実技試験の説明が終わり、真夜は指定された試験会場へ向かったのだがそこで唖然となっていた。
「何で学校の中に街があんの?」
会場は街のようなではなく、完全な市街地であった。
ビルが何棟も隣接しており道路に加えて車までも配置されており真夜含めて多くの受験生たちは動揺を隠せずにいる。
しかもここだけでなく残りの会場もそうであるためそれ相応に設備と資金が充実しているのが理解できる。
これから実技試験が始まろうとする中でジャージに着替えた真夜は作戦を考えていた。
(取り敢えず1ポイントは正面から倒していって、2ポイント3ポイントは不意を突いた奇襲でいけばなんとかなるかも……そんで残りの0ポイントと万が一戦う時になったら)
『はいスタート!』
「えっ?」
作戦を考えている最中にプレゼントマイクがとうとつにアナウンスで試験開始の合図をした。
真夜を始め大半の受験生が呆気に取られているとプレゼントマイクが続けざまに言い放つ。
『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇぞ!?走れ走れぇ!賽は投げられてんぞ!?』
「そ、そんなのありぃぃぃ!?」
完全にスタートダッシュに出遅れた真夜は真っ先に集団から飛び出していき、それを皮切りに他の受験生たちも走り出していった。
◆◆◆◆◆
真夜が街の大通りを走っていると、最初の仮想敵が見えた。
数は3体ですべて1ポイント。
『標的補足!ブッコロス!!』
仮想敵が一斉に真夜目掛けて突っ込んでいくと、真夜は個性を発動しようと動く。
「1ポイントが3体か!やってやる!」
そして次の瞬間、黒い霧のようなものが出現して真夜を覆っていく。
仮想敵はお構いなしに霧目掛けて真夜を倒そうとアームを伸ばすと、空を切るように手応えを感じなかった。
そして霧が晴れると、そこに真夜の姿はなかった。
目標を見失った仮想敵が周囲を探索すると、地面から小さな影のようなものが飛び出して1体の仮想敵を引っ掻き再起不能にさせた。
残りの2体は黒い影にアームを伸ばすと、黒い影は地面に溶けるように攻撃を避けて背後に回り込み地上へ現れると2体を引っ掻いて再起不能にさせる。
その黒い影は、全身が黒く頭からは触覚のようなものが生えており、黄色い目をしている丸っこい2頭身のフォルムをしていた。
実はこの黒い影、個性を発動させた真夜が変身した姿である。
暗闇真夜の個性『闇の魔物』
発動するとゲームに出てきそうな魔物へと姿を変えることができ、身体能力向上だけでなく特殊な能力も使えるようになれるのである。
仮想敵を倒した真夜は次の仮想敵を探すために移動するのだった。
◆◆◆◆◆
それからというもの、真夜は発見した仮想敵を個性を上手く活用して次々に倒していった。
しかし、真夜は途中で重要なことに気がついた。
(あっ!?そういえば今何ポイントだっけ!?)
仮想敵を倒すことに必死になっていたため自分が今どれほどのポイントを稼いでいるのか数えていなかった。
今から数え直そうにも一々倒した仮想敵のポイントや数など覚えているワケがなく、何より時間も勿体ないため次の仮想敵を探そうとした時だった。
「うぅ…!」
「!」
うめき声が聞こえてその方向を振り向くと、同じ受験生らしきオレンジ髪のサイドテールの女の子がいた。
しかしサイドテールの受験生は仮想敵の残骸に脚を挟まれており動けそうになかった。
それを見た真夜は放ってはおけずそこへ駆けつけて行った。
「ヴィ、ヴィラン!?」
駆けつけた真夜の姿を見たサイドテールの受験生は敵と勘違いし驚いて声を上げてしまう。
確かに真夜の変身した姿は敵にしか見えないが、真夜は気にせずに仮想敵の残骸に手をかけて力を入れる。
すると残骸が持ち上がり脚が挟まっていた箇所に隙間ができて、意図を察したサイドテールの受験生は脱出することができたのだった。
残骸を下ろしている真夜にサイドテールの受験生は声をかけた。
「助けてくれたんだよな?ありがと!」
(……………)
男勝りのような口調をしているサイドテールの受験生に真夜は親指を立ててサムズアップをした。
真夜は変身すると言葉を出すことができないためジェスチャーで意志疎通を行っているのである。
そのまま他の仮想敵を探そうと真夜が動こうとした時だった。
「見つけたぞぉぉぉ!!」
『!!??』
突然別の声が聞こえて2人が振り向くと、向こうの方から銀髪の受験生がこちらへ走ってきていた。
「説明されてなかったけど隠れ仮想敵ってヤツだろ!?倒させてもらうぜぇ!!」
(えぇっ!?)
どうやら彼は真夜を隠れ仮想敵と勘違いしているようで倒そうと向かっているようである。
そもそも隠れ仮想敵なんて雄英側が用意しているワケがないが、試験の構造を裏読みしすぎた結果なのだろう。
(違う違う違う!僕は仮想敵じゃないよぉ!!)
「ちょっと待てって!」
「うおぉぉ!?」
声に出すことができないため真夜が銀髪の受験生に対して必死に首を左右に振っているとサイドテールの受験生が真夜の前に立って止めようとする。
それを見た銀髪の受験生は急ブレーキをかけて転びそうになるも何とか堪えることができた。
「邪魔すんなよ!ポイント稼げねぇだろ!」
「だから違うんだよ!コイツは私たちと同じ受験生なんだよ!」
「はっ?マジか!?」
サイドテールの受験生に言われて銀髪の受験生は真夜の方を見ると、真夜はサイドテールの受験生の言う通りだと言わんばかりに首を縦に振る。
「そうだったのか…すまねぇ!敵なんて言って悪かった!」
聞き分けがいいのか、銀髪の受験生はすぐに納得して真夜に頭を下げて謝罪をした。
その行為に真夜もホッと胸を撫で下ろしたその時だった。
会場全体にとてつもない衝撃音が鳴り響いた。
真夜たち3人が周囲を見渡すと、大通りの向こうから大きな影が現れた。
それは、とてつもなく大きな仮想敵だった。
(ま、まさかあれが…!0ポイントの仮想敵!?)
実技試験の説明であった問答無用に暴れまわる仮想敵。
しかも1ポイントにもならないため正にお邪魔虫である。
他の受験生たちはそれから逃げるように真夜たちとすれ違って行った。
倒せないというよりも倒しても意味がないため蜘蛛の子散らすように逃げていく中、黒い鳥の頭の受験生が真夜たちに声をかける。
「何をしている!?お前たちも早くにげろ!」
そう言われたサイドテールと銀髪の受験生はハッと我に返り巨大仮想敵に背中を向けて逃げようとする。
「確かにアレはマズイよな!」
「…ん?オイ何してんだよ!?お前も逃げるんだよ!」
するとサイドテールの受験生は真夜が逃げずに巨大仮想敵をまだ見上げていることに気がついて立ち止まり声を上げる。
それに連れて銀髪と鳥頭の受験生2人も立ち止まって振り向いてしまう。
このままでは踏み潰されてしまうのは明らかであるが、真夜は自分でも驚くほど無意識に冷静になっておりあることを考えていた。
(所詮これは単なる試験。実際に民間人がいるワケじゃない。そもそも0ポイントを倒したところで何の得にもならない………だけど、もしこれが実際に起きてたら………)
もしこれが現実だったら…
もし民間人の避難がまだ完了していなかったら…
もし他のプロヒーローがいなかったら…
ここで逃げたら最悪の事態を招いてしまうかもしれないという考えに行き着いた真夜はサイドテールたちの方を振り向くと、右拳をつくりそれを胸に当てた。
それはまるで、コイツは俺に任せろ!と言っているようだった。
「ま、まさかお前…!」
「あれを止めようってのかよ!?」
「正気か!?」
サイドテールたち3人が驚く中、真夜は再び巨大仮想敵と向かい合うと地面に溶けていった。
攻撃を回避したり移動する時とは違い、溶けた場所から次第に影が大きくなりつつあった。
何が起きているのかサイドテールたちが見ている中、地面の影からそれは姿を現した。
それは全身が黒い人形のような姿をしており、頭部は毛髪のように無数の触覚が生えていた。
胸にはハート型の穴が開いており、何より特徴的なのは巨大仮想敵に負けず劣らずの大きさだった。
それを見たサイドテールの受験生たちはすぐに理解できた。
「こ、これがさっきのちっこいヤツなのか!?」
サイドテールの受験生の言う通り、これは真夜が変身した別の姿『ダークサイド』
先ほどの通常の姿の『シャドウ』とは違い、大きさだけでなく攻撃力が著しく向上しているのである。
その分エネルギーもかなり消費するためデメリットも存在する。
(ここでコイツを食い止める!)
ダークサイドに変身した真夜は右拳を構えて巨大仮想敵目掛けて放つと見事に命中する。
そのまま2発3発と立て続けに繰り出して下がらせることに成功する。
(よしっ!このまま押しきる!)
そのまま4発目を繰り出そうとした時、巨大仮想敵が右手を掴んできた。
ならば反対からと左から攻撃を繰り出そうとするも左手も掴まれてしまい両腕を封じられた。
(し、しまった!)
ダークサイドの姿には弱点がある。
それはスピードが落ちてしまうこと。
これだけ大きな巨体であるがために速く動かすことができないのである。
真夜の両手を封じた巨大仮想敵はそのまま押し倒そうとしてくる。
しかし真夜も負けじと逆に押し返そうと力を振り絞る。
互いにほぼ互角の力量であり正に一進一退である。
その光景を真夜の後ろにいるサイドテールたち3人の受験生は見ることしかできずにいた。
「アイツすげぇ!このまま押し返せばいけるぞ!」
「いや、向こうは疲労を知らない機械だ。このままだとあの闇の化身の体力が持たない」
「た、確かに…!じゃあどうすりゃあいいんだよ!?」
鳥頭の受験生の言葉を理解したものの銀髪の受験生は頭を抱え込んでしまう。
自分たちで何とかできないかと考えていると、サイドテールの受験生が声を上げる。
「2人とも!力貸して!上手くいけばあの仮想敵を倒せる!」
「えっ!?」
「本当か!?」
「あぁ!2人の個性はさっき見かけたから掛け合わせればいけるかもしれない!」
◆◆◆◆◆
一方、巨大仮想敵と押し合いをしていた真夜はというと。
(さ、流石にキツくなってきた…!)
エネルギーがそこを尽きそうになっており徐々に押されつつあった。
あと一発さえ攻撃が決まれば倒せそうなのだが両腕を封じられているため攻撃すらできずにいる。
(せめて両手の自由が効くようになれば!)
しかしそう都合よく巨大仮想敵が腕を離してくれるワケがないため叶わぬ願いである。
もはやここまでかと真夜が諦めかけた時だった。
「ソノママ踏ン張リヤガレェ!!」
(!?)
急に誰かの声が聞こえて首だけ振り向くと、そこには黒い影のようなモンスターだった。
モンスターは鳥の頭に大きな手を携えており、身体は下の方から伸びていた。
真夜が下の方を見ると、先ほどの鳥頭の受験生の背中からモンスターの身体が出ていた。
このモンスターは彼の個性だと理解した真夜だったが、一体何をするつもりなのかまでは理解できなかった。
すると真夜はモンスターが両手に何かを持っていることに気がつき、よく見るとそれはサイドテールと銀髪の受験生だった。
「ソンジャア始メルゾォ!!」
モンスターは真夜の右肩にサイドテールの受験生、左肩に銀髪の受験生を乗せた。
ますます何をするつもりなのか真夜が理解できずにいると、2人はそのまま真夜の腕の上を走り出した。
『うぉぉぉぉぉ!!』
2人がそれぞれ両手までたどり着くと大きく飛び上がり、サイドテールの受験生は手が巨大になり、銀髪の受験生は全身が鉄と化した。
そしてそのまま2人は巨大仮想敵の手へ目掛けて拳を振り下ろすと、巨大仮想敵はその反動で真夜から手を離してしまう。
サイドテールと銀髪の2人は宙へ投げ出されるも、モンスターが即座に2人をキャッチする。
突然のことに真夜は呆気に取られていると下から鳥頭の受験生が声を上げる。
「今だ闇の化身!!」
それに続いてサイドテールと銀髪として2人も声を上げる。
「これでさっきの借りは返したぞ!!」
「思い切りぶん殴れぇ!!」
3人に言われた真夜は気を取り直して右拳をつくると、右拳に黒いエネルギーが集まっていく。
声には出せないが、真夜は助けてくれた3人に礼を言った。
(みんな!ありがとう!!)
そしてそのまま拳を巨大仮想敵へ振り下ろすと、巨大仮想敵の胸部を貫いた。
拳を抜くと、巨体仮想敵はそのまま後ろへ倒れて再起不能となった。
『終~了~!!』
そしてそれを合図にするように試験終了のアナウンスが流れたのだった。
◆◆◆◆◆
実技試験終了後、受験生たちは会場内に設けられた控え所で休息を取っていた。
各々が試験の手応えや状況などを語り合っている中、サイドテールと銀髪と鳥頭の3人はあちらこちらへと歩き回り1ヶ所に集まった。
「いた?」
「いや、見つかんなかったぜ」
「こちらも発見できなかった」
3人が探しているのは真夜。
試験終了後に真夜は煙のように姿を眩ましたため3人は必死になって探していた。
他の受験生に聞いたりしたものの、シャドウの姿は見ていたが人間の姿の真夜は誰も見ておらず見つけることができなかったのである。
「どこ言ったんだろ…?」
サイドテールの受験生は助けてくれたお礼を改めて言いたかったというのにとガッカリしている中、その様子を人間の姿に戻った真夜は見ていた。
(あの3人には悪いけど、ここではあまり目立ちたくないからなぁ)
もしここであの巨大仮想敵を倒したことがバレたら他の受験生に質問攻めされるのは目に見えている。
今はとにかく休みたいため正体を伏せておくことにしたのだった。
(もしお互いに合格して入学できたら改めて話すか…)
やるべきことはすべて出しきった真夜は、試験の合格を祈るのであった。