なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか? 作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民
「「いらっしゃいませ! ようこそ、サンライズへ!」」
シャトルを降りてゲートを潜れば、見渡す限りのAI。
数が多すぎてAI酔いしそうだ。
でも、宿泊費が馬鹿にならないくらい高いだけあって、流石の豪華な内装である。シャトルの中も快適だったし。
人型AIも維持費は相応のはずだが、見た感じでは従業員として三桁に迫りそうな数が従事しているようだ。ここだけ大きな消費社会が展開されているのは、それこそ宇宙故なのかもしれないが。
中央でニコリと微笑むAI、エステラをチラリと流し見る。
一見すれば人の良さそうなAIなのだが、果たして彼女はどうしてこのサンライズを落下なんてさせたのか。
「お客様、お荷物をお預かり致します」
メガネをかけたヴィヴィもグッド!
ヴィヴィもヴィヴィで接客をこなせているようだし、エステラ周りのことは任せて俺も張り切って調査を始めないと。
『エステラが何らかの行動を起こせば、僕が報せます。シトゥイークは『スヴェトラーナだ、ラーナで良い』……スヴェータは速やかにエステラを破壊してください』
『了解』
素直じゃないやつだ。ラーナで良いって言ってるのに。
……それにしてもこいつ、わざわざ別の略称で呼ぶなんて、俺に語学オプションマウントを取られるのが嫌でロシア語オプションでも入れたのか? だとしたら、人間臭いところもあるじゃないか。
まあ、それを言うと面倒になりそうだから言わないでおいてやろう。
『言っておきますが、僕は泳がせずに今すぐにでも破壊した方が良いと思っています』
『まあ、オレもその方が良いと思ってるよ。でも、エステラはシスターズなんだろ? ヴィヴィにとったら、いろいろと考えるところもあるんじゃないか?』
『……そうですね。ですが、この計画に情けは無用の長物です』
シスターズ。
世界初の自律人型AIであるディーヴァの直系の後継機であり、他のAIと比べても飛び抜けて人間に近い感性と思考回路を持つ自律思考するAI。
道すがら調べたが、エステラもそのシスターズの一機で、ヴィヴィからすれば妹のような存在だ。
たとえ、これまで何ら関わりを持たなかった間柄であっても、それが妹であると知った時には、多分俺だってあれこれ考えさせられると思う。
ヴィヴィは、AIでありながらも、今初めてそういう境地に立たされているんじゃないかと思うのだ。自律思考できるヴィヴィというAIだからこそ。
全部俺の推測でしかないけども。
『怪しい所は今のところ無いな』
『そうですね。やはり、エステラに問題があると見た方が良いでしょう』
うーん、やっぱそうなるよなぁ。でもなぁ。
もし仮にエステラが犯人だとして、サンライズ墜落に踏み切ったその演算の理由が知りたい。
けど、そこはヴィヴィに任せるって言っちゃったし、どのみち俺に知る術は無いか。
どうにかならないものかと悩みながら歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかってしまう。
「あいたっ」
「あら、ごめんなさい。お怪我はありませんこと?」
聞こえたのは、まだ幼い女の子の声。通常のAIとは違って軽い俺でも押し倒されなかったということは、人間の少女だろう。
今回、俺に割り当てられた『宇宙ホテルに宿泊しに来た令嬢』という役割を熟すため、心血を注ぐ。
今の装いは黒のワンピースにケープ、基本的に内部が露出している腹部には今回偽装カバーを装着しているので、普段とは違って肌の露出が多い服を着ていても傍から見れば完全に人間と変わらない。
髪型もヴィヴィのヘアゴムを借りてドリルツインテールにしているので、ひと目では誰も俺の事をシトゥイーク、スヴェトラーナだとは思うまい。
『ごきげんよう、スヴェータお嬢様! 外見は人形みたいに精巧なだけあって、お似合いでしてよ!』
『お前、後でぶん殴る』
コイツめ……。他人事だからって茶化しやがって。
それにしても、何でわざわざそんな面倒な素性で登録したんだか。普通に常態の俺で良いと思うのだが。
マツモト、俺が変態欠陥AIって詰ったことを根に持ち過ぎじゃないか? やっぱり、お前、めちゃくちゃ人間臭いぞ。
そもそも、お嬢様言葉なんて二次元の想像上でしか知らないから、諜報プログラムの人格偽装の精度も高くない。使ったこと自体初めてだけども。
こんな姿、出来ることなら知り合いには絶対に見られたくない。
こんな装いを指摘したマツモトはともかく、ヴィヴィに関しては着替える前に別れたからまだ見られていないはずだけど、それも時間の問題だろう。頭が痛い。
手を差し伸べるが、なかなか掴まれない。
どうかしたのかと様子を伺うと、少女は何処か感嘆したような顔で俺を見つめていた。
……や、やっぱり、変か? 変だよな?
「わぁ……綺麗な人……」
「? 立ち上がれまして?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
差し伸べた手を握って立ち上がった彼女の顔が、不意に目に留まる。
……よく見ると何処かで見たような顔だ。雰囲気が誰かと似ている。
あれ……。
割とよく当たる嫌な予感がするぞ?
「わたくしはスヴェトラーナと申します。貴女、お名前は?」
「あ、私、霧島ユズカです!」
「ユズカさんですか。良いお名前ですわね」
霧島ユズカちゃんというのか。
……キリシマ? きりしま、霧島……だと?
あ。
「────もう、ユズカったら。はしゃいだら危ないじゃない」
「お姉ちゃん!」
現れたのは、四歳くらいの女の子を連れた女性。
その顔には、とても見覚えがある。いや、見覚えがあるとか、そういうレベルの話ではない。
不味い。
「ごめんなさいね、うちの妹……が……ラーナ?」
「……わたくし、エヴゲーニヤと申しますの。ラーナ、という方がどなたか存じませんけど、人違いではなくて?」
「あれ、でもさっきはスヴェトラーナさんって……」
ちょっ、ユズカちゃん!?
ど、どどどどうすれば……!?!?
『これは、所謂黒歴史確定、というやつですね』
マツモトぉぉっ!!
■
『ディーヴァ、時間はそんなにありませんよ』
『呼び方、ディーヴァじゃなくてヴィヴィで良いわ』
『分かりました、ヴィヴィ。それで、どこから調べるんですか?』
次に割り振られた業務をこなす為に、指定された場所へと向かっている最中、その後の予定を演算する。
先ずは彼女の部屋からが妥当だろう。
マツモトの危惧も分かる。分かるが、破壊するのは最終手段にして欲しい。
先程、荷物の運送をしていた途中で呼び止められた時の会話からは、彼女が危険な存在であるとはどうにも思えなかった。
彼女を破壊するのは、気乗りしない。
『彼女は、どうしてサンライズを地上に墜すなんてことをしたのかしら』
『さあ、その理由は分かりませんね。ただ、正史における管制センターのデータベースに残されたデータから、彼女がサンライズを自らの演算で墜落させたのだと断定されています』
『そう……。そう言えば、ラーナの方は?』
『あー、彼女は……』
? ラーナの方で何かあったのだろうか。
言い淀むマツモトに問い詰めるよりも先に、彼は言葉を続けた。
『実は現在、このホテルに霧島家御一行がいらっしゃいます』
『え、モモカが?』
『はい。本来は霧島モモカ嬢の妹君と御両親が宿泊する予定だったようですが、何らかの事情で霧島モモカ嬢が御両親に代わって妹君と宿泊するみたいです』
『そうなのね……』
だとしたら、なおのこと、サンライズを落とさせるわけにはいかなくなった。
誰一人、傷付けさせない。落陽事件を未遂に終わらせてみせる。
『それで、ラーナとモモカ達に何かあったの?』
『……鉢合わせました』
『……なるほど』
それは、確かに問題かも知れない。
ラーナはAIである為、見た目が変わらないこともあって、昔からの仲であるモモカが見たら悩むことなどなくその正体に行き着くだろう。
つまり、ラーナの正体が発覚したと。こればかりは、ラーナを責めることはできない。それを言わなかったマツモトが悪い。
そして、モモカとラーナに関することは、ラーナを私に置き換えても問題となる。
『まあ、問題無いでしょう。あれで、スヴェータは戦闘だけでなく、他国へのスパイ行為にも従事できるように設計されていますから』
『なら、良いけれど』
でも、彼女が女スパイのように人々を欺く姿はちょっと想像できない。
彼女は、良くも悪くも純粋な性格の持ち主だ。誰かを騙したりなんて、苦手中の苦手だろう。
……いざとなれば、マツモトもどうにかするでしょうし、ここは彼女に任せましょう。私は私のやるべきことを遂行しなくては。
『私達はエステラのことを調べましょう』
『はい、ヴィヴィ。スヴェータもどうにか乗り切れそうですし』
『それなら良かった』
……それにしても、スヴェータ、ね。愛称で呼んでいるということは、ラーナもマツモトのことを認めたということだろう。
私とラーナ、そしてマツモト。
この時の私は、私たちが段々とチームとして纏まって来ているような気がしていた。