真夜VS常闇の対人訓練は真夜の勝利で終わった。
それをモニタールームで見ていた大半は驚嘆の声を上げていた。
「な、何がどうなったん…?」
「常闇が追い詰めてたってのに暗闇が逆転しちまったよ!」
「それにカメラの死角で見えなかったけど、急にダークシャドウが悲鳴上げたし、暗闇もまた見たことない形態になってたし…ワケがわかんない!」
誰もが常闇の勝利を確信していたにも拘らず、真夜が逆転した。
モニターで様子を見ていたが何故真夜が勝てたのか、何故ダークシャドウが怯んだのか殆ど分からなかった。
そうこうしているとモニター室の扉が開き対人訓練を終えた真夜と常闇が入ってきた。
それに反応したみんなは2人の元へ駆け寄る。
「お疲れ2人とも!」
「どっちも大したもんじゃねぇか!」
「常闇ちゃん惜しかったわね」
「あそこから逆転するなんて凄いよ暗闇!」
各々が2人の対人訓練を絶賛しており和気あいあいとなっている。
真夜も常闇もまさかこんなことになるとは思っていなかったため呆気に取られているとオールマイトがこの場を静める。
「ハイハイそこまで!最後の反省会を始めるぞ!」
『はーい!!』
オールマイトの一声と共に落ち着きを取り戻した皆は真夜と暗闇の訓練の反省会を始めた。
「それじゃあ今回最後のMVPは、暗闇少年だ!しかし常闇少年も僅差だったけどね!どうしてか分かる人はいるなかぁ?」
オールマイトからの質問にみんなは戸惑ってしまう。
今まで戦闘訓練を見て八百万とまではいかないが、それなりに反省点や改善策を言えるようになった。
しかし最後の戦闘は何が起きたのかまったく分からなかった。
何も言い出せずにいると、やはり八百万が挙手をして意見を言った。
「はいっ。まず常闇さんですが自分の個性の弱点を踏まえた上でのあの作戦は非常によかったです。そして暗闇さんも個性を上手く使いこなし相手に見つからず目的の場所まで辿り着いていました。お2人とも素晴らしい立ち回りをしていましたが、最後の常闇さんの奇襲、攻撃ではなく捕縛をしていれば勝利していたでしょう」
「…善処する」
八百万の解説に一同は納得し、常闇も目を閉じて頷き反省をする。
一方、真夜は初めての戦闘訓練で勝利したことと八百万からの高評価に内心ではガッツポーズを決めていた。
悟られないように表情筋を必死に抑えていると上鳴が真夜にあることを聞いた。
「そういや暗闇、最後どうやってダークシャドウを怯ませたんだ?」
「確かに気になりますわ。一体どうやって…?」
ダークシャドウが急に怯んだトリックに八百万やオールマイトでさえ分からなかったためみんな疑問に思っている。
それは対戦した常闇も同じでダークシャドウに聞いても何が起きたのか分からなかったようである。
みんなからの視線を受けた真夜は隠すことなく答えた。
「最後のは特別だよ。これがなかったら負けてた」
そう言って真夜はポケットに手を入れてあるものを取り出してみんなに見せる。
それを見た切島は真っ先に指を差して声を上げた。
「あっ!もしかしてそれって、スペシャルカードか!?」
「うん、ずっとポケットに入れてたの忘れてた」
真夜が使った起死回生の切り札、それはクジで引いたスペシャルカードだった。
ちょっと光が反射しただけで眩しいこのカードでダークシャドウの視界を眩ますことに成功したのだった。
「で、その隙にスピード形態のネオシャドウに変身して隣の部屋に行ったってワケ」
「スピード形態って…アンタ一体いくつに変身できんの?マジで強個性って感じ」
通常形態の『シャドウ』、飛行形態の『フーカバー』、巨体形態の『ダークサイド』、そしてスピード形態の『ネオシャドウ』
様々な形態に変身できる個性の持ち主の真夜に耳たぶが特徴的な女子『耳郎響香』は呆れてしまう。
確かに万能ではあるものの真夜は首を横に振りながら答える。
「そうでもないよ。この個性も万能じゃないし、もっと言うなら変身する時肉体が変形するから…全身の皮が引きちぎれるんじゃないかっていうくらい痛いし…」
『コワッ!?』
表情を暗くして深刻そうに自信の体験談を語る真夜に周りは少し引いてしまうも、真夜は続ける。
「それに、今回は本当に運がよかっただけだし。勝利とは言えないよ」
スペシャルカードがなければ間違いなく常闇に負けていた。
勝利したとはいえ、真夜にとっては微妙な勝利だった。
しかし、オールマイトはそんな真夜に対して笑顔で評価する。
「そんなことないさ暗闇少年!運もまた実力のウチ!それに八百万少女の言った通り、君の立ち回りはよかったぞ!ここから頑張っていきなさい!」
「…ありがとうございます。オールマイト」
それに対して真夜は頭を下げて礼を言った。
まだ始まったばかり、これから頑張ればいいと真夜が気を取り直していると、オールマイトが今回の授業を切り上げた。
「それでは今日の授業はここまで!緑谷少年以外大きな怪我もなく真剣に取り組んだ!初めての訓練にしては上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねばならないから、 着替えて教室に戻りなさい!」
そしてオールマイトはその場から全速力のダッシュで緑谷がいる保健室へと向かっていった。
こうして真夜は初めてのヒーロー基礎学の授業を乗りきったのだった。
◆◆◆◆◆
時間が経過して放課後。
1-Aの教室では、今回の戦闘訓練の自主的な反省会が行われており大半が残っていた。
そこから少し離れた場所で真夜は机に座りながらドライフルーツを食べていた。
「ん………中々美味しいな、このドライフルーツ」
「何を食ってる?」
するとこちらに気がついた常闇が真夜へと近づいて近くの机に座った。
「新発売されたドライフルーツの詰め合わせ。食べる?」
「では遠慮なくいただこう」
「ねぇ、ウチももらっていい?」
「僕もいいかな?」
真夜が暗闇にドライフルーツの詰め合わせの袋を差し出すと、耳郎と筋肉質な尻尾が特徴的な男子の『尾白猿夫』も話しかけてきた。
別に好物を独り占めをする気がない真夜は2人にも差し出した。
3人は袋に手を入れてドライフルーツを取り出すとそれを口へ運んだ。
「これはバナナか…中々いけるな」
「パイナップルウマッ。ドライフルーツってそんなに食べないけど意外と…」
「マンゴーも美味しい。暗闇ってドライフルーツ好きなの?」
「まぁフルーツ全般は好きだよ」
ドライフルーツを真夜たちが堪能していると、教室の扉が開いて腕に包帯を巻いている緑谷が入ってきた。
するとそれを見た反省会のメンバーは『熱かったな!』『よく避けたね!』と絶賛の声を緑谷にかけた。
「緑谷くん大丈夫そうだね」
「まったく、騒々しい…」
授業で大きな怪我をした緑谷を心配していたが無事に戻ってきた姿を見て真夜はホッとしており、対照的に暗闇は騒がしくなったみんなにため息をつく。
「常闇くん!暗闇くん!机は座るものではない!今すぐ降りたまえ!」
すると机に座っている真夜と常闇を注意するべく、ロボットのような歩き方で飯田が近づいてきた。
確かに言っていることは的を得ているが、耳郎と尾白が即座に反論してきた。
「いいじゃんそのくらい」
「なっ!?」
「てか、何その手?」
真夜たちの行為を見逃す耳郎と飯田の仕草にツッコミを入れる尾白に飯田は身体を震わせてしまう。
「君たちぃ~…!」
「まぁまぁ飯田くん。取り敢えずこれでも食べて落ち着きなって」
今にも噴火してしまいそうな飯田を宥めようと真夜はドライフルーツの詰め合わせを差し出した。
「…取り敢えずもらっておくが、諸先輩方が使ってきた机を蔑ろにするなんて申し訳ないと思わないのか」
注意しながらも飯田が袋の中へ手を入れてドライフルーツを取り出すとそれを口へ運んだ。
その時だった。
「ウグッ…!?」
突然飯田が両手で口元を押さえてその場に膝をついた。
その光景に耳郎と尾白は驚き常闇も机から降りてしまう。
「どうしたの…!?」
「えっ?飯田くんまさか、当たり引いた…?」
「当たりだと?」
飯田が苦しんでいることに心当たりがありそうな真夜に常闇は顔を向けると、真夜は淡々と答えた。
「いや、この詰め合わせ千分の一の確率でドリアンのドライフルーツが入ってるらしいんだよ。まだ僕も当てたことないけど」
「ドリアン!?」
「まさか飯田が食べたのって…!?」
あとは察しの通り、飯田が食べたのは正にそのドリアンのドライフルーツ。
独特な匂いがあるドリアンを口へと放り込んだのだから鼻孔に突き刺さっているのは明らかである。
その場にまずい空気が流れる中、真夜は紛らわそうとするのだった。
「ま、まぁとにかく、千分の一で当たるなんてある意味持ってるね、飯田くん」
「それで誤魔化せると思うなよ暗闇」
◆◆◆◆◆
「じゃあねー」
その後、教室に残っているクラスメイトたちに挨拶をした真夜は教室を出て帰ろうとしていた。
あの後何とか気を取り直した飯田に真夜は謝ると、案外簡単に許してくれた。
飯田曰く『確認せずに食べた俺が悪い』ということらしい。
何かと飯田とはトラブルを起こしている真夜ではあるものの、決して仲が悪いというところまでには至っていないため良好とも言える。
窓の外から夕日が差している廊下を真夜が歩いていると、
「ちょっといいかな?」
「ん?」
不意に後ろから声をかけられ真夜は振り向いた。
しかしそこには誰もおらず辺りを見渡すも人影すら見えなかった。
同じクラスの透明の個性持ちの『葉隠透』のイタズラかと思ったが、明らかに声質が違っていたためそれはあり得ない。
単なる空耳かと思った時だった。
「こっちこっち!」
「!?」
今度は確かに声が聞こえたため、声のする下の方を見ると真夜は驚いてしまった。
何故ならそこにいたのは、スーツを着こなしている二足歩行で白い毛並みの小動物だったのだから。
「やぁ!」
「ネ、ネズミが喋った!?」
小動物が人間の言葉を喋ったことに真夜は更に驚くも、その小動物は続けて言った。
「Yes!犬なのか熊なのかネズミなのか、かくしてその正体は…校長さ!」
この小動物こそ、雄英高校の最高権限者の地位にいる『根津校長』だったのである。
「こっ、校長先生ィィィ!?」
目の前にいる小動物の正体を知った真夜は驚きの声を上げるのだった。
◆◆◆◆◆
場所は変わり仮眠室。
普段は教員たちの休憩所として使われているこの部屋に、真夜と根津校長の姿があり机を挟んで座っている。
「いやー悪いね。せっかく帰ろうとしていたのに呼び止めて」
「い、いえいえ!大丈夫ですよ!」
わざわざお茶を淹れてくれている根津校長に真夜は慌てながらも謙虚に答える。
校長先生に対してかなり失礼なことを言ってしまったためすごく畏まっていた。
根津校長は雄英のパンフレットにも顔写真つきで載っていたことを今更ながら思い出したのである。
「そんなに畏まらなくていいよ。楽にして」
「は、はいっ」
お茶が入った湯呑みを置く根津校長に真夜は徐々に落ち着きを取り戻しながら疑問に思うことがあった。
どうして根津校長は入学して間もない自分なんかをこんなところまで連れてきたのだろうかと。
特別大きな問題も起こしていない筈なのだがと真夜が考え込んでいると、根津校長が口を開いた。
「実技試験見たよ。個性も上手く活用できていて素晴らしい立ち回り方だったね」
「あ、ありがとうございます…」
実技試験の話でわざわざ呼び出したのかと真夜が思っていると、根津校長の次の言葉に反応してしまう。
「暗闇くん。君は自分の個性についてどう思っているのかな?」
「…と言いますと?」
大方、根津校長が言いたいことを真夜は察する。
そしてそんな真夜を見ながら根津校長はゆっくりと話し始める。
「君の実技試験の採点の時、一部の教師が合格を渋ったんだよ、ヒーローらしからぬ個性だってね。けど勘違いしないでほしいんだ。それは暗闇くんが無事に卒業できたとしても世間がヒーローとして認めないのではっていう意見ってことだよ」
それを聞いた真夜は何も言わずにお茶を啜る。
確かに根津校長の言うことは理解できる。
例え雄英高校で優秀な成績を残してヒーローの資格を得たとしても、敵のような個性では周囲の反応は大抵想像がつく。
それを踏まえた上で根津校長は真夜に個人で話を聞こうとこの場を設けたのである。
一通り話を聞いた真夜はお茶を飲み終えて湯呑みを机の上に置くと口を開いた。
「校長先生の言うことは、理解できます……だからこそ僕は、ヒーローになりたいんです」
「…と言うと?」
「この現代社会、約8割の人々が個性という能力を身につけています……その中には、僕のように恐ろしい個性を身につけてしまった人たちもいるんです」
800年前、人類に発現した個性は今でも問題視されている。
見た目が狂暴な狼、毒ガスを吹き出す、対象を溶かすなど自分の意思とは無関係に身につけてしまった個性の持ち主は迫害を受けてしまっているのが現状となっている。
真夜も小学生の頃はその1人だった。
「たまに分からなくなるんですよ…この世界が、本当に本物なのか………だからこそ、こんな訳の分からない世界で証明したいんです。こんな個性でも、ヒーローになれるって」
どんなに世間から非難を受けるような個性でも貴方はヒーローになれる。
迫害を受けた身に陥った自分がその代表としてヒーローを目指す。
それこそが、暗闇真夜の原点である。
「…そうか、どうやら僕は君に要らぬ心配をしてしまったようだ。これから幾度もなく試練が待ち構えているが頑張りなさい」
「はいっ!」
真夜の話を聞いた根津校長はまっすぐに真夜を見て励ましの言葉を送り、真夜はそれに答えた。
校長から激励の言葉を貰った真夜は、自分がヒーローを目指す理由を改めて再認識するのだった。
主人公プロフィール
名前:暗闇 真夜(くらやみ しんや)
性別:男
容姿:黒い髪に目は黄色がかっている。身長は170センチと大きめ。
性格:大人しいが、やや天然なところがある。場が重くなったらなんとか和ませようとする。
好きなもの:果物全般
コスチューム:黒いジャケットの下に白いシャツ。青いデニムジーンズ。どちらも対刃性と防火性を兼ね備えている。
個性:闇の魔物
RPGゲームに出てきそうな魔物に変身可能。変身するときはタイムラグが生じる。
通常形態『シャドウ』
全身が黒く目が丸くて黄色く頭から触覚が生えている2頭身のフォルム。
地面へ潜っていどうすることが可能。
スピード形態『ネオシャドウ』
人型の見た目で痩せており手足のリーチが長い。
シャドウより機動性能は高く強化形態とも言える。
飛行形態『フーカバー』
シャドウと同じ大きさをしており襟巻きのような羽が生えている。
長時間の飛行が可能だが、スピードはシャドウと同じ。
巨大形態『ダークサイド』
頭から髪のように無数の触覚が生えており、胸にはハート型の穴が開いている巨大な姿。
手にエネルギーを溜めて振り下ろすことができる。