ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
またもお待たせしました。七月はいろいろ忙しかったので、活動報告での報告も出来ませんでした。
今回の話はWebの原作を見ながら、この頃の光輝ならこういう反応するよなと独自解釈しながら書き進めました。
よろしくお願い致します。
光輝がカトレアを庇ったミハイルを斬り裂いた瞬間を、魔物と戦っていた愛子も見ていた。何故か魔物達の攻撃が減ったことから、周囲に気を配る余裕が出来たのだ。
カトレア達と少し言葉を交わしたことと、2人の様子の一部始終から、彼女はあることに気が付いた。だから、咄嗟に光輝に駆け寄ろうとしたのだが、突然何者かに後ろから羽交い締めにされて、動きを止められた。
「愛子!?」
「動くなよ。天使様、いやピッドモン」
たまたま近くにいたピッドモンが気づき、助けようとするが、愛子の首に鋭い針が付きつけられる。
愛子を羽交い絞めにした者──清水幸利が愛子の口をふさぎながら、ピッドモンを牽制する。
「この針は北山脈の魔物からとった毒針だ。刺されれば数分も持たずに苦しんで死ぬ」
「くっ、卑劣な」
「ふん。卑劣で結構。今畑山先生やお前達に、あの勇者君に近づかれると困るんでな」
清水は愛子を拘束しながら、自分の周囲とピッドモンを含めた範囲に無詠唱で闇魔法を発動させる。その魔法の効果で、清水を中心に認識が阻害される。清水と愛子、そしてピッドモンの姿が、周囲の者達の認識から消えてしまう。
清水はメフィスモンと魔人族達から魔法の手ほどきを受けた。その際に〝魔力操作〟の技能を習得し、ハジメ達と同じように魔法陣と詠唱を用いることなく、魔法を扱えるようになった。
「準備は整った。ここからが本当の始まりだ。邪魔はさせないぜ」
周囲の誰もが光輝へと注目する中、彼らの様子に気が付いた者はいない。
龍太郎達や、シスタモンブランでさえも。
なぜ、さっきまで激しかったはずの戦闘が収まっているのか。
なぜ、戦っていた魔物から目を逸らして、光輝の方を注目しているのか。
なぜ、そのことに違和感を覚えないのか。
それら全てを仕込み、この状況を作り上げた稀代の闇術師は、最大の懸念事項である教師と天使型デジモンを抑え込みながら、ただ、自分の望みが叶いつつある状況に、笑みを抑えきれないでいた。
■■■■■
カトレアの顔に生暖かい血が滴り落ちる。
「ミ、ミハイル?」
「ゴハッ!? カ、カトレア、無事か?」
大量の血を吐き出しながら、カトレアの身を案じるミハイル。
空間魔法で魔力が枯渇していたので、自分の身を盾にするしかできなかった。
しかし、そのおかげで聖剣はカトレアの身体に届かず、彼女の命は護られた。
「ああ、無事だよ。私も、あんたとの子供もッ!」
カトレアのその言葉に、ミハイルは目を見開いた。
「そうか、そうなのか……」
隠し切れない喜びに顔を綻ばせながら、ミハイルはその目を閉じた。
力を失ったミハイルの身体からずるりと聖剣が抜けて、カトレアの腕の中に倒れ込む。
徐々に熱を失っていく彼の身体を抱きしめながら、カトレアは彼と同じ末路が訪れるのを静かに待った。
ミハイルに守られた命だが、目の前には天敵である勇者の光輝がいる。逃げ切ることはできないだろう。
だが、覚悟していた最後の時は一向に訪れない。怪訝に思って見上げると、愕然とした表情の光輝が目に入った。目をこれでもかと見開いてカトレアとミハイルを見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その光輝の瞳を見たカトレアは、光輝がなぜ攻撃を止めたのか悟り、侮蔑と憤怒の眼差しを返した。
「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 〝人〟を殺そうとしていることに」
「ッ!?」
そう、光輝にとって、魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた。自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな戦っている〝人〟だとは思っていなかったのである。あるいは、無意識にそう思わないようにしていたのか……
その認識が、カトレアを庇ったミハイルの献身と、最後まで愛おしそうに抱き合う2人の姿により覆された。否応なく、自分が今、手にかけようとした相手と手にかけてしまった相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ〝人〟だと気がついてしまった。自分がしてしまったことが〝人殺し〟であると認識してしまったのだ。
「そんな、そんな半端な覚悟で、ミハイルを殺したっていうのか!?!?!」
「ひっ」
カトレアの増悪にまみれた叫びに、光輝は恐怖を感じて咄嗟に聖剣を構えたが、そこにべっとりと付いたミハイルの血が目に入る。
自分が先ほど犯してしまった〝人殺し〟の決定的な証拠だった。
「あ……ああッ」
光輝の身体が震える。カトレアから初めて向けられる憎悪と、〝人殺し〟という取り返しのつかない罪を犯してしまったことが、光輝を大きく動揺させた。
「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね。これが人間族かッ」
「ち、ちが……俺は、知らなくて……」
「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」
「お、俺は……」
「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の一匹がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい? おまえが今までそうしてきたように……」
「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」
光輝が、聖剣を下げてそんな事をいう。そんな光輝に、カトレアの中で何かがキレた。
「ミハイルを殺しておいて何言ってんだ、お前」
「うあ、あ」
「ミハイルだけじゃない。その聖剣で、魔法で、国境の魔人族の村を、捕虜の人間族諸共消し飛ばしておいて! いまさら何をほざいているんだ!!」
「…………え?」
カトレアの言葉に、光輝は言葉を無くした。
国境の魔人族の村?
何のことだ。
確かに国境には教会の依頼で赴いたが、それは魔人族の村に襲われて全滅した村に居座る魔物を、討滅するためだった。
もうその村には魔物しかおらず、今後の戦争のためにも〝神威〟で吹き飛ばしてくれと言われ、光輝はそれを実行した。
しかしカトレアが言うには、光輝が吹き飛ばした村は、魔物によって全滅した人間族の村などではなく、魔人族が住む村だった。しかもそこには人間族の捕虜までいたという。
つまり、光輝は村に住む魔人族と捕まっていた人間族を……。
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!?!?」
自分が更なる大罪を犯していたかもしれないという事に、光輝は無様に取り乱し始めた。
そのタイミングで、がくんと膝から力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。
〝覇潰〟のタイムリミットだ。そして、最悪なことに、無理に無理を重ねた代償は弱体化などという生温いものではなく、体が麻痺したように一切動かないというものだった。
「うぁ、か、身体が……」
「今だ殺」
──ザクリ。
カトレアが光輝に向かって総攻撃の命令を魔物達に下そうとしたその時、カトレアを四本の剣の刃が貫いた。
「う、え?」
突然、カトレアが刺されたことに光輝が目を見開く。そして、彼女を貫いた者達を見た。
「穢れた魔人族が。勇者様に何かしたようだが無駄だったな!」
「我ら神殿騎士の正義の刃。その身に受けるが良い」
「魔人族に生まれた運命を悔やみながら死になさい」
「……全てはエヒト様のお導き。決まっていたことだ」
愛子の護衛として派遣されていた神殿騎士専属護衛隊隊長デビッド、神殿騎士同副隊長チェイス、近衛騎士クリス、近衛騎士ジェイドの四人だった。
何だかんだで生き残っていた四人は、エヒト神への信仰心が特に強く、また愛子へといいところを見せたいという理由で、光輝の近くで戦っていた。
光輝がミハイルを倒した後、カトレアへの攻撃を躊躇ったことと、彼女が反撃に出たことから、すかさず攻撃を仕掛けたのだ。
「あ、な、何をしているんですか!?」
光輝が目の前で行われた殺人に、抗議の声を上げるが、それを聞いた四人はきょとんとした目をして、
「何って、魔人族を殺しましたが?」
デビッドが当然のことのように答えた。
「そんな、無抵抗の人を、殺すなんて」
「人って、魔人族ですよ? 殺して当然じゃないですか」
チェイスもデビッド同様に、カトレアへ致命傷の攻撃を加えたことに、何の疑問も持っていない。残ったクリスとジェイドも同じ考えだという顔をしている。
「そんな、何で、こんなことを」
「こんなこと、ですか?」
動揺を隠せない光輝に対して、デビッド達は何も悪いことではないだろうという態度を崩さない。
光輝は地球の日本人の倫理観に基づいて、デビッド達の行為に非難をしようとするが、デビッド達の倫理観では、魔人族を殺すことに何の問題もない。
むしろ、教会の教義においても「エヒト神以外の神を信じる魔人族は殺すべし」とされており、光輝達もそれをちゃんと聞いてきた。
だが、目の前で魔人族が愛し合う光景を見てしまった光輝は、人であると理解してしまい、デビッド達の行為が許されないものだと感じたのだ。
「ああ。そう言う事ですか」
「ぐは」
光輝の内心を図れないデビッド達は、カトレアの身体から剣を抜く。まだ息のあるカトレアが苦悶の声を上げるので、光輝は咄嗟に駆け寄ろうとするが、身体は全く動かない。そんな光輝に構わず、デビッドは血まみれの剣を掲げる。
「ちゃんと皆に告げなければいけませんね。いつまた魔物が動き出すやもしれませんから、迅速に行動しなければ」
「へ?」
「聞けい!! 邪悪な魔人族はエヒト様に祝福されし、勇者様と我ら騎士が打ち取った!!!」
デビッドの宣言に戦っていた者達がうおおおおお!! と勝どきを上げる。
それが後方の住人たちまで伝播していき、そこかしこで歓声が上がる。
「我らは勝利した!! エヒト様の祝福と、その力を授けられた勇者様がいる限り、負けるはずがない!! ここから我らは魔人族を一人残さず皆殺しにしていくのだ!!!」
「み、皆殺しなんて、そんなの「「「「「わあああああああああああ!!!!!!!!!」」」」」」
デビッドの宣言に光輝は間違っていると声を上げようとするが、彼の声は人々の熱気を帯びた声にかき消された。
トータス人の誰もがデビッドの言葉に同調し、賛成している。そして口々に言うのだ。
「エヒト様万歳!」「勇者様最高!!」「人間族に栄光あれ!!」「魔人族何て皆殺しだ!!」
光輝の中では列記とした悪の行為である殺人が、当然のごとく肯定される状況。
これが悪意を持って強要されるのであれば、まだ光輝は声を上げて反論できた。しかし、デビッドを始めとするトータスの人間達は、悪意なんて微塵もなく当然のこととして、光輝へと魔人族を殺すことを勧めてくる。
まるで光輝の魔人族への殺人は悪であるという考えこそが、間違っていると言わんばかりだ。
悪こそが正しく、正しいことこそが間違っている。
日本で培われてきた価値観が破壊される状況に、光輝の中のアイデンティティが音を立てて罅割れていった。
そんな光輝の姿をカトレアは、霞目で見ていた。
なんと無様な顔だ。
体を少しも動かすことが出来ず、取り巻く環境に取り乱し、今にも発狂しそうなほど、目が揺れ動いている。
あんな男にミハイルは殺されたのかと思うと、はらわたが煮えくり返って仕方ない。
だが、今のカトレアには何もできない。
強力なアーティファクトである聖剣の一撃を受けたためミハイルはすぐに死んだが、ただの剣に刺されたカトレアはまだ生きている。
しかし、それもあと少しだろう。自分でも死ぬのがわかる。
それでもあんな奴らに、一矢報いることも出来ずに死ぬのはごめんだ。
せめて、ふざけた心構えでミハイルの命を奪った勇者だけは何としても殺さなければ!
(いいだろう。お前のその命を使って、代わりに復讐してやろう)
突然カトレアの頭の中に、誰かの声がした。
次の瞬間、カトレアの身体の下──正確には月明かりでできた彼女の影から、巨大な口が現れ、彼女と近くにいたミハイルに喰らいついた。
突然、魔人族の二人を巨大な黒い影が噛みつき、闇夜に高く掲げた。
これには意気揚々と声を上げていた人々も驚愕し、動けなくなる。
よく見るとそれは黒い蛇のようなフォルムをしており、白い鱗が付いていた。いや、鱗ではない。ギョロリとした無数の目が、身体の上に浮かび上がって、しきりに周囲を見渡していたのだ。
その姿を清水の魔法の領域内から見ていたピッドモンは、影の正体に気が付く。
「あれは、アイズモン!? ユエ殿達が話していた魔竜のデジモン。ということは」
「そうさ。喜べよ先生。離れていた生徒が来たぜ」
「離れていた生徒って、まさか」
清水の言葉に愛子は目を見張り、1人の少年の事に思い至った。
「ひっ」
アイズモンの生理的な嫌悪感を抱かずにいられない見た目に、光輝でさえも恐怖に引き攣り、他の者達は震えて座り込む。
「クククッ。情けない格好だなあ、天之河」
そんな光輝達を嘲笑う声が響き、愛子の想像通りの少年、檜山大介が姿を現した。
「ひ、檜山。なんでお前が」
「まあ、お前から見たら俺がなんでいるのか、不思議だよなあ。お前あいつらから何も聞かされていないんだし。ふはっ、勇者のくせに全く信用されていないとか、哀れすぎて笑えてくるぜ。完全にピエロだったぜお前!!」
笑いがこらえきれないと、光輝を嘲笑う檜山。
檜山の右腕はアイズモンと繋がっており、アイズモンの無数の目が見た光景は彼も見ることが出来る。
その能力を使い、北山脈でハジメ達の前から姿を消した後、檜山は魔人族の陣地にいながら、分裂させたアイズモンの目をいくつかウルの町に潜り込ませて、監視していた。
だから、檜山はこれまでの経緯を統べて見て把握していた。
「笑える喜劇を見せてくれた礼だ。最後にお前達にとっておきの結末をくれてやるよ」
檜山は左手を掲げると、パチンと指を鳴らす。
「喰え、アイズモン」
檜山の指示に、アイズモンはカトレアとミハイルを加えていた顎をガチンと閉じた。
口からは2人の夥しい血が噴き出し、周囲に飛び散る。それは光輝の身体を赤黒く濡らす。
「ひぁ、あ」
血まみれになったことに気が付いた光輝は今度こそ恐怖に腰を抜かす。
もはや何もできない勇者の目の前で、邪眼の魔竜はその体から強大なエネルギーを放出しながら、姿を変えていく。
魔人族2人の肉体を喰らい、アイズモンは進化を始めたのだ。
影が浮かび上がったような不定形だった体は、しなやかな実体を得ていく。
より太く、強靭な肉体になると、身体の中心が大きく膨らむ。
変化はそれだけにとどまらなかった。膨らんだ個所から、さらに七本の首と尾が生えてきた。
これこそがアイズモンが進化した姿。
日本神話に語られる蛇神ヤマタノオロチに似た姿を持つ、魔竜型デジモン。
「あれは、かつて古代デジタルワールドの1つのエリアを壊滅に追い込み、封印された魔物の一体」
「まさかオロチモンだというのか!?」
四聖獣に仕え、デジタルワールドの歴史に精通していたシスタモンブランと、天界エリアの記録を閲覧したことのあるピッドモンが、その正体を看破する。
オロチモン。
古代デジタルワールドより記録が残る強大なデジモンの一体で、完全体の中でも上位の力を誇る。
この場にいる者は知らないが、六年前のデジモンテイマーズのデジタルワールドでの冒険でも遭遇した。ルキとレナモンのコンビでも歯が立たず、加藤ジュリが機転を利かせて、何とか倒すことが出来た。
その際のオロチモンとは別個体だが、放つ威圧感は途轍もない。もしも当時のオロチモンと戦ったメンバーがこの場にいれば、過去の個体よりも力も大きさも遥かに上回っていると断言しただろう。
さっきまで威勢の良かった騎士や冒険者、住民たちはすっかり意気を失い、絶望していた。
「くふふ、ハハハハハッ!!!」
光輝達とは対照的に、喜色満面の様子で檜山は高笑いを上げる。
「ああ! すっげえじゃねえか!! あのサイボーグ恐竜を喰わせただけはあるぜ!!」
実は檜山はアイズモンを進化させるために、ウルの町を更地に変えたメタルティラノモンをアイズモンに喰わせたのだ。
急激な進化をしたことと、必殺技を放った疲労で弱体化していたことにより、メタルティラノモンはアイズモンに敗北し、捕食された。これによりアイズモンはメタルティラノモンのX抗体のデータを獲得。それだけで十分エネルギーを得ていたが、さらに魔人族2人のエネルギーも得たことで、特に強大な力を持つオロチモン──オロチモン(X抗体)へと進化してしまった。
「囲めオロチモン」
檜山の指示にオロチモンは七つの首を伸ばしていく。あっという間に光輝達は、オロチモンが伸ばした首に囲まれてしまう。
アイズモンの肉体の一部を右腕にしていた檜山には、まだオロチモンと繋がっており、オロチモンの能力が理解できた。
「殺せ、オロチモン。じっくりと、恐怖を味あわせろ」
残虐極まりない檜山の指示に、オロチモンは全ての口を開くと、そこから毒々しい色の瘴気を吐き出す。
「うっ!?」
「ぐぇあっ!!」
「く、苦しいっ」
瘴気に触れた人々は喉や口を押えて苦しみ始める。
彼らの様子を見ていたシスタモンブランは、その理由に気が付く。
「これは毒ですか!? 記録にあるオロチモンは酒のブレスを吐くとありましたが、こんなものまで吐くなんて」
シスタモンブランが結界で覆った人々は何とか守られている。だが、戦っていた者達は逃れられない。
その結界も、オロチモンの首が一本伸びてきて、喰らいついてきたせいで、大きく軋みを上げ、すぐに崩壊した。
成長期のシスタモンブランが張った結界では、通常よりもパワーアップしたオロチモンには歯が立たない。
「こんな、酷いことを。檜山君!!」
愛子とピッドモンも瘴気に飲み込まれる。
「じゃあな先生。精々生き延びろよ」
「きゃっ」
「愛子殿!」
清水はそう言うと愛子を解放し、瘴気の中に身を隠す。
自由を取り戻した愛子だが、すぐに瘴気に蝕まれて座り込む。咄嗟にピッドモンが駆け寄り、助け起こそうとするが、そのピッドモンでさえも毒に侵されて動けなくなる。
「ぐっ、う、動かない。こ、こんなところで、俺は」
そして、光輝も毒に蝕まれていく。
勇者のスペックと状態異常耐性があっても、オロチモンの毒には全く対抗できない。
今度こそ、光輝はすぐそばにひたひたと迫りくる死の気配を実感していた。
いくら自分だったら何とか出来ると、楽観的に考えている光輝であっても、この状況を打破できる気がしなかった。
魔力も気力も尽き、勇者の耐性すらも効かない毒に侵され、さらには桁違いの強大な敵がすぐそばにいる。
「……たくない。死にたく……ないよう」
ガチガチと歯を鳴らしながら、死の気配に怯えるその姿は、勇者ではなくどこにでもいるただの男子高校生だった。
その瞬間だった。
上空から氷と闇の矢が降り注ぎ、オロチモンの八本の首が傷を負う。
さらに巨大な結界が展開され、人々を包み込む。
結界の中に取り込まれた人々に結界の内部から、柔らかい光が降り注ぎ、その身を犯していた毒と、傷ついた身体を癒していく。
それだけではなかった。
キイィィーンという音と共に上空を巨大な翼を持った何かが横切り、オロチモンや魔物達の周囲が爆発していく。
その何かは何度も周囲を飛び回り、オロチモン達へと攻撃を加えていく。
偶然、その様子が見えた永山重吾がポツリと呟いた。
「せ、戦闘機かあれ?」
「え? せ、戦闘機? まさか、自衛隊でも来たのかよ!?」
永山重吾の呟きが聞こえた野村健太郎が、ギョッとする。
だが、永山の言葉を肯定するように、飛び回っていた何かが旋回して、真上で滞空し始める。
「ま、まじで戦闘機だ」
そう、それはブルーとシルバーにカラーリングが施された戦闘機だった。
ただし、両翼の下には巨大な砲門が二つ搭載されており、SFチックな機体だった。
さらに戦闘機と共に、二つの人影が舞い降りてきた。
「『ホーリーアロー』!!」
「『アイスアーチェリー』!!」
白翼の天女エンジェウーモンと月の魔人クレシェモンが必殺技を放ち、オロチモンの首を一つずつ撃ち貫く。
その傍らには当然、白崎香織とユエの姿があった。
さらには空から無数の星が降り注ぎ、美しい黄金色の天馬──ペガスモンとテイマーである雫の姿があった。
そして、戦闘機の操縦席に当たる部分のハッチが開き、夜風に黒いコートを靡かせながら、操縦者が姿を現した。
「やっぱり帰ってきたか。南雲ハジメ」
森の中に姿を隠しながら様子を見ていた清水は、戦闘機から姿を現したハジメの姿を見て──笑みを浮かべていた。
〇デジモン紹介
オロチモン(X抗体)
レベル:完全体
タイプ:魔竜型
属性:ウィルス
8本の頭部を持つ巨大な魔竜型デジモン。しかし、8本ある内の7本はダミーであり、中央の黒色の頭部が本体である。オロチモンの誕生起源は古く、古代デジタルワールドでは猛威をふるい、あるエリアを壊滅状態にまで追い込んだことがある程の存在だったが、デジタルワールドの調和を保とうとする“存在”の使いによって封印されていた。今回確認された個体はX抗体を持つデジモンと、魔人族を喰らって進化したためX抗体を獲得している。その影響か、身体はより巨大になり、尾も八本になり、より日本神話に登場するヤマタノオロチに近い姿になっている。得意技のアルコールを含んだ息で敵を酔わせて酩酊させてしまう『酒ブレス』が進化し、毒の瘴気を吐き出す『ヒルコブレス』へと強化された。必殺技も尻尾の先が切れ味の鋭い刃になり敵を切り裂く『アメノムラクモ』を八つの尾全てから繰り出し、あらゆる敵を滅多切りにする。
前半の光輝への精神的フルボッコはずっと考えていた展開です。光輝にとって辛いのって、自分の正義を否定する個人が現れるよりも、自分の正義と相反する正義を押し付ける無力な民衆だと思いました。今まで光輝が地球でやってこれたのは、光輝の正義は現代日本での倫理観で培われたもので、そこから決して逸脱しなかったからです。それがトータスでの殺伐とした倫理観に放り込まれたら、それは原作のハジメ以上に光輝にとって辛いことだと思います。
まあ、それはハジメ達も同じですが。
これから彼どうなっていうか、うまく書いていきたいです。
後半は遂に本格参戦してきた檜山。アイズモンはオロチモンに進化し、絶体絶命の所に、満を持して主人公とヒロイン帰還です。
夏休み期間には更新したいですが、いろいろ忙しいので気長に待っていてください。