4月
中学生が高校生への階段を1段上がるこの季節、雄英高校でも新入生を迎えようとしていた。
入試試験を合格しプロヒーローへの第一歩を踏み出した新入生たちが門を潜っていく中、真夜の姿もあり既に校舎の中へ入っていた。
「まさかもう一度ここに来ることができるなんて…未だに信じられないよ。それにしても広いなぁ…」
流石は名門校というだけあって校舎も広く迷子になってしまいそうだった。
事前に届いた書類で自分が所属するクラスは把握しているものの一向に見つからずにいる。
「えーっと1-Aはっと…あれか」
すると1-Aと書かれてある扉を見つけたが、かなり大きな扉で172センチの真夜の何倍もの大きさだった。
「デカっ。バリアフリーってワケじゃないよね?」
多分異形系の個性のためにつくられたのだろうと思いいつつ、扉に手を掛けた。
そしてそのまま力を入れて開こうとした時だった。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねぇよ!つーかテメェどこ中だぁ!?」
(………滅茶苦茶聞き覚えのある声が)
教室の中から誰かが口論している声が聞こえてきたが、真夜は咄嗟に扉から手を離してしまう。
何故ならその内の1人の声に聞き覚えがあり、実技試験の説明会にいたザ・真面目君だったからである。
初対面で結構なことを彼に言ってしまったためとても気まずくなってしまうのは目に見えている。
しかし教室へ入らないといけないためどうするべきかと考えていると、あることを閃く。
それは教室の後ろの扉から入るという単純なやり方だった。
口論は前の方から聞こえているため後ろからこっそり入れば彼と出会うこともないため面倒ごとに巻き込まれないと判断したのである。
そうと決まれば早速と、真夜は後ろの扉へ向かい音を立てずにソーっと扉を開いて中へ入った。
教室には既に多くの新入生たちが机に座っており、案の定前の方ではメガネの彼が机に足を乗せている素行の悪そうな男子と口論をしていた。
教室にいた全員は口論している2人に注目しているため真夜に誰1人として気づいていなかった。
(やっぱりあの人だ。今は目立たないようにしておかないと。えぇっと、僕の席は…)
後ろから教室全体を見渡して自分の席はどこかと探すと、窓際の一番後ろの席に暗闇真夜の名札が置かれているのを見つけて自分の席だと理解する。
そのまま真夜は抜き足差し足忍び足といった要領で自分の席へとたどり着くと何事もなかったかのように座る。
(ふぅ、これで一安心……ん?)
メガネの彼に見つからなかったことに胸を撫で下ろしていると、前の方に座っていた黒いポニーテールの女子が真夜の方を振り向いており目が合ってしまう。
彼女は目を丸くしながら恐る恐る真夜へ話しかける。
「えっと…失礼ですが、いつから座っていらしたのですか?」
「えっ…あーえっとその~…」
気づかれないように教室へ入ったが、近くに座っていたということもあり物音に気がついたようだった。
それもその筈。
彼女からしてみたら人間が1人いきなり姿を現したようなものなのだから驚くのも無理はないだろう。
そしてポニーテールの彼女と同じように他の人たちも次々に真夜へ気がつき今度は真夜へと注目が集まってしまった。
それにより、真夜は観念して全員へ軽く会釈をした。
「ゴメンゴメン。そこの2人が口論してからさ、空気を読んで後ろから入ったんだ」
それを聞いた大半の人たちは成る程と言わんばかりに納得した。
「確かにあんなことしてたら入りづらいよね。分かるよその気持ち」
「うるさいしな」
「俺も後ろから入ればよかったなぁ」
注目は集めてしまったものの真夜の行為にその場空気がなごんでいく。
そんな中真夜はポニーテールの彼女に軽く謝った。
「驚かしてゴメンね。僕は暗闇真夜。よろしく」
「私は八百万百と申します。これからよろしくお願いいたしますわ暗闇さん」
ポニーテールの彼女『八百万百』と自己紹介をしていると、前の方からメガネの男子がロボットのような歩き方で真夜の方へ向かって来ていた。
真夜は内心ゲッ!?と思っていると、メガネの彼が口を開いた。
「おはよう!俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ!騒いでしまい申し訳ない!」
メガネの彼『飯田天哉』は真夜に対して礼儀正しく90度頭を下げて挨拶をしてきた。
てっきり説明会の時のことで何か言われると思っていたため呆気に取られるも気を取り直して挨拶を交わす。
「僕は暗闇真夜。説明会以来だね飯田くん。あの時はその、こっちにも非があったよ、ゴメンね」
「いや、暗闇くんが悪いわけでじゃない。あれは俺の方が悪かっただけだ、気にしないでくれ。何はともあれ、これからよろしく」
互いに軽く会話を済ませると飯田はまだ机に足を乗せている爆豪の元へ戻り注意をするのだった。
飯田と話した真夜は真面目を越えた超真面目な人だなと思っていると、八百万が再び話しかける。
「暗闇さん、飯田さんと何かありましたの?」
2人の会話から入試試験の説明会でいざこざがあったのかと推測したようだった。
それを追及された真夜は頭をかきながら答えた。
「話すと長くなるなら簡潔に言うと………バナナを食べたら怒られた」
(((いやどういうことだよ!?)))
話を聞いていた他の人たちは簡単すぎる説明に心の中でツッコミを入れてしまう。
そんなみんなの心境など知るはずもない真夜は教室へ新たに入ってきた人物に注目した。
(あれは…)
それは入試試験の説明会でオドオドしていた男子『緑谷出久』だった。
彼もまた自分と同じ制服を来ているため見事に合格したようである。
(無事に合格したんだ。ってまたアタフタしてるよ)
飯田に話しかけられた緑谷はアワアワしており、それを見て真夜はクスリと笑ってしまう。
よくあれで合格できたなと思っていると、今度は茶髪の丸顔の女子が入ってきて何やら緑谷を見つけてワイワイと喜んでいる。
その様子を見て緑谷の元へ行こうとした時だった。
「お友達ごっこをしたいのなら余所へ行け」
突然誰かの声が聞こえてきて教室の全員が辺りを見渡すと、教室の出入口の方へ注目した。
そこには寝袋に丸まっているボサボサ髪で目の下にはクマができているいかにも不審者のような人がいた。
(((なんかいる!?)))
クラス全員が驚くのもお構いなしにその人物は寝袋から出て教壇に立った。
「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
「………あの~、もしかして教員の方ですか?」
もしやと思い、真夜が手を上げて質問をするとクラス全員はギョッとしてしまう。
こんな人が先生なのかと疑問に思う中、寝袋の人は真夜の質問に答えた。
「その通り。担任の相澤消太だ。よろしく」
相澤と名乗った人物は寝袋を探るとそこから青に白いラインが入った運動着を取り出した。
「早速だがこれ着てグラウンドに出ろ」
「えっ?あの、これから何を?」
「時間は有限。質問は後から受け付ける」
真夜の再びの質問を一蹴した相澤はそのまま教室を後にするのだった。
クラス全員はしばらくどうするかと顔を見合わせるも、取り敢えず言う通りにと更衣室へ向かうのだった。
◆◆◆◆◆
『個性把握テストォ!!??』
体操服に着替えた真夜たちはグラウンドに集合すると、相澤から今から個性把握テストをやると言われて驚いて声を上げてしまう。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間なんてないよ。雄英は自由な校風が売り、それは教師側も同じ」
茶髪の女子が口を挟むも相澤は気にせずに淡々と進めていく。
それを聞いた真夜は確かにその通りかもしれないと対照的に理解してしまう。
「お前達も中学の頃からやってるだろ?個性使用禁止の体力テスト。が、未だ確執的な記録取って平均を作り続けている、合理的じゃない。ま、文部科学省の怠慢だな」
相澤が見せた端末には50m走やボール投げなど様々な種目が表示されており、今からこれらの種目をやるのだろうと誰もが推測する。
「確か入試一位は爆豪だったか…中学生の時、ソフトボール投げの記録何メートルだった?」
「67メートル」
「そんじゃ個性使ってやってみろ」
今朝飯田と口論をしていた『爆豪勝己』が相澤からボールを受けとると、ボール投げをするために引かれた白い線の中へ入った。
爆豪は軽くストレッチをしてボールを握ると、
「んじゃまぁ………死ねぇ!!」
掛け声と共に掌から爆発を起こしてボールを投げた。
(((………死ね?)))
爆豪の掛け声にクラス全員が唖然とする中、相澤は端末を見せた。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
『705.2m』
そこに表示された記録を見て大半が感心して声をあげる。
「705mってマジか…!」
「なにこれ面白そう!」
「個性を思いきり使えんだ!さすがヒーロー科!」
これから思う存分個性を使用できることに大半が盛り上がる中、相澤は深くため息をつく。
「面白そうね…ヒーローになる為の3年間そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?…よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう!21人でキリが悪いからな!」
『はぁぁぁぁぁ!!??』
そして唐突の提案に全員は驚いて声を上げてしまう。
入学初日にいきなり退学となってしまうイベントに差し掛かったのだから当然の反応である。
「生徒の遺憾は先生の自由…ようこそ!これが雄英高校のヒーロー科だ!」
◆◆◆◆◆
第一種目『50m走』
真夜はストレッチをしながら自分の番を待っていた。
いきなりの関門に真夜を始めクラス全員側も身を引き締めて望んでいる。
そして真夜の番が来たためストレッチを切り上げて50m走のスタートラインに立った。
2人同時に測定するのだが、最後は3人同時に測定することとなった。
左端のレーンに立った真夜は右の2人を見ると、全身がピンク色の女子と金髪で胴に機械のようなものを取り付けている男子だった。
「それじゃあやるか」
準備に取りかかろうと体から黒い霧を出して自分全体を覆っていく。
その光景にクラス全員が注目する中、霧が晴れるとシャドウへ変身した真夜がいた。
「な、なんだアレ!?」
「変身型の個性…!?」
「全身が真っ黒け…蟻かしら?」
変身した真夜の姿に驚くも、真夜はお構い無しに走る体制になる。
そしてスタートの合図と共に地面へ潜り込むと一気にレーンの上を移動していく。
シャドウは走っても速くはないが地面へ潜り込むとスピードが上がるのである。
そのままゴールラインを通過して地上へと戻った。
『4秒97』
(まぁこんなものか)
測定ロボットから発せられたタイムを聞いてまずまずかと真夜が納得していると、先ほどの2人が声を掛けてきた。
「スゴイねキミ!地面に潜ったらメッチャクチャ速く動けるんだね!」
「ボクの煌めきには敵わないけどね」
2人とも真夜の個性に感心している様子で怖がっている様子などまったく無かった。
真夜はシャドウから元の姿へ戻り2人と話し始める。
「そう言って貰えて嬉しいよ。僕は暗闇真夜」
「アタシ芦戸三奈!ヨロシク!」
「青山優雅。よろしく頼むよ」
軽く自己紹介を済ませた3人は次の種目へ移動しようとした時だった。
「少しいいか?」
「ん?」
青山と芦戸の後ろを着いて行っていた真夜は声をかけられたため立ち止まり振り向くと、そこには実技試験で見かけた鳥頭の男子がいた。
「あ、確か実技試験の時の…」
「やはりあの時の闇の化身だったか。こうして話すのはお互いに初めてだな」
シャドウの姿しか見ていなかったため、彼は真夜が変身するまで分からなかったようである。
真夜も実技試験では鳥頭の彼とこの場にいないあの2人がいなければ合格できたか分からなかったため彼にお礼を言った。
「あの時はありがとう。助けがなかったらあの大型を倒せなかったよ」
「フッ、謙虚なヤツだ。アレを破壊したのはお前だろう。俺は常闇踏影、こっちは俺の個性のダークシャドウだ」
「ヨォ!久シブリダナ!」
鳥頭の男子『常闇踏影』は背中から自身の個性である『ダークシャドウ』を出して自己紹介をした。
ダークシャドウを間近で見て少し驚く真夜であるがそのまま自己紹介をする。
「僕は暗闇真夜。よろしくね、常闇くんとダークシャドウ」
「暗闇ィ?踏影ト似タ名前ダナ」
「確かにそうだが、今は早く移動しなければならないな。呼び止めてすまない暗闇」
「いいよいいよ。まずはお互い無事にこの関門をクリアしよ」
「あぁ」
今はテスト中であるため折り入った話は後にしようと、真夜と常闇は次の種目に移るのだった。
◆◆◆◆◆
第二種目
『握力』
体育館へ移動して各々が握力計を使用して測定している。
真夜もシャドウへ変身して握力計を握ったものの、結果は88㎏と微妙なところだった。
ちなみに握力1位は複製腕の個性の持ち主の『障子目蔵』という男子だった。
◆◆◆◆◆
第三種目
『立ち幅跳び』
各々が個性を工夫して記録を出していく中、真夜の出番が回ってきた。
「立ち幅跳びだからな…あれでいっか」
少し考えてそのまま駆け出す体制を取ると、周囲がヒソヒソと言い始めた。
「あれ?アイツ変身しねぇのか?」
「そのままやるみたいだよ」
「もしかして、小さいままだと助走をつけられないからかもな」
今までシャドウに変身して体力測定を行っていたというのに変身しないで測定に望む真夜に注目する中、スタートの合図が切られた。
それと同時に真夜が駆け出すと、真夜の回りを黒い霧が包み込む。
やっぱり変身するのかと誰もが思った時だった。
霧の中から一体の影が飛び出したのだが、その影はシャドウではなく………
『コ、コウモリ!!??』
それはシャドウと同じくらいの大きさをして羽を襟巻きのように生やした黒いコウモリだった。
真夜が変身した姿『フーカバー』
見た目の通りコウモリのような姿となり長時間の飛行が可能になる。
フーカバーへ変身した真夜はバサバサと羽を動かして一直線へ飛んでいく。
50,60,70と軽々と超えて立ち幅跳び暫定1位へとなるもまだ飛び続けていく。
(飛行形態になったはいいけど、どこまで行こうかな?)
「オイ暗闇!」
(!)
そろそろ変身を解こうとした時、横から声をかけられそっちを見ると、ダークシャドウがいた。
どうやら常闇が伸ばしたようだが一体何をしに来たのだろうと思っていると、ダークシャドウが話を続けた。
「センセーガ戻ッテコイダッテヨ」
ダークシャドウにそう言われた真夜は方向転換して立ち幅跳びのスタートラインに立っている相澤の元へ飛んでいった。
目の前で羽を動かして飛んでいる真夜に相澤は端末を見せた。
『∞』
「スッゲェ!∞が出た!」
「つーかアイツあんなのにも変身できんのかよ!?」
最高記録の無限を出した真夜にクラスの大半が驚きの声を上げる。
そのままフーカバーから人間へ戻った真夜は相澤が呼んでいることを教えてくれた常闇との元へ歩いて行った。
「ありがとう常闇くん」
「大したことはしていない。しかし、飛行形態にも変身できるのか…」
「そんなに万能じゃないよ。今のところできる変身は4つまでだから」
そもそも始めはシャドウにしか変身できなかったため、個性を研究して真夜は変身できる形態を増やしていったのである。
その後も立ち幅跳びは続いていくも誰も真夜の記録を越えられず、真夜はこの種目で1位となったのだった。
◆◆◆◆◆
その後も反復横とびと種目を進めていき、第四種目のボール投げをすることになった。
茶髪の女子『麗日お茶子』が自身の個性の無重力を使いボールを投げて∞の記録を出した。
「また∞が出た!」
「本日2回目の∞だ!」
真夜の立ち幅跳びの記録でかなり盛り上がっていたが、2回目の∞が出たため更に盛り上がってしまう。
(へぇ、あの子スゴイなぁ………けど)
真夜も麗日の個性に感心してしまうも、すぐにある人物へ視線を向ける。
この先にいたのは緑谷出久。
今のところ一般的な記録しか出しておらず、個性使用の体力テストにおいては明らかに下位に来ている筈。
そもそも彼は個性を使っている様子がないためさっきから気になっていたのだった。
「………」
「アイツが気になるのか?」
そこへ常闇が声をかけて同じように緑谷の方へ視線を向ける。
「うん。せっかく合格したのにここで落ちたらかわいそうだなぁって」
「しかし、この試練を乗り越えなければヒーローには辿り着けはしない。お前も分かるだろ」
「それはそうだけど…」
何とかして手助けしてあげたいが相澤が見逃すワケがないため真夜は大人しく見るしかなかった。
すると緑谷の出番が回ってきて円の中へ入っていくが、その表情は明らかに焦りが見えていた。
彼はしばらく考え込んでいると覚悟を決めたかのように歯を食い縛りボールを握りしめると、腕に赤いラインのようなものが表れ始めた。
いよいよ個性を使うのかと真夜が注目する中、出した記録は…
『46m』
またしても一般的な記録で緑谷は信じられないという顔になっている中、相澤が冷たく言い放った。
「個性を消した。ったく、つくづくあの入試は合理性に欠くよ…!」
今までの気だるい様子とは打って代わり、目は赤く光り首に巻いていたマフラーのような布が意思を持っているかのようにユラユラと動いている。
それを見た緑谷はハッとなり目を見開いた。
「個性を消した…!?そうか!見ただけで人の個性を抹消してしまう個性!抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』!!」
どうやら相澤がイレイザーヘッドというヒーローに気がついた緑谷であったが、真夜はそんなヒーロー名聞いたことがないため常闇に話しかける。
「常闇くん知ってる?」
「いや、俺も知らない」
クラスの大半も知らないため恐らくメディアには顔を出さないヒーローなのだろうと思った時、相澤が布を使って緑谷を拘束した。
何かを話しているようだったが真夜の立ち位置から会話の内容は聞こえなかったが、相澤は緑谷の拘束を解いて記録を測定しようとする。
ボール投げは2回までなので追い込ませたのだろうと真夜は思った。
「これで記録を残さなければヤツの最下位は確定するな」
「緑谷くん……」
常闇の言うことも尤もだが、真夜としては彼にはここで落ちてほしくないという気持ちが強かった。
そうこうしている内に緑谷は再びボールを投げる構えを取った。
そして先ほどと同じようにボールを投げようとした時だった。
とてつもない衝撃と共にボールが緑谷の手から離れて遥か彼方へと飛んでいった。
『705.3m』
記録は今までの中でも上位の記録。
ボールを投げた緑谷はというと、右手の人差し指が腫れ上がっており見てるだけで痛々しいものだった。
「先生…!まだ、動けます!」
「コイツ…!」
痛みを堪えて涙目になりながらも動ける意思表示を見せる緑谷に相澤は可能性を見い出したかのように笑みを浮かべる。
「…大したヤツだ。リスク覚悟の投球とは」
「スゴいな緑谷くん。増強系の個性みたいだけど…ッ!?」
常闇と話していた真夜は後ろからとてつもない殺気を感じて振り向いた。
そこには掌から爆発を起こし目がつり上がっている爆豪がいた。
「どういうことだぁ…!?コラァ!ワケを言え!デクてめっ!?」
そのまま爆豪が周囲を押し退けて緑谷へ駆け出した時、誰かが爆豪に足を掛けてそのまま顔面から地面へと転んでしまう。
その光景をクラス全員が見ていたため爆豪を転ばせた人物へ視線を集める。
そう、暗闇真夜へと。
転んだ爆豪は顔を上げて足をかけた真夜の方を振り向いた。
「なんのマネだテメェ…!?」
完全に頭に血が上り目がつり上がっている爆豪に真夜は淡々と答える。
「なにって、君を転ばせて見下してるんだけど?」
その言葉にクラスの大半が顔を青ざめてしまう。
初日で完全に把握しているワケではないが、爆豪がキレやすい性格だというのは誰でも分かること。
にも拘わらず真夜は爆豪を煽るように見下している。
そしてついに堪忍袋の緒が切れた爆豪は立ち上がり緑谷から真夜へと切り換えて威嚇するように掌から爆破を出した。
「ぶっ殺すぞ真っ黒野郎!!」
「やってみなよ、三下のチンピラくん」
対照的に真夜は体から霧を出して今にも変身しようとする。
まさに一触即発。
このまま喧嘩が勃発しようとした時だった。
「なっ…!?」
「うぉ!?」
相澤が布と個性を使って爆豪と真夜を拘束して個性の使用を封じた。
「んだこの布…!?かてぇ…!」
「ホ、ホントに個性が使えない…!」
「炭素素材に特殊合金の工繊を編み込んだ捕縛武器だ…ったく、何度も何度も個性使わせるなよ…!俺はドライアイなんだ…!」
『個性スゴイのに勿体ない!!』
クラス全員が相澤の事情にツッコミを入れると、爆豪と真夜の拘束が解かれた。
「時間が勿体ない。次は暗闇だ。早く準備しろ、実技試験総合成績2位」
「は、はいっ」
相澤に言われた真夜は爆豪の隣を素通りしていくと、クラス全員がある言葉に反応した。
『実技試験総合成績2位!!??』
実技試験を合格するのはかなりの至難。
その中で上位に組み込まれるのは正に奇跡と言っても過言ではない。
真夜の実技試験が2位だということを知ったクラスの大半は相澤に質問をした。
「先生!暗闇が実技試験2位って本当ですか!?」
「あぁ。1位の爆豪と1点差だ」
「1点差!?」
更に1位と1点差であるということを聞くと更に驚いてしまう。
そんな中、爆豪は鋭く暗闇を睨み付けている。
「んのヤロウ…!調子に乗んなよ…!」
煽られたこともそうだが、何より自分と1点差で2位ということに内心では腸を煮え繰り返していた。
何よりプライドが高く勝利にこだわりがある彼にとって真夜は蹴落とすべき存在だった。
「けど見た感じだと暗闇の個性ってちっこいのに変身できるみたいだけどよ、よくアレで2位になれたよな?」
そんな中、金髪の男子『上鳴電気』は真夜の個性についてクラスメイトたちと話し出す。
今までの体力テストの真夜はシャドウとフーカバーに変身しているが、とても実技試験で2位になれるとは到底思えなかった。
「もしかしてアレか?レスキューポイントで稼ぎまくって2位になったってことか?そうでもなきゃ2位なんてとても……って、なんか暗くね?」
上鳴が話すことに夢中になっていると、急に辺りが暗くなり出した。
確か天気予報は快晴だった筈だが通り雨かと思っていると、飯田が驚いた表情で上鳴の後ろを指差した。
「か、上鳴くん…!後ろ…!」
「ん?うしろ?」
一体どうしたのだろうと上鳴が後ろを振り向くと、そこにはダークサイドへ変身した真夜の姿があった。
「え、えぇぇぇぇ!?もももしかして暗闇か!?暗闇なのか!?」
「メチャクチャでかくなってるし!」
「なんだよアイツの個性!?」
ダークサイドの巨漢に上鳴たちが驚く中、ボールを手に取った真夜はそのまま親指で真上へ弾いた。
そのまま右拳にエネルギーを溜めて振りかぶりボールが落ちてくるタイミングに合わせて拳を振り下ろした。
そしてボールは凄まじい衝撃と共に遥か彼方へと飛んでいった。
真夜の記録は…
『3806.7m』
五桁の記録を出した真夜にクラス全員は驚きの声を上げる。
「3806mってことは3㎞以上!?」
「爆豪と緑谷の5倍以上の記録が出た!」
「∞の次にスゲェ!」
クラスメイトたちを手で他所に真夜は2回目に望み1回目の記録を越えることはできなかったが、それなりの記録を残すことができたのだった。
◆◆◆◆◆
それから、持久走に長座前屈などと種目すべてを終了したA組は総合成績が発表されるのを待っていたのだが、
「あ~メチャクチャ怖かったぁ~…」
真夜は爆豪を煽った時のことを今さら思い返しており肝を冷やしていた。
突発的とはいえ流石にヤバいことをしてしまったとかなり後悔している。
「これで完全に爆豪くんを敵に回したよ…」
「あの時見せた度胸はどこへ行った?」
落ち込んでいる真夜に常闇が軽くツッコミを入れると相澤が結果発表を伝えた。
「んじゃパパッと発表するぞー」
気だるい掛け声と共に相澤はモニターに体力テストのトータル成績を順位ごとに表示した。
真夜は自分の順位を確認すると、2位に自分の名前が表示されていたのだが、
「え…?2位が、2人?」
2位には真夜と『轟焦凍』という名前で表示されており疑問に思っていると見透かしたように相澤が口を開く。
「轟と暗闇はトータル成績が同じだったから同率2位だ」
「そ、そういうことですか…」
相澤の言葉に納得していると、周りが話している声が聞こえてくる。
「同率2位なんて流石実技試験2位になっただけはあるな」
「もしかして敢えて2位を狙ったんじゃない?」
「マジかよ。意外に計算高いな…」
(違うよ!狙ってないよ!)
心の中でツッコミを入れる真夜だったがあることに気がついた。
それは、最下位が緑谷であるということ。
せっかくボール投げで大々的な記録を出せたというのにと思っていると、相澤がとんでもないことを言い出した。
「ちなみに最下位の除籍処分。アレ嘘だから」
『………は???』
「君たちの個性を最大限発揮させるための合理的虚偽」
『はぁぁぁぁぁ!!??』
まさかの最下位除籍が嘘だったということにクラス全員が驚いて声を上げてしまう。
「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かることですわ」
「えぇっ!?八百万さん見抜いてたの!?」
「暗闇さんも気づいていなかったのですか?」
真夜も構造に気がついていなかったことに八百万は呆れてしまうも、全員はホッとしたように胸を撫で下ろした。
「これにて終了だ。教室にカリキュラム等の資料があるから戻ったら目ぇ通しとけ」
そして淡々と告げた相澤はその場を後にしていった。
各々が着替えるために校舎へ入っていき真夜と常闇もそれに続いた。
「まさか除籍が偽りだったとはな。俺たちを焚き付けるためとはいえやりすぎな気もするが…どうした?」
「なんかその…視線を感じるんだけど…」
歩きながらも視線を感じていた真夜。
その正体はもちろん爆豪。
煽られたことと真夜が同率2位になったことにより4位へ転落したのだから当然である。
「自業自得だ。諦めろ」
「うん。まぁそれはいいんだけど…」
実は真夜は憎悪の視線とは別のもう1つの視線を感じていた。
それは推薦入学者で真夜と同率2位の『轟焦凍』だった。
「僕何か気に触ることでもしたかな?」
別に彼を怒らせるようなことはしていないというのにどうしてだろうと思っていると、常闇が答えた。
「恐らく同率2位の暗闇に対抗心を抱いたのだろう」
「対抗心ねぇ…」
素行が悪い爆豪と推薦入学の轟に目をつけられてしまい真夜はこれからどうなってしまうのだろうと深くため息をつくのだった。
何はともあれ無事に?入学初日を乗り越えた真夜であった。