なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか? 作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民
トァクとの戦いを終えて空港から逃げ出した俺は、ヴィヴィの部屋に転がり込むと、すぐさま床でスリープモードに入った。機能的には何の問題も無かったのだが、俺自身の意識が物凄く疲れたのである。
なんとなんと、自分が借りている家にもトァクの連中が上がり込んでいたのだ。軽くホラーだろう。
ヴィヴィの部屋に逃げたのは仕方の無い選択であった。
朝起きた時、自分がベッドの上に居て、ヴィヴィの顔が間近にあった時は、あまりの顔の良さに放心し、なんか良からぬ雰囲気を感じ取って現実逃避の二度寝をかまそうとした。
しかし、起きないなら事情の説明は十五年後にするとマツモトが脅してきたので渋々話を聞くことに。
十五年後って脅しにしては壮大だな、などと考えていたら、マツモトの口から明かされた事情は俺の度肝を抜くにはインパクトが強過ぎた。
「百年後の未来、ねえ」
これには、思わず嘆息するしかない。
過剰に発展し過ぎたAIによって、百年後、人類という種が脅かされるなんてSFそのものではないか。俺の予測がやたらと正確でビックリだ。
まあ、それを回避する為にAIが未来から過去へ送られてくるなんていうところまでは予測できなかったけど。
スケール大き過ぎでは? きら〇系百合とか言ってたヤツ誰だよ。ガッチガチのSF超大作じゃねえか。
「AIが人類に反旗を翻すとか、今じゃ信じられないけどなあ。未来がそんなことになってるなんて」
「最初に聞いた時は、私も驚きましたし、信じられませんでした」
そりゃあ、誰だって驚くだろう。
まさか、あの変態欠陥AIのマツモトの正体が百年後の未来を変える為に未来から送られてきたAIだったなんて!
え、違う? そういうことじゃない?
とはいえ、その件に関しては全く信じられないとは言わない。
ヘアゴム一つの状態で索敵からロックの解除、ジャミングや停電、救急車の手配までやってのけたのだ。正直凄過ぎる。流石にマツモトが超高性能である点は認めざるを得ない。未来の技術、未来のAIスペックということを証明するには十分だと言える仕事ぶりである。
ムカつくから、アイツの前じゃそんなこと絶対に言わないけど。
ちなみに、ヘアゴムはヴィヴィに返した。
でもってマツモトは俺に計画について説明するや否や眠りについて、ぬいぐるみも無事?にヴィヴィの下に返ってきたので、外見的にはとても丸く納まった感じだ。
「私は百年後の未来を変える為に、このシンギュラリティ計画を遂行しようと考えています。……貴女は?」
貴方は、というのは俺がこの計画に乗り気かどうかだろう。
まあ、どちらかと言えばモチベーションは高い。やっと使命を果たす糸口が見つかったような気がする。
それに、知らん顔するのは後味が悪い。
「まあ、オレもそのつもり、かな。オレ自身の使命にも関係することだし。そういう意味じゃ、この話を聞いて何もしないなんてそれこそ有り得ない」
「ラーナの、使命……」
結局オレは、彼女に自分の正体を簡単にだが打ち明けた。
経緯とか、そういうのはほとんど説明していないけれども、自分が戦闘用に造られたAIである事くらいは隠し通そうと躍起になることでもない。
そもそも、一緒に計画に従事するならば俺の戦闘能力自体を隠すなんて不可能なのだから。
けど、出自とか使命とかそこら辺に関しては追追かなと思っている。
俺自身は全然気負ってないし、ヴィヴィもそこら辺は気にしなそうだけども、妙に重苦しい内容だから胃もたれしそう。俺自身、誰かから唐突にそんなこと言われたら、ちょっと待ってくれってなる。
そういう理由もあって、一気に全部告白することを良い事だとは思わなかった。それに、秘密の多い男は格好良いって言うし。
「なんにせよ、次のシンギュラリティポイントは十何年も先なんだろ? それなら、ゆっくり待つしかないって」
「……そうですね。私も、そう思います」
うんうん。
取り敢えず、俺はトァクとかロシアとか滅茶苦茶きな臭いから、そっちの調査でもしようかなぁ。なんで日本の拠点がバレたのかも気になるし。
ヴィヴィには、メインステージで歌うというモモカちゃんとの約束もあるから、たとえシンギュラリティ計画に従事するとしても、極力歌う事以外をさせるわけにはいかないだろう。
実働的なのは俺の仕事だ。
■
「じゃあ、また一年か二年かしたら帰ってくるから。ライブ、頑張れ!」
そう言ってはにかむと、彼女は私の下を去っていった。
ロシアにある自宅に帰省するとのことだが、恐らくは先日空港を襲撃したトァクについて調べる為に帰るのだろう。
「はい、また」
彼女がいれば、この閑散とした小劇場も賑やかになる。
彼女が居て、モモカが居て、ナビが居る。
ラーナとモモカが私の歌を根拠も無しに良いと言い、ナビが小言混じりに助言をしてくれる。
お客さんの入りこそまだまだだが、それでも彼女たちが聴いてくれるだけで、歌を歌おうと前向きになれた。
だが、ラーナとモモカの二人は海外へと旅立ってしまった。しばらく帰ってくることはない。
ぽっかりと穴が空いたような、何かが足りない曖昧さ。
小劇場には、私とナビだけ。
客席にお客さんの姿は無い。いつも通りだ。
前までは、これに思うところは何一つなかった。そのはずなのだ。
けれども今は、明確に違う。
隙間なく人工物で埋め尽くされた私の中に、何かが芽生えようとしているのか。それは分からない。
分からないけれど、誰も居ない小劇場が嫌になってしまった。
……それでも、歌おう。
歌うことこそが、私の本当の使命なのだから。
「お父さん! ディーヴァだよ!」
「そうだね。ちょうど始まるみたいだし、少し聞いて行こうか」
「うん!」
────聞いてください、My Code。