なんで俺の憑依先は違法美少女アンドロイドなんですか?   作:六花リンデル@TSメス堕ち信奉民

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 明日と明後日はもしかしたらお休みします。


第七話 接触

「ラーナも来ていたのね」

 

「……まあ、な。宇宙旅行には前から興味あったし」

 

 

 とは言っても、猶予は後二十四時間と少し、厳密に言えば十数時間しか無いから宇宙旅行を楽しむ暇なんてないけども。

 

 モモカちゃんの娘と一緒に遊ぶユズカちゃんを眺めながら、俺とモモカちゃんは休憩スペースの椅子に座っていた。

 チラリと横目でモモカちゃんを見遣れば、そこには母の顔をする女性の姿。

 

 

「モモカちゃんは変わったな」

 

「そう? そうかも。子供ができると、いろいろね」

 

 

 快活な雰囲気はそのままに、結婚して子供が出来てから大人っぽさも増して、昔の幼女モモカちゃんは見る影も無い。

 まあ、モモカちゃんも今年で二十七とか八だし、子供もいるんだから当然昔のままという訳にはいかないのだが。それでも、感慨深いモノがあるのは確かで。

 

 なんだかなぁ。

 昔のモモカちゃんはもっと素直で元気いっぱいだったのに……成長を感じてしまってお兄さん寂しい。間近で見てきただけあって殊更に。

 

 

「逆に、ラーナは全然変わらないよね」

 

「あ、ああ。まあな」

 

「お肌ツルツルで、人形みたいだし。ツインテールにしてもまだまだ可愛さが出るなんて、末恐ろしいよ。本当に三十代?」

 

「あはは……」

 

 

 ……思えば、前世を含めたら俺の方が歳上なだけで、この身体自体はモモカちゃんよりも全然年下なんだよな。稼働年数がやっと外見の年齢に追い付いたくらいか。

 

 相変わらず(と言ってもAIである都合上、見た目は成長しないのだが)、自分の容姿は少女少女し過ぎている。身長だってヴィヴィより10cm以上低いし。モモカちゃんにまで身長を抜かされた時は軽く絶望した。

 黒のワンピースにケープなんて羽織っていても、背伸びした女の子くらいにしか見えないのはどうにかしてくれ……。元男としては複雑な心境そのものだ。

 

 なんて一瞬にして憂鬱になった内心に沈んでいると、モモカちゃんが唐突に切り出した。

 

 

「あのね。変なことを言ってる自覚はあるんだけど、さ」

 

「何かな?」

 

「ラーナって、昔、空港でテロリストと戦ったこととか、ある?」

 

 

 ぎくぅっ!

 暗かったし、混乱の中だったから見られていないと思っていたのに。実は見られていたのか?

 いや、まだ誤魔化せるはず!

 

 

「その反応、当たりね」

 

「い、いやいやいや、どうしてそう思うんだ?」

 

「んー、あの日、私達を助けてくれた人と声が似てたから、かな? 前々から聞こうとは思っていたんだけど、確信はあっても確証はなかったから」

 

 

 あの日、というのは空港がトァクに占拠された日のことで間違いない。

 彼女にとっては十二歳の時の話だし、たとえ、見られていても忘れられているかもしれない、というのは楽観的過ぎたか。

 俺の事を正面から見つめるその目は、どう足掻いても誤魔化せそうになかった。

 

 

「はぁ……確かにオレは空港でテロリストと戦ったことがあるよ」

 

「やっぱり、ね」

 

「それで? それを知って、どうするんだ? 他に何か聞きたいことでもあるのか?」

 

 

 問題はソレだ。

 先ず、俺の正体について聞かれるのは不味い。次に、どうしてトァクを制圧しに現れたのか、ということか。その他諸々、聞かれるとよろしくないことや答えにくいことは多い。

 どう乗り切ったものか。頭を回す。

 

 だが、それらはすべて徒労に終わる。

 モモカちゃんの口から次いだ言葉は、俺からすれば全くもって予想外で、またある意味では当たり前の言葉だった。

 

 

 

「────助けてくれてありがとう、ラーナ」

 

「……っ」

 

「それだけだよ。助けてくれたのにも何か理由があったんだろうけど、友達を疑うわけないもん。だから、ありがとうって伝えるだけ」

 

 

 

 ありがとう、かぁ。

 

 あの占拠事件は俺という存在が引き起こしたようなものなのだが、そうとは知らない人間からすれば俺はそれを救った存在というわけで。

 マッチポンプな感じが否めないから、感謝の言葉なんて受け取れるはずもない。

 

 けど、その口振りから察するに、モモカちゃんはあの件が俺に何らかの関係があるって気が付いてる。

 その上で感謝を伝えられるとは思ってもみなかったな。

 

 

 ……うーん。心が曇っていたなぁ。

 誰かを助けて、その誰かに感謝されて。それは生き物としてはある意味当たり前のことだと知っていたはずなのに。

 たとえ偽善でも、施された側が本当に助けられたと思っていたなら、感謝の言葉は出てくるものだろう。俺だって、博士や叔父さんにはありがとうって頻繁に言っていたし。

 もちろん、あの空港の件に関しては、俺がそれを素直に喜ぶわけにはいかないのも事実だけど。

 

 だとしても。

 この感じは案外、悪くないかもな。うん。

 

 

 よし。

 

 

「モモカちゃん、オレの方こそありがとう」

 

「? 感謝されることなんて」

 

「あるんだよ。ちょっと、考えて無さすぎた」

 

 

 本当に感謝を告げるべきは俺だ。

 

 俺は、博士から誰かを救うという使命を与えられた。

 けれども、それは形だけ助ければ良いという話じゃない。

 空港でトァクと戦った時、俺は何の感慨も抱いていなかった。そういうモノとしてトァクを制圧し、人質を助けた。

 

 もちろん、シンギュラリティ計画に従事することは、確かに使命を果たす上で形としてとても大きなことだ。

 だけど、何も考えず、ただ救おうとするのはボットと一緒じゃないか。

 俺は、人間の意識を持っている。そんな俺だからこそ、その程度じゃダメなんだ。

 

 

「オレはやることがあるからもう行くよ。モモカちゃん達も、何かあったらすぐに避難してくれ」

 

「……ラーナ」

 

「なに?」

 

 

 呼び止められて振り向くと、何処か心配そうな顔をしたモモカちゃんの姿。

 何も心配することは無い。俺は、AI含め誰一人として犠牲にせず、このシンギュラリティ・ポイントを変えてみせる。

 

 

「……あんまり、危ないことはしないでね。私も、ヴィヴィも悲しむから」

 

「あー、大丈夫だって。本当に。ただ旅行しに来ただけだからさ」

 

「……そう。なら、そういうことにしておいてあげる」

 

 

 いろいろと聞きたいことだってあるだろうに、何も聞かないでくれるモモカちゃんには本当に感謝しないとな。

 

 モモカちゃんにも何かあったら避難するように促せたし、聡明な彼女ならきっと大丈夫だろう。

 これで、後顧の憂い無し。

 

 

 さあ、張り切ってシンギュラリティ計画を遂行しようか。

 

 

 □

 

 

 と、意気込んだは良いものの、何の手掛かりも無い現状ではヴィヴィに任せるしかないわけで。

 適当にホテルの中を散策していると、いきなり警報が鳴った。

 

 

『マツモト、何かあったのか?』

 

『いえ、まだ全貌は分かりません。しかし、何かあるには早すぎます』

 

『ちょっと怪しくなってきたな』

 

『そうですね。ここからは、慎重かつ素早く行きましょう』

 

 

 にわかに慌ただしくなった通路を誰にも見つからないように移動していると、遠目に二体のAIの姿が見えた。

 何やら二体は辺りを伺いながら、貨物ハンガーの中へと入っていく。

 

 片方のピンク髪のAIは知らないが、もう片方の長い金髪のAIには見覚えがある。

 

 

『マツモト、エステラが居る』

 

『はい? おかしいですね……エステラなら、今はヴィヴィと会話していますが』

 

 

 どういう事だ?

 そうなると、このホテルの中にエステラが二体いるということになるが……。

 そんな情報は聞いていないぞ。

 

 

『マツモト、オレにヴィヴィとエステラの会話記録を送れ』

 

『分かりました』

 

 

 エステラとピンク髪のAIが入っていった貨物ハンガーの扉を監視しつつ、送られてきたデータを短時間で一通り確認する。

 今、ヴィヴィの目の前にいるエステラが本人だとすれば、この記録から鑑みるにエステラはAIとして善良そのもの。特に異常も見られない。

 

 だが、今さっき見かけたエステラの表情は何処か妙だった。なんか陰があると言うか。

 送られてきたデータのエステラと、遠目に見たあのエステラは被らない。

 

 ……おー、これは滅茶苦茶きな臭い。

 

 

『っ、マツモト、行くぞ』

 

『え、ちょっ、スヴェータ!? 待ってください!』

 

 

 マツモトの制止の声を知らん振りして貨物ハンガーを目指す。

 迷子になった体を装えば怪しまれないだろう。何者かが動き出しているのだから、今は時間が惜しい。

 

 フシューっという音を立てて開いた貨物ハンガーの扉の先。

 そこには、今にもピンク髪のAIの首をもぎろうとしているエステラの姿。

 

 

 

 ────戦闘プログラム・非殺傷モード。

 

 

「はぁっ!!」

 

「っ」

 

「きゃぁっ!?」

 

 

 エステラ目掛けて蹴りを繰り出せば、彼女はピンク髪のAIの首元に掛けていた手を解いて防御に回る。

 

 不意打ちのアレを防御するか。

 非殺傷モードとはいえ、戦闘プログラムに手加減なんてないから、防御するなら相応の練度の戦闘プログラムが必要のはずなんだけど。

 そもそも、ライフキーパーのエステラには戦闘プログラムなんて搭載されていないはずだから、コイツはやっぱり怪しい。

 

 

「お客様、いきなり何を為さるのですか?」

 

「はっ、見た通りですわ。AIを故意に破壊しようとしていた危険AIを止めただけですの」

 

「それは、お客様の見間違いでは無いでしょうか?」

 

 

 そう言いながらも、彼女は臨戦態勢。

 ピンク髪のAIは座り込んで呆然としている。騒がれても面倒だし、好都合だ。

 

 さてと、じゃあ偽エステラにはちょっとばかり大人しくなってもらおうかな。

 

 

「見間違いだったら、ごめんあそばせ。でも、その様子ならわたくしの口も封じたそうですわね」

 

「……ちっ、くそ、あと少しだったのに。どこの誰だか知らねえけど、邪魔すんじゃねえよ」

 

「それが素ですの? 野蛮ですこと」

 

「ぁあ?」

 

 

 睨み付けてくる美人は、結構怖かった。

 お嬢様言葉で煽るのは止めておこう。

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