なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか? 作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民
第五話 宇宙へ
今日の分のライブが終わって、ヴィヴィの部屋。
十五年前と違って、何処か柔らかな雰囲気を纏うようになったヴィヴィのライブには、小劇場が満員になるほどの観客が詰め掛けている。
古参ファンとしては、ヴィヴィが認められて嬉しい限り。
「やっぱり、ヴィヴィの歌は凄いな」
「いえ、メインステージまではまだまだ足りないわ」
「そうねぇ。この調子だとメインステージまでは、後十何年は掛かるんじゃない?」
メインステージまでの道のりってそんなに果てしないのか……。
凄いな、メインステージ。俺じゃあ、歌ったところで十年掛けてもお客は付かなさそうだ。
……でも、AIにとっては十何年なんて一瞬とまでは言わないけど、大して長い時間じゃないんだよな。
この前、モモカが子供を連れてきた時は、自分がAIになったということをまざまざと実感させられたものだ。
俺も、前世含めたら推定三十代である。いやぁ、おっさんになってしまった。
昔は出来の悪い等身大の人型のおもちゃみたいな見た目だったAI達も、今となっては人間と同じような外観を得て、首元のLEDマーカーが無ければAIかどうかなんて見た目では判断できなくなった。
マツモトの話によれば、ヴィヴィによって相川議員の殺害が阻止されたことでAI命名法が施行されなくなり、AIの発展を遅らせられるということだったが……果たして、今の状況はAIの発展が進んでいないと言えるのか。
俺にはそうは思えなかった。
「それにしても、アンタは全然見た目変わんないわね」
「え、い、いや、ほら、化粧とか? シワが出ないように頑張ってるんだよ、あはは」
「化粧にしては味気無い気がするけど。てか、アンタ化粧っ気ゼロじゃない」
なんて思考に耽っていると、ナビからとても鋭いご指摘が飛んでくる。
化粧とは、我ながら苦しい言い訳であると言う他ない。
俺の事をAIであると知っているのは、未だにヴィヴィとマツモトの二人だけ。
だから、ナビは俺の見た目が十五年経っても変わらないことを疑問に思って然るべきなのだが、これに関しては良い言い訳なんて思い付くはずもなく。
そもそもなんで言い訳を考えてないんだという話だが、どう説明しろというのか聞きたいものだ。
「そう! 美魔女ってやつだよ!」
「アンタの場合は、そこまで行くと詐欺って感じがするけどねー。見た目、少女少女し過ぎじゃない?」
詐欺言うな。
しかし、五年前にも同じ指摘を受けたが、今回ばかりは言い逃れ出来そうにないな。
どうしようかと悩んでいると、思わぬところから助け舟が。
『おはようございます、ディーヴァ、シトゥイーク』
「おはようございます、マツモト」
「やっと起きたか」
十五年振りに聞いた、ちょっと小憎たらしい雰囲気のイケメンボイス。
ナビはマツモトのジャミングによってこの空間からシャットアウトされてしまった。哀れナビ。出来れば、俺の年齢についてはそのまま忘れておいてくれ。
「僕がこうして目覚めたということは、お分かりですね?」
無線で頭に直接響いたその声は、時々ヴィヴィが着けるようになったヘアゴムから、部屋に置かれているクマのぬいぐるみに移った。
俺がプレゼントしたヘアゴムはちゃんと使ってくれている。
ちなみに、二年目はヘアピン、三年目は小さなぬいぐるみをあげた。
最近は毎年の誕生日プレゼントを選ぶのが楽しくなって、店員にオススメされるがままに部屋の掃除ロボットやヴァイオリン、ネックレスとか指輪までプレゼントであげようとしたら流石に高価過ぎると断られた。
閑話休題。
十五年もの間眠りについていたマツモトが今になって目覚めたということは、つまり、そういうことなのだろう。
「次のシンギュラリティ・ポイントが発生するのね」
「如何にも」
次なるシンギュラリティ・ポイントの到来。
この計画が次の段階に進む時が来たということだ。
そしてそれは、俺の使命の成就に向けて一歩前に進めるということでもある。
前回のシンギュラリティ・ポイントである相川議員殺害の件、俺は関わることが出来なかった。だから、次は役に立ちたい。
果たして、今度のシンギュラリティ・ポイントはどのようなモノなのか。
「それでは、次のシンギュラリティ・ポイントについての発表です。心の準備はよろしいですね?」
「……ええ」
「おう」
勿体ぶらなくて良い。さっさと教えろと、目で訴える。
「────今度の舞台は、ずばり宇宙です!!」
は?
□
四輪駆動の車体が、砂埃を上げながら道無き道を往く。
時代錯誤のガソリン車だが、博士から貰った後もメンテナンスは欠かさなかったのでちゃんと走る。
「まさか、車両運転プログラムまで実装しているとは。ビックリ箱AIですね、貴方は」
「ビックリ箱言うな」
ジープの後部座席に座るぬいぐるみを睨みつけた。
人に運転させておきながら人のことをビックリ箱呼ばわりとは、マジでコイツ、呑気の極みだな。ヴィヴィのぬいぐるみじゃなかったら、一発殴りたいところだ。
ちなみに、運転は俺。助手席にはヴィヴィが座っている。
俺は私服にサングラス、ヴィヴィは正体がバレるわけにはいかないのでフード付きの外套を被っているが、まあ怪しいことに変わりはない。
けれどもこの時代は検閲などもAIがやっているので、マツモトという犯罪AIが一体居れば容易に掻い潜ることが出来る。
「シトゥイーク、貴女は今回、サンライズの宿泊客という身分です。大丈夫だとは思いますが、誰にも貴女の素性はバレないようにお願いしますよ?」
「分かってる、分かってる」
今回、俺は宿泊客、ヴィヴィは臨時の接客AIという身分を得て、『宇宙ホテル・サンライズ』に潜入することとなった。
────全ては、サンライズの墜落を阻止する為に。
2076年、宇宙ホテル・サンライズがオーナーAIであるエステラによって地球へと墜落させられる。
幸い、墜落した場所は海上であり、余波でも地上の人間への被害は無かった。
しかし、逃げ遅れたホテルの宿泊客全員が死亡。結果として、この事件は『落陽事件』と呼ばれ人間とAIとの間に大きな軋轢を生み、エステラは史上最悪の欠陥AIの烙印を押されることになる。
これが、今回のシンギュラリティ・ポイントとなった事件の概略だ。
宇宙とは、これまたスケールの大きな話である。
推定超大作SFは伊達じゃないな。出来ることなら、俺も画面の外からこの作品を観たかった。絶対に面白い。
「それで、オレかヴィヴィがそのエステラとかいうAIを破壊したら良いのか?」
「そうですね。サンライズの落下を阻止することが目的で、その為にはエステラを破壊するのが手っ取り早いです。僕もその手段を推します」
「でも、それは短絡的過ぎるわ。時間の猶予はあるのだから、事情を探るべきだと思う」
ヴィヴィの言うことはもっともだ。当然、AIがそのような事件を起こすからには相応の理由がある。AIの行動に、無駄は無いのだから。
けど、俺は破壊する方が良いと思った。
手っ取り早いし、何より破壊することによってエステラ、AIがサンライズを落とすという未来は消える。今回のシンギュラリティ・ポイントの要点は、そこだと思っている。
確かに短絡的過ぎるが、それが一番効果的だと俺は演算した。
「ヴィヴィ、そっちは任せる。オレは、客やAI以外のスタッフに何かないか探ってみる」
「……ありがとう、ラーナ」
……それでも、ヴィヴィがそう言うのなら、時間ギリギリまでは彼女に任せることにしよう。俺もこの事件に関して他の要因が無いのか探してみる。
流石に、時間が無くなったらヴィヴィには諦めてもらうしかないが。
彼女はこの物語の主人公だ。
ならば、なるべく俺は彼女の行く末を補助する形が良いと思った。
とは言え、この物語がバッドエンド物である可能性も否定できないので、俺もやれるだけやるつもりではある。
まだまだシンギュラリティ・ポイント自体は存在するのだろうが、何らかの差異で物語が崩れ得る可能性もあるのだから。
「……そろそろ着くぞ」
遠目に目的の施設を認めた俺は、二人に支度をするように告げた。
□
人生初のロケットは凄かった。