なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか? 作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民
『マツモト、ヴィヴィの方は?』
『大丈夫です。エステラに動きはありません』
二体いるってことがバレたら、ヴィヴィの方のエステラも何かしら動きを見せると思ったのだが……。
そうなると、コイツとエステラとは繋がりが無いという可能性も出てくるか。
何はともあれ、今はこの偽エステラをどうにかしないとな。
隙なく構える様子から、偽エステラに搭載されている戦闘プログラムは相当の練度であることは疑いようもない。
なんとか捕縛したいが、簡単に捕縛出来るような相手でないことは確かだ。
非殺傷モードであってもAI相手だとトドメを刺してしまうので、そこは考えないとな。
演算を目の前の偽エステラに割きながら、次いでに重力管制プログラムを作動させておく。
「一応聞いておくが、テメェは何者だ」
「通りすがりのお嬢様ですわ」
ワンピースの端を持ち上げて、優雅にカーテシー。
決まった……!
「……まあ良い。どの道、そこのアンドロイドと一緒に黙っていてもらう!」
「やれるものならやってみろ、と言っておこうかしら」
そう言って、試しに何処かに拳でも打ち込もうとした時、緊急アラート。咄嗟に身体を捻って回避すれば、俺の頭があった位置を鋭い回し蹴りが過ぎった。
慌てて地面に手を着いて、手の膂力で空中に飛び上がりながら距離を取ると、更に俺の立っていた地面に小さなクレーターが出来ているのが見える。突立つ拳。
うわぁ。ステゴロ暴力AIだ……。
「逃がすかッ!」
「あら」
地面に着地したタイミングを狙って突き出された右拳を右手で弾き、引き絞るようにした左手の手刀を偽エステラの肩目掛けて解き放つ。
気分は劇場版パト〇イバーに出てきた零式の手刀! 喰らえ!
くそっ、弾かれた!
「っ、てめえ、本当に人間か……!?」
「さあ、どうでしょう? 少なくとも、LEDマーカーはありませんわね」
軽口を叩いている間も、偽エステラからの容赦ない攻撃が降り注ぐ。
拳を捌き、いなしてはお返しに蹴りを。躱されたところで追撃に拳を打ち込めば、今度は立場を変えての焼き回し。
一応、俺ってば戦闘用AIのはずなんだけどなあ。なんで、互角にやり合ってるんだろ、このAI。
「調子に乗りやがって……!」
「調子に乗っているのではなく、本気を出すまでもないだけですの」
まあ、嘘だ。
飄々としているように見せかけといて、かなりギリギリの攻防である。油断したら普通に死ねる。
向こうも、こちらのことが人間に見えているからと言って手加減出来る相手ではないと分かり、本気で攻撃してきている。
現状、戦闘プログラムの練度が同程度か、若干こちらが上回っているとはいえ、はなから出し惜しみなんてできる相手ではない。
仕方ない。
────戦闘プログラム・殺傷モード。
所謂視界がクリアになったような感覚。
演算機能が熱を出す勢いで回って、マリートヴァのデータベースに登録されている中から、未知である彼女の体術の動きに最も近い幾つもの動きを予測する。
十何通りの内の一つ、初動からわかりやすい動きを取ってくれたのは僥倖だった。
最小限の動きで躱すと、懐に入り腕と胸ぐらを掴んで派手にぶん投げる。
「ぜァっ!!」
「ぐぅ!?」
戦闘プログラムを非殺傷モードから殺傷モードに切り替える。
これだけで、演算全てを効率的に相手を倒すことに使える。更に登録されている体術の練度は二倍くらいまで引き上げられている、らしい。
そもそも、非殺傷モードじゃ、常に人間戦を想定した余剰演算を行っているのでどうしても動きが鈍くなってしまうのだ。だが、そのデメリットは殺傷モードには存在しない。
加えて、躯体の稼働率も上がる。これで勝つる!
でも、勝手にトドメを刺しに行くのを止められないからめちゃくちゃ神経使うぞこれ!
「何ッ、なんだッ、テメェは!!」
「格闘お嬢様ですわ」
「馬鹿にするんじゃ、ぐぁっ!?」
偽エステラの攻撃を避けて、避けて、確実に足や腕の関節部分を狙って打撃を加えダメージを与えていく。
流石に色々混ざった歴史の浅そうな我流格闘術よりも、二十世紀後半頃からロシアで温められてきた軍式格闘術の方が練度は高い。
「くっそ、テメェッ!!」
「ほほほ、当たりませんわ」
何発もダメージを与えて、段々と向こうの動きに鈍いところが見え始めた。
そろそろ決着を付けるべきか。逡巡も一瞬で、動き出す。
その時、
「ベスッ!!」
「っ」
唐突に、ベスという知らない名前を呼ぶ声。
声の聞こえた方、扉の方を見遣ると、目の前の偽エステラと全く同じ見た目の、というか本物のエステラがそこに居た。
「アンタ、アタシを騙していたのね!?」
そう肩を怒らして憤るのは、先程偽エステラに首をもぎ取られそうになっていたピンク髪のAIだ。
どうやら、俺と偽エステラが戦っている内に我に返り、助けを呼びに行ってくれていたらしい。
エステラとピンク髪のAIの後ろには、ヴィヴィの姿があった。多分、彼女は彼女で俺の状況をマツモトから聞いていたのだろう。
「ッ! クソがっ、マスターの計画が全部台無しじゃねえか……ッ!」
「もう止めて、ベス。どうしてこんな……」
「黙れ、エステラっ!」
「ベス……」
エステラとベスこと偽エステラの間には、何らかの深い事情があるみたいだ。
姉妹喧嘩のようなものなのだろうか。
しかし、これで収まってくれれば良いが。
「え、ちょ」
「お前ら! この人間がどうなっても良いのか!」
「ラーナっ!?」
というのは、甘過ぎたらしい。
ぐいっと体を引き寄せられて首元にナイフを添えられる。
演算負荷が大きすぎるから戦闘プログラムを非殺傷モードにしていたら、反応が出遅れた。
俺の身体は見た目相応の軽さなので、人間はともかく、見た目以上に重たいAI相手だと勢いが無ければ投げ技に移行することも出来ない。
この拘束は、俺一人の力だと抜け出せないか。
ゆ、油断したぁ……ッ!?
「わ、わたくしを人質にしても、誰一人構いませんわよ……?」
「はっ。そんなのは、そこにいる奴らの顔を見てから言うんだな」
エステラとピンク髪のAIは驚きと困惑の顔、ヴィヴィは歯噛みしている。
うーん。君達、AIだろうに顔に出過ぎじゃないか?
偽エステラが俺を引き摺りながら扉の方へ向けて歩くと、三人は渋々ながら道を開けた。
いやいやいや、そこは道を開けないで攻撃してくれ。気を逸らしてくれたら、何とか脱出できるから!
「あうっ」
「覚えてろ、この借りは返す!」
という俺の心の中の懇願も届くことはなく。
外まで出ると、彼女は俺を突き飛ばして逃げ去ってしまった。
……しかし、どうしたものか。
マスターとか、計画とか言ってたし、絶対にこのホテルの中に協力者が居るよなぁ。
□
「取り敢えず、この件は今はまだ公表しないでおきましょう。お客様にそれとなく避難を促してからでないと、余計な混乱を招いてしまうでしょうから」
うん。それが良いだろう。
何処に紛れ込んでいるのか、また、敵の規模すらも分からない現状は、宿泊客に混乱を招く訳にはいかない。
最悪、宿泊客を人質にされる可能性もある。それだけは何としても避けなくてはならない。
「お客様、先程は助けていただいてありがとうございます。お怪我はございませんか?」
「いえ、大丈夫ですわ。そちらこそ、何か問題などは?」
「私の方こそ、大丈夫です。本当にありがとうございました」
先程助けたルクレールというらしいピンク髪のAIが感謝の言葉を述べてくるが、こちらとしてもAI含めて誰一人として犠牲を出さずにと誓った手前だ。早速目の前で殺られたんじゃ、笑い話にもならない。助けられて良かった。
「ヴィヴィ、私とルクレールは他のAIと協力して異常を探すから、こちらのお客様をホールまでご案内してあげて」
「……分かりました。二人とも、気を付けて」
「ええ、そっちこそ、お客様に粗相の無いようにね」
急ぎ足で貨物ハンガーを出ていく二人を見送る。残るは俺とヴィヴィ、そしてぬいぐるみ。
さて、と。
それじゃあ、我らが参謀の見解でも聞こうかな。
『おそらく、今回の件ですが、トァクが関与しているものと推測されます』
「やっぱり、か」
『AI大嫌い集団の彼らが、この件に関わっていたとしても確かに何ら不思議ではありませんからね』
トァク、と言われると十五年前に空港で戦ったアリスタルフ一行を思い出すが、アリスタルフ一行は今も牢屋の中のはずだ。
ということは、また別の一派だろう。
テロリストとはいえ、反AI思想が強いだけで、無駄に人間の血を流そうとはしないはずだ。そこは信頼出来る。
「……取り敢えず、疑わしいのは何処かくらい検討着いてるのか?」
『勿論。僕を誰だと思っているんですか?』
「人にお嬢様キャラを押し付ける変態欠陥AI」
『次にその恐ろしく不名誉な仇名で呼んだら、貴女の戸籍を面白おかしく書き換えますからね?』
こいつ、人の戸籍にも干渉出来るのか。サイバーセキュリティの存在意義……。
『こほん。話を戻しますが、僕が怪しいと思っているのは輸送、整備スタッフです』
なるほどな。
確かに、宿泊客に扮するよりも紛れ込み易いだろう。武器なんかも物資として偽装できるし管理し易い。
恐らく宿泊客の中にも手勢は数人いるだろうが、そっちも行動を開始したら他のメンバーと合流するはずだ。気にしなくて良いだろう。
となると、一番怪しいのは今俺達がいるこの区画付近なわけで。
「居たぞ!」
「マジか」
扉から雪崩込むようにして、五人の武装した男達が現れる。
武装はアサルトライフルだけだが、十五年前とは威力も比較にならない。俺はともかく、ヴィヴィは一発でも当たったら不味いだろう。
「ヴィヴィ、伏せろ!」
「人間を殺すのは心苦しいが、AIの味方をするならばそこのAI共々死ね!」
────戦闘プログラム・非殺傷モード。
トリガーを引き絞り、撃ち放たれた幾つもの銃弾。
それらを弾道予測線に沿って躱しながら、距離を詰める。
なるべくヴィヴィから遠ざける為に撹乱するよう動き回るが、如何せん数が多くて弾幕が厚い。俺でも二桁も喰らえばお釈迦必至。
戦闘用AIである俺の装甲は、十五年前までを基準として最優であるというだけで、今の時代じゃ型落ちも良いところだ。
しかも、戦闘プログラムで無理な挙動をぶっ続けでやったせいで、各関節も地味に嫌な感じ。
『ヴィヴィ、マツモト、逃げろ!』
『でも、ラーナは!?』
そう促せば、抗議の声をあげたヴィヴィ。
心配されるのはありがたいけど、ここは一人の方がやりやすい。
俺の考えが伝わったのか、マツモトは頷いてくれた。
『分かりました、ここは任せます』
『マツモト……!?』
『スヴェータ。その程度の男達、瞬殺してくださいね』
『任せろ』
『……っ、やられたらダメよ、ラーナ』
笑ってやれば、ヴィヴィはマツモトを連れて駆け出していった。
これで偽エステラの方はヴィヴィ達が何とかしてくれるだろう。俺は、邪魔が入らないように出来るだけ陽動に徹した方が良いか。
……さてと、此処はどう乗り切ったものかな。