僕自身がウマ娘になることだ   作:バロックス(駄犬

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今年も有馬記念が終わりました.私の夢、レガレイラちゃんがちゃんと1着になってくれて感無量です.シャフリヤールは流石はダービー馬と言ったところでしょうか。無事に買ってません。
タコ負けして絶望した去年と違って今年の有馬記念はとても楽しめました。また来年有馬記念でお会いしましょう。
ドウデュースくん、今まで夢をありがとう、絶対会いに行きます。


63.淀の坂を駆け上がれ

 ナリタタイシンは思った。ちょっとまずったな、と。

 

 スタート直後の出だしは良かった。京都で行われる宝塚記念は自身でも二回目であり、以前の敗北から無理しない位置で内につければと考えていたのが甘かった。

 想像以上に内側への進出する者達が多く、最内と言うことも災いしナリタタイシンの真後ろにも1人がついたため、内側のポジションに包まれる形になってしまった。

 

(囲まれてるし、隊列長いし、離されすぎたらラスト末脚使ってもまた届かなくなるな、これ)

 

 以前の宝塚記念も後方一気頼りにして外に持ち出していたが前目を早めにスパートを賭けていた連中にはほとんど届かなかった。ライスシャワーの転倒があったこともあり、その時は最下位だったのは苦い思い出だ。

 結局ナリタタイシンは最後のスパートまで身動きができない状態である。無理に動こうにも、それだけでスタミナが削られて最後まで持たないのは過去の経験から立証済み。

 隊列がブレて、進路に穴が開くような現象が起きない限りは、この時点でナリタタイシンの勝率は3割を切ったようなものだろう。

 

(ブラックサンダーはミホノブルボンの真後ろ、いい位置についてんじゃないの)

 

 10バ身以上の差がありながらも、先頭集団の姿は捉える事ができる。白い逃げウマ娘を追う黒の勝負服のブラックサンダーはレース前の雰囲気はいつもと違っていた。

 学園ならば出会い頭にウィニングチケットばりのでかい声でこちらに抱きついてくる、アホな行動をしてくるはずが。

 

 

 声を掛けることも阻まれるほどに、彼女は集中していたのだった。

 表情も、後ろ姿も、纏うオーラも、全神経がこのレースに向けられている様子にパドックから今まで、声をかけることができなかった。

 

 とてもクラシックのウマ娘が放てるようなものじゃない。それだけ、ブラックサンダーは宣言していた通り、ミホノブルボンを倒す気でいるのだろう。

 

 

(あー、なんだよ!これじゃあアイツに萎縮してるみたいじゃんか!ミホノブルボンにも、ブラックサンダーにも!馬鹿かアタシ!)

 

 負けん気の悪さはこちらとて譲れないのだ。ナリタタイシンは自らを鼓舞した。自分より後輩がアレだけ覚悟を決めた走りをしているのだから、先輩の自分が勝率だの、展開で諦めるだのほざいていたら、それこそ皐月賞ウマ娘の名が廃ると言うもの。

 

(絶対にそのツラを拝みに行ってやる!そして、最後に全て抜き去るのはアタシだっ!)

 

 

 最初のコーナーを抜けて直線へ。この直線は最後の坂を登る前にウマ娘が息を入れる。そのため全体のペースは少し緩みがちになるのだ。

 ここでいかに効率的に前に進みつつ、息を入れれるかが、勝敗を分けると言っても過言ではないのである。

 

 

⚪︎

 

 

 ミホノブルボンの輝かしいトモを見つめながら、僕はただひたすら牙を研ぐ。

 スリップストリームによる体力温存、新走法によるエネルギーの節約。全てはミホノブルボンが最後に仕掛けるであろううタイミングに併せて動き出せるように。

 

 

「はぁっ…!ふぅ…っ!ヒィ!」

 

 コーナーを抜けて直線に入るとミホノブルボンの更に奥で走るカラミティチェスの息継ぎが聞こえた。ペースが若干緩んだ気がするのは、偶然ではない。

 京都レース場の残り1200mからは高低差3.9mの坂を400mほど登り続けなければならない。ここで息を入れておかなければ最後の直線で駆け抜けるためのスタミナを残せないのだ。

 

 

 だが、恐らく彼女は決死の覚悟で誘いを掛けたのだろう。

 ステイヤーの体力を活かし、ミホノブルボンだけでなく、他のウマ娘達も釣られることを願いペースを上げていた。

 しかし、誘いに乗るのは誰もおらず、ただ悪戯に体力を消費しすぎた彼女にはこの坂を超えた後に直線を全速で駆ける力は残されていない。

 

 

『さぁレースは最初の1000mを通過しましたが、ここで先頭のブラッディチェスの通過タイムは57秒6!57秒6です!ステイヤーとしてのスタミナ勝負に持ち込んだかブラッディチェス!しかしこのタイムは早い!宝塚記念は中盤へと差しかかります!先頭ブラッディチェス、その3バ身後ろにミホノブルボン、真後ろを追跡ブラックサンダー、1バ身開いてヘッグドウィーーー』

 

 レースの駆け引き、とでも言うのだろうか。カラミティチェスの宝塚記念はわずか900mほどで終わった。その事実だけが残ったのである。

 

 

 背中を刺すような凍てつく殺気は背後のウマ娘達から発せられていことに否応にも僕は気づいた。もちろん、それが僕ことブラックサンダーではなく、ミホノブルボンにたいしてなのだと言うことも。とんでもないとばっちりを食らったものである。この極度の緊張感はまるで薙刀を持ち怒り狂ったグラスワンダーに追いかけられるかの如しだ。

 

 虎視眈々と進出するうタイミングを見計らう後方勢。だが仕掛けどころは分かっている。坂の上りどころである1200m。

 この距離を目安に後ろのウマ娘達もロングスパート。ここまで溜めてきた脚を使って坂を超え、その勢いのまま下坂を活かした加速で一気にゴールを目指す。

 

 近年ではこの坂からのロングスパートが定石。故にこのレースで必要なのは一瞬の切れ味の末脚よりもトップスピードをどれだけ長く維持できるか。

 スピード持久を持ちえない者から順に最終コーナーを堺に直線で消えていく。

 

 

「まだ、まだまだまだ……!」

 

 

 1100m付近、坂に差し掛かる前に先頭のカラミティチェスが徐々にミホノブルボンに距離を詰められ始めた。

 ペースをさらに落として、最後の坂を登る準備か、彼女もまだレースを諦めてはいないらしい。

 

(もうすぐ坂の1200m、ミホノブルボンもここで必ず動き出すはず……そこに併せて抜け出してーーー)

 

 仕掛けの算段を立てる僕が思考したのはほんの一瞬。それは目の前のミホノブルボンとの距離が開いたように見えたのだ。

 減速したカラミティチェスとミホノブルボンとの距離が近づいていっているせいでもあるのだろう、距離感が錯覚を起こしているのだろう。

 

 

 だけど、感じるーー違和感。

 

 

(僕は信じよう、僕の感じた物を)

 

 

 これは直感である。それこそ、僕とシンボリルドルフとの模擬レースでシンボリルドルフがやってのけた危機察知能力。

 この局面を見逃したら、絶対にミホノブルボンに逃げられてしまうという不完全な確信と言うやつが僕にはあった。

 

 

 故に、前へーーー

 

 

⚪︎

 

 それは、目に見える形で表れる変化であった。

 

『1200m坂を登ろうという手前で!!ミホノブルボンが動いた!もう動いた!同時にブラックサンダーも併せてその背を追った!カラミティチェスを抜き去って、順位が入れ替わります!宝塚記念が!レースが動きました! 後続は?まだ動かない、中団もまだ固まったままだ!先頭の2人から、後続と1バ身差を開いた!』

 

 

 全ての観戦者、またはレースに臨む者達が思考した。それは早すぎるんじゃないか?と。

 だがこうも考える。ミホノブルボンは最後まで持たせる自信があるから動いたのではないか。

 

 強者達の思考は至極当然の物だった。後続の思考は前者と後者に分かれ、ミホノブルボンを追う者と追わない者が生まれる。

 

 しかし、その前者と後者の一瞬の思考が全ての動作に遅れを及ぼした。

 

 

 登坂に入れば、ウマ娘とて減速するハズがミホノブルボンはスピードダウンする様子が見当たらない。むしろ、これまでの平地での進行速度よりも速い。

 追いに入った他のウマ娘が視界にミホノブルボンを捉えるが、

 

 

『差が詰まらない!?ミホノブルボン後続を引き離しにかかります!しかし、問題はペース!直線を走り切る脚を残せているのか!?』

 

 決して遠くはない白の勝負服が一向に近づかない。むしろ、ミホノブルボンは更に遠くへ。

 蹴り上げた坂の捲り具合から伺えるミホノブルボンの脚力は引退を前にしたウマ娘とは思えない物だった。

 

 

「当たり前だ。あのウマ娘を誰だと思ってるんだ……ミホノブルボンだぞ?」

 

 遠くゴール付近に立つミホノブルボンのトレーナーは早仕掛けのスパートを繰り出す彼女を見て、そう呟いていた。

 

 

 坂路の申し子。

 

 ミホノブルボンを語る上で決して欠かせない異名。

 三冠レースを走破するために必要なスタミナ不足を補うために心血を注いだ坂路トレーニングはミホノブルボンの脚力を鍛え上げ、そのトモを強靭にした。

 坂路走では、彼女の右に出る者はいないと言う自負がトレーナーにはある。

 

 

 だがそれ以上に、ミホノブルボンは真っ直ぐに、努力したのだ。

 乾いた坂を、濡れて滑る坂を、踏み荒らされた坂を、ある時は雪の坂を。

 

 あらゆるコンディションを想定した坂を全速力で駆け抜けるトレーニングを積んできた。

 

 

 何本も。

 何十本も。

 何百本も。

 何千本も。

 

 もうすでに菊花賞3000mの距離なんて超えているくらい走り込んでいるのだ。

 負けるはずがない。負けるわけがない。

 

 

「常識は敵だ。だけど、お前はその常識と向き合い続けてきた」

 

 距離に泣かされた、なんて言われる。

 適正は短距離やマイルだったとか言われる。

 だけど、彼女は間違いなく己の意志でここまで来た。

 

 

 今のミホノブルボンならできる。

 そのロングスパートでも他を寄せ付けずに押し切る実力が彼女にはある。

 

 

「ぺースもタイミングも計算通りだ。あとは、全部出し切って来い。ターフに何も残したくないならな…やって見せろよ、ブルボン」

 

 

 トレーナーの視線の先、坂を登り切ったミホノブルボンが下坂から最後の直線へと向かう姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?

  • スペシャルウィーク
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • キタサンブラック(ロリ
  • サトノダイヤモンド(ロリ
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