ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
今回は原作の説明回に相当するお話です。
あとタグを少し変更しました。ヒロインについて、メインは香織なんですがちゃんと雫も入れることを示す感じにしました。
「け、けけけ拳銃の設計図ですかあ!?ななな、なんでこんなもの持っているんですか!?」
ハジメのタブレットに表示されたリボルバー拳銃の設計図を見た愛子は、グイッと身を乗り出してハジメを問い詰める。
「まあ、なんというか父の手伝いで?」
「南雲君のお父さんですか?」
「畑山先生。ハジメ君のお父さんはゲーム会社の社長さんなんです。本人もゲームを作るのが好きでゲームの材料になるものをいろいろ集めているんですよ」
「ハジメもたまにそのお手伝いをするんです。その中にはミリタリーやシューティングゲームもあります。多分これもそれらの資料よね?」
「香織さんと雫さんの言うとおりです。僕が手伝いの中で集めた資料で他にもいろんなものがあります」
三人の説明を聞き、ひとまず愛子は納得し座りなおす。
「話を戻します。僕はこの設計図と地球での銃火器類の動画を材料にハイリヒ王国と交渉します」
今日訓練を受けたことで、この国には弓くらいしか遠距離武器がないことが分かった。
おそらく魔法という個人で強力な攻撃手段があるために発展してこなかったのだろう。よくある異世界小説と同じだとハジメは思った。
「で、でももしもそんなものが広がったら戦争がよりひどくなるんじゃあ。それに先生はそんなことを生徒にさせませんよ!?」
愛子の言葉は地球の歴史を知るが故だった。
人間が銃火器という武器を手にしたことで戦争は大きく変わり、もたらされる被害はより大きくなった。
その果てが日本に投下された核爆弾だ。
それが異世界で、しかも教え子の手で再現されるのは愛子の教師としての矜持が良しとしなかった。
「落ち着いてください、先生。僕もこの世界を混乱させるつもりはありませんよ。これはあくまでも時間稼ぎです」
「時間稼ぎ?」
「僕らは教会からの魔人族との戦争を拒否しています。いつ切り捨てられるかわからない。なら切り捨てられないような価値を示さないといけません。では国や教会が求めている価値とは何だと思いますか?」
「はい!」
「はい、香織さん」
「魔人族に勝てる戦力だね」
「正解。だからこそ僕たちは召喚されたし、戦闘系天職をもらった生徒には国宝ともいえるアーティファクトが与えられた。だったらもしも普通の兵士が、みんなと同じくらい強くなれるような武器を僕が作れるとしたら?」
「簡単に切り捨てられることはないわね」
ハジメの言葉に雫が頷く。
「実際に再現させられるのか、量産できるのか。いろいろ問題はありますが心配いりません。あくまで目的は僕が再現できるかもしれないと思わせるだけです。それで時間が稼げれば僕たちに新しい選択肢が生まれます。
一応、作成できるか挑戦はしてみますけどね。できたらその時は別の意味で切り札になるでしょうから。
以上が僕の意見です。他に何か質問はありますか?」
そう締めくくるとハジメは三人の顔を見渡す。
香織と雫は納得しているため異論はないようだ。愛子はまだ難しい顔をしているが、最終的に納得した。
その後三人はいくつか話し合いを行い、これからの方針を固めた。
1.戦闘訓練には最低限参加する。
2.帰還の方法を探るため王宮の図書館を利用する。
3.戦争への参加ではなくあくまで国への貢献を行い、切り捨てられないようにふるまう。
これらの方針に従い、それぞれのやることも決めた。
ハジメ:錬成の性能の確認と習熟。
香織:天職が治癒師なのでトータスの医療技術の確認と練習。
雫:天職は剣士なので三人の護衛ができるように訓練に励む。
愛子:作農師の技能と地球の農業知識で食糧問題の改善を図る。
トータスや魔法のことを調べて帰る手段を探すのは共通として、それ以外に自分の天職関連のことを磨いたり、活用したりすることで国に貢献することになった。
「こんなところだね」
ハジメは決めた方針をノートパソコンのファイルに記入する。そしてそれをUSBに格納すると香織に渡す。
「今日決めた方針と僕がまとめたこの世界のこと。香織さん達も目を通しておいて何か意見があったらどんどん書いて」
「わかったよ」
「わかったわ」
「畑山先生はこれ使ってください。僕はタブレットで代用できますので」
「はい」
ハジメはノートパソコンを愛子に渡す。もともとこれは学校から支給されたものなので、愛子でも使用できる。
「では夜も遅いのでこの辺で」
「あ、その前にちょっといいかな?」
ハジメが解散を宣言しようとすると、それを香織が制止する。
「どうしたの香織さん?」
「うん。ちょっと気になったことがあって」
香織は少し言いにくそうにしながらも、ハジメに問いかける。
「ハジメ君。今日なんだけど本当に体になんともなかった?」
「え?……特に何もなかったよ?」
少し考えてハジメは香織の質問に答える。
「本当に?体だけじゃなくて、気分とかいつもと違うところとかなかった?」
「うん。どうして?」
「昼間に檜山君が絡んできたとき、なんかハジメ君の対応がいつもと違った気がしたんだ」
「え?」
「だっていつものハジメ君ならああいう風に煽るみたいな言い方しないよね?」
香織の言葉に雫ははっとする。
「確かに。いつものハジメなら、ああいう風に絡まれてもやんわりと受け流したり、煙に巻いたりしていたわ」
「うん。だからどうしたのかなって思って」
ハジメは二人の言葉にバツが悪そうにする。いまさらながら確かに自分らしくなかったと思ったのだ。
倒れた後でいつもの自分らしくない態度を見てしまったために、香織はハジメの体調に不安を抱いたのだ。
「いや、あれは体調不良とかじゃないんだ。うん、ただ……」
「ただ?」
「相手が檜山君だったからついあんな態度を取ったんだと思う」
「檜山君だから?」
「何かあったのですか?」
香織が首を傾げ、生徒同士の問題の匂いを感じた愛子が問いかける。
「彼とは入学したときに少し揉めただけですよ。それから接点はなかったのですが」
ハジメは言葉を濁して答える。
「まあ、その今のところ問題はないですし、ならないように立ち回りますから。そんなに心配しないでください先生。香織さんも僕のことを心配してくれてありがとう」
ハジメはやや強引ながらこの話を終わらせた。
香織達は納得していなかったが、無理に踏み込んでしまってハジメの負担になってはいけないと思い、追及はしなかった。
こうして第一回異世界会議は終わった。
■■■■■
ハジメ達が召喚されてから二週間がたった。
その間ハジメ達は異世界会議で決めたことを各々実践していた。
香織は治癒師の技能を磨くため、王宮の治癒師からトータスの医療技術を学んでいた。
しかし、トータスの医療は魔法が主であとは薬草で調薬したポーションしかない。地球の手術のような外科医療が発達していなかった。そこで香織は人工呼吸や心臓マッサージなどの簡単な誰でもできる医療行為を伝えた。
雫は光輝達戦争参加組と一緒になって訓練に参加していた。ただし戦争の訓練ではなく、護衛のやり方を中心に学んでおり、その守るという気迫と剣の腕前にはメルド達も感心した。
愛子は作農師としてハイリヒ王国の農作物の成長を促進させる実験に参加したり、ハジメのタブレット端末に入っていた農業の専門書に載っていた農業を伝えたりしていた。
そしてハジメはメルドを通して王宮に地球の技術を提供することを伝えたところ、話を王宮の要職についている人物に聞いてもらえることになった。
そうしていざ話し合いの場に赴いてみると、そこにいたのは王国の軍を預かる将軍となんとハイリヒ王国の第一王女リリアーナ・S・B・ハイリヒだった。
将軍はいいのだがまさか王女のリリアーナがいることに驚いた。理由を聞いてみると地球のことが聞きたいのだという。彼女としては突然平和な世界からこの世界に連れてこられたハジメ達のことを憂いており、少しでも彼らのことを理解したいのだという。
少し驚いたがハジメは拳銃の設計図とそれが実際に使われる映像を見せた。
反応は予想通りで、将軍はこれがあれば魔人族との戦争で勝てると確信し、ハジメに再現の依頼をした。その際にハジメは解決するべき技術的な問題が多いことと、時間がかかることを説明した。すると将軍はハジメに王国随一の技術力を持つ【ウォルペン工房】への紹介状を出してくれた。
ハジメが工房を訪れてみると多くの錬成師が作業をしており、錬成を学ぶのに最適な環境だった。
そこでハジメは錬成を学ぶことになった。
錬成とはメルドから聞いていた通り金属を変形させる魔法で、鉱石を剣や盾などの道具に加工できるものだった。
さらに錬成師には道具の作成や修理以外に、魔法道具を作るという仕事もあった。
魔法道具とはアーティファクトとは違い、現代の人間でも作成できる魔法効果を持った道具のことだ。
トータスの魔法は体内の魔力を、詠唱により紙や道具に刻んだ魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りのものが発動する。魔力を直接操作することはできず、使う魔法によって正しく魔法陣を用意しなければならない。
この魔法陣は紙に書いて使う場合と、道具に刻んで使う場合がある。この魔法陣が刻まれた道具が魔法道具だ。
この道具に魔法陣を刻むのも錬成師の仕事だった。
この魔法陣を刻む作業だが、とても大変だった。刻む魔法陣の大きさと複雑さが、術者の詠唱と適正によって変わってしまうのだ。
詠唱は長さに比例して流し込める魔力は多くなり、それに比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式が多くなり、陣も大きくなる。
適性は体質により式を省略できるかどうかというものだ。例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできる。
この省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加される。なおハジメには、錬成以外の魔法の適性が全くなかった。
この二つの要因により、魔法道具は使用者のみしか使えないオンリーワンの一品になりやすく、しかも魔法陣をいかにうまく刻むのかは錬成師の腕次第となるのだ。
ちなみに、トータスの魔法の理論を聞いたハジメはまるでプログラムみたいだと思った。
魔力が電気、魔法陣がソースコードに書かれたプログラムコード、詠唱がスタートコマンドという感じに例えるとスムーズに理解できた。
ハジメはウォルペン工房で学ぶ中でひたすら鉱石を加工する術を学んだ。雫が依頼してきた日本刀のこともあるし、拳銃が再現可能かどうかも検証する必要があった。
この時、ハジメが持つもう一つの技能『並列思考』が役に立った。
錬成の魔法陣が刻まれた手袋を両手につけて、右手と左手で同時に錬成を発動。異なる種類の鉱物を同時に異なる形に錬成するという練習を行うことで、ハジメの錬成の技量はメキメキ上がっていった。この練習方法には工房の親方のウォルペン・スタークも目を見張っていた。通常の錬成師は一つの鉱物を変形させるのに全神経を集中させるので当然だった。
その鍛錬の結果、なんと一週間で日本刀の試作品が出来上がった。
タブレットの中にあった日本刀の資料を参考に、玉鋼に性質を持つ鉱物を圧縮して折り重ねることで日本刀の構造を再現。そしてその造形を日本刀に近いものに整えた。
本来の日本刀の製造方法とかなり異なる方法で作成したものだったが、雫に試し斬りをしてもらい何度か修正したことで納得のいく出来になった。
ちなみに、その日本刀を雫に渡したとき、彼女は思わずハジメに抱き着いた。
さらにそのことを聞いた香織にせがまれて、彼女のためにサバイバルナイフを作成してプレゼントした。
その後も錬成の鍛錬を同様の方法で続けた結果、錬成に派生技能[+精密錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+消費魔力減少]が追加された。
これらの派生技能が現れてからハジメはもしかしたらと思い、拳銃のパーツの一つを錬成してみた。すると何と一発で成功した。しかも設計図の寸法と寸分たがわないものが。
錬成の造形の精密さはハジメのイメージに左右される。そのため精密な部品が必要な拳銃のパーツを作るのは苦労すると思っていたのだ。
「まるで頭の中にパソコンがあるみたいだ」
思わず呟いたハジメはなぜかこのことが頭に残ったのだった。
その後、パーツを自作し続け一丁のリボルバー拳銃が完成した。
もっとも銃弾に使用する火薬が手に入らず、銃弾の作成が難航してしまっているが。
一方、帰る方法については全くと言っていいほど進展しなかった、
「これは、まずいかもしれない」
王宮の図書館でハジメは頭を抱えていた。
ここ二週間ハジメは工房での練習と並行して王宮の図書館で帰還方法を調べていくつか分かったことがあった。
まず帰還するための召喚魔法についての資料は全くなかった。そもそも異世界召喚ということが今回初めてのことだったのだ。これでは全く手掛かりがない。
ならば王国以外の国に行けばいいのではないかと思ったのだが、このトータスに人間族の国はハイリヒ王国以外だと【グリューエン大砂漠】にある【アンカジ公国】に【ヘルシャー帝国】しかない。アンカジ公国はハイリヒ王国から分かれた国なので得られる情報も変わらないだろうし、帝国は300年前に傭兵が興した国で王国より歴史が浅い。しかも実力主義国家であるため、何をするにも力がいる国風であり、非戦系天職であるハジメでは行動しにくいだろう。
次に魔法についてもっと詳しく調べようと思ったのだが、魔法関係については聖教教会が独占していた。そもそも今の人間族が使用している魔法はエヒト神がもたらした神代魔法の劣化版と言われている。そのため魔法は教会が管理している。
従って王国には騎士団はあるが魔法専門の部隊というものは存在せず、魔法の研究も教会の名の下でなければ行えない。
その教会についてだが、調べれば調べるほどハジメは違和感を覚えた。
聖教教会の教義とはエヒトを唯一無二の神とし、それ以外の神を心棒する魔人族や魔力を持たない亜人を人間族より下とするものだった。どれだけ調べてもそれしかわからない。
通常、宗教とは同じ神を信仰していたとしても、解釈や環境の違いから派閥が分かれる。同じ国だったならともかく、他国のヘルシャー帝国でも同じ教義だという。
これは実際にエヒト神という超常の存在いるせいかもしれないが、だとしても人間族の思想が固定化されすぎている。
しかもこの国は航空技術と航海技術が不自然なくらい発達していない。ハイリヒ王国が存在する大陸の外についての記述もどの本にもなく、まるでそこへの関心を与えないようにしているようだった。
(まるで
圧倒的上位者による管理された世界。それがこの二週間でハジメが得たトータスのイメージだった。
(いっそ香織さん達を連れて旅に出たほうが、帰る方法が見つかるかもしれないなあ)
そんな考えを思い浮かべたその時、ハジメの頬に何かが当てられた。
「うえっ?」
「ハジメ君大丈夫?」
それは人の指で、振り向いてみれば心配そうな顔をした香織がいた。
「あ、香織さん……?」
「酷い顔しているよ」
実際、ハジメは酷い顔だった。
目の下には真っ黒な隈ができており、髪もボサボサだった。
実は夕食を食べた後も自室で錬成の勉強と調査した内容のまとめ、これからの行動指針を考えていたのだ。その結果、夜もほとんど寝ていなかった。
香織は目を吊り上げて、ハジメを問い詰める。
「最近寝ていないでしょ?」
「あ~。まあ、うん」
「何日?」
「えーっと、二日」
「……」
香織は吊り上げた目をさらに鋭くする。その眼力にハジメは気圧され正直に白状した。
「……四日です」
「ッ」
香織は大きく息を吸い込むと、図書館であるにも関わらずとんでもない大声を解き放った。
「いい加減寝なさい!!!!!!!!」
■■■■■
司書の人に睨まれてしまったが、香織はハジメを部屋に帰らせた。
すぐに寝るようにきつく言い含めたので大丈夫だろう。もしも起きていたらその時は実力行使も辞さない。
「全く。一生懸命なところは変わらないなあ」
香織は先ほどまでハジメがいた机を見る。
そこにはハジメのタブレットと、三冊の本。そして二つの鉱石の塊が置いてあった。
先ほどまでハジメは帰還方法の調査と錬成の練習を並行して行っていた。
錬成を連続で行い、鉱石の形を変え続けることで手のように使っていたのだ。右側の鉱石で三冊の本をめくり、左側の鉱石でタブレットを操作。さらに本の内容に目を通し、タブレット内に内容をまとめたファイルを作成していたのだ。
一体頭がいくつあればこんなことができるのか香織には想像もできない。
「すごいけど……やっぱり思い詰めているなあ」
ハジメの調査結果は香織も共有している。二週間前の異世界会議の後、ハジメ達四人は毎日調べて分かったことをパソコンのファイルに書き込み、読み合っていた。
これはハジメの提案で、教会が大きな力を持つこの世界で迂闊なことを言ってしまい、神への侮辱ととられるのを防ぐためだった。
パソコンに打ち込めばこの世界の人間には読めないので安全なのだ。
だからハジメがこんなに焦るまで錬成を磨いているのか、香織達も理解していた。
この国が危険だということを。
このままこの国にいても帰る手立てを探すのは難しく、戦争に参加するしか道が無くなる。しかも、
(例え、戦争に勝っても帰れる保証はない)
召喚初日、教皇イシュタルはこう言った。
「あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
(一言も帰してくれるって断言していない。それなのに他の皆はその言葉を信じている。天之河君が信じているからって)
光輝のお人好しというか、性善説を信じる癖とカリスマ性が厄介な効果を生んでしまっている。
もしもこのまま戦場に出てしまって、戦いの現実を知ってしまったら悲惨なことになるというのは、ハジメ達の懸念だった。
「はあ、一体どうなるのかな。私たち」
いつになくネガティブになる香織。先の見えない現状に彼女もだいぶ参っているようだ。
ハジメが借りた本を元の場所へ戻した後、ハジメのタブレットと鉱石を手に持って図書館を後にする。
鉱石は比較的軽いものだったため、香織でも問題なく持てた。
程なくしてハジメの部屋に着いた香織は、中に入る。
「あれ?ハジメ君、いない?」
ベッドの中にも、部屋の隅にもハジメの姿がない。
タブレットと鉱石を備え付けの机の上に置くと、香織はハジメを探しに部屋を出た。
もしかしたらどこかで倒れているのかもしれないと、香織は王宮中を走りながら隈なく探し回る。
すると、王宮の庭園の一角、人目のつかない場所がふと気になった。
根拠はないが香織の直感が怪しいと思ったのだ。
果たしてその直感は的中した。
「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」
「ぐぁ!?」
「なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」
「ここに風撃を望む――〝風球〟」
「オエッ」
「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」
檜山、そして彼とよく一緒につるんでいた
ハジメだった。
■■■■■
時は少し遡る。
香織に寝るように怒られたハジメは、四徹で疲労がたまった体をフラフラさせながら王宮の廊下を歩いていた。
それを偶然だが見かけた者がいた。それが檜山だった。
この檜山大介という少年。普段は同じクラスの友人三人と騒いでいるのだが、実は自分より弱いものを痛めつけることで優越感に浸るという問題のある性格をしていた。
入学当初、たまたま廊下で見かけたひ弱そうな男子生徒を、他の三人とでパシリにしようと脅したことがあった。
それがハジメだったのだ。
校舎裏にハジメを連れ込み、言うことを聞かせようとしたのだが、当然ながらハジメはそれを拒否。
それに苛立った彼らはハジメを殴ろうとした。
しかし、ハジメはそれを意にも介さず受け流した。
この時、ハジメは檜山たちへ反撃することで入学早々問題を起こすこと、適当な対応をすればしつこく絡んでくることを危惧し、彼らの心を徹底的に折ることにした。
どれほど彼らが殴りかかろうと無表情で受け流し、さりとて反撃もしない。自分にとってお前たちは無価値な存在なのだと知らしめたのだ。
太極拳をある程度収め、攻撃を受け流すことにおいてはかなり上達していたハジメにとって、格闘技を修めていたわけではない檜山達の攻撃など、受け流し続けるのはわけもなかった。
一時間後、檜山達は倒れ伏していた。一方のハジメは無傷でそんな彼らを冷めた目で見ていた。
今までこんな対応と目をされたことがなかった檜山達はハジメに恐怖を感じ、これ以降絡むことはなかった。
後日、ハジメが香織と雫の二人と一緒にいるところを目撃し、檜山はハジメへの敵愾心を蘇らせたが、ハジメという強者に逆らう気概もなく何もできなかった。
しかし、異世界トータスに召喚され戦う力を得たこと。さらにハジメが非戦系天職だったことが合わさって、檜山は行動に出てしまった。
ハジメにあの時の屈辱を晴らす。そしてあわよくば香織と雫という美少女を自分のものにしようと。
近藤らを誑かし、廊下を歩いていたハジメを後ろから殴ることで昏倒させ、人目のつかないところに連れ込んだ。
あとは香織が目撃した通り、ハジメをリンチし始めた。
もしもハジメの体調が万全なら、天職を得たばかりの檜山達といえども無力化できただろう。戦う力を得たといっても檜山達は戦いの素人。六年前に本当の戦いを経験し、体も鍛えていたハジメの敵ではない。
だが、ここ数日の錬成の練習と調べもののやりすぎによる寝不足から、ハジメは抵抗できなかった。
「何、しているのかな?かな?」
その抑揚のない声を聴いた瞬間、檜山達は猛烈な悪寒を感じて手を止めた。
振り向くと、そこには香織がいた。
ただし、その目には光がなく、顔も能面のような無表情だ。
「い、いや、白崎さん。誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合っていただけで……」
「ああ。言わなくてもいいよ」
ニッコリと笑みを浮かべる香織。普段なら見惚れるほど愛らしいのだが、四人はなぜか恐怖を感じた。
「どうせ下らない理由と言い訳しか出ないんだし、聞く価値なんてないよね」
ゆっくりと近づいてくる香織。だんだんとその威圧感は増していく。
「とりあえず……私のハジメ君から離れろゴミ」
一瞬で檜山の前まで香織は踏み込む。そのまま右手で作った拳を檜山の鳩尾に叩き込んだ。
「ごばえっ!!??」
途轍もない衝撃に、檜山は悶絶しながら倒れこむ。
「猛り天を駆ける力をここに。〝剛脚〟」
何が起きたのか他の三人が理解しないうちに、持ち歩いていた紙の魔法陣に詠唱で魔力を流し、魔法を発動する香織。それは身体強化の魔法で脚力を強化する魔法だった。
治癒魔法に秀でた才能を持っていた香織だが、それだけでなく身体強化の魔法も覚えた。理由は医学を学ぶ中で人体への理解が深まり、イメージがしやすかったからだ。
体を一回転させながら、今度は近藤へ右足の蹴りを繰り出す。
未だ呆然としていた近藤はその一撃をまともに腹に受ける。
「ぐばっ!?」
魔法で強化されていたこともあり、近藤は大きく吹き飛ばされる。
「あ、こ、この!」
「な、なめんじゃ」
「うるさい」
ようやく正気に戻った中野と斎藤だが、香織はすでに動いていた。
二人の腕を掴むとそのまま振り回し、二人のバランスを崩して地面に倒す。
そのまままずは中野の頭を踏みつける。
「ぐぼっ!?」
その一撃で中野は意識を失い、動かなくなる。
そして斎藤にはその頭を掴み上げ、そのまま地面に叩きつける。
「あがっ!?」
その衝撃に斎藤は意識を酩酊させ、動けなくなる。
「うお、あ、な、なにが……?」
ここで最初にダウンさせられた檜山が起き上がる。が、彼が見たのは香織によって叩きのめされた近藤達の姿。
香織のあまりにも普段のイメージとは違う行動と、その強さに檜山は理解が追いつかなかった。
そして、そんな檜山を見逃す香織ではない。
再び香織は檜山に近づく。
「あ、ひ、や、やめて」
そんな言葉に耳を貸さず、香織は檜山に近づくとその顔を蹴り上げた。
「あぶっ!?」
その衝撃で舌をかんだ檜山の口から血が零れる。
それに構わず、香織は檜山の股間を踏み潰した。
「ッッッ!!!???」
そのあまりの痛みに檜山は意識を手放した。
「ハジメ君!!」
邪魔者を排除した香織はハジメに駆け寄る。
「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」
今度は治癒魔法の魔法陣を取り出し、ハジメに香織。
ハジメの殴られた跡や、魔法で付けられた傷が徐々に癒されていく。
「あ、か、香織さん?」
「うん。ハジメ君、大丈夫?」
ここでハジメがうっすらとだが意識を取り戻した。
そして少し周りを見渡し、檜山達が倒れているのと、香織が必死に自分を治癒しているのを理解すると、香織に小さな声で「ありがとう」と言った。
それを聞いた香織は檜山達に向けたのとは180°異なる満面の笑みを浮かべると、ハジメを抱えて王宮の医療室に連れて行った。
後には気絶した檜山達が残され、巡回に訪れた警備兵に発見されるまで放置された。
その後、香織はハジメに付きっ切りで看病を行った。幸い重傷となる傷はなく、香織と王宮の治癒師たちの手で夕方には完治した。
そのまま疲労の溜まったハジメを休ませていると、雫と愛子が見舞いに訪れた。
ハジメが無事なことを確認した二人は安堵し、香織に何があったのか事情を聴いた。
雫は翌日、訓練場で檜山達をそれはもう満面の笑顔で追いかけまわして扱きまくった。
愛子は生徒たちが身に着けた力で道を外さないよう、より一層生徒たちへのメンタルケアを心掛けるようになった。特に檜山達には何度も声をかけるようになった。
そして香織はそのまま丸一日ハジメの治療とお世話を行った。
香織の献身でハジメはその日のうちに全快したのだった。
ハジメが全快したその夜。ハジメと香織は訓練からいい笑顔で戻ってきた雫からメルドの通達を聞いた。
明日、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。ついては武器のメンテナンス要員としてハジメも付いてくるようにと。
運命が大きく動き始める。トータスだけでなく、地球、そしてデジタルワールドまで巻き込む大きな運命が動き始めたことをハジメはまだ知らない。
今回は説明回で、少し独自解釈があります。
トータスの魔法や魔法陣、アーティファクトの陰に隠れている魔法道具についてやハイリヒ王国に魔法部隊がない理由ですね。
そしてありふれでは欠かせない小悪党組。ハジメとのかかわりは今作ではこんな感じです。
原作でも豹変前のハジメは、檜山達のことを恨んでいるのではなく鬱陶しい存在と思っていました。ある意味、無関心に近かったので、今作ではこういう対応を取っていたことにしました。
学生生活で絡まれたら折角入学した国際進学科にいられなくなると考えたのと殴られた所を見た香織達を心配させてしまうので、殴られないようにしました。
ハジメを助けに入った香織さん。ちょっとキャラ崩壊したかなと思います。
本当はハジメが暴走してそれを止める展開にしようと思っていたのですが、ある方の小説を見て、ハジメを助けに入る香織っていいよねと思っていたら、肉弾戦ができる香織さんになりました。プリキュアかな?
アフターまで書けたら香織さんをプリキュアの世界に放り込むのも面白い気がしてきました。
マジカルスター様、Aitoyuki様、雲戸由紀夫様、異次元の若林源三様、カニチェ様
評価していただきありがとうございます。
さあ、いよいよオルクス大迷宮です。皆さんの予想を覆すのを頑張ります。
デジモン紹介
レナモン 世代:成長期 獣人型 属性:データ
金色狐の姿をした獣人型デジモン。レナモンは人間との関係がストレートに表れるデジモンで、幼年期の頃の育て方によっては、特に知能が高いレナモンに進化できると言われている。常に冷静沈着で、あらゆる状況下でもその冷静さを失わないほど訓練されている。
ルキのパートナーデジモンでより強くなるために、強いテイマーであるルキを選んだ。しかし戦いの中でギルモン達と過ごすうちに強さよりも、ルキと共にいることを望むようになり、二人は強い絆で結ばれた。
得意技は相手の姿をコピーして自身のテクスチャを貼り替える変化の術『