボンが見据える白衣の男性はライスシャワーの担当医だ。
その医師の実績はトレセン学園に太鼓判を押される程の知名度があり、また彼以外の医師、病院の施設などのレベルは日本でも最高基準と呼ばれている。
男の言葉に、ミホノブルボンの膝上へと置かれていた自分の手に力が籠る。
「骨折が完治したとしても、レースに完全復帰できるウマ娘は決して多くはありません。例外は確かに存在します。
トウカイテイオーさんの復活した有馬記念、私も見ていましたから……奇跡を起こさねば、私も医者です」
でもね、と医師は続ける。
「ライスシャワーさんの骨折した脚は重症過ぎます。運ばれてきたとき、私もあの怪我を見て覚悟を決めたものです……ミホノブルボンさんも、現場で見たのではないでしょうか」
芝を跳ねて転がった漆黒の少女を、観客席から飛び出して間近で見た時にターフとレーンに付着した赤い液体にミホノブルボンは一瞬我を忘れた。
脚が大きく曲がり、骨が飛び出し、血に彩られたターフの上で動きもしなくなったライスシャワーの姿をミホノブルボンは忘れたことは無い。今でも夢に見るくらいだ。
そんな彼女が無事だったと事を知って、ミホノブルボンは思わず泣いてしまった。「私より泣き虫だなぁ、ブルボンさんは」とベッドの上ではにかんだライスシャワーには言われた。
―――もう一度、戻るよ。ターフに。ブルボンさんとレースがしたいから。
その瞳は自らを復帰できると信じて疑わない瞳であった。
揺るがないその意志にはミホノブルボンも彼女の復活を応援しなくてはと思った。
「もうライスシャワーさんは、走るべきではありません」
しかし現実は、容赦なくミホノブルボンの心を打ち砕く。
「もし次に骨折をしてしまえば、今度こそ命は――――」
気が付けば、ミホノブルボンは病院の外にいた。
自分が怪我をしたわけでもないのに、頭を打ったかのように足元が覚束ない。
空を見上げれば、鉛色の空が広がっていた。気温も低く、今にも雨が降って来そうな、そんな雰囲気だ。
「……どうして、どうしてライスさんが」
ぽつりと、零した言葉と同時に一粒の水滴。
それを皮切りにぽたぽたと、無数の雫が降り注ぐ。
――――どうして、彼女がこんな目に逢わなければならないのか。
世間にヒールと呼ばれ、苦しんで、ようやく大きなレースに勝ち、皆から祝福されるウマ娘となり、やっと楽しい世界が彼女を待っているはずだったのに。
「――――ッッ!!」
ゴリッ、とミホノブルボンの拳が壁を叩く。ウマ娘の力で行われたそれはミホノブルボンの怒りをあらわしていたのか、その部分だけが大きくめり込んだ。
破片が皮膚を裂き、雨水と一緒に血が地面へと流れていく。痛みを感じるよりも別の感情がミホノブルボンの痛覚を遮断する。
もう一緒に走れないというのか。
もう一緒に競い合えないというのか。
いや、下手をしたら次の骨折で取り返しのつかない事になるかもしれない。
二度と、ライスシャワーと会えなくなるかも知れない。
「そんなの、いやだ」
ぎゅう、と拳を握って最悪の結果を必死に否定する。
それだけは、決してあってはならないことなのだと。
故に、ミホノブルボンはシュミレートする。
どうすれば、ライスシャワーにとって最悪を回避し、最良のルートを導けるのか。
(きっとライスさんは医者のいう事を素直に聞かないでしょう。きっと、どこかでリハビリを行ってでも復帰に努める筈。
とても、頑固な性格ですから……私との約束がライスさんを奮い立たせている……私が走る意志を見せ続ければするほど、ライスさんは走る事を決して諦めない、なら―――)
制服が水気を吸って重くなりながらも、ミホノブルボンは歩き出す。
決意を秘めた瞳にはもう自身でやるべきことを考え出していた。
迷いは無い、後は進むだけ。きっと、これが自分に出来る最良の方法。
「申し訳ありません、ライスさん……ライスさんとの約束、どうやら果たせそうにありません」
〇
「調子は良さそうだな、ブルボン」
「はい、マスター」
西日が照らすターフで流暢に話して見せるブルボンは坂路走を終えたばかりだというのに僅かに肩を上下させるほどだ。
ウマ娘にとって坂路走はスピードとスタミナを強化するハードトレーニングであり、日に何本も行うことは出来ない。
普通のウマ娘ならば日に2本をこなすがミホノブルボンは4本こなす。
怪我からの復帰後はコンディションに波が出来ていたがトレーニングメニューを高負荷で本数を少なめに。短期集中だ。以前のように無理にトレーニングを行えば再び骨折のリスクが高くなる。
引退レースとなる宝塚記念を前に調整を行ってはいたが、坂路走の本数はミホノブルボンたっての願いだった。
悔いを残したくないのか、日ごろ行っているルーティンを崩すことはしたくなかったのか。
なんにせよ、レース本番の週にミホノブルボンの仕上がりはベストコンディションを迎えつつあった。
正直、ここまで復活できるとは思えなかった。と、ミホノブルボンのトレーナーは右手に握ったストップウォッチの数字を見る。
怪我明け一発目、目に見えてスピードが落ちたこのタイムを見せつけた時、膝から崩れ落ちて明らかに落ち込んでいたミホノブルボンの姿は今でも思い出せる。
今のタイムは現役時代と同等か、それ以上のキレを見せる程に復調することが出来た。積み重ねた勝利の数、故に現役では最強と周囲から評価される程に。
だからこそ、トレーナーは言うのである。
「惜しいなぁ……」
怪我を乗り越えて復活したミホノブルボンのレース人生を支えることがトレーナーである自身の役目だと思っていた。
宝塚記念だけではない、天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念だって、ミホノブルボンというウマ娘がこの先のレースで多くのタイトルを獲得する光景を想像することが出来てします。
引退の話を持ち掛けられた際は酷く動揺し、何度か思い留まるように話し合ったこともある。
だけど、彼女は覚悟を決めてしまった。
大切な友人の為に。
自らが引退する事でその友人が2度とレースに復帰を目指すことがないように。
引退を打ち明けた時の彼女の顔はどこか泣きそうで。
何者に変えられない願いが込められてる気がして。
トレーナーである自分は、それ以上引き留めることが出来なかった。
坂路トレーニングを再開しようとするミホノブルボンがこちらを見て口を開いた。
「私の我儘を聞いてくださり、ありがとうございます。マスターの期待を裏切る形になってしまいましたが」
感謝のようで謝罪のような言葉だった。
大丈夫。こちらはもう踏ん切りがついている。ミホノブルボンがレース界を去る事は気持ちには出さないと決めたし、それによってミホノブルボンが調子を落とすような事があってはならない。だからトレーナーである自分はいつものようにいつもの表情で答えて見せるのだ。
「これが、お前の覚悟なんだろ、ブルボン。これは自分の意志で確かに決めたことだし、俺はそれを尊重するよ。全力で最後までお前をサポートする」
「YES、master」
「とは言っても、前期の総決算レースだって言うのに宝塚記念のメンバーはあまり実力のある娘が出てこないのは意外だったよ」
「推測するに、多くの陣営が今の私とレースするのは避けられていると」
「ブルボンが強くなった証拠だ。誇ってくれ」
最強、ミホノブルボンが宝塚記念に出走するにあたり確認した出走リストには有力候補というのは多くはなかった。G1獲得した実力あるウマ娘はわずか数名ほどで他は重賞レースには出ているものの今のミホノブルボンには脅威にはならないといっていい。思惑はいろいろとあるだろう。コンディションの調整や次のレースを視野に入れているか、勝ち目がないレースは極力回避することを選んだか。
「ブルボン、誰か気になる?」
「はい。クラシック路線の娘で一人だけ」
「そうか」
きっとそれは今年の皐月賞ウマ娘、ブラックサンダーの事なのは聞かずとも分かった。
大胆にも、現役で最強と名高いミホノブルボンに勝利宣言をして見せたクラシックのウマ娘。
脚質はミホノブルボンと同じだが、皐月賞以降のダービーでは2000m以上の距離に不安あり、と言う感じだった。
ダービーと皐月の間の距離である宝塚記念ならば、持ち前のスピードで逃げ切れると向こうの陣営は踏んだかもしれないが、まだまだ甘い。
ベテラントレーナーである自分の眼からでも分かる全体的な足りない、と言う感覚。
クラシックG1とシニアG1のウマ娘との間には技術、体力は覆しがたい差が存在する。
何を根拠に勝てると踏んでこの宝塚記念に乗り込んできたのか、または自分たちの知らない所で、公にされていないブラックサンダー必勝の策があるとでもいうのか。
あるいは、
「これが若さか」
「?マスター?」
「いや、なんでもない……仕上げに入ろう、ブルボン」
「了解」
危険を顧みず、己の持ちうる武器を最大限に発揮し、実力差を気力でカバーする。
冷静な計算と試行回数に基づいた論理的なモノなど投げ捨てた無茶で無謀な勇往邁進。
思えば、クラシック期の自分とミホノブルボンも同じだった。
前例などない、短距離路線から中長距離路線への変更と、栄光のクラシック3冠ウマ娘への挑戦。
傍から見れば無謀なものと思われたかもしれない。
だけど、自分はひたむきに夢へと駆けるミホノブルボンに彼女ならば出来る、と信頼したはずだ。
その信頼で3冠は無理でも、自分たちは確かにその玉座に王手を掛けていたのだ。
故にブラックサンダーは、クラシック時代の自分とミホノブルボンと『同じ』、なのだろう。
そして、シニアへと移るに変わって自分たちが置いてきてしまったモノなのかもしれない。
サッカー選手が年齢によるスタミナの低下やスピードの減退をカバーする為にパスやフォーメーションなど、肉体とはかけ離れた技術を磨こうとするように。
「ハァッ!!」
坂路の土を蹴り上げるその音はミホノブルボンの物で、疲労が溜まっているにも関わらず1本目と変わらないスピードで坂を駆け抜ける。キレの良さから今日イチのタイムが出る事は明らかだ。
ふと、彼女を見て思う事がある。きっと若さを置いてきたのは自分だけなのだと。
だって、走っているミホノブルボンはまだ最後の最後まで勝利を望んでいるから。
次のレースでキミのレースが見れなくなってしまう事を悲しく思う。
ターフでキミの姿を見れない事が、学園で声を交わすキミとの日々が終わってしまう事に寂しさを感じる。
終わらなければと思ってしまう。
いっそのこと、この気持ちをキミに打ち明けてしまえばと思う。
けれど、自分は……ミホノブルボンのトレーナーだから。
ウマ娘の勝利を願い、導く者だから。
キミの最後の花道を必ず勝利で彩って見せよう。
ある程度の曇らせは必要だと思います(暗黒微笑)。
競馬ってやはり素敵だと思います。有馬記念は小倉の場外馬券場から見ていましたが後方からの第4コーナーでの完璧な位置取りに叫ばずにはいられませんでした。
2022年の日本ダービーからドゥデュースという馬を追い続けて本当に良かったと思います。4枚の諭吉が私に見せてくれた最高の有馬記念だと思います。
今年もよろしくお願いします。
大外ルメールを何故私は信じられなかったんだ。
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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