和服ワンダー、いいですね…武士のような気高さだけでなく、花のような美しさを併せ持つ。お茶会に招かれたい。
21世代が軒並み引退してしまった悲しみが抑えきれない。誰か、たすけて。
「はっ…はっ…はっ……!」
熱が迫る。
熱に追われる。
前と後ろからの重圧を体全体でミホノブルボンは感じ取る。
殺気にも似たような、身を焼くような熱いソレは全てのウマ娘が抱く勝利への渇望だ。
それが今、最高潮に達そうとしている。つまりそれは、終わりが近いと言う意味。
京都の坂が目の前に聳え立つ。
傍目でもわかる、京都の1200m付近から目立つ、芝の急な隆起。
平坦な道を走り続けてきたこれまでとは打って変わったストロングロード。
ミホノブルボンが仕掛けるのはこの100m手前だ。
(本来1200mからの登りでスパートを掛け始めるよりも100m手前で仕掛けることでアドバンテージを確保。他のウマ娘と比較し坂での速度は私に分があります。距離アドバンテージを最大限確保した状態で坂頂上で一瞬の息を入れ、下坂を利用した最高速による直線を駆け抜け、勝利する)
それがミホノブルボンの勝利へのプランだ。
直線を走行し、前のカラミティチェス、後ろのブラックサンダーの間にいるミホノブルボンの動向を後続のウマ娘が察知して動き出すことは容易ではない。
いわゆるブラインドの役目を担うのがブラックサンダーとカラミティチェスだ。ことの重大さに気づく頃には取り返しのつかない距離差ができてしまう。
最終直線の短い京都でそれほどのアドバンテージを逃げウマ娘与えてしまうのは致命傷なのだ。
「ふッ…!」
ミホノブルボは行く。加速か垂れてきていたカラミティチェスを難なく躱し、先頭へ立つ。
後ろはまだカラミティチェスが垂れて来ただけだと勘違いし、こちらがロングスパートをかけてきたことに気づいていない。
坂を登る。
傾斜の始まる一歩を踏み出し、地を蹴る。重力の偉大さを感じるのは、もう少し先だ。
数十メートルあと、加速を与えるための脚が鈍り始める。なおも前に進むが負荷は脚だけではない、走る体の軸を形成する背、腰、膝、大腿。
果ては肺にまでも負担がいき、呼吸するのも辛くなる。
(ここは、ライスさんが走ってきた道)
漆黒のウマ娘、ライスシャワーが何度も駆け上がり勝利してきた坂。そしてレース中に骨折して、レースから離れることになった坂。
ライスシャワーの軌跡を辿るように踏み出す一歩一歩に力を込める。蹴り出す脚に合わせて腕を振り、減速を最低限のものにしながら着実に前へ。
自分の脚がライスシャワーのように折れてしまわないか不安になる。
今日この日を初めて、京都レース場で走ることを嫌だと感じたことはなかった。三女神の嫌がらせかと思ったほどだ。
「負けるな……!」
だけど、声聞こえた気がした。
自分を応援してくれるそんな優しい声がミホノブルボンに届いた気がして。
「頑張れ!」
それは自分のトレーナーの声のようで。
このレースをどこかで見てくれているライスシャワーの声のようで。
それを聞いたら不安も恐怖もどこかへ消え去って、力が湧いてきて。
気づいた時にはミホノブルボンは坂のピークをいつの間にか越えていた。
頭の中で何が起きたのか分からないミホノブルボンは即座にレースへと意識を戻し、ここまで稼いできた距離のアドバンテージを活かし、ラストスパートへ向け、行う。
「すぅーーー...」
坂を乗り越え、下りへと至る直前に息継ぎを行う。だが速度が間伸びしないように、気持ちが途絶えないように、息継ぎの時間は僅か1秒の間で行われる。
乾いた喉から肺、心臓へと酸素が供給される。酸素を欲した脳が活力を取り戻し、視界が少しだけクリアになる。燃え尽きる前のエンジンが再び活力を取り戻す。
準備は整った。
「今ーーーッ!!」
淀の坂の頂上からの踏み込みながらの下りはまるで崖に向かって飛び込むようなものだ。
脚にかかる負担もさることながら、加速した体をブレさせずに最後のコーナーを回り切ることは難しい。
故にミホノブルボンは絶好のポジションである最内の経済コースを進む。残るはゴールまで駆け抜けるのみ。
『ミホノブルボン、最後の時がやってきました。唯一先頭を走るミホノブルボン!今加速してトップスピードだ!今第4コーナーを悠々回ってなお先頭!このまま独走状態でレースを締めくくるのかーーー!?』
耳の中に飛び込んでくる何万を超えるであろう歓声。
コーナーを回りミホノブルボンの目に映ったのは四百数十メートル先に存在する見慣れた緑と朱色に彩られたゴール板。
勝利へのプログラミングは終了した。実行し、実現させるのみ。
決して油断しない、だが自分の前方を遮ることのない唯一無二の景色に気持ちの昂りを感じたのも事実。
最強ウマ娘、ミホノブルボンの勝利を阻む者などいない、誰もがそう思っていた。
「ーーーーーーッ!!」
背筋から与えられた圧に思わず意識が鮮明になる。
まるで冷気に当てられたかのような寒さと、矢で射抜かれたような痛さが一瞬にしてミホノブルボンの危機察知センサーに引っかかった。
誰かが、ついて来ている。
力強く、今にもこちらに迫る勢いで加速して。
そして、自分はこの足音を知っている。
力強い足跡、見なくても分かる。その踏み込みが、芝を盛大に捲り上げさせているのを。
(想定距離2バ身……1バ身…まだ近くなる…私のものではないどこかで聞いた覚えのある足音、まさかーーー)
1秒ほど、ミホノブルボンは流し目でその異様なプレッシャーの正体を目にする。
花の都に黒の髪を靡かせて、迫るは黒の勝負服。
(いるのですね、そこに)
『背後!ミホノブルボンの後ろから、ブラックサンダーが坂を利用して急加速!な、なんて加速だ!現役最強ウマ娘の花道に待ったを掛けるのは!逃げウマ娘、ブラックサンダーだぁ!!残り400m!完全に2人のマッチレースになりました!京都レース場、ボルテージは最高潮!!』
(これはデータに無いスピード……ブラックサンダーはこれを隠していた、という訳ですか)
追い切りの時点では明確なトップスピードは把握できていなかった。速いと言うのはこれまでのレース映像で把握していた。
だが、このスピードは今までのブラックサンダーの速さを、ミホノブルボンたちが想定していた成長分の速さを通り越していたのだ。
(それよりも)
そしてミホノブルボンが驚愕したのはブラックサンダーが放つオーラだ。非科学的だと、ロジカルではないとインテリウマ娘が飛びつきそうなことだが、彼女の纏う熱を帯びるオーラから鬼気迫るものを感じる。
それはまるで菊花賞で自分を倒したライスシャワーのような、お前を絶対に差すと言う執念のようなもの。
有り得ない、頭の中で分かっていても、ウマ娘としての内に眠る魂の部分でアレをライスシャワーだと認識してしまっている。
(最後の最後まで、あなたは私の前に立ちはだかるのですね……ならば、今度こそ振り切って見せます。私たちの全てに決着を)
「待たせたな……ミホノブルボン」
決意を胸に、前を向こうとしたミホノブルボンの視界は確かに黒の勝負服を捉えていた。
金色の瞳はこちらを見据え、雄弁に訴えている。
ーーー勝負だ。
情熱的に。
熱烈的に。
危機感を覚えるよりも、闘志に火が宿るのを感じて。
もう2人とも、ゴールのある前だけしか向いていないくて。
最終直線、最後の意地の張り合いが始まった。
この作品に季節モノがあまりない……唯一やったのってトレーナーがグラスちゃんに打首されるお正月のお話しかなかった気がする。
せっかく和服グラスが来たので和服グラスに熱々の餅を食わされながら新年を迎える短編とか作りたい。
次回、殴り合い宇宙(ターフ)
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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