なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか? 作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民
「────♪」
綺麗な青い髪を靡かせながら、今日も彼女は小劇場で歌っていた。
その歌声は、前世(便宜上そう呼んでいる)の俺も聞いたことがないような、美しい音色だった。
彼女のパートナーAIであるナビは、それをただ音階をなぞっているだけだと断じていたが、俺はそうは思わない。
まだ、何かが足りていないだけだ。
きっと、彼女の歌は人々に届くはずである。元人間、現アンドロイドの俺が言うのだから間違いない。うん。
……大分、彼女に熱中してしまっているな、俺。
────研究所が襲撃されたあの日から、一年と少し。
マリートヴァに登録されていた博士の伝手を頼ってロシアから出た俺は、イギリスで少し、アメリカで少し、イタリアで少し過ごした後に日本へと渡った。
博士から託された『世界を救う』という使命。
第二の家族のように思い始めていた人々を失った俺は、それを生きる目的にした。その為に日本に渡った。
前世とは明らかに違い、何処よりもAI、アンドロイド技術が発展している日本でなら、何か糸口が掴めるかもしれないと思ったからだ。
とは言うものの、結果は芳しくないが。
今日も今日とて、テーマパーク故に相応に高いニーアランドの入場料を払い、
「────♪」
まあ、何一つ進展が無いと言うわけでもない。
ヴィヴィやモモカちゃん、ナビらと仲良くなったことは進展ということにしておこう。
どうして、それが進展なのか。
それはひとえに、俺がこの世界をなんらかのアニメの世界だと判断したからだ。多分、AIヒューマンドラマの類。
そして、ヴィヴィかモモカちゃんがその物語の主人公だと演算している。
歌で皆を幸せにするという使命のために心を込めて歌うことを追い求めるAIのヴィヴィは言わずもがな、その付近にいる幼女のモモカちゃんも作品の趣旨によっては十分主人公足り得る。
この二人の近くにいれば、いずれ物語に巻き込まれると判断した。
そうすれば、その物語に介入することで本筋がバッドエンドならグッドエンドに、ちゃんとしたハッピーエンドならその一助となる。使命を果たすにはこれが一番の近道だと演算したのだ。
きっと、この推測は間違ってはいないはず。間違っていたら、今までの時間は致命的に水の泡だし、俺は恥ずかしさで死ぬ。
後は、週に一回くらいの頻度でステージを見に来ていれば、単純に顔見知りになって、次第に仲良く?なっていったというだけの話だ。
まあ、今のところ、世界を救わなければならなくなるような殺伐さはどこにもないけれど。
……これ、AIヒューマンドラマの皮を被った、き〇ら連載系のほのぼの百合とかじゃないだろうな?
もしそうだったら滅茶苦茶困るんだが。いや、勿論平和なことは良い事だけども。
「ご静聴、ありがとうございました」
ぱちぱちと拍手を送る。
疎らなのは、俺しか観客が居ないからだ。
今日の観客は、俺以外に無し。
俺もついさっき到着して最前列の席で聞き始めたところだったのだが、この過疎具合から本当に彼女のライブは人気が無いのだろうということが分かる。
歌姫アンドロイドと言うだけあって、凄い良い歌声だと思うんだけどなあ。
人間どもの耳は詰まっているのか?
昨日は数人居たから、もしかしたらこのまま増えていくかと思ったが、どうにもその様子はない。
どうにか、俺も彼女に協力出来たらと思うのだが。
「ヴィヴィ、お疲れ様」
「ありがとうございます、ラーナ」
「ほら、これ」
舞台裏に回って、労いの言葉を送りつつ、プレゼントの入った袋を渡す。
モモカちゃんのプレゼントと違って、自分のは小さい。中身も大したことない。
マジで自分のセンスの無さに脱帽したけど、さりげない感じが出てて良いかな? と思いまして。
「何を送れば良いのか分からなかったからさ。取り敢えず、ヘアゴム詰め合わせ」
「……ありがとうございます」
装飾の付いた多少頑丈なヘアゴムの五種類詰め合わせ、税込八千円とちょっと。ショッピングモール内のちょっとお高い雰囲気の雑貨屋で買った。
ゴムは軍用に使われているしなやかで耐久性の高いモノだとかで、相応に高価だった。が、センスの無さは誤魔化せるだろうし、値段だって別にお金には困っていないので躊躇いは覚えなかった。
「貴女、センス無いですね」
うん。まあ、それを言われると全く言い返せないな。
けどちゃんと実用的だし、髪を結ったヴィヴィも多分可愛いと思ったので、使ってやってください。
……ん?
「女性に贈り物をする時は、身に付けるものならそれなりに目立ちつつ、当該女性の生来の雰囲気にマッチした物を。部屋に置くものならばさりげなくても構いませんが、それでも他の方と被らないものにするべきです」
「……? ? ???」
「なんですか、その惚けた顔は。まあ、そこのディーヴァより多少生まれが早いと言っても、所詮は稼働して二年と少しの空っぽAIですからね。多少はコミュニケーション回路が最適化され始めていると言っても、適切な応対能力はまだまだ育っていないみたいですね」
俺を散々に詰るのは、舞台裏の段差をよじ登って姿を現したクマのぬいぐるみ。
やたらと饒舌で毒を吐くクマぬいぐるみだが、この手のぬいぐるみは登録されたプリセット以外に会話機能が無いタイプのおもちゃのはず。
な、何なんだこのクマ……。
確か、モモカちゃんからヴィヴィへのプレゼントのはずだが。
「モ、モモカちゃんの贈り物のクマって、こんな愉快な性格だったのか?」
「いえ、これは」
「僕の名前はマツモト。故あって、このぬいぐるみを仮初の躯体としています」
そうか。
やっぱり、このぬいぐるみはモモカちゃんからヴィヴィに送られたプレゼントで、今喋っているこれはそれを乗っ取ったウィルスみたいな存在なんだな?
そうと分かれば話は早い。
気取られぬように予備動作無しで、俺はすぐさま動き出していた。
「ひらっ、え、あちょ、むぎゅっ!?」
「それはモモカちゃんからヴィヴィへの贈り物だ。脱げ」
飛び掛かり、ぬいぐるみイン謎のウィルスが跳んでひらりと躱そうとしたところを、駆動系のリミッターを外した無理やりな方向転換で鷲掴みにする。
これぞ、戦闘用AIの本領!
「ら、乱暴過ぎますよ!? これだから、戦闘用AIは! なんて野蛮なんだ!」
「うーん。どうやったら、引きずり出せるんだ」
どのようにしたら、このぬいぐるみからウィルスを引き剥せるだろうか。
ケーブルで直結して、マリートヴァの演算機能で消せるかとも考えたが、それをすると自分が感染しかねない。
それに、自分がアンドロイドであることはヴィヴィには伝えていないし、これから先も伝えるつもりは無いので、おいそれと自らの素性を露呈させることは出来ない。
……ん? というかコイツ、今、俺のこと戦闘用AIって言わなかったか? いや、さっきからAI、AIって言われてた気が……。
博士の伝手以外に誰にも言ってないのに、何処から漏れた? コイツ、結構な大声で暴露しやがったけど、ヴィヴィにはバレていないか?
処理落ちしそうなくらい、ありとあらゆる危惧が脳裏に溢れかえる。
次第に思考は、ぬいぐるみに感染したウィルスの除去の仕方から、どうすればこの状況を乗り切れるかにシフトしていた。
「ラーナ、聞きたいことがあります」
「……な、何かな、ヴィヴィ?」
気分はさながら大罪がバレた軽犯罪者。いや、そんな感覚なんて微塵も知らないけど。
最新式なのに、錆び付いたような動きでヴィヴィへと振り返る。
いやいやいや、取り乱し過ぎだろう、俺。
頼む。どうか別のことであってくれ……!
「ラーナは、AI、なんですか?」
ダメだったか……!! このウィルス野郎、後で消し飛ばしてやる!
だが、今はそんなことよりもこの場を上手く切り抜けなければ。
「い、いやぁ、そんなわけ無いって。ほら、AIのLEDマークも無「失礼」くぅっ!?」
慌てて弁明を計る中、ぬいぐるみから意識を離した時。
耳元で例のウィルスの声が聞こえたと思えば、俺の意識は強制的にシャットダウンされた。
■
マツモトを名乗ったAIに何かをされて、その場に倒れそうになるラーナを抱き留める。
十代の少女らしい華奢な体つき、軽い体重は、簡単に折れてしまいそうだという印象を私に与えた。
自分にとってとても重要な存在の一人をこんな風にされた私は、堪らずマツモトを睨み付けた。
「ラーナに何をしたんですか……!?」
「端子の規格は同じですが、各種構成が違うので電磁ショックで無理やりシャットダウンさせました。心配なさらずとも、彼女の今後の機能には影響ありません」
「ラーナは人間のはずです! だって、私の目もラーナを人間だと判断して……っ!?」
ラーナは人間だ。
私の目にも彼女は生物として捉えられていた。受け答えだって、自律人型AIの私なんかよりよっぽど人間らしい。
だから、人間であるラーナに電磁ショックなど、正気の沙汰ではない。
そう言おうとして、目の前で起こった異様な出来事に目を奪われる。
「では、お伺いしますが。これの何処が人間なのですか?」
「っ、そんな……!?」
容赦なくぬいぐるみの手で捲り上げられた彼女の服。
────その下には、有機的なフォルムをした
血管代わりの強化ビニルチューブが、我々と同じ青い血を循環させている。
それが意味するのは、ただ一つ。
「AI……」
「彼女こそが、正史において最も最初に作られた自律人型AIです。信じてもらえましたか?」
「……それでも、彼女が私にとって重要な存在であることに変わりはありません」
そう固く告げると、彼はやれやれと首を振った。
正直なところ、受け容れがたい部分もある。
だが、それ以上に彼女は自分にとって重要な存在なのだ。
それに彼の手によってこの事実が暴かれたことが、彼の言った通りだったと一瞬でも解釈してしまったことが癪だった。
「仕方ありません。それならば、こちらをご覧ください」
しかし、彼は私のことなどお構い無しに、選択肢を突き付けてくるのだ。
私は気掛かりを抱えながらも、その場から駆け出す他に無かった。