ええ!! ウマ娘の特徴を異常に誇張する薬を飲んだんですの!? 作:妄想投棄場
「ですわ♪ ですわ♪ でっすわ~♪」
皆様ご機嫌よう。名門メジロ家に名を連ねる『ターフの名優』ことメジロマックイーンですわ!
今日はウマ娘たちが通うトレセン学園の生徒会室に向かっている最中ですわ。なんでもわたくしにしか頼めないお話があるということで、ノブレスオブリージュの精神で万難を排して成し遂げようという所存ですわ。
おっと、そんなことを考えていたらもう、生徒会の前まで来ていましたわ。お紅茶のいい匂いもしますわね。
先にどなたかいらっしゃるのでしょうか。
「皆様ご機嫌よう! 名門メジロ家のターフの名優ことメジロマックイーンが馳せ参じましたわ!」
くう~、決まりましたわ。こういう二つ名を持っていると弄ってもらいやすくて社交界では役に立つとおばあさまも言っていましたの。
「やあ、メジロマックイーン。このトレセン学園の生徒会長にして、皇帝とうたわれるシンボリルドルフの招集に応じてくれて感謝の極みだ。早速だが今回の件について彼女から説明してもらおう。アグネスデジタル、戒喬戒躁に誠実な説明を頼んだ」
「お任せてください! シンボリルドルフ会長! このわたくし! トレセン学園PR担当広報部部長兼全ウマ娘ファンクラブ統括であり、大体客観的にみてウマ娘ってこうだよねと説明するときにはもってこいなこのウマ娘アグネスデジタルが委細恙なく実行しましょう!!」
「何も頭に入ってきませんわ」
「ということで、マックイーンさん! このトレセン学園PR担当広報部部長のアグネスデジタルがあなたに頼みたいことはずばり、このトレセン学園のPR動画の撮影に協力してほしいのデス」
「トレセン学園のPR動画撮影」
「ええ、まあ詳しいことはよくわからないと思います。ですので、この生徒会室にあるスクリーンで参考のPR動画を見ていただきましょう!」
ガガガガ
ガクガクガク
「いや! 会長の机にスクリーンが垂れているんですが大丈夫ですのあれは!?」
「ははは、すまない。窓からあたる日差しが強くて少し机を前にずらしたのが災いしたようだ。私のことは構わないで続けてくれ」
「視聴するこちらのメンタルでは無視できないのですが」
「おやおや、やはりメジロマックイーンさんは生来通り気質が神経質なようだ。すみませんが会長、少し移動お願いできますかね」
「神経……質? わたくしがおかしいんですの? これは」
「うむ。やはりすべてのウマ娘の要望に応えてこそ真の皇帝と言えよう。私は少し席を外すとするよ」
ポチ
ウィィィィンガシャンガシャン
「???」
「どうかしましたか、メジロマックイーンさん。スクリーン越しの会長がトレセン学園の叡智を使って地下のアナザー生徒会室に会長の机ごと移動したのがそんなにおかしいことですかね」
「脳がバグりそうなので理解することを止めましたわ」
「では、PR動画を流しますね、ポチっとな」
「あら、いったいどんなのが見られるのでしょうか」
『そのウマ娘は、何度も何度も何度も敗北してきた』
「雰囲気出てますわね」
『幾度の敗北を超えてなお、諦めることはなかった』
『キングの実力!見せて差し上げますわ!』
「なるほど、キングヘイローさんですか」
『諦めないわ、じぇ、ぜっちゃ、絶対に!』
『そのウマ娘の名はキングヘイロー』
『ねえ、撮りなおしますわよね。普通に考えて撮り直しますわよねこれ……え?撮り直さない!?何をかんがえていらっしゃるの……ってカメラを早くお止めなさあああい!』
「放送事故ものですわね、コレ」
「ちなみにパカチューブで配信されて、一日でミリオン動画になりましてねえ!」
「あああああ! キングヘイローさん、おいたわしい……え、マジで言ってんですの?」
「では次の動画に移りましょう」
「あら、いったいどんなのが見られるのでしょうか」
『その体はあまりにも小さすぎた』
「短所を克服して勝ち上がってくる展開ですわね」
『しかし、誰よりもその闘志はあふれていた』
『アタシが本気(マジ)だってこと教えてやる!!!』
「なるほど、ナリタタイシンさんですか」
『産むから!絶対に産むから!』
『そのウマ娘の名はナリタタイシン』
「な、ナリタタイシンさああああん!?!?」
「おっと、すいません。こいつは【ウマ娘:恋は重馬場編】の方でした」
「恋は重馬場編」
「では次の動画に移りましょう」
「あと何本見るんですの」
「次がラストですよ」
「あら、いったいどんなのが見られるのでしょうか」
『世界が一巡するところ見たくないか?』
「……ちょっと雲行きが怪しいですわね」
『これが! ゴルシちゃんの! 全力! 全開! だああああああああ!』
「そのウマ娘の名はスーパーゴルシちゃん4」
「スーパーゴルシちゃん4」
「どうです? マックイーンさん。この動画に出ればトレセン学園の知名度も爆上がりあなたの知名度も爆上がりで瞬く間にレジェンドウマ娘になって、因子もバンバンうはうはですよ!」
「因子とかいうのはよくわかりませんがとてもすごいことですわねそれは」
「では、お返事を聞かせていただけますか」
「ええ…………丁重にお断りさせていただきますわ」
「な、なんてこったああああ!? どうしてです!! このCMに出るのはあなたの夢。私の夢なんですよ」
「わたくし、夢見るものではなく、夢を与えるものですので」
「うわあああああ! どうしましょう!! スーパーバイザースパゴルさん!!」
「スーパーバイザースパゴルさん」
「おいおい、マックイーンそいつはちょっと早計過ぎないか」
「あ、あなたは……ただのゴールドシップさんではないですか。いったいいつからそこに」
「いーや、ゴルシちゃんはゴールドシップじゃないぜ。スーパーゴルシちゃん4だ。そして、あのPRの最後に『』がついてなかっただろ?あれはゴルシちゃんがいったからだ」
「ああ? 日の本の言の葉でしゃべっていただけませんこと?」
「我は金湿布ならずスーパーゴルシ4なり」
「なるほど。アナタはこの世界のゴールドシップさんとは似て非なる存在だということなんですわね」
「そういうことなんだぜ!」
「いやいやいや!? え? マックイーンさんはそっち側のキャラじゃないですよね? 私のキャラ食うのを止めていただけませんか」
「そうでしたわ!……ええ、こんな黒歴史しか晒さないCMにどうしてわたくしが出なければいけませんの」
「さっきも言ったがそいつは早計だぜマックイーン……なあ、この学園の経済状況を知っているか?」
「いえ……」
「この世界のトレセン学園はいくつかの財界の大物たちの援助で成り立っているんだ。けれど、今大恐慌のあおりを受けてそのうち何人もの支援者が自己破産を強いられ、ひどいやつは首だってつってる」
「そ、そんな……」
「ちなみに、首を吊った奴らは大体ハードプレイ好きだったせいか、みんな恍惚の表情で満足そうに逝ってたらしいぜ」
「そんな……この明るいトレセン学園にそんな負の側面があったなんて……」
「一族の恥ってもんじゃねーよな」
「ですが、そのことと今回になんの関係があるんですの」
「そこの全ウマ娘ファンクラブ統括が言ってただろ。パカチューブでミリオン動画になったって」
「ちょっと、肩書が多すぎるので表記ブレをなくしていただけません?」
「いま、トレセン学園は、大配信者時代に舵を切ろうとしているんだ」
「大配信者時代」
「それだけの再生数があれば広告収入も十分に見込める。つまり、ウマ娘自身が金を稼ぐことで支援者頼りの不安定な学園運営を避けられるってことだ」
「なるほど……ですので、このわたくしにトレセン学園の広告塔になれ。そういうことですの」
「そうだ!」
「でも……それでも、わたくしは……メジロ家としてのプライドが……!!」
「メジロライアン、メジロドーベル、メジロパーマーはもうCMも撮ったし配信内容も今打ち合わせているところだぜ!」
「恥さらし! メジロの汚点!」
「でも、あいつらが成功して経営基盤を立てたとしよう。その金でのうのうと練習するマックイーンの姿を見たら家族はどう思うだろうな」
「アナタ、ウマ娘の弱みに付け込む才能ありすぎませんこと」
「先行あせり、先行駆け引き、先行ためらい持ちだぜ!」
「よくわかりませんが……わかりましたわ。わたくしも参加させていただきます」
「ひゅーーー!!! ありがとうございます! スーパーバイザースパゴルさん。このアグネスデジタルこれでなんとか首の皮一枚つながりました!!!」
「へへっ、これくらいゴルシちゃんには朝飯前ってことよ」
そして、わたくしもCM撮影に参加することになりましたわ。
CMは一日で500万再生を越え、順風満帆な滑り出しとなりました。しかし、これが終わりの始まりだったのです。
『はーい、みなさんこんにちは。今日も配信来てくれて、ありがとうね。初見さんいらっしゃ~い』
わたくしのスマホに映るのはマスクで顔を隠して配信をするウマ娘さん。
パカチューブを見れば大体配信しているのはウマ娘ばかり。そしてそのウマ娘たちはほとんどがトレセン学園の生徒たち。
ええ、このスマホに写る彼女もトレセン学園の生徒でしたわ。
「みなさん、もう練習なさらないのかしら」
トレセン学園の練習場はがらんとしており、わたくし以外は誰も走っておりません。
皆さん、ネットの中を自由に駆け回っているのです。
今の覇権は配信モンスターのオグリキャップさん
『今日は、この大食い店の全メニューを食い尽くそうと思う』
その名の由来は毎日三回配信しており、三回とも大食い店でのメニュー全制覇。彼女が配信をするたびに大食い店はその日から姿を消す恐ろしいモンスターなのですわ
次は、お絵描きモンスターのスーパークリークさん
『今日は~動物さんの絵を描いていこうと思います~』
毎日常軌を逸したエキセントリックな絵をかく配信をなされています。特筆すべきは彼女から放たれるその言葉が全てASMRとなるのです。その配信に来た人の7割は彼女の声の虜となり、一日声を聞かないだけ禁断症状が出るようになってしまいます。そして、彼女の描く絵を何か神々しいもののようにとらえるようになってしまうことで有名ですわ。
次は、おしゃべりモンスターのタマモクロスさん
『おい、誰や!? 今うちのことチビっていったんわ。チビやない! うちは発展途上なんや!』
毎日12時間雑談配信を垂れ流すおしゃべりモンスターの彼女の特徴はどんなボケも全て拾う。衝撃の吸引力。小気味良いテンポとリスナーの名前を大体把握してる彼女の配信は、承認欲求にあふれたリスナーの心を鷲掴みにしましたわ。
コンスタントに毎日配信をする彼女たちをいつしか人々はトレセン三狂と呼ぶようになりましたわ。
三狂を筆頭としたトレセン学園の生徒のお蔭で学園の経済状況は潤いましたわ。しかし、その結果学園で練習する生徒はいなくなり、学園はいつしか配信者育成学校に変貌してしまったのです
「こんなの……こんなのあんまりではありませんか……っっ!!!」ポロポロ
「すまねえ、マックイーン」
「はっ……あなたはスーパーゴルシちゃん4ちゃんさん」ゴシゴシ
「たぶん、ゴルシちゃんが介入しすぎたせいで、この世界は歪になりすぎちまった」
「どういうことですの……」
「ここは、マックイーンが本来辿るはずのない未来なんだ。けど、ゴルシちゃんのせいで辿らないはずの未来に可能性を作っちまった」
「いったい……どうすれば……」
「なに、簡単なことだ。ゴルシちゃんがマックイーンを未来が分岐する前の時間に戻してやる」
「……っっ!? そんなのできるんですの」
「ああ、ゴルシちゃんがもとの場所に戻るために蓄えたエネルギーがある。それを使ってマックイーンを過去に送ろう」
「いいんですの!?……そんなことしたらあなたは」
「ああ、気にすんな。……はああああ、これが! ゴルシちゃんの! 全力! 全開! だああああああああ」
「すごいですわ!! ただ、叫んでいるだけ! 何も変わりません!」
「これはせめてものお詫びだマックイーン。……配信機材と得意な配信適性を詳細に書いたPDFをウマ娘全員にゴルシちゃんが送りつけちまった……せめてものな」
「それは! 大本が! あなたのせいではありませんかあああああ!!!!」
「あのー、マックイーンさん? 大丈夫ですか? このアグネスデジタルの声、ちゃんと聞こえていますかね?」
「ここは……」
「あー、ですのでPRの」
「させませんわ!!!」
「ええ!?」
「そんな動画配信を経済基盤とした将来に待っているのは! ウマ娘全員の配信者化! ひいてはレースの衰退! わたくしたちの主戦場がターフやダートの上ではなく、机の前になってしまうのですわ!!!」
「それは……看過できないな」
「か、かいちょおおお!? このアグネスデジタルの意見を聞いてくださるのでは」
「ああ、トレセン学園の未来を憂うのであれば、配信もやむをえないと思っていた。しかし、それでウマ娘たちが走ることを止めるのであればそれは本末転倒というものだろう」
「そ、そんなあ」
「我々トレセン学園から配信するのはショートCMのみ。配信は原則行わないことにしよう」
「流石、ウマ娘の未来を常に考えている会長。ご英断だと思いますわ」
こうして、分岐をする前に戻ったわたくしは大配信者時代を迎えるトレセン学園の未来の芽を摘むことができましたわ。
そして安心しましたわ。わたくしたちウマ娘の主戦場はネットではなく、ターフやダートの上なのだと。
後日、テイオーさんから面白い動画があるから見てよと言われたので開いてみますわ
『ぴすぴーす! みんな~元気~? ウマ娘の宣伝担当ゴルシちゃんがやってきたぞよ~』
「で、で、ですわわわわわ」
やっぱり、未来は傾いているのかもしれませんわ