稲妻は忘れた頃にやってくる。
『デイリー杯ジュニアステークス』。
G1レースである『朝日杯フューチュリティステークス』、『阪神ジュベナイルフィーリーズ』の関西圏内におけるステップアップレースの一つ。
名称、施行場、距離は過去に何度か変遷を経て、現在のレース名と芝、1600mの距離で固定されている。
ちなみにどうでも良いことだが2020年からは京都レース場の改修工事に伴う開催日割の変更によって阪神レース場で施行されている。
だけどこのお話はリアルタイムでの影響はほとんど受けないからアプリゲームの表記内容で進めていくから気にしないでね!
『さぁ、関西G1レースに繋がるステップレース。
京都レース場、芝1600mのコースを10人が出場ですデイリー杯ジュニアステークス!
皆さんの気になるウマ娘はいるでしょうか?私はブラックサンダーが気になります。
デビュー戦以来連敗が続く苦しい状況ではありますが、今日のレースでは1枠8番人気となっている彼女は今日が初めての重賞レースです』
『芝内さん、他のウマ娘も気になりますね。
10人中4人のウマ娘が既に前走の重賞レースを制している強者揃いです。
また今回は地方からのウマ娘も出場しています。地方レース場のウマ娘は2着以内でしたら、12月の朝日杯に優先出走権利を手にすることが出来ますからね。
隙あらば私が!っと意気込んでいる娘達はたくさんいると思いますよ』
『二宅さん、そうですね。油断できない緊張している雰囲気がこちらにもバシバシと伝わってきます。
ですが、やはりブラックサンダーには頑張ってほしい所です。私はあの娘が見せたデビュー戦の最終直線のスピードが忘れられません!
きっと、今回こそはやってくれるでしょう……!』
『あぁ、私情が凄い入り込んでるなァ芝内さん。推しの話になると解説そっちのけで応援し始めるから……』
『何か言いました?』
『いいえ、なにも――――さぁ、後は枠入りを待つだけですね』
〇
「8番人気か……まぁ、妥当な所だろうね」
出走ウマ娘の名前が連なっている掲示板を観客席から眺めながらアグネスタキオンは嘆息をつく。
これまでの連敗状況を考えれば致し方ない所だ。
隣のグラスワンダーは少しだけ落ち着かない状況である。
「……グラスワンダーくん、もう少し落ち着いたらどうだい?」
「それは……その…」
どこかそわそわしたような、初めての1人でのお使いを見送る母親のような視線をターフに佇む一人のウマ娘に向けながらグラスワンダーは観客席の手すりを握っていた。
「彼がこのレースでも通用しなかったら?と考えているのかな?ならば、その心配は不要というものだ。
あれから調整時間こそ少なかったが、彼自身も特訓の成果というモノを実感してきている……後は実戦でアレが実行できるかだ」
あの日。
アグネスタキオンはブラックサンダーに助言した。
過去のレースデータを元に、ブラックサンダーの身体データを根拠に、勝利の為に何が必要なのかを。
「私の想像が正しければ、このレースで彼はウマ娘として大きく前に進むことが出来る。
条件は既に揃っている……8番人気ながらも、今回の作戦で重要な内枠を確保できている辺り、彼自体レース運というのは良い方なのかもしれないね」
だから、
「グラスワンダー君、キミの信じるトレーナーならば、最初っから最後まで信じてあげなければいけないんじゃないかな?」
「タキオン先輩……」
「さぁ、もうレースが始まる。見守ってやろうじゃないか……さてさて、今日はどこで見ているのか知らんが、観客席に紛れてるミスターXの度肝を抜いてやれよ、ブラックサンダー」
〇
レースはもう目前だ。
ここ最近は天候に悩まされること自体が稀であり、ベストコンディションと言って差し支えないほどに快晴である。
芝を踏んだ感覚は乾燥しているからかパサパサしていて、軽い。
これなら思いっきり踏み込んで加速に及んでも問題はないだろう、そんな事を考えていると声を掛けられる。
「おお、ブラインドタッチじゃねぇか」
ガタイの良い、ほんとにウマ娘かと疑う体躯を持ったウマ娘の少女だ。
筋肉ゴリゴリで体操着がはち切れそうになっているサイズ変更を検討した方がいいと思うが。
見てくれは世紀末漫画に出てきそうなゴリラウマ娘、これを少女と小一時間ほど検討したいところだが、URAのお偉いさんが承認してこうしてレース登録しているという事実がある以上、彼女の事をウマ娘と扱わなければならないらしい。
「僕の名前はブラックサンダーだ。人の名前を、パソコンタイピングする基本動作みたいな名称で呼ぶんじゃない」
「なんだよ、連れねぇなァ。デビュー戦からの付き合いじゃねェか」
「そうだな。基本的に僕が出るレースに、何故か大抵お前がいる事に運命のイタズラを感じられる図には居られないよ」
基本的に、僕とこのゴリラとは驚異のエンカウント率を誇る。
これまでのレース、僕が出場したレース五戦中にこのゴリラウマ娘と遭遇した回数は四回だ。
レースの内容やらコンディションの影響で多少はバラける筈なのに、これなのだ。
「その内、何もしなくても会えるようになるかもな」
「何もしなくてもエンカウントするって……どこのナイトガンダム物語だよ」
それにしても、とゴリラが怪訝そうな表情で僕を見つめて一言。
「一人称、僕って……お前変な奴だなァ」
「一人称が〝俺〟のお前に言われたくない」
「しかしブラックサンダー、お前今日の芝1600mをどう見る?」
急にゴリラが語り始めた。
図体筋肉達磨の癖に、レース展開の話に持ち込むとは案外頭が回るタイプのウマ娘なのだろうか。
こちらのレースで使う手の内を、会話の中で聞き出そうとしているのかもしれない。
頭脳はタイプか、侮れないなゴリラ。
ここは慎重に答えさせてもらう。僕は用心深いんだ。
「典型的なマイルコースで天候もバ場も気温も風も最高だ。比較的にスタートすれば風が向かってくるけど速度を害するほど強い訳じゃない。
しかも、ラストの直線でゴールを目指す際はストレートを走る僕らには追い風になる……気持ちよく走れることこの上ないレース状況だ」
「でもこのちょっとした風だぜ?そんなにラストの速度に影響するほどの追い風になるのかよ」
「例え0.5m以下の風速でも背中を押してくれる感覚は確かにある。それだけでも無駄な力を入れずに加速が出来るものさ。
まぁ、気持ち的に楽になるっていうのがホントの所なんだけど」
勿論、これは人間の肉体の時に陸上をやっていた短距離選手である僕の個人的な見解である。
風の影響なんて人によって様々で、追い風関係なしに向かい風でもパワーと体幹で加速を出していく選手はごまんといるのだ。
ゴリラは納得したように腕を組む。
鍛えられた上腕二頭筋がこれでもかと張りを見せてこちらにアピールをしてくる。
既に能力値的にはパワーBまであってもおかしく無いのではないだろうかと思っていると、やがてゴリラは口を開く。
「いいな、ソレ」
「え」
きょとん、とした僕の反応に構わずゴリラは盛大に笑い散らかすと僕の肩を強く叩いた。
「俺のトレーナー頭硬ェうるせぇジジイでよぉ!俺が〝前にガンガン行かせろや!〟って言うと〝もっと頭使ってレースしろ!〟って、聞かなくさぁ。
聞き流すのは大分慣れてんだけどよぉ、耳にタコ出来ちまうくらい文句ばっか聞かされて、仕方ねェから〝このレースで頭使って勝ってやるよ〟って言ったら漸く黙り込んだからよ」
「……それで、僕の会話から良いヒントは掴めそうか?」
「ああ、分かったぜ!」
ゴリラは鍛えられている大胸筋を突き出すように張りながら言った。
「とにかく前に出る、走る、潰す、全員ぶっ飛ばして肉団子にする!――コレだな!うん!」
「お前のトレーナーは……なんか、凄い大変そうだな、うん」
一体どういった経緯でこのようなウマ娘とトレーナー契約をするに至ったのか、このゴリラのトレーナーに少なからずとも同情しそうになったのは言うまでもないだろう。
「メルティロイアルだ」
「ん?」
「名前だよ名前。いつまでもゴリラだなんて品のない名前で呼んでんじゃねェ……チンタラ走ってたら前みてぇに弾き飛ばしてくからな」
ゴリラのような体躯を持つウマ娘、メルティロイアルと名乗る彼女の目はもはや獰猛な獣の如く鋭いものになっていた。
そんな捨て台詞を残して、ヤツは枠入りを完了させていた。
野郎、前回のレースで体ぶつけてきた事、覚えていやがった。
「チンタラ走るな、か……まさにその通りだな」
僕自身も、今までのようなレースを繰り返すわけにはいかない。
アグネスタキオンやグラスワンダーの協力そしてあのミスターXの言葉は僕の走りを見つめ直す大きなきっかけになったのだ。
今回のG2レースはブラックサンダーの新たな走りの手応えを掴むための大事なレースだ。
僕自身も枠入りを完了させ、後はゲートが開くのを待つだけだ。
「……すぅ―――はぁ……」
心臓が脈を打つのが分かる。痛い程に。
心を落ちかせるための深呼吸は、もう何度も自分でやっていた陸上部時代からのルーティンのようなものだ。
元陸上部としての感覚でウマ娘のレースを行っても良いモノだろうかと考えていた時期があったが、今となっては杞憂である。
スタートに関してだが、実は自分自身で思っていた以上に陸上で培った技術は、ウマ娘でのレースに活かせる事が多かったのだ。
横一列に並び、構えるウマ娘達はさながらスタートラインでスターティングブロックに足をセットするスプリンター達とよく似ている。
ウマ娘のレースに雷管によるスタートは無いが、ゲートが開くタイミングは絶対に一緒だ。ならば、開く音を雷管による音の合図に置き換えればいい。
そしてスタート姿勢。
殆どと言っていい程に、ウマ娘のスタート姿勢はスタンディング状態で行う。
これは僕も最適だと思う。
ターフにスターティングブロックもないのにわざわざクラウチングの姿勢でスタートを決める必要はないだろう。
だけど、スタンディングの姿勢でも陸上選手は走る練習で走る。
スパイクを履かないシューズだけのダッシュ練習はどれだけこなしたかもう覚えていない。
しかも僕は元
僕がこのレースで勝つならば、僕が付け込むならばココしかない。
僕が前のように、第四コーナーを回るまでは
ブラックサンダーではなく、陸上選手である山々田山能として競技レースでスタートを決める時に2つだけ決めている事がある。
一つは、誰よりも速くスタートを出る事。
当たり前の事だけど、100mなどの極端に短い距離において勝つためには誰もが最速のスタートを切る事を求められる。
誰よりも速く前に出て。
誰よりも速く前へと進み。
最終的には僕より後ろの選手を置き去りにしてゴールする。
僕が戦ってきた競技というのは単純なんだけど、己の最速を競い合いという……そういう世界だ。
「さぁ――――」
身を低くする、ゲートが顔に隠れるくらい。
左足を前に、膝を柔らかく曲げ、僕が地面を最も効率よく蹴る事が出来る姿勢へ。
腕は垂らし、脱力する。余計な力を入れない、瞬間的に爆発的な推進力を生み出せる状態へ。
桜舞う春も。
照り付けるような暑さの夏も。
試合のシーズンが終わった秋も。
もうグラウンドも使えなくなる冬も。
どんな時でも。
何百何千回と『速くスタートする』事だけを考えて、辿り着いたこの姿勢。
人からウマ娘の身体になっても。
競う場所がタータンからターフの上になっても、これだけは変わらないままだ。
「―――行こう」
霜月の冷ややかな空気を切り裂いて、ゲートが開く音がした。
キャンサー杯終わったと思ったらもうレオ杯だよ。次もグラスで勝利を目指す。
ちなみにキャンサー杯はグラスちゃんの豪脚運ゲーが発動せず、負けました……。
今度は賢さにも振って、最強のグラスワンダーを作ります……
この作品であなたが気になるウマ娘は?(略、今あの娘どうしてるの?
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