僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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スティラインラブ、完凸させちまったよ...ふひ



虹結晶無くなってしまった。


61.無事之名バ

「そうですか、リハビリは順調なんですね。ライスシャワーさん」

 

「う、うん。来週からはもう少し負荷を上げても良いってお医者様も言ってたから」

 

 宝塚記念が行われる京都レース場、そのスタンド席で話していたのはグラスワンダーとライスシャワーだ。 

 グラスワンダーはミスターXがブラックサンダーを送り出した後にどこか1人で観察するらしいからグラスワンダーは必然と単独観戦になる。

 

 同じチームメイトのアグネスタキオンはどうしているかというと、トレセン学園のトレーナー室かラボのテレビでこのレースを見ていることだろう。

 

 観客の熱気で溢れているスタンドでどこを陣取ろうかと辺りを見渡していたところ、端っこで座っていたのがライスシャワーである。

 

 彼女もまた自分と同じく、宝塚記念を走ったウマ娘だ。

 不思議なことだが、グラスワンダーはライスシャワーに対して何かを感じることがある。それは、決して言葉でいい表せないが敢えて言うなればーーー『運命的な何か』だろうか。

 

 

 なんやかんやで、グラスワンダーは声を掛けずにはいられなかったのである。

 

「ぐ、グラスさんも復帰目指してるんだよね?最近、練習でターフを走ってたから」

 

「ええ、エルやスペちゃん達にも手伝ってもらって併走させてもらいながら。全力で疾走することも出来るようになってきたのでミスターXトレーナーも夏明けにレースを組みたいと言っていました〜」

 

 脚の怪我による痛みはもう残っていない。グラスワンダーのリハビリも順調であった。

 だが療養期間が長かったために、身体の鈍化だけが酷く残っている。同期たちとの並走練習では序盤ではついて行けるが後半のスパートになるとどうしても仕掛けが遅くなってしまうのが悩みだ。

 

 スペシャルウィークからは、

 

『凄いよグラスちゃん!前よりタイム良くなってるよ!』

 

 エルコンドルパサーからは、

 

『ハッ!スペちゃん、甘いデース!グラスの末脚はこんなものじゃないデース!

 スパートのタイミングもスピードもベストコンディション時よりも遥かに劣りマース!

 遅い!鈍い!緩い!

 ついでに身体が重そうデース!グラスは豚デース!』

 

 とんでもない罵詈雑言のセットが飛んできたので無言で締め上げてやった。

 しかしエルコンドルパサーは謝ってきたが彼女からは反省の色が見られなかったため、グラスワンダーは模造刀を目の前に置いて「腹を斬れ」と言ってやるとエルコンドルパサーは咽び泣いて土下座をしてきたのだった。

 

「あ、グラスさん、どて煮……どう、かな?食べ、る?」

 

「良いんですか〜、ではお言葉に甘えて一つ……私のつくもうどんも食べてください♪」

 

 お互い、テイクアウトしたファストフードの一口を交換していく。女の社会がどうととかではなく、互いに気遣った故に生まれた行動だ。

 

 それぞれのレース場には観客達のために飲食店が展開しているのだが某チェーン店から老舗のものまで多種多様。

 レース場ではこういったグルメを食べることも楽しみ方の一つだ。レース場に行ったことがない人は是非とも体験してきてほしい。

 

「応援、しづらいですか」

 

 一口交換のあとグラスワンダーは聞いた。ブラックサンダーとミホノブルボンのどちらを応援しているのか。

 事情は聞いている。ブラックサンダーに宝塚記念へ出走し、ミホノブルボンを倒すことで彼女の引退を撤回させることになったことを。

 

 ライスシャワーにとって、ブラックサンダーは勝ってほしいが、ミホノブルボンは彼女のライバルで友人である。

 本音のところはどうなのだろうか、気になるところではあったのだ。

 

「……どっちも頑張ってほしい、けど。分からない、かな」

 

 その視線をターフに向けてライスシャワーは言った。

 

「ブラックサンダーさんに勝って欲しくて、ブルボンさんにも勝ってほしいライスがいるんだ。最後だけど、強くなったブルボンさんには、なんでかな、負けて欲しくない、みたいな」

 

「それは……」

 

 真っ直ぐに注がれる熱を秘めた視線はミホノブルボンへと注がれていた。好敵手の存在への執着心は怪我をしてもなお、ライスシャワーから失われていないことをグラスワンダーは悟る。

 

 自分はまだ心が折れていない。

 まるでミホノブルボンは自分が倒すんだと言わんばかりに。 

 

 そんな静かな気迫に、グラスワンダーは息を呑む。

 これが二度の天皇賞を制した漆黒のステイヤー、ライスシャワーなのだと。

 

「ところで、グラスさんは……ブラックサンダーさんに、抱かれたの?」

 

「んん゛っ!?」

 

 グラスワンダーは飲んでいた麦茶を吹き出しそうになって胸を思いっきり叩いた。

 隣にいたライスシャワーが大慌てでグラスワンダーの背中を摩る。

 

「ご、ごめんね!びっくりさせちゃったみたい……」

 

「い、いえ……ら、ライスさん、何故そのような....」

 

「え、えっと……ライスはまだ抱かれたことなくて、たしかグラスさんはブラックサンダーさんに抱かれたこと、あったんだよね?」

 

「あ、ありますが、ありますけど!語弊があるというか……その、抱くというのはハグされたという意味で、いや、確かに抱かれたといえば、抱かれてますけ、どーーー」

 

 

 文字通り、お茶を吹き出しそうになるインパクトある問いにしどろもどろに返答していたグラスワンダーは思い出す。

 ミホノブルボンにブラックサンダーが勝つと、ライスシャワーがブラックサンダーに抱かれるのだということを。

 

 ブラックサンダーが勝てば公約通り、ライスシャワーが抱かれる。

 

(そういえば、トレーナーさんが……ブラックサンダーさんが負けた際にミホノブルボンさんは何も要求しないのでしょうか)

 

 ここまで世間を振り回し、自身の引退レースにまで喧嘩をふっかけて来た相手に何もしないままで終わることはあるのだろうか。

 

 グラスワンダーは考える。敗戦国には言い訳する余地もないのだと、勝利者こそがジャスティスなのだと、どこかの映画で見た。そうであれば、と一つの結論に辿り着く。

 

 

(ブラックサンダーさんがミホノブルボンさんに抱かれる!?)

 

 NTRデース!というどこぞのコンドルパサーウマ娘の軽快な幻聴が聞こえる。

 

 なんということだろう、チームメイトである彼女を応援することは至極当然のはずなのに、常に淑やかに優雅たる大和撫子のグラスワンダーは酷く迷いが生じていた。 

 

(くっ…!ブラックサンダーさんが勝利すればライスシャワーさんが抱かれ、負ければブラックサンダーさんが抱かれる!私はどちらを応援したら!)

 

 グラスワンダーの思考回路は既にパニック状態になっていた。

 日アサのほんわかムードのアニメの後半で鬱要素を急にブチ込んできたことに酷く困惑するネット民みたいな。

 

「もう、こうなったらブラックサンダーさんを斬るしか」

 

 メダパニにでもかかったグラスワンダーの結論は最早破滅思考だった。

 どう足掻いても貴様が抱き、抱かれる結末しかないのなら誉ある内に自らが裁くしかないと。

 

「め、目がぐるぐるしてるよグラスさん!え、えーっとライス変なこと言っちゃったみたい……あ、ほ、ほら見てグラスさん!あ、あの坂!淀の坂っていうんだよ!ら、ライスが転んだところ!な、なんちゃって!!」

 

 

 ライスシャワーの決死の直滑降とも呼ぶべきギャグを皮切りに、なんとか掛かりを収めたグラスワンダーであった。

 

 

「そういえばライスさんはどうしてゴール付近ではなく、この第4コーナーで観戦を?」

 

 グラスワンダーは彼女をここで見つけたとき、最初に浮かんだ疑問であった。

 ゴール前付近でレースの勝敗を見届けるためにあの場所い集まる観客は多い。

 

 若干ゴール付近から遠いがスマートシートとなら全体を見渡せる。なのにライスシャワーはゴールよりもウィナーズサークルよりも遠い4コーナーの付近で観戦していたのだ。

 

「ここからなら最後の4コーナーも見えるけど、第3コーナーから降っていく皆の姿が見たくて、ちゃんと最後まで無事に帰って来れますように」

 

 祈る。両手を握り、これから走るウマ娘達を見つめながら。

 

「あ……」

 

 グラスワンダーは最近知ったことがある。近年、ウマ娘がレース中に怪我をすることが多くなって来ていることを。

 

 その怪我もただの怪我ではなく、転倒したり、体調不良からレースを諦めなければならないほどの怪我だ。

 学園の理事長は何度か祟りか何かだと、関係者総出でお祓いをしたらしい。

 

 近年の高速バ場や硬い土、キツイ試合のローテション、全て因果関係ないとは言い切れない。これでも昔のレース当時よりは怪我をする頻度は減った方らしいが。

 

 

 ライスシャワーは今日このレースに挑む者たち全てが無事に帰ってくることを願っているのだろう。

 きっとこれはこの場所で怪我をした彼女にしか出来ないことなのだと思っているのかも知れない。

 

 出走を告げるファンファーレが鳴り響く。 

 音楽隊によって奏でられた美しい音色が午後過ぎの京都レース場上空へと響き渡った。

 

「私も、祈らせてもらっても宜しいですか。そうですね、無事にレースが終わること、まずはそれが一番です」

 

「うん」

 

 祈るのは彼女達ウマ娘だけではない。

 現地で、メディアを通して、あらゆる場所からこのレースを観戦している者達の中には必ず、2人のように祈っているものがいるはずなのだ。

 

 

『不思議な感覚です。私はてっきり今年は阪神で宝塚記念をやるものだと思ってました。

 何の因果か分かりませんが、この宝塚記念というレースで大怪我をしてしまったライスシャワーの事はまだ記憶に残っている人もいるのではないでしょうか。

 そして、ライスシャワーのライバルだったミホノブルボンは、本日がラストラン。

 有終の美を飾れるか、そして何より解説の芝内さん、勝利することも大事ですが、全てのウマ娘に共通して言える事は、とにかく無事に戻ってきて、また次も走って欲しい!』

 

『そうですね。"無事之名バ"なんて言葉があります。

 全ての出走したウマ娘達が無事に帰って来て、次もそのまた次のレースも!彼女達が走ってくれることを願いましょう。

 さぁ最後、10番のブラックサンダーゲートに収まり体勢完了、前期トゥインクルシリーズ総決算、アナタの夢が走る宝塚記念----今、スタートしました!』

 

 

 

 

 




怪我に対するメンタルならライスちゃんは3冠クラス。

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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