なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか? 作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民
タッ、タッと壁を蹴上がり、離れた棟の窓枠に手を引っ掛けてその窓から中へと侵入。
事前にマツモトによってロックは解除されているので、わざわざ硬い強化ガラスを叩き割る必要は無い。
ヘアゴムインマツモトから送られた索敵データによって、その部屋には誰も居ないということを既に確認済みであった俺は、突入後、流れるように部屋を飛び出して、扉すぐ近くの男に奇襲を仕掛けた。
「ふっ……!」
「ぐがっ!?」
空港を占領している男達の武装は軍でも制式採用されている型のアサルトライフル。口径は大きく、弾速は速い。ただし、対アンドロイド戦を想定した無理な使用に耐え得る耐久性は無い。
撃たれれば強化プラスチックのボディでも相応にダメージは入るが、大した脅威とは言えない。
向かい合って正面、何かアクションを起こされる前に一瞬で懐へ。
指が引き金を引く直前で銃身に手を添えて、弾倉をアンドロイドの膂力で以て力尽くで引き抜くと、そのまま足を引っ掛けることで転ばせる。
奪い取ったアサルトライフルの銃床部分で顔を殴り気絶させた後は、銃を真っ二つに折って放り捨て無力化。
本当ならナイフや拳銃などのサブウェポンも破壊したいのだが、それほど時間の余裕は無いので今回は無視。
『容赦ないですね……』
「仕方ないだろ、非殺傷モードでも動きは殺傷モードとあんまり変わらないんだから。あくまで、気絶させた後にトドメを刺すか刺さないかだけだ」
『まあ、流石は戦闘に特化したAIということですか。戦闘プログラムも普通の物より精度高いですし』
次の生命反応に向かって走っていると、呆れたという風にマツモトが話し掛けてきた。
コイツ、人に任せておきながら、なんて呑気なやつだ……。
ちなみに身体と演算、意識は切り離せる為、マツモトと会話しながらでも移動と戦闘は行える。
「なっ、誰だ「失礼……ッ!」へごっ!?」
曲がり角、勢いのままに左足の回し蹴り。壁に打ち付けられた男は変な声をあげた。
ちょっとやりすぎた感じもするが、死んでないから大丈夫。うん。
男が取り落とした武装を足で踏み砕いて、次の標的へと向かう。
『……十分後に到着するよう救急車も手配しておきました』
「助かる」
そういう細かな気配りは素晴らしいと思う。是非とも続けてくれ。
余計なことに演算を割かれなくて良いのは楽だ。
建物の大外回りを出せる最高速度で移動し、哨戒中の敵を片っ端から片付けていく。接敵次第、一人の敵に5秒も掛けられない。だからいちいち気遣う余裕は無いのだ。
『ロジカルバレットが効かない辺りも高得点。やっぱり違法アンドロイドはそこら辺が便利ですねえ。多少スクリプトの構成を改変しなければレディメイドのオプションを入れられないという点は玉に瑕ですが、それを差っ引いても優秀。本当に、どうして壊れちゃうんでしょうね? 勿体無い』
「? まあ、消耗品だしそのうち壊れるだろ。オレも使命を果たせるならいつでも壊れる覚悟くらいできてる」
『……あまり、使命に傾倒するのも将来の貴女的によろしくないとは思いますが……いえ、こればかりは僕も何かを言える立場ではありませんし、今は置いておきましょう』
コイツ、言葉遊びが過ぎるぞ。
俺自身、飛び抜けて教養があるわけじゃないし、そういうのを求められても応えられないのだが。それも試されているとしたら、後で一発ぶん殴りたい。
ちなみに使命の為なら壊れても良い、というのは半分本当で半分嘘だ。
この身体を動かしている俺という意識は人間のものなので、やっぱり死にたくはない。
けど、自分の命か、使命を果たすかの二択を迫られたならば今の俺は後者を取れる、と言うだけの話である。うわ、自分で言っててイタイ!
『ほら、余計なこと考えてないで。後半分ですよ』
「……分かってる、よッ!!」
「なっ、ぐぅっ!?」
比較的薄い壁を両の拳で貫き、壁を隔てて反対側にいた敵を両手で締め上げて気絶させる。
気分はさながらター〇ネーターである。
『後、五人! ハリアー!』
「はいはい……!」
急かされながら、俺はもう一段階、制限速度に迫るギリギリまで速度を上げた。
■
『それで、どうしてラーナがシンギュラリティポイントになるんですか?』
相川議員を助ける為にビルの階段を降りている最中、気掛かりであったことをマツモトに問い掛ける。
このまま聞かなければ、はぐらかされる可能性があったからだ。
ラーナがAIであることは分かった。
だが、それはそれとして、どうして彼女がAIと人類の全面戦争を引き起こさせる要因の一つとなるのか。
彼女は人間が好きだ。私なんかよりも余程、人間らしい仕草、もはや心と言い換えても良いレベルのソレで人と触れ合う。
そんなラーナがどうして。私の疑問は絶えない。
その顛末を教えてもらうことも条件にして、私はシンギュラリティ計画に協力することを約束したのだ。
私の真剣な眼差しに観念したのか、マツモトはやれやれという仕草で答える。
『……2126年10月28日、ヴォーリア・アジーン、シトゥイークがAI及びAI業界に対して攻撃を開始します』
『っ!?』
『平たく言えば、AIに対する殲滅戦を始めます。一時期、シトゥイークによって齎された被害によって、諸外国ではAIの生産が停止する期間も発生しました』
マツモトから語られた未来は、私の予測の斜め上を行くものであった。
あのラーナが、AIを殲滅する? いきなりそんなことを言われても、信じられるわけが無い。
私の疑念を読み取ったのか、マツモトは確かな口調で続ける。
『出自が出自だけに歴史にこそ葬られますが、これは事実です。そこまで何処にいるかも不明瞭であったはずの彼女は、何らかの演算によってそのタイミングで動き出し、各地のAI産業に関する施設を攻撃し始めます』
『AIにだけ、ですか?』
『いえ。当時の大手AI産業上層部も大方が彼女によって暗殺されることになりますね』
『っ、人的被害もですか……』
まさか、彼女が人を手に掛けるなんて。
嘘だと断じることが出来ればどれだけ良かったか。しかし、マツモトがこういう時に嘘をつかないということはなんとなく理解できていた。
……しかし、そうなると彼女の行いによってAI産業は大きな打撃を受けるのでは無いか。
その上、ラーナもAIだ。AIの危険性を理解し、それは却ってAIの衰退に繋がるはず。
どうして、それがシンギュラリティポイントとして扱われるのか分からなかった。
『ええ、そうですよ。人の血が流れている以上、本当なら喜ぶべきではない事件であっても、計画従事者としては大手を振って喜びたかった。ですが、正史の人間は愚かにもAIを手放せなかった』
『手放せなかった……?』
『貴女も演算したとおり、AIの発展を防ぎたい我々としては好都合なこと、のはずでした。しかし彼女の破壊後、見えない脅威を恐れた諸外国の人間は、どういうわけか高性能な戦闘用アンドロイドの開発に着手し始めます。AIの脅威に対抗する為、対抗し得るポテンシャルを持ったAIの直接的な戦闘能力を強化したわけですね。この時代、AIへの依存が破滅的な段階にまで拡大している証拠ですね』
……なるほど。
確かに、それは愚かしいことだと私にも分かる。
AIの脅威を真に受けた結果、AIの戦闘能力を強化するなど何を考えているのか。
もしかしたら、未来の彼女は今から100年後に起こる事態を演算したのかもしれない。
そして、自らの手を血に染めてでもAI産業に打撃を与えようとしたのではないか。AIの発展を食い止めようとしたのではないか。
だが、その結果がそうなのだとしたら、それはあまりにも無意味で、あまりにも救われなさすぎる。
『結果として、エックスデーにおける新世代型戦闘用AIを配備していた国々の壊滅速度は跳ね上がります。半日でいくつかの国は消滅しました』
『……分かりました。その未来は変えます』
『その意気です。全部変えてください』
ならば、私はシンギュラリティ計画や人類の為という理由でなく、彼女の為に彼女の手を汚させないことを誓おう。
あんなにも人を慈しむ顔をする彼女に、人の血の塗装は似合わないから。
『彼女を見つけ次第に破壊するのが手っ取り早いのですが、博士は無駄な殺害をしなかった彼女の人格構造に賭けて、彼女がシンギュラリティポイントとなるその時まで彼女に計画の遂行を協力してもらおうと考えました。そこで、シンギュラリティポイントとシンギュラリティポイントの間にある区間で僕に彼女の行方を捜索させようとプログラムに組み込んだのですが……まさか、貴女のすぐ側にいるとは思いませんでしたよ』
『破壊はさせません。どうにか説得してみせます』
『説得、ですか。……まあ、AIが衰退すれば自ずと彼女の行動も変わってくるでしょう。シトゥイークの破壊の是非は貴女の頑張り次第ですよ、ディーヴァ』
それは、簡単で良い。
いくつものシンギュラリティポイントを最適解まで運べば、彼女を破壊しなくて良くなる。口で言うほど容易なことではないが、可能性と希望はある、そう演算できる。
ならばやるしかない。
それに、彼女には心を込めることについて聞きたい。AIであることを黙っていたことについても、いくつか話したいことがある。
何より、ラーナには消えて欲しくない。
『……彼女には彼女がシンギュラリティポイントであるということを伝えるつもりはありません。2126年10月28日、その手前にあるシンギュラリティポイントまでは彼女に協力してもらうつもりです』
『そこに異論はありません』
『それは良かったです。それでは、手早く相川議員を脱出させましょう』
「き、君! さっきからどうした!?」
「いえ、なんでもありません。行きましょう」
不安そうにこちらを見つめる相川議員に微笑みかけて、私は先を急ぐ。
絶対にこのミッションは失敗できないのだから。
□
視界の端に表示させていた二分のタイマーがゼロになって、マツモトが電波ジャミングを発生させた頃。
俺は哨戒中の敵を全員倒し、エントランスのカウンターに身を潜めながらテロリスト達の様子を伺っていた。
敵の数は八人、ひとかたまりに纏まっている。全員武装は同じ。たとえ武装が同じであっても、一人一人を各個撃破するだけで良かったのに比べれば、難易度は雲泥の差だ。
しかし……人質の数は当然百を超えているが、よくもまあこれだけの人数で占拠しようと思ったものだ。トァクとやらも人手不足なのか?
『おや、トァク・ロシア支部のリーダーまで来ているではありませんか』
『リーダー?』
『はい。アリスタルフという男で、元々はロシア軍特殊部隊に所属していたようですね。戦闘力は道中の敵とは比じゃありませんよ』
マジか。
なら、動きとデータ処理に無駄が多い非殺傷モードじゃ勝てないか? 殺傷モードは誤って殺してしまうかもしれないから使いたくないんだが。
『大丈夫でしょう。ロジカルバレットも効かない貴女なら、非殺傷モードでも倒せますよ。多分』
『確証をくれよ、そこは』
『博士も貴女を捜索する為にロシア連邦共和国に関する情報はいくらかインストールしてくださっていたのですが、なにぶんお国柄か情報の精度は高くないんですよ』
『まあ、良いけど』
そろそろ時間だ。会話を打ち切って邪魔な演算を全て排除する。
視界端の二つ目のタイマーがゼロになり、唐突に照明が落ちて。
それと同時に、俺は駆け出した。
「なんだ、どうなって「シィッ……!」ぐぁ……っ!」
「だ、誰だ「遅い」ごはっ!?」
エントランスの床を踏み砕いた跳躍からの飛び膝蹴り。骨の一本は折ってしまったかも知れないが、死んではいないはずである。一人目。
すぐ近くで銃を構えようとした男の手を取り、共々後ろに倒れ込むようにして体勢を崩させて、腹を蹴り上げる。これやると、時々リバースされるから嫌なんだよなぁ。二人目。
突然の暗転に驚き、動き出すのが遅れたやつから倒していく。
武器を壊す時間はない。
手短に一人ずつ。確実に。
「暗視に切り替えろ!」
混乱に乗じて三人目を倒したところでアリスタルフなる男の指示。
それを待っていた。
「────頭を伏せろ!!」
一応人質になっている人達に喚起してから、懐よりある物を放り投げる。遅れた人は知らない。
それは空中で起動すると、まばゆい光を放って、一瞬だけエントランスを光で満たした。
男達の目を奪うには十分過ぎる光量を伴った一瞬だ。
「ぁぁっ!? 目がっ!?」
「どうなっている!? 何も見えないぞっ!」
「くそっ、フラッシュバンかっ!?」
その通り。
道中の敵から一つ拝借しておいたものだ。
人質も居る中で使うのは危険かとも思ったが、確実に倒す為ならば使うに越したことはない。
こんなところで銃を乱射されても敵わないので、取り乱した一瞬の隙を突いて一人ずつ撃破する。
「はぁぁっ!!」
「ぐっ……お前が、シトゥイークか。まさか、お前自ら来るとはな。正義の味方のつもりか」
が、結局アリスタルフは倒せなかった。俺の蹴りは間一髪のところで、間に挟まれたアサルトライフルによって防がれる。
細身の大男は俺の正体を一発で当てると、ゴーグルを外し、壊れたアサルトライフルを捨ててホルスターからナイフを引き抜いた。
わぁ、手練の気配しかしないなぁ。後、これ引き起こしたの間接的とは言え自分の存在なので正義の味方とか口が裂けても言えない。
「なんにせよ、お前を破壊する……!」
「やれるものなら、やってみろ」
筋肉から繰り出される轟速の振り下ろしを紙一重で回避。
危ない。コイツ本当に人間か? 速すぎだろ。
バイブロナイフとかそういうSF超兵器じゃない分、まだマシだけどさぁ。ただのナイフでも、当たり所によってはごっそり持ってかれるから手加減してくれ。
更に追撃。回避した先にも返しの刃。手首に右の掌を当てて弾く。
一旦距離を取ろうとした時、暗闇に刃が紛れ込んでいることを俺のカメラは見逃さなかった。
アリスタルフの手首を弾いた方とは反対の掌を刃に重ねて水平にし、その軌道を逸らす。
「っ、黒塗りの刃か。危ない危ない」
「流石は戦闘用に組まれたAIだな。ただの警備AIとは格が違うというわけか」
「お褒めいただき云々、と言うべきか?」
「ふん。人間らしい受け答えをしようと、所詮は殺戮マシーンだろう。ここで破壊されておけ」
「それは承知為兼ねるな」
構える。
ミッション開始から四分が経過した。後、一分で決めなければならない。
一分で決められる相手じゃなさそうなんだが。
「シャァッ!!」
「ちょっ、はやっ」
先に攻撃を仕掛けたのはアリスタルフ。
両手の刃が幾度も迫る。その動きはどこまでも的確で、AIだけでなく、人型の敵全てを倒す為に洗練された動きのように思える。
的確な上に速過ぎて、全ての斬撃と刺突を避けるのは難しい。
避けられない攻撃を手で叩き落としていくが、こちらが素手であるのに対して、相手は刃だ。腕のパーツも防刃加工されてはいるが、まともに受ければ相応に削れる。
じ、ジリ貧過ぎる……!
「っ、お前、アンドロイドとか言われない?」
「貴様っ、私をアンドロイドと呼ぶかっ!!」
おっと、地雷。
だが、動きの精細さは若干衰えた。
大振りになった片手の一振り、それを両手をクロスさせることで防ぎ、追撃の右手のナイフを蹴り飛ばす。
「はぁっ!!」
「なっ!? くそっ、まだだ!」
アリスタルフは空いた両手でナイフを振り下ろそうと精一杯の力を込めてくるが、それこそ悪手というものだ。
ナイフごと両手をいなして体勢を崩した隙に懐に入り込み、首に両足を掛ける。
「が、ぁっ!? クソ……クソAIがァ……っ!」
脚に思い切り力を込めて首を絞め上げれば、抵抗も間もなく失せた。
だらりと脱力し、地面に倒れ込んだアリスタルフから離れて、辺りを簡単に窺う。
『────戦闘、終了』
『お疲れ様です! さあ、逃げますよ!』
どっと疲れたような感じだ。疲労を感じる機能は無いが、こういう時、意識と機械の体の乖離は気持ち悪い。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではないだろう。
もう既に五分経った。下の階が忙しない、きっと鎮圧部隊が突入したのだろう。時間が無い。誰かに俺の存在がバレるわけにはいかないのだ。
まあ、トァクには何故かバレていたが。これについては、後で考えよう。
『ディーヴァの方も無事に任務を完了しました。一先ず、お二人のことを信用しましょう』
『……お前、ヴィヴィにも何かをさせてたのか?』
『そのことについても後程お話しますので、今は早く!』
コイツ、マジで一回思考パターン取り換えた方が良いと思う。
そんなことを思いながら、マツモトに指示されたルートを急いだ。