ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
現在は回復しました。でも二回目が少し怖いですねえ。
【オルクス大迷宮】とはハイリヒ王国内にある魔物が生息するダンジョンだ。
全部で100層の階層で構成されており、地上から地下へと深く潜るにつれて強力な魔物が出現する。
未だ最下層の100層まで至った者はおらず、かつて当時最強と言われた冒険者が65層で【ベヒモス】という強力な魔物に遭遇し、攻略を断念した。この時の65層というのが攻略の最高到達点となっている。
そんなオルクス大迷宮だが、傭兵や冒険者、騎士団には訓練の場として非常に人気がある。
なぜなら階層によって魔物の強さが固定化されるので、実力に見合った訓練が行いやすく、副産物として魔物の魔石が入手できる。
魔石とは、魔物の体内にある核のこと。この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。主に紙の魔法陣に使用されるため、需要はなくならない。
したがってオルクス大迷宮のある宿場町【ホルアド】には訓練をする者と魔石で金稼ぎを行う者が集まり、大変賑わっていた。
「ここは王国直営の宿屋だ。今日はここに泊まり、明日迷宮に入る。しっかり休んでおけよ」
ハジメ達を騎士団と共にホルアドに連れてきたメルドは、大きな建物の前に生徒たちを集めるとそう伝えた。
もう日も暮れていたので生徒達はメルドの言葉通り宿に入り、夕食と入浴を済ませると宛がわれた部屋で体を休め始めた。
ハジメも久しぶりの天蓋付きではない普通のベッドに腰を下ろした。
「やっぱりこういう所のほうが落ち着くよ」
「だな。俺たち庶民には豪華な部屋なんて三日だけで十分だ」
ハジメの呟きに同室の浩介が答える。
「明日は迷宮でダンジョンの攻略かあ。異世界の定番イベントだな」
「ラノベで読むのならいいけれど、実際にやるとしんどそうだよね」
「だな」
「そうだ。浩介君に渡すものがあったんだ」
そう言うとハジメは持ってきた鞄の中に手を入れる。やがて目当てのものを見つけるとそれを浩介に投げ渡す。
「なんだよこれ?」
浩介は投げられたものをキャッチするとまじまじと見つめる。それは黒いケースだった。大きさとしては眼鏡ケースくらいだろうか。
「浩介君、例の派生技能[深淵卿]が使えないって言っていたでしょ?」
「?ああ、そうだけど」
「そこで僕は考えた。もしかしたら[深淵卿]の発動条件は君自身じゃないかって」
「俺自身?」
「[深淵卿]っていうのは君自身が作り出した仮初の姿。つまり
ハジメの話を聞きながら、そのケースを開けた浩介は目を見開いた。
まるで夜の闇を溶かし込んだような、純黒に染められたフレーム。
フレームとほぼ同じ色でありながら、しかし闇の中でも輝く光沢を放つ一枚レンズ。
そう、それこそかつて文化祭で一世を風靡した伝説の男の象徴――!!
「――君自身が深淵になるということだ――」
スタイリッシュなサングラスだった。
「いやなんでだよ!?」
思わず去年の黒歴史が蘇った浩介はケースの蓋を閉じると、ハジメに投げ返した。
ハジメは「おっと」と言いながらケースを受け止める。
「まあまあ。そう嫌がらないで」
「やめろ、それを押し付けるな!?」
ケースを渡そうとするハジメに、それを拒否する浩介。二人はしばらくそんなやり取りを繰り返した。
結局、浩介が部屋からも逃げ出そうとしたので、ハジメはケースを仕舞った。
「明日は迷宮に行くのにすげえ疲れたぞ」
「あはは。ごめんごめん」
「……なあ、ハジメ」
「何?」
「なんで俺たちこんなことしているんだろうな」
突然、浩介はポツリと呟いた。それはさっきまでのハジメとのやり取りのことではない。
「本当なら俺たち、学校で昼飯食ってさ、午後の授業受けて、放課後は寄り道したり、買い食いしたりして、家に帰って家族と夕飯食べて風呂入って寝るはずだったんだ。
なのにいきなりこんな世界に連れてこられて、剣の振り方とか、魔法とか覚えさせられて、魔物を殺す訓練もした。そんで次はダンジョンで実践訓練だぜ?それが終わったらいつか魔人族とかいうやばい奴らと戦争するんだ」
浩介は押し殺していたものを思いっきり吐き出し始めた。どうやらハジメと地球にいたころと同じようなやり取りをしたことで、押し殺していたものが溢れてきたようだ。
「ふざけんなよ!?なんで俺たちがこんなことやんなきゃいけないんだよ!!こんなのゲームとかアニメで充分なんだよ!!親父お袋兄貴真美に会いてえよ!!帰りてぇよ!!!うああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」
それからしばらく浩介は声を押し殺して泣いた。ハジメは彼の慟哭を黙って聞き続けた。
やがて溜まっていた感情を吐き出した浩介は、ハジメにバツが悪そうに頭を下げた。
「悪いハジメ。みっともないところ見せて」
「いいよ。僕も浩介君の気持ちはわかる。僕だって本当ならあの日、帰ったらパーティーの予定だったんだ。大切な友達の誕生日でね。こんなことにならなかったらってこの二週間、何度も思ったよ」
召喚された日はハジメがガブモンをデジタマから孵した日だった。月曜日なので大規模なパーティーはできないけれど、家族でパーティーをして、いつか再会する決意を固めるつもりだった。
それがまさかの異世界召喚でできなかったことに、ハジメは密かに憤っていたのだ。
この後、二人はお互いに王国やこの世界に対する不平不満をこれでもかと吐き出すことにした。
二人が「教皇と国王は実は付き合っているんじゃないか?キスしていたし」「もしかしたらエヒト神も含めたエア三角関係かもしれない」と話していたら、部屋のドアがノックされた。
「やべえ、うるさかったか?」
「もしかして騎士団の人に聞かれていた!?」
「おいやべえぞ。背信者めとか言われて斬られるかもしれない!?」
「逃げる準備だ浩介君!香織さんと雫さんも連れて異世界旅だ!」
「おいそれお前らのいちゃつきを見せられる俺にとって拷問なんだが!?」
慌てる二人。だが、扉の向こうから聞こえてきた声に落ち着きを取り戻す。
『ハジメ君、起きている?香織です。雫ちゃんもいます』
「なんだお前の正妻と本妻じゃんか。逢引かよ」
「その言い方は僕が最低の二股野郎に聞こえるから否定したいけど、自分でも否定できない……」
「落ち込むなって、悪かった。それより早く出迎えろって」
項垂れそうになるハジメをドアのほうに押し出す浩介。
押し出されたハジメはドアを開けると、香織と雫がいた。二人とも動きやすいインナーにズボンという軽装だった。
「こんばんは。ごめんね休んでいるのに」
「でもあなたたちも気をつけなさいよ。ちょっと廊下に声が聞こえていたわ」
香織が詫びを入れ、雫が注意する。
「いやあ、ちょっと気が抜けていたというか。それで、どうしたの?」
「うん。ちょっと話をしたくて。中に入ってもいいかな?」
「え?ちょっと待って」
ハジメは部屋の中の浩介に二人を仲に入れていいか確認を取る。否定する理由もなかったので浩介は了承。二人を部屋の中に招くと素早くドアを閉めた。
部屋に通された二人は壁際の備え付けテーブルセットに腰掛ける。
浩介は二人にお茶を出す準備をしていた。と言っても紅茶のような茶葉の入ったティーバッグを使って淹れているが。
ハジメも浩介を手伝い、四人分のお茶の準備ができると二人の前に置き、ハジメと浩介もカップを手に持ってベッドに腰掛ける。
四人が一口お茶を飲んで一息つくと、まずハジメが話を切り出した。
「それで二人してどうしたの?明日の連絡事項?」
ちなみに、明日の迷宮での訓練ではこの四人でパーティーを組むことになっている。
戦争不参加を表明した者たちのパーティーで、光輝などは治癒魔法が得意な香織や幼馴染の雫が自分のパーティーではないことにだいぶ不満げだったが。
「うーん、そういうのじゃないんだけどね」
香織が言いにくそうにしていると、雫が代わりに答える。
「さっきまで横になっていたんだけど、この子が悪い夢を見たのよ。それで寝付けなくなって、会いに来たの」
「う、うん。ごめんねこんな理由で」
申し訳なさそうにする香織。ハジメはそれに対し「かまわないよ」と言うと、明日に差し支えないように、少しでもその不安を取り除いてあげようと香織に夢の内容を尋ねる。
「ハジメくんが居たんだけど……何か大きなものと向かい合っていて……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」
その先を言おうとして口を紡ぐ香織。なんとなく流れから想像できたハジメだが、静かに「最後は?」と続きを聞く。
「……ハジメ君が光になって消えてしまうの」
不吉な夢だ。
ただの夢だと思えればいいのだが、ここは魔法がある異世界だ。予知夢のような魔法があるかもしれない。
(ここで心配はいらないって言えればいいんだけれど)
あいにくとハジメは楽観的ではない。それには六年前のデジタルワールドでの経験に理由があった。
ついさっきまで言葉を交わしていたデジモンが、デ・リーパーに消される瞬間を見た。
別行動していた仲間のパートナーデジモンが殺されていた。
一緒に帰ったと思っていた仲間が、実はデ・リーパーに囚われていた。
これでどうして明日の実戦で何も起こらないと言えるだろうか。戦いには不測の事態が起きる可能性は必ずあると、嫌でも理解している。
だからハジメは自分にできる精一杯の言葉を伝えることにする。
「香織さん、僕たちはチームだ。香織さんの治癒魔法は僕たちを癒し、雫さんの剣は僕と香織さんを守る。僕は錬成で武器を直す。そして」
ハジメは横にいる浩介の肩に手を置く。
「最強の暗殺者の浩介君が敵を倒す」
「え?俺!?」
いきなりの言葉に紅茶を飲んでいた浩介がギョッとする。
「そうだよ浩介君。僕は浩介君こそ天之河君を超えるチートだと思っているよ」
「確かに遠藤君は最強ね。私でもすぐにあなたを見つけられるか分からないわ」
ハジメと雫の賞賛に浩介はむず痒くなる。
実際、ステータスは勇者である光輝には及ばないが、その認識しずらい体質を駆使すれば光輝でさえ手も足も出ない。
「僕たち個人なら危ないかもしれないけれど、仲間がいれば乗り越えられる。それで安心できないかな?」
ハジメの言葉には経験に裏打ちされた安心感があった。
それは香織の不安で弱った心を元気づけていく。
「なら私たちのリーダーはハジメ君だね」
「え?」
「そうね。私も異論はないわ」
「俺も賛成だ。何せ俺をちゃんと認識してくれるし、親友だからな」
香織の提案に雫と浩介も同意する。
香織と雫はハジメがテイマーというデジモンに指示をしていたことと、これまで一緒に過ごした日々での信愛から。
浩介は自分を決して見失わない親友への友情から。
「僕がリーダーかあ」
ハジメとしては自分にリーダーという器はないと思う。
それは彼にとってリーダーといえば、テイマーズのリーダーであるタカトのような存在だという固定概念があるからだ。
頼りないと思われるタカトだが、ギルモンと一緒に大きく成長していったことで立派になった。
デ・リーパー事件では一度決めた信念を貫く強さと、仲間を労わる穏やかな優しさでみんなを引っ張った。
タカトこそリーダー、ひいては本物の勇者だと思っている。だからなのか、勇者の天職を得た光輝をハジメはどうにも受け入れられないのだ。
それはともかく、今それを理由に断っても仕方ない。ならハジメはハジメにできること全部をやって三人の期待に応えようと思った。
「わかった。僕にできることを全力でやろう。みんなに恥じないリーダーとして」
「うん。お願いね、ハジメ君」
「頼りにしているわよ、ハジメ」
「一緒に乗り越えようぜ、親友」
こうして四人は明日への決意を固める。
しばらく四人は明日への打ち合わせと雑談をして夜を過ごした。
やがて夜も更けてきたのでハジメと浩介は、香織と雫を部屋まで送っていった。
「それじゃあ、おやすみなさい。ハジメ君、遠藤君」
「いろいろありがとう。ハジメ、遠藤君」
「おやすみ。また明日」
「俺は何にもしてないけどな。おやすみ」
二人がドアの中に入ろうとしたその時、ハジメはなぜか香織を呼び止めた。
「あ、香織さん」
「何?」
「もしよかったらなんだけど、これ渡しておこうかなって」
ハジメは服のポケットからあるものを取り出す。
それは一枚のデジモンカードだった。
「お守りだよ。まだ不安ならこれを持っていて」
「これって」
香織が差し出されたカードを受け取ると驚いた。
それは蒼い機械狼。ハジメとパートナーデジモンのガブモンが一体化した究極体デジモン、メタルガルルモン(X抗体バージョン)のカードだった。
もちろんテイマーズ仕様のカードなので世界に一枚だけしかなく、香織は知らないが、ハジメとガブモンが一つになった姿であり、二人の絆を象徴するカードだった。
「これハジメ君の大切なカードだよね。受け取れないよ」
「いいんだよ。明日の迷宮攻略が終わってから返してくれれば」
「でも」
「このデジモンは僕が信じる最強のデジモンだ。そのカードがあればきっと安心できるよ」
「ハジメ君……」
「それじゃ、今度こそお休みなさい」
今度こそハジメは香織と雫の部屋を後にする。香織はしばらくハジメの姿を眺めていたが、その手にあるカードを見ると顔を真っ赤にして部屋に入っていった。
その後、カードを眺めてニマニマしていて雫に嫉妬されたり、余計に眠れなくなったりしたのだった。
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(くそくそくそ!!!)
ハジメが香織と話しているのを廊下の隅から眺めている人物がいた。
それは数日前にハジメをリンチし、香織に叩きのめされた男子生徒の一人、檜山大介だった。
彼は夜中に用を足しに行き、その帰りに話し声が聞こえたので覗いてみたのだ。
そこにはハジメが香織ととても親し気に話していた。
その姿に檜山は途轍もない屈辱を感じていた。
地球ではパッとしない見た目の癖に、学年トップの成績で運動神経も良く、しかも香織と雫という最上級の美少女を侍らせている。
これが光輝のようなイケメンなら檜山も対抗心すら湧いてこなかったが、一度格下だと見下した相手の評価を修正できるほど、檜山は物分かりが良くなかった。
しかも異世界に来ればハジメは無能になり、自分は人類の切り札である神の使徒の一人だったことから、自分の見立ては間違っていなかったと思った。
だからこそのあの集団リンチだった。なのに、ハジメは香織に助けられ、しかも今も逢引(浩介のことには気が付かなった)までしていた。
自分のほうが優れているという妄想に取りつかれた檜山は、ハジメへの嫉妬と増悪が収まらずそのまま宿屋の中庭に行き、生えていた樹を殴りつけ続ける。
そうやって鬱憤を晴らしていた檜山だが、突然彼の体が硬直した。
「がぁっ!!?」
拳を振りかぶった状態で、何が起きたのか分からず目を白黒させる檜山の背後に黒い影が現れる。
「フフフっ。なかなか良い闇を持っているな少年」
(だ、誰だ!?まさか魔人族!?)
この世界の人間族の敵を想像し、恐怖に襲われる檜山。仮に体を拘束している謎の力が消えても動けないだろう。
そんな檜山の思考を読んだのか、影は話始める。
「私は魔人族ではない。しかし人間でも、亜人でもない。まあ、亡霊みたいなものと思ってくれたまえ」
影は話をしながら檜山に近づく。
「それよりもあなたは欲しくないですか?」
(な、何が)
「力を」
(!)
影の言葉が檜山の頭の中にするりと入っていく。
「すべてをあなたの思い通りにする力。誰もが称え、平伏す力。目障りな存在を虫けらのように叩き潰し力が」
(ほ、欲しい!欲しい欲しい欲しい!!南雲をぶち殺して。白崎を屈服させる力が欲しい!!)
影の言葉は先ほどまで恐怖に震えていた檜山の心を、彼が内に秘めていた欲望一色に染め上げた。もしもこの檜山の心の動きを読み取れる第三者がいれば違和感を覚えるほどに。
「ではあげましょう。安心してください。対価は必要ありません。私は困っている人に手を差し伸べるのが大好きですから」
そういうと影は右腕を檜山の首の後ろに突きつけ、人差し指を後頭部にそえる。
するとその人差し指に小さな黒い塊が現れ始めた。それは夜の闇の中でもはっきりとわかる、暗黒のような色をした一センチほどの直系をした球体で、表面には鋭い棘が生えている。
影はその球体が完全に出現すると、それを檜山の頭の中に埋め込んだ。
(うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!???)
途轍もない激痛が体中に走り檜山は絶叫を上げようとするが、影の力で拘束された体は声すらも出すことができず、心の中で叫びをあげることしかできなかった。
「そしてこの魔法陣もあげましょう。サービスです。明日の迷宮攻略、頑張ってください」
激痛に耐えられず意識が薄れる中、影の残した言葉が檜山の頭に残された。
翌朝、檜山が目を覚ますと彼は自分のベッドにいた。夢かと思ったが、枕元に見たこともない魔法陣が書かれた紙があり、夢ではないと悟った。
なぜかのその魔法陣に書かれた式がすんなりと理解できた檜山は、なぜか軽い体と冴えわたる頭に疑問を抱かないまま、笑みを浮かべる。
もしもその笑みを、未だ眠っている同室の近藤が見れば酷く怯えただろう。
とても歪んだ醜い笑みだった。
少し短いですが切りがいいのでこの辺で。
今作では香織がすでに思いを伝えているので月下の誓いはチームでの誓いになりました。
遠藤ってこの時点でも光輝に勝てる可能性があると思っています。認識できないんだし、不意打ちなら高いステータスでも倒せるでしょうから。
そして檜山ですが、今作のオリジナル展開。デジモンネタではあるのですが、テイマーズではないですよね。わかる人がいたらちょっと嬉しいです。
simasima様 評価していただきありがとうございます。
評価者数が過去作を含めて最大数になり感謝です。
デジモン紹介はしばらくお休みします。
次話からいろいろ展開が変わってくると思いますのでお楽しみに。