宝塚記念本番も迫る中、ミホノブルボンのトレーナーはある人物に呼び出されていた。
既に学園で生徒達はレース場でそれぞれのメニューを行っている時間帯。本来なら、彼自身も本番に向けたミホノブルボンの調整を行うべく練習には顔を出しておきたいのだが、呼び出した相手が相手であった。
『急に呼び出してしまい申し訳ない、ミホノブルボンのトレーナー』
2メートルを超える黒の巨大な体躯。それがミホノブルボンのトレーナーを呼びつけた正体。
今度宝塚記念で激突するウマ娘、ブラックサンダーのチームのトレーナー、ミスターXだった。
「宝塚記念の調整で忙しいのはお互い様でしょう。チームの子たちにはメニューは伝えていますし、皆を管理してくれてるサブトレーナーもいる。
それにミホノブルボンは調整もほぼ仕上がっていて俺が手を加える必要がないくらいですよ」
『そうですか。聞けばミホノブルボンは貴方にとって一番最初の担当ウマ娘、これもトゥインクルシリーズで培った信頼が為せるものですか』
「ええ、俺は彼女を信じてますので」
本心は付きっきりで傍に居てあげたいのだが、それを口にしないのはこれから戦うトレーナー同士、自身のウマ娘に対してのコンディションを悟られまいと考えての事だ。
引退試合の調整で少しでも弱気な部分は見せられない。ミホノブルボンが戦う上でのマイナス要素を一つでも生み出してはならないのだ。
『車に乗りましょう、少し移動します』
ミスターXに言われるがまま、彼が手配した黒塗りの高級車に乗り込んでいく。
運転席の方に目をやると、年配の老人運転手の顔に見覚えがあるような気がした。
『……』
「……」
とにかく目的地に着くまでは退屈、というかどちらかというと苦痛だった。
何故か急にミスターXが喋らなくなり、だんまりを決め込んできたからだ。
社交辞令的な挨拶は交わせるから世間話を振ってくるかと思いきやひたすらに無言を貫く。
こちらから話を振ろうにも何を話したらよいか分からなくなる。
あの不気味な仮面と巨大な体躯に圧倒される。
何かとこちらの出方を疑っているのだろうか、それともトレーナーによる心理戦を仕掛けられているのだろうか。
なら、こちらも下手に話しをして動揺しているのを悟られるより断固とした気構えで座っていた方が良いだろう。
「え?」
するとどうだろう、眼前に現れたのは一つのグラス。空のグラスだ。
無機質な機械アームがミスターXの左肩付近からビックリ箱よろしくパカりと開いて伸びている。
ミスターXは自身の懐に手を伸ばすと一本の瓶をこちらに見せ、
『どうでしょうここで一杯。ロマネコンティです』
「わ、ワイン?なぜ!?」
『?ああ、左肩部には容量は少ないですが小型の冷蔵庫が設置されてまして。後一本は入っていますが、ウィスキーもあります』
「そういうことじゃなくて!!」
いけない、これでは向こうの思うツボだ。
非人間的な光景を目の当たりにさせてこちらの動揺を誘っている。
乗ってやるものか、これでも10名のウマ娘を抱えるチームの中堅トレーナーだ。
これくらいの揺さぶりどうってことない。
『……ふむ、酒は冗談です。まだ勤務時間中ですから。しかしお互い口が堅い様子でしたのでアルコールの力を借りてフレンドリーになろうかと』
酒の力を借りなければ会話が出来ないタイプなのだろうか、と一瞬思い浮かばせては頭を振って否定した。
人間味のない見た目ながらも、中身は随分と人間的な部分なのかと。いや、実際は人間なんだろうけど。
『着きました』
「ここは……」
トレセン学園から離れるように走っていた車が減速し、停車する。
車から降りたミホノブルボンのトレーナーはその普通とは明らかに違う高級な邸宅を見て、学園から車に乗る際の違和感を思い出す。
そう。あの年配の運転手はたしかメジロのウマ娘がお抱えの執事。
という事はここは、メジロ邸か。
いったいこの男、ミスターXとメジロ家にどんな繋がりががるのだろう。
得体の知れない男と聞いていたが、ますます不気味さが増す。
そして尚疑問が浮かぶ。メジロと名の付くウマ娘が集まるこの場所に自分が呼ばれた理由が。
『メジロ家専用』
やたら豪華な門をくぐってまっすぐ進み、専用のレース場から少し離れた場所にある巨大な施設はトレーニングルームなのだという。
トレセン学園にある屋内トレーニング場と同等の規模ではないかと、学園とは関係なしにこれほどの施設を有するメジロの者達が実に羨ましいと感じずにはいられない。
なかから器具が激しい音を立てているのが聞こえる。きっとメジロ家のウマ娘がトレーニングをしているのだろうか。
「ふーっ……ふーっ…!!」
垂直に設置された黒色の鉄板に脚を置いて、背もたれに掛かりながら重りの付いた板をゆっくりと押しては戻し、押しては戻し手を繰り返している。
大腿四頭筋、大臀筋を鍛えるメニューの一つであるレッグプレスを行うライスシャワーは息を吐いて、吸っては一定のリズム。
しかし、その顔には大量の汗が流れ、床へ落ちていく。
一体、どれほどのセットを繰り返しているのだろうか。
ギチギチと鉄板に括られた重りが軋む音を立てながら、ライスシャワーは歯を食いしばりながらセットをこなす。
ライスシャワーのトレーニングを観察して、ある事に気付く。それは彼女の動かしている重量だ。
『彼女がこなしている重量は現役ウマ娘が行うウェイトトレーニングの約半分です。今のライスシャワーにはジュニア級程度の筋力も残っているかが怪しい』
ミスターXの言う通りで、その重さは一般の人間が行うにはあまりにも多すぎる重量ではあるがウマ娘からしてみれば、あまりにも軽すぎるメニューだった。
衰えた筋力を再び復活させるのは容易ではない。特にライスシャワーは怪我をしてからは一切トレーニングの類をしていなかった筈だ。
『いいえ、トレーニングは続けていました。この、メジロ邸で』
「なぜ……」
『ミホノブルボンとの、再戦を彼女は望んでいる』
ミスターXの電子音声から穏やかさが消え去った。
これまでの会話が嘘だったかのように場の空気がひりつき始める。
突如、何かが倒れる音がした。ウェイトを漸く終えたライスシャワーが器具から離れようとした瞬間、床に倒れたのだ。
「ライスさん!!」
補助として傍に居たメジロのウマ娘が慌ててライスシャワーに駆け寄る。
あのウマ娘はメジロマックイーン、トウカイテイオーやライスシャワーと激闘を演じて見せたメジロ家最強のステイヤーだ。
ライスシャワーは尻もちをついただけで、大きな怪我はなさそうだった。
息が荒いが、確かに笑顔で、
「え、えへへ、大丈夫だよマックイーンさん。ちょっとクラっとしちゃっただけだから……へへ」
「ですが……もうトレーニングを始めてから既に3時間を経過しています。一度休憩を挟むべきです!無理をして身体を壊してしまっては……」
「まだ、まだやれるよ…弱いままのライスなんかじゃダメ……つよくならなきゃ、いけないんだ……」
再びライスシャワーがトレーニング器をセットする。先ほどと同じバーベルを肩に乗せて、安全バーから離れてから一気に腰を落とす。
ウマ娘であればこなせるであろう重量も今のライスシャワーからすればかなり堪えるレベルだ。
「…ぐ、ぐぅ…っぅ」
予想していた通り、ライスシャワーの顔に苦悶の表情が浮かび上がる。重量を支える脚も次第に震え出した。このままでは怪我をする可能性だってある。
今すぐにでもあの助けに入るべきかと考える。
『リハビリに最も必要なのは優秀なトレーナーでも、医療スタッフでもなく、“復帰したい“という本人の強い意志だ」
隣にいた黒の巨体が、ここぞ言わんばかりに口を開いた。正確には電子音声を発していたのだが。
『私はあのレベルの怪我を負った競技者を今まで何度も目にしてきた。当然、私の知る限りでは殆どの者が学園を去ることを余儀なくされた。勿論、誰もがすぐに決めた訳じゃない……長すぎるリハビリの期間と復帰後に自分がレースに出て、活躍できるヴィジョンが浮かばない、そうやって次第に諦めていった」
そうだ。怪我から復帰することすらとても難しいことだ。ましてやそれでレースに勝ちたいなんて言うのは。
だからこそ、全てを成し遂げた者が起したソレを、「奇跡」と言いたくなるのだろうか。
「彼女が奇跡を起こせるとでも……?」
『現実的には医者もサジを投げた程だ。メジロ家の者達が協力してくれているが、砂漠から小さな砂金を探すほどの難易度とのことだ…つまりーーー』
可能性は決してゼロじゃない。と言うことなのだろう。
絶望の中で希望が、暗闇を照らすような光が見えた気がした。
だけど、すぐにミホノブルボンの顔が脳裏を過ぎる。
誰よりもライスシャワーが帰って来る事を望み、だけど守る為に自ら引退するほどの覚悟を決めた彼女の顔が。
「ミスターX、俺を揺さぶるためにここに連れてきたんですね……少しでもミホノブルボンの決意をブレさせるようとトレーナーである私にライスシャワーが復帰できるかもしれないという可能性をチラつかせて……でもね、アイツは負けませんよ」
トレーナーは続ける。
「アイツが誰よりもそうなる事を望んでいて、それでもライスシャワーの為に引退する事を選んだ。きっと、悩み抜いた末に導き出した最適解。
ならトレーナーとして、俺がすることはただ一つ……担当の願いを叶えてやること」
『あくまで担当の意志を尊重するか……だが、トレーナーである貴方の想いはその胸に隠したままでいいのか。世間よりも、他のウマ娘より、担当トレーナーだった貴方こそが、彼女の引退を望んではいないのだろう?』
「それでも、俺はミホノブルボンのトレーナーだ」
睨みつけるように視線を送ったその奥で、先程までバーベルを上げることに苦戦していたライスシャワーがガッツポーズで大喜びしている姿が見えた。メジロマックイーンも自分のことのように喜んでいる。どうやら、限界乗り越えたようだ。
回復へ一歩前進したことを、こちらとしても喜ぶべきなのだろう、だけどその気持ちも表には出さずに足早にミスターXとメジロ邸を後にした。
トレーナー同士でバチバチやってるシーンってあまり描写少ないですわ。スピードヴィヴロス揃えたのに唐突にスティラインラブという反則サポカの登場に涙がで、出ますよ...色んなウマ娘たちに3着目が来てるんでそろそろグラスちゃんにも3着目来ませんかね。新シナリオそっちのけでジュエル解放する準備はできてるんだぜこっちは。
そろそろ出走...まだ時間かかりそうですかねぇ...
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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