ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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感想・評価・お気に入り登録ありがとうございます。
大変お待たせしました。
ギリギリですが六月中に更新できました。
原作のホルアド編の内容を混ぜたことで色々内容を考えていたら時間がかかってしまいました。
どんな展開になるのか、見てください。



27話 勇者の勝利

 〝限界突破〟は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。ただし、文字通り限界を突破しているので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなる諸刃の剣だ。

 

 光輝は、魔物の強力さと回復が可能という事実に、このままでは仲間の士気が下がり押し切られると判断し、〝限界突破〟を使用して一気に勝負を付けようと考えた。

 

 その考えの通り、切り札級の魔物を4体も倒し、味方の士気を上げた。

 まだまだ敵は多いが、不利になっていた流れが変わったのを感じる。

 光輝達はメルド団長から戦い方だけでなく、戦場の心得を教わった。

 戦場で大事なのは敵味方の数や状態、地形の把握は大前提。そのうえで軍の指揮官や御旗であるリーダーに必要なのは、

 

「味方に勝てると思わせること、だ! 〝天翔閃〟!!」

 

 聖剣を振るい、光の斬撃を上空の白鴉に飛ばす光輝。文字通りの光の斬撃は、回復役の白鴉を真っ二つにする。

 光輝が回復役を潰そうとしているのを魔人族と清水は察し、阻止するために光輝へと多くの魔物をけしかける。

 

「させません! 〝岩壁〟!!」

 

 それを遮ったのは、愛子の土属性魔法で作られた壁だ。香織達が町に築いた城壁ほどではないが、大きな壁が地面からせり出し、光輝へと迫る魔物達の進路を妨害する。

 

「ちぃ、作農師という話だったが、やはり神の使徒。なかなかの魔法だ」

「うおおおお!!!」

 

 ミハイルが愛子の魔法に驚く。そこへ間髪入れずに光輝が魔物の群れに突っ込み、次々と斬り裂いていく。

 

 かつてベヒモスと戦った時よりも、限界突破した光輝の動きは洗礼されていた。

 これまでの訓練で限界突破状態での戦闘に慣れたことと、王都でのメタルグレイモンとの闘いで、限界突破の派生技能である〝覇潰〟に目覚めたことが、光輝の戦闘力を格段に引き上げていた。

 

 今も魔人族が連れてきていた新たな魔物、体長60cmほどの黒猫が現れて光輝に近づく。

 黒猫は空中をジグザグに駆けながら光輝の目を翻弄しようと動き、背中から四本の触手を生やして攻撃してくる。

 しかし、光輝は冷静に黒猫の動きを見切り、全ての触手を斬り裂き、返す剣で黒猫を真っ二つにする。

 そのまま他の魔物も一瞬で斬り捨てていく。

 

 魔物を歯牙にもかけない勇者の無双は、他の戦う者達を鼓舞していく。

 永山達もさっきまでの劣勢を覆すかの如く奮起し、騎士と冒険者達も魔物に立ち向かっていく。

 さらに、そんな彼らを援護するように空の上からピッドモンが強襲をかける。

 

「《ファイアフェザー》! 《ピッドスピード》!!」

 

 燃える羽で魔物の足を止め、猛スピードで突撃し、ホーリーロッドで強烈な一撃を繰り出し、魔物をまとめて吹き飛ばしていく。

 空と地上を縦横無尽に駆ける白い天使は、闇の中であってもよく目立ち、勇者と共に人々に希望を持たせている。

 

 まだまだ魔物はいるが戦場の流れが変わり始めている。

 

「これが勇者の力ってわけかい」

 

 カトレアが苦々しげにつぶやく。

 

「本当なら、あの魔物達も連れてきたかったんだけどね」

 

 カトレアの言うあの魔物とは、ウルの町を包囲していた時に交じっていたティラノモンを始めとしたデジモン達だ。大半は香織達に倒されるか、メタルティラノモンに進化した個体に捕食(ロード)されたのだが、まだ生き残っていた。何より進化したメタルティラノモンは健在だった。

 もしもデジモン達を連れて来れば、あっという間に光輝達は殲滅させられたはずだった。しかし、デジモン達を束ねていたメフィスモンと檜山が姿を消してしまった。

 

「全く。どこに行ったんだい。あのガキども。仕方ないね」

「カトレア。あいつを出すのか?」

「ああ。出番だよ、アハトド! 勇者をぶちのめしな!!」

「ルゥオオオ!!」

 

 カトレアの呼び声に、森の中から恐ろし気な咆哮と共に、一体の魔物が飛び出してきた。

 アハトドと呼ばれたその魔物は、頭部が牙の生えた馬で、筋骨隆々の上半身からは極太の腕が四本生えており、下半身はゴリラの化物だった。血走った眼で光輝を睨んでおり、長い馬面の口からは呼吸の度に蒸気が噴出している。明らかに、今までの魔物とは一線を画す雰囲気を纏っていた。

 

「なんだ、あいつは」

 

 アハトドの異様な雰囲気に警戒する光輝に、アハトドが四本の腕を振り上げながら、飛び掛かってきた。

 限界突破した光輝の目でも速いと感じる速度で迫ったアハトドは、極太の4本腕で光輝を殴りつけてきた。

 咄嗟に悪寒を感じた光輝は、聖剣を掲げて何とか2本の腕を防ぐ。さらにバックステップで後ろに衝撃を逃がした。だが、残り2本の腕を左肩と腹部に受けてしまい、光輝はダンプカーで轢かれたかのような速度で吹っ飛ばされる。

 その先には先ほど愛子が作りだした岩壁があり、激突する。あまりの勢いに、壁は放射線状にひびが入り、粉々に砕け散る。

 

「ガハッ!」

 

 衝撃で肺の中の空気を強制的に吐き出させられ、壁の残骸の上に倒れそうになるが、何とか右手の聖剣を地面に突きさし、体を支える。

 

「ぐぅう、何て、一撃だ。俺は〝限界突破〟を使っているのに」

 

 咄嗟の防御と回避、それに〝物理耐性〟の派生技能[+衝撃緩和]を持っているのにもかかわらず、たった一撃で深刻なダメージを受けてしまった。

 まさかこんな隠し玉があったなんて。

 

「コウキ殿!?」

「そんな、勇者様が……」

 

 光輝が一撃で吹き飛ばされた光景に、さっきまで盛り返していた人々に動揺が広がる。

 光輝が体勢を立て直そうとするのを許さないとばかりに、アハトドが追撃を仕掛ける。

 慌てて聖剣を構えようとするが、ギリギリ間に合わない。光輝が攻撃をまた受けることを覚悟したその時、2人の小柄な少女が光輝を守る様に割り込んできた。

 

「させないよ。合わせて鈴!」

「了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず! 〝聖絶〟!」

「闇の波動 神敵を惑わせ! 〝闇幕(あんまく)〟!」

 

 恵里と鈴だった。

 鈴は香織も使う最上級の結界魔法を使用。鈴を中心に光のドームが広がり、光輝と恵里を守る。

 恵里は〝降霊術師〟という天職の特性から、精神に作用する闇属性の最上級魔法を使用する。対象の認識を術者の自由に捻じ曲げ、思い通りに操るという魔法だ。

 咄嗟だったので詠唱を省いて行使したので、本来の効果は期待できないが、アハトドの動きを鈍らせ、鈴の結界と合わせて光輝が立て直す時間を稼ぐ目論見だ。

 しかし、恵里の魔法は効果を発揮する前に、別の闇魔法の干渉を受けて打ち消されてしまった。

 

「やらせねえよ。中村」

「ぐっ、清水君!?」

 

 闇術師の清水だった。闇属性の魔法ならば、彼の方が専門家だった。

 現に、彼はこの戦場で自分の姿を闇魔法でくらましながら、魔物を操って妨害を仕掛けてきていた。

 彼の手にかかれば、恵里の魔法もすぐにキャンセルできる。

 

 そうこうしている間に、アハトドの拳が鈴の結界に激突した。

 鈴の結界は一瞬だけアハトドの攻撃を止めたが、すぐにパリンという音と共に砕け散った。

 そのままアハトドは鈴と恵里を殴り飛ばした。

 

「中村さん!! 谷口さん!!」

 

 なす術もなく殴り飛ばされた恵里と鈴。

 愛子が悲痛な叫びを上げながら何とか2人を助けようと、殴り飛ばされた森の中に向かおうとする。

 しかし、2人が殴り飛ばされた場所は漆黒の闇に包まれており、さらにそこからは魔物がどんどん出てきており、助けに行くのを阻んできた。

 

「あ、え、恵里? 鈴??」

 

 光輝は何が起こったのか分からず呆然とする。

 そこに先ほど恵里の魔法を妨害した清水が近づいてきた。アハトドは清水の傍で息を荒げながらだが、攻撃を止めて佇んでいる。アハトドは魔人族が操っている魔物だが、清水も彼らと同レベルで魔物を操れる。だから、彼は一時的にアハトドの攻撃を止めさせた。

 光輝を嘲笑うために。

 

「あーあ。馬鹿なことをしたもんだ。お前みたいなどうしようもない勇者様を守って死ぬなんてなあ」

「死ぬ……? 恵里と、鈴が?」

「当たり前だろ。勇者様と違ってあいつらは術師だ。物理耐性なんて紙みたいなもんだ。それを今の勇者様が受けきれなかったアハトドの攻撃を受けたら……」

 

 ──死ぬに決まってんだろ。

 クラスメイトの死を何でもないように話す清水。

 もはや彼にとって光輝達の事なんてどうでもいいのだろう。自分も2人がやられる原因となったのに、何の罪悪感も抱いていない口調だった。

 

「お前まさか戦いに犠牲が出ないとでも思っていたのか? そう言えば召喚されたときに『人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!』とかなんとか言ってたっけ? はっ! 全然できてねえじゃん。あの二人は死んじまったぜ。いやそれ以前に南雲と白崎、八重樫も行方不明で、檜山に至ってはお前が右腕ぶった切っていたんだったな。とんだ口だけ勇者だな」

 

 光輝の失態をあげつらって嗤う清水。

 それを聞いた光輝は清水の言葉を否定するように、頭を横に振るう。

 

「恵里と、鈴は死んでなんかない! 香織も雫も俺が助け出すんだ。まだ、まだ俺は負けてない!!」

「まだ折れないとはな」

 

 ダメージが大きい身体に鞭を打って立ち上がろうとする光輝に、清水は感心と呆れの混ざった表情を向ける。

 

「なら確実な死を見せてやろう。あれを見ろよ」

 

 清水は光輝に近づき、頭を掴む。そのまま光輝の顔を横に向ける。

 向けられた先には2人の魔人族、カトレアとミハイルがいたのだが、2人の後ろから一体のブルタールモドキが何かを引き摺ってきた。

 

「おい、人間ども。これを見るが良い!!」

 

 ミハイルが風魔法でこの場にいる全員に声が聞こえるようにして話始める。

 訝しげな表情をする光輝達だったが、その〝何か〟の正体を見て愕然とする。思わず、立ち上がろうとした力を抜き、目を大きく見開いて、震える声で彼の名を呼んだ。

 

「……メ、メルドさん?」

 

 ウルの町の様子を探りに別行動をとっていたメルドだった。

 しかし、その姿は悲惨の一言だった。四肢を砕かれ全身を血で染めた瀕死の姿。普段の力強さが嘘のようにぐったりしたメルドが、ブルタールモドキに首根っこを掴まれた状態でいたのである。一見すれば、全身を弛緩させていることから既に死んでいるようにも見えるが、時折、小さく上がるうめき声が彼等の生存を示していた。

 

「おま、お前達ぃ! メルドさんを放せぇッ!?」

 

 メルドの姿に激昂した光輝は清水の手を振り払い、カトレアとミハイルに向かって突進しようとした瞬間、清水は動きを止めていたアハトドを解放した。

 

「ルゥアアアア!!」

 

 ドガァアン!! 

 

「グボホォ!?」

 

 瞬時に追いついたアハトドが拳を光輝の背中に向かって振り下ろし、光輝は地面に叩きつけられた。さらにアハトドの拳から赤黒い波紋が広がって、光輝に向かって衝撃波が放たれた。これがさっき光輝を吹き飛ばした攻撃の正体。アハトドの固有魔法の〝魔衝波〟だ。

 内容は単純で魔力を衝撃波に変換する能力だ。単純な能力だが、アハトドの強靭な肉体と人を遥かに上回る魔力から放たれる衝撃波は強力だ。

 それをもろに受けた光輝は地面にクレーターを作りながら、深くめり込んでいく。

 アハトドが拳をどけると、意識は失っていないが、光輝は体をぴくぴくと痙攣させながら動けなくなっていた。

 何とか力を入れて立ち上がろうとするが、

 

 ガクン

 

「ッ!?」

 

 その決意を実行する前に、遂に、光輝の〝限界突破〟の時間切れがやって来た。一気に力が抜けていく。しかもダメージを受け過ぎたのか、今までより重い倦怠感に襲われ、指一本さえも動かせない。

 光輝のその様子を見て、カトレアはアハトドに光輝を掴み上げるように指示を出し、その場の全員に見えるように、無様に敗北した勇者の姿を晒した。

 

「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」

「そ、そんな……」

「や、やだ……な、なんで……」

 

 その姿に勇者パーティーの面々は絶望し、戦意を喪失してしまう。

 それは他のトータスの人間も同じだった。いや、勇者という存在に大きな希望を見ていた彼らの方がより絶望は深かった。

 

「勇者様がやられた……? そんな、そんな馬鹿な!?」

「神は、我らを見放したのか……」

「ああ、あああ……!!」

 

 現実を受け入れられずに取り乱す者。

 悲観に暮れる者。

 言葉を失い呆然自失になる者。

 勇者という柱が折れた者達は、もはや戦う気力を失っていった。

 

 そんな彼らを何故か魔物達は攻撃することを止めていた。

 カトレアとミハイルも同様で、2人は光輝とメルドをよく見えるように吊り上げる。

 どう見ても人質だ。少しでも可笑しな真似をすれば、2人の命は無く、魔物達が情け擁さなく襲い掛かって来るだろう。

 おかげでピッドモンとブランも手出しができない。

 

「さてもう勝負はついた。そのうえでこの勇者君と同じく、別世界から来た神の使徒様とやらにもう一度聞こうか」

 

 カトレアは龍太郎や永山達へと目を向ける。

 

「このシミズのようにあたしらの側に来る気はあるかい? 今回はあたしらが勝ったが、あんたらの力は破格だ」

 

 清水へと目を向けながら、説明を始めるカトレア。

 事実清水の闇魔法の力で魔人族達の魔物の軍勢は大幅なパワーアップを果たした。

 だとすると他の神の使徒をこのまま殺すのは少々惜しい。

 

「元々この世界の人間じゃないんだ。魔王様もあんたらまで、この世界の人間と一緒に殺そうとするほど非道じゃない。現にこのシミズにはちゃんとした待遇を与えているよ」

「あなた達の所に行く条件は何ですか? さっきまで敵対していた私達を、無条件で引き入れるなんて思えません」

 

 未だに状況に戸惑っている龍太郎達に代わって愛子がカトレアと言葉を交わす。

 

「ちっこいのに頭が回るね。下った後に後ろからブスリとされると困るから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

「自由度の高い、奴隷という感じですね。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ない」

「そうそう。理解が早くて助かるね。教師っていうのは本当のようだ」

「シミズの話では作農師でもある。魔王様も勇者以上の特別待遇で迎え入れるだろう。例えば『教え子たちを不当に扱わない』と望めば、叶うかもしれんぞ?」

「それは天之河君、勇者の彼も同様ですか?」

「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう? こいつは、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

「無駄に強いのもダメだな。首輪を壊される危険がある」

 

 カトレアとミハイルの言葉に三人の会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。魔人族の提案に乗らなければ、光輝すら歯が立たなかった魔物達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。

 

 それは、つまり、実質的に〝神の使徒〟ではなくなるということだ。そうなった時、果たして聖教教会は、何とかして帰ってきたものの役に立たなくなった自分達を保護してくるのか? そして、元の世界に帰ることは出来るのか? 

 

 どちらに転んでも碌な未来が見えない。

 

「だったら、俺は死にたくねえ」

 

 そう言ったのは近藤礼一だった。勧誘に乗っても断ってもどうにもならないのなら、せめて自分の命が助かる方を選びたいと思ったのだ。

 それに同じパーティーの中野信治と斎藤良樹が同調した。

 

「近藤てめぇ! 光輝を見捨てる気か!」

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか? 俺達全員? ふざけんじゃねえぞ!!」

「そうじゃねぇ! そうじゃねぇが!」

「代案がないなら黙っていろよ! 今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ!?」

 

 白熱する龍太郎と近藤の言い争い。

 他のクラスメイト達も、龍太郎と近藤の言葉にどうするべきか決めかねていた。

 死にたくないが、そのためには光輝を見殺しにする必要がある。

 いや、光輝だけではない。一緒に戦っていた人々や後ろに守っている住人達も見殺しにしてしまうことが、決断を踏み止まらせていた。

 

 そんなクラスメイト達に、絶妙なタイミングで魔人族の女から再度、提案がなされた。

 

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか? もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらう。まあ、これ以上は譲歩できないから、他の人間達には死んでもらうけどね」

 

 殺すと言いながらも、光輝を生かしていたのはこのためだった。

 あえて譲歩を見せることで決断までの猶予が無いと示す。これで速く決断しなければと追い詰められ、何人かのクラスメイトは龍太郎や愛子を無視して、魔人族に迎合するかもしれない。

 清水という寝返った実例と、逆らって生死不明になった恵里と鈴の事も、彼らを追い詰める材料になるだろう。

 現にさっき寝返ることを提案した近藤達三人は、今にもカトレアたちの方に寝返ろうと思考が傾きつつあった。

 

 しかし、それは突然響いた苦しそうな声によって直ぐに消されることになった。

 

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

「光輝!」

「光輝くん!」

「天之河!」

 

 声の主は、宙吊りにされている光輝だった。仲間達の目が一斉に、光輝の方を向く。

 

「……騙されている……町を襲って……何人も殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

 

 息も絶え絶えに、取引の危険性を訴え、そんな取引をするくらいなら自分を置いてイチかバチか死に物狂いで逃げろと主張する光輝に、クラスメイト達の心が再び揺れる。

 

「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ? いい加減、現実をみろよ! 俺達は、もう負けたんだ! やっとわかったんだ。これは戦争……殺し合いなんだ! 仕方ないだろ! 一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

 

 近藤の怒声が響く。

 彼は死ぬのはごめんだった。何としても生き残ろうと思っており、その唯一を未だに否定し続ける光輝にいら立ちが募っていた。

 

 その時、また一つ苦しげな、しかし力強い声が響き渡る。小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声だった。

 

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ! ……信じた通りに進め! ……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から……これは私達の戦争だったのだ!」

 

 メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。

 

 メルドは最後の力を振り絞って、全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付いた。

 

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

「……それは……へぇ、自爆かい? 潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

「抜かせ!」

 

 メルドを包む光、一見、光輝の〝限界突破〟のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。

 

 それを見たカトレアが、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。

 

 その宝石は、名を〝最後の忠誠〟といい、自爆用の魔道具だ。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特にそのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。

 

 メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、光輝達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、光輝達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、カトレアとミハイルは一切余裕を失っていなかった。

 

 そして、メルドの持つ〝最後の忠誠〟が一層輝きを増し、カトレアとミハイル、そしてメルドを巻き込んで発動した。

 

「私の婚約者から離れてもらおうか──〝界穿〟」

 

 だが、その光は一瞬で消えた。そして、夜空に眩い輝きが生まれ、消えていった。

 

「なっ!? 何が!」

 

 困惑するメルドが自分の胸元を見ると、さっきまでそこにあった〝最後の忠誠〟が無くなっていた。

 

「ぐっ、やはりまだ私ではこれが精一杯か」

 

 息を荒げながら膝をついたのはミハイル。

 彼は激しく魔力を消耗していた。

 メルドはミハイルが何かをしたことに気が付いたが、何をしたのか全く分からなかった。

 最後の悪あがきが阻止されたことに呆然とするメルドを、突如衝撃が襲った。

 それほど強くない衝撃だ。何だ? とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。

 

 そこには、赤茶色でザラザラした見た目の刃が生えていた。正確には、メルドの腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いているのだ。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

「……メルドさん!」

 

 光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

 

「ありだとう、ミハイル。流石はフリード将軍と共に第二の神の力を得た者。婚約者として誇らしいよ」

 

 笑みを浮かべながら、ミハイルを愛おし気に見るカトレア。

 そう、彼女の言うとおりミハイルは神の力──神代魔法を得たものだった。

 その魔法の名は〝空間魔法〟。

 空間そのものに作用する魔法で、光輝達が召喚された魔法もその魔法に連なるものだった。王国の穀倉地帯のウルの町まで、誰にも気づかれずに魔物の軍勢と共に侵入できたのも、この魔法を使ったからだった。

 さっきは咄嗟の事だったので〝最後の忠誠〟しか飛ばせなかったが、おかげでメルドの自爆は阻止できた。

 

「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ」

 

 カトレアはメルドの有様を見せつけるように掲げると、砂塵の刃を振るい無造作に投げ捨てた。

 あれほど頼もしかった騎士団長が、ピクリともせずに地面に倒れ伏す姿に、言葉を失った。

 

「さあ、あんたらはどうする? これが最後だよ」

 

 メルドの血で染まった砂塵の刃を見せつけながら、カトレアが最後の問いかけをする。

 近藤達三人がその言葉に、死にたくないと足を動かそうとするとした、その時、

 

「……るな」

「あん?」

 

 吊り上げられていた光輝が小さく何かを呟いた。訝しんだカトレアが光輝の顔を見ると、真っ直ぐに彼女を睨み返してきていた。

 

「っ! アハトド!!」

 

 カトレアは光輝の眼光を見て思わず息を呑んだ。なぜなら、その瞳が白銀色に変わって輝いていたからだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、本能が鳴らす警鐘に従って、アハトドに命令を下す。

 

「ルゥオオオ!!」

「よくも、よくもメルドさんをおおおおおおッッ!!!!」

 

 迫りくるアハトドに対し、光輝は怒りを爆発させながら、最後の力を解放した。

 

 カッ!! 

 

 光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって夜空へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、光輝の光に呼応するように輝きを放っている聖剣を、閃光と見紛う速度で振るう。

 

「ルゥオオオ!!??」

 

 現れた時とは異なる絶叫を上げるアハトド。何と、アハトドの右腕2本が一瞬で斬り落とされた。

 

 さっきまでとは桁違いの攻撃。

 〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]の発動だった。

 とはいえ唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出す最後の力だ。

 今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。

 

 だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままにアハトドに向かって突進する。

 今の光輝の頭にあるのは、メルドの敵を討つことだけ。復讐の念だけだ。

 

 カトレアがアハトドに加えて、他の魔物にも指示を出して光輝に向かわせる。

 キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタールモドキがメイスを振るう。しかし、光輝は、そんな魔物達には目もくれない。聖剣のひと振りでなぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、カトレアとミハイルへと肉薄していく。

 

「アハトド!!」

 

 そこにアハトドが最後の壁となって立ちふさがる。

 残った左の二本腕を振るい、もう一度〝魔衝波〟を放つ。

 だがそれも、光輝が振るった聖剣から放たれた巨大な〝天翔閃〟にかき消され、そのままアハトドを斬り裂く。アハトドの残った二本の左腕が光の斬撃で消滅する。

 

「ルアウァ!?」

「邪魔だああああああああ!!!」

 

 腕が無いならばと、身体ごと光輝にぶつかっていくアハトド。それに対し光輝は、大上段に振りかぶった聖剣を躊躇いなく振り下ろす。

 アハトドは真っ二つに両断され、絶命する。

 それに対し一瞥もくれずに、光輝はさらに前に向かって駆け抜けていく。

 そのまま聖剣を前に突き出し、カトレアを貫こうとする。

 

「ウオオオオオオッッ!!!」

「チィ!」

 

 カトレアは舌打ちをしながら咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を吹き飛ばす。

 

「うあっ!?」

 

 砂塵の盾ともに吹き飛ばされ、倒れるカトレア。

 急いで立ち上がろうと上半身を起こすと、目の前には聖剣を振り上げた光輝の姿があった。

 

「あ……」

「終わりだあああああああああ!!!!!!」

 

 そうして、躊躇いなく聖剣は振り下ろされて、

 

「カトレアッ!!!!!!!!!!!」

 

 カトレアを庇ったミハイルを斬り裂いた。

 




〇デジモン紹介
今回は無し。


光輝達の動きももちろんですが、清水の行動を絡めるのも難しかったです。
展開も原作をもっとなぞるか、それとももっとオリジナルでいくか悩みました。
例えば檜山がバケモンを香織と雫に化けさせて磔にして現れて光輝に土下座を強要するとかいう、ゲスムーブをやらせるとか。
でもそれだと先の展開が崩れるので、あえて原作に近い感じにしました。

ただし、二人の生死不明者が出ちゃいましたが。

さて、次話はどうなるか。あとがきや活動報告でもよく言っていますが、次話はもっと早く書けるように頑張りたいです。
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