ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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06話 オルクス大迷宮 悪夢の始まり

 オルクス大迷宮の入り口は、まるで地球の博物館のような入場ゲートになっていた。

 しかも受付窓口まであり、制服を着たお姉さんが受付をしている。まるでテーマパークだなとハジメは思った。

 ここでステータスプレートを確認し、迷宮での死亡者数を正確に把握するそうだ。

 入口付近の広場には露店なども並んでおり、それぞれの店の店主がしのぎを削っており、お祭り騒ぎだ。入り口は羽目を外した者が迷宮に入り込んで命を落とすのを防ぐ役目もある。

 そんな喧騒の中をハジメ達は物珍しそうに眺めながら、メルドたち騎士団の後に続いて迷宮に入っていった。

 

 オルクス大迷宮の中は表の喧騒と裏腹にとても静かだった。縦横5メートルの通路が続いており、明かりもないのに壁が淡く光っている。緑光石という特殊な鉱石が壁に含まれており、松明や明かりの魔法道具がなくても探索ができるようになっていた。オルクス大迷宮はこの緑光石の鉱脈に沿って作られているらしい。

 

 通路の中をハジメ達は騎士団の人たちに囲まれながら、各々で決めたパーティーで固まりながら進んでいく。

 一番前には勇者である光輝を要するパーティーで、ハジメ達のパーティーは一番後ろだ。

 

 やがて大広間に出た。ドーム状の大きな部屋で天井の高さは7、8メートルくらいありそうだ。

 全員が広間に入ると壁の隙間から灰色の毛玉のような魔物が湧き出てきた。それは壁から飛び出すと二足方向で立ち上がり、ハジメ達を威嚇し始めた。

 

「あれはラットマンかな」

「鼠男っていう割には鍛えているなあ」

 

 図書館の魔物図鑑で得た知識から、該当する魔物の名前を引っ張り出すハジメ。それに対し浩介は軽口をたたく。その魔物、ラットマンは八つに分かれた腹筋に膨れ上がった胸筋を振るわせながら襲い掛かって来る。

 メルドはすぐに指示を出し、光輝のパーティーが戦闘を開始した。

 

「ハアアッ!!」

 

 光輝が聖剣を振るい、数体のラットマンを一振りで仕留める。

 

「うおっしゃあッ!」

 

 その隣では天職が拳士である龍太郎が、空手の技と、衝撃波を繰り出す籠手と脛当を駆使してラットマンを殴り飛ばしている。

 そうして前衛の二人が時間を稼いでいる間に、パーティーの後衛の二人が魔法の詠唱を完了させる。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」

 

 放たれた螺旋の炎が残ったラットマンたちを焼き尽くす。

 見事な連携だったが、いささか威力が強すぎたようで魔石まで燃えてしまった。

 そのことでメルド団長からやりすぎを指摘され、後衛の二人は恥ずかしそうにする。

 

 戦うパーティーを変えるため、ハジメ達の後ろに光輝達が下がってくる。

 すると後衛を務めていた女子生徒の一人が香織と雫に近づく。

 

「カオリン、シズシズなんとかできたよ~」

「お疲れ様、鈴ちゃん」

「いい連携だったわ。ちょっとオーバーキルだったけれどね」

「あはは。ちょっと気合を入れすぎちゃった」

 

 女子生徒の名前は谷口鈴。高校生にしては小柄で、いつも明るくふるまっているその可愛らしい姿からクラスではムードメーカーのような存在だった。

 

「恵里ちゃんもお疲れ様」

「うん。少し怖かったけれど、何とかなったよ」

 

 そしてもう一人の勇者パーティーの後衛を務める少女の名前は中村恵里。鈴の親友で眼鏡におさげのおとなしい少女だ。図書委員でよく本を読んでいた。

 

「カオリンとシズシズも頑張ってね。ナグモンもちゃんと二人を守ってよね」

「それはもちろんだけど、僕らのパーティーはもう一人いるよ」

「え?誰だっけ?」

「……俺だよ」

 

 沈んだ声で浩介が答える。

 

「わっ!?居たの遠藤君!?」

「き、気が付かなかった」

「だよな。はははわかっていたさ」

 

 迷宮内でも浩介の体質は絶好調だった。

 

 そのまま先に進み、生徒たちは交代しながら魔物と戦っていき、遂にハジメ達のパーティーの出番が来た。相手はリザードマンのような魔物で10体ほどいる。

 

「さて、それじゃあ行こうか」

 

 まず動いたのはハジメだった。

 ハジメの格好は他の生徒たちと同じ動きやすいものだったが、その両手には武骨な籠手が着けられていた。

 その籠手が着けられた両腕をしゃがんで地面につけると、その籠手の中に用意した魔法陣へ魔力を流す。

 

(1から6番魔法陣起動。目標は敵の足元)

「〝錬成〟!」

 

 発動したのはハジメが使える唯一の魔法である〝錬成〟。しかし、それはメルド達の知っている魔法ではなかった。

 ハジメの魔力光である空色の光が迸り魔物たちに向かっていくと、足元の地面が勢いよく変形して襲い掛かった。〝錬成〟による鉱物の変形を地面に対して使ったのだが、その規模とスピードが桁違いだった。

 ある魔物は突然杭のように盛り上がった地面に体を貫かれた。

 ある魔物はトラバサミのようになった地面に足を噛みつかれ、転倒した。

 ある魔物は植物の蔦のように伸びた地面に絡めとられ、動けなくなった。

 他にも多種多様な方法で魔物たちは拘束されてしまった。

 

 ハジメの両腕の籠手には錬成の魔法陣が左右合わせて6つ仕込まれている。さらに籠手の下に着けている手袋にも二つ書かれているので、合計8つの魔法陣が手元にある。それをハジメは技能の〝並行思考〟を使って複数同時に起動させているのだ。

 これは錬成の訓練を応用したもので、魔法陣を範囲別・形・強度などを異なる式で同時に発動させることで、通常ではありえないような錬成を行っているのだ。しかもハジメはなぜか魔力の枯渇が起きないので連続で行える。参考にしたのは有名な機械の手足を持つ錬金術師の戦い方だ。

 

「香織さんお願い」

「灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」

 

 香織が杖を振るい、鈴と恵里が使ったのと同じ炎属性の魔法を放つ。炎は動けなくなった魔物の大半を燃やし、後には絶命した魔物の黒ずんだ死骸が残された。

 香織はクルリと杖を回し、再度構えると周囲を警戒する。

 

 香織の装備は回復魔法の効力を高める効果がある魔法陣が刻まれたアーティファクトの白い杖に、動きやすさ重視のパンツルックだ。レンジャーのような格好だが、その手に持つ白い大きな杖が致命的に似合っていない。

 最初は治癒師のオーソドックスな格好である純白の法衣のような服を用意されたのだが、動きにくいと香織が却下。活動しやすい冒険者風の服を自分で見繕ったのだ。

 

「はっ!」

「ㇱッ」

 

 香織の魔法でも倒せなかった魔物が何匹かいたが、拘束されたまま止めを刺されたり、突然首から血を噴き出したりして絶命した。

 パーティーの前衛を務める雫と浩介が、香織の魔法が放たれるのと同時に魔物に接近し、止めを刺したのだ。

 雫は香織のものと似た動きやすいパンツルックの服装に、腰のベルトにはハジメの作った刀を差している。まさに現在の侍ガールという格好で、非常に凛々しい。

 一方の浩介は暗殺者という天職に相応しい黒装束に、これまたハジメが作った小太刀を使っている。高い俊敏のステータスを持つ浩介は文字通り影となり、魔物を仕留める。もっとも、影になりすぎてハジメ以外誰にも気が付かれていないが。

 

 ハジメが錬成で魔物を拘束したり態勢を崩したりし、香織が魔法を放ち、残った魔物を雫と浩介が止めを刺す。移動時は浩介が先行し、進行先の安全を確保し、雫が後衛の二人を守りながら進んでいく。

 派手さはないが堅実な戦い方で効率よく魔物を倒すハジメのパーティーに、メルドは感心していた。

 特に、戦闘が得意な天職ではない錬成師のハジメが、地面を〝錬成〟で変形させるという方法で戦う姿はメルド達の常識を覆すもので、その柔軟な発想には驚かされっぱなしだった。

 

 訓練はその後も続き、生徒たちは迷宮の魔物を危なげなく倒した。

 中でも光輝達のパーティーはずば抜けていたが、その光輝達に負けず劣らずの活躍をする生徒がいた。

 

 それは檜山大介だった。

 

 檜山は近藤達とパーティーを組んでいたが、その3人が何かするよりも速く天職である軽戦士特有の身軽さで魔物に斬りかかると、雫顔負けの斬撃で魔物を倒す。しかも剣を振るいながらも詠唱を済ませていた魔法を、他の魔物に的確に撃ちこみ、爆散させる。結局、檜山一人で出現した魔物を全て倒してしまい、近藤達の出番はなかった。

 剣術と魔法を訓練時よりも上手く使いこなすその姿に、メルドは絶賛し、褒め称えた。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 生徒達は危ない場面もなく、ついに一流とそれ以外を分けるという20階層に到達した。

 騎士団員がフェアスコープという、迷宮に仕掛けられたトラップを判別する道具で安全を確認しながらとはいえ、初日の訓練としては順調だろう。

 もしも生徒達が単独で進むとなると訓練の内容が違ってくるのだろう。

 今日はとりあえず、戦闘の経験を熟すということだった。

 

「本日はこの20階層までとする。21階層の階段を見つけたら戻る。これが最後の休憩だ」

 

 メルドの言葉に生徒たちは緊張を解き、座り込む。その周囲を騎士団が警戒する。

 

「三人とも武器を見せて。見てみるから」

「お願いね」

「悪いわね」

「頼む」

 

 香織はサバイバルナイフを、雫は刀を、浩介は小太刀をそれぞれハジメに見せる。

 魔石の剥ぎ取りにしか使っていない香織のナイフはあまり消耗していなかったが、残りの二人の武器は結構傷んでいた。

 ハジメは背負っているバッグから持ってきた鉱石の塊を取り出すと、それを武器に近づける。

 

「〝錬成〟」

 

 戦闘時とは違い、穏やかに魔法を使う。鉱石の塊から幾らかの塊が分離し、武器に纏わりつくと、みるみるうちに傷んだ部分が修繕される。

 修繕された武器を何度か振るうと、ハジメはそれぞれ持ち主に渡す。

 

「どうかな?」

「……うん。いい感じね」

「ばっちり元に戻ったぜ」

 

 雫と浩介も振るって武器の調子を確認すると、ハジメに笑顔を見せる。

 

「じゃあ次は体のほうだよ。傷はあるかな?」

 

 今度は香織が二人に話しかけ、二人の傷の具合を確認する。

 

 そうやって常にベストな状態を保とうとするハジメ達のパーティーを、メルドは今日何度目か分からない感心と一つの疑問を浮かべながら見ていた。

 

(今回の訓練で100点満点を与えるなら間違いなくあいつ(ハジメ)達だな。他の者たちに見られる力を得たことによる油断も、慢心もない。その中心にいるのはあの坊主(ハジメ)だ。まるで実戦を知っているかのような立ち振る舞いだ。

だが、光輝の話では異世界では戦う機会のない立場だったはず。ならなぜ?)

 

 ハジメへの疑問に頭を捻りながらも答えが出ることはなく、メルドは休憩の終わりが近づいていることに気が付くと再び探索の指示を出した。

 

 そして、光輝達を先頭に再び探索が始まった。

 

 しばらく21階層へ続く階段を探していたところ、メルド団長と光輝達が立ち止まった。

 

「魔物が擬態して潜んでいるぞ!よーく注意しておけ!」

 

 怪訝な顔をしていた生徒達も、周囲を警戒し始める。

 

 すると通路の一部がせり出してきた。それは変色しながら起き上がると、強靭な腕を胸に叩きつけ、ドラミングを始めた。

 まるでカメレオンのような能力をもったゴリラの魔物。それが三体現れた。

 

「ロックマウントだ!二本の剛腕に注意しろ!」

 

 メルドの注意が飛ぶ中、光輝と龍太郎が飛び出す。

 光輝が聖剣でロックマウントに斬りかかり、龍太郎が組み付いて力比べをする。そして後方の鈴と恵里が魔法の詠唱を始める。これまで繰り返してきた必勝パターンだ。

 問題なく倒せるだろうと思われたその時、一匹のロックマウントが少し下がると大きく息を吸い込み、胸を大きく膨らませた。そしてそのまま光輝達に向かって、階層中に響き渡りそうな大声を解き放った。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「キャッ!?」

「ううっ」

 

 光輝達の体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。   

 ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 その効果をもろに受けてしまい、光輝と龍太郎は動きが止められ、鈴と恵里は詠唱を中断してしまう。

 

 その隙にロックマウント達は通路に転がっていた大きな岩を持ち上げると、後方の鈴と恵里に向かって投げつけた。

 二人が慌てて避けようとすると、衝撃的な光景を目にして硬直してしまう。

 なんとロックマウントが投げつけた岩もロックマウントだったのだ。

 空中から筋肉ムキムキのゴリラが両腕を広げながら襲い掛かってくる光景は、まさにルパンダイブ。鈴と恵里の顔が青くなる。

 

「こらこら。予想外のことにも対応できるように心がけろ」

 

 それを冷静にメルドが切り捨て、二人を助ける。

 助けられた二人は、「す、すいません」と謝りながらも、先ほどの光景が気持ち悪かったのか青くなったままだ。

 それを見た光輝が仲間を狙われたことへの怒りに肩を震わせ、ロックマウントに向かって聖剣を振りかぶる。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

 一気に振り下ろされた聖剣から光が迸り、そのまま飛ぶ斬撃となってロックマウントを斬り裂く。

 斬撃はそのまま壁まで飛んでいき、爆発を起こして破壊した。

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちるなか、「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで鈴達へ振り返った光輝。危険な魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、メルドの怒号が飛んできた。

 

「この馬鹿者!!こんな狭い通路で使う魔法じゃないだろう!しかも一匹逃げているぞ!」

 

 龍太郎と取っ組み合いをしていた最後のロックマウントが、光輝に向かってその剛腕を叩きつけようと飛び掛かる。

 鈴たちのほうを向いていた光輝は避けるのが間に合わず、龍太郎も助けに行けないタイミングだ。

 メルドが身を挺して庇おうとするが、その前に一つの影が飛び出す。

 

「ひゃっはっ!死ねえ!!」

 

 アーティファクトの西洋剣を振るい、空中でロックマウントを斬り飛ばしたのは檜山だった。

 軽戦士のスピードを生かした身のこなしは、訓練時とは大違いだった。

 着地した檜山は仕留めたロックマウントを踏みつけると、光輝の方にニヤニヤとした笑みを向ける。

 

「おいおい、勇者様。ちゃんと相手を倒したかを確認しろよお。危うく人間族の希望がゴリラのハグで消えるところだったぜえ?」

 

 なんとも厭味ったらしく言い放った。

 顔を歪める光輝だが、事実だったため何も言い返せず、檜山から視線を逸らす。

 

 その後、光輝はメルドから感情的になり、通路の崩落を招きかねない魔法を使ったことと、最後のロックマウントのことを忘れてよそ見をしたことを叱責された。

 逆に光輝の危機を救った檜山はいいフォローだったと褒められた。

 檜山はそれに得意げになり、光輝と隊列の後方にいたハジメに見下すような目を向ける。

 

 光輝を龍太郎たちが慰める中、恵里がふと壊れた壁に目を向けた。

 

「何かな?キラキラしている」

 

 恵里が指をさす。その方へ全員が目を向けると、光輝の魔法が壊した壁の部分に緑光石の光が反射してキラキラ輝く、青白い鉱石があった。まるで光が結晶化して花になったかのような鉱石に、女子生徒たちがうっとりと見惚れる。

 

「あれはグランツ鉱石だね。確か魔法的な効果はないけれど、貴族の間でプロポーズするときに使われる貴重な宝石の原石だ」

「流石錬成師だな。よく勉強している。あれほどの大きさのグランツ鉱石は珍しいぞ」

 

 ハジメの解説にメルドが感心する。

 

「素敵だね、ハジメ君」

「あれで指輪とか作ったら奇麗になりそうねえ」

「迷宮の中なんだから自重しようよ、二人とも」

 

 香織と雫がうっとりとすると、ハジメに目を向ける。ハジメは気恥ずかしそうに目をそらす。

 そんなハジメに男子生徒たちの殺気を伴った視線が殺到する。

 なお、浩介はやっぱり誰にも気が付かれていなかった。

 

「だったら回収しようぜ!」

 

 グランツ鉱石に一番近い位置にいた檜山が、駆け出す。さっさと回収して自分の取り分にしたいようだ。

 

「こらまて!早まるな!」

「平気平気。壁に埋まっていたんだぜ?罠なんてねえよ!」

 

 メルドの注意に耳を貸さず、檜山はグランツ鉱石のもとにたどり着く。

 この時、メルドは檜山の言い分に少し納得してしまっていた。

 こういう鉱石を餌に探索するものを引き寄せるトラップは確かにあるのだが、そのどれもが見つかりやすい場所にある。

 ましてや、光輝が狭い通路内で崩落を招きかねない魔法を使ったことで、露出した場所にあるのだ。普通ならこんな場所に罠などあるはずがない。

 そう考えたが故に、メルドは檜山を強く止めることができなかった。

 

 それは結果的に最悪の事態を呼び込む。王国ができる遥か昔からある迷宮内で、たまたま起きた崩落によって壁の奥に隠されてしまっていた悪辣な罠を、数千年ぶりに起動させてしまったのだ。

 

「団長!トラップです!?」

「よせダイスケ!!」

 

 フェアスコープを使っていた団員の声に、ギョッとしたメルドが檜山を制止するも、すでに檜山はグランツ鉱石に触れていた。

 

 グランツ鉱石から巨大な魔法陣が広がり、生徒達と騎士団全員を包み込む。

 

「早く逃げろ!!」

 

 メルドは生徒達を逃がそうとするが間に合わず、彼らは光に包まれた。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 その様子を通路の端にから眺める赤い瞳があった。

 迷宮の闇の片隅に同化した黒いコウモリだ。そして、その視線を共有して彼らの様子を眺めるのは、昨夜に檜山に接触した黒い影だ。

 周囲が闇に包まれた空間の中で、上質な椅子に座りながらハジメ達の様子を眺めていた。

 その手には赤いワインが注がれたグラスがあり、中身をゆったりと揺らしている。

 

「人間は愚かだ。少し力を得ただけで調子に乗り、自らだけでなく周りをも破滅に巻き込む」

 

 影は厚顔不遜なセリフで人間を批評しながらグラスに口をつける。

 

「だがそれゆえに私は君たちが愛おしい。その愚かさでもっともおっと踊ってくれたまえ」

 

 さっきとは打って変わって軽快な口調。影はコウモリを動かし、ハジメ達が転移した先を探し始めた。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 一瞬の浮遊感。すぐに足が地面に付き、生徒たちはいきなりのことで尻もちをつく。

 

 ハジメは何とか倒れるのを堪え、すぐに周囲の状況を確認する。

 

(場所が変わった?これって召喚された時の魔法!?)

 

 そこはさっきまでいた洞窟の中のような通路ではなかった。

 巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうでハジメ達はその中央に飛ばされたようだ。おそらく先ほどの魔法は、ハジメ達を召喚したのと同じ転移魔法だったのだろう。

 橋から天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下からはびゅうびゅうという不気味な風の音が聞こえる。まるで奈落の底から吹く厄風だ。

 

 橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく奈落の底に一直線だ。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「すぐ立ち上がってあの階段に急げ!グズグズするな!!」

 

 訓練の時でも聞いたことのないメルドの怒声に、茫然としていた生徒たちが弾かれたように駆け出す。

 しかし、状況はさらに悪くなる。

 階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現した。剣を手に持った骸骨たちが魔法陣から無尽蔵に現れ始める。

 更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れる。

 凡そ体長は10メートル。四足歩行に頭部には長い二本の角がある兜のようなものがある。まるで地球の恐竜、トリケラトプスに酷似した魔物だ。もっとも草食のトリケラトプスにはない鋭い爪と牙に、角には炎が揺らめいているが。

 現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドは、信じられないと思いながらも、その魔物の名前を呟いた。

 

「――まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 旧約聖書において、陸の怪物として語られる怪獣。それと偶然にも同じ名前を持つ魔物は、階層全体に響く咆哮を上げる。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

 悪夢が始まった。

 




またもや長くなりました。ハジメVSベヒモスまで行きたかったのに。
ここからはありふれを書く上で運命の分水嶺なので気合を入れて書いていたら長くなりました。

ハジメの戦い方は複数の魔法陣を並行して発動させることで、エドワード・エルリックのように戦うという感じです。他にも近接戦もできる設定なのでそちらは次回に。

檜山君がまさかの大活躍。勇者を助けるという役目を果たしました。原作と違い雫がいないので代わりに助けに入りました。

始めてのアンケートを行います。
内容はあとがきでやっていましたデジモン紹介を本文中、ハジメ達がデジヴァイスで情報を読み上げた後に載せるか、今まで通りあとがきでやるかです。
これからデジモンの出番が増えるので、デジモンを知らない方でもわかりやすくしたいと思い、でも本文中でやると展開のスピード感とか損なわれないかなとも思いまして、アンケートでやるという形を取らせていただきます。


タイヨー様 評価していただき誠にありがとうございます。

次回はようやくハジメの力が目覚めるときです。お楽しみに。
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