ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
ハジメの力の一端が発揮されます。
ちなみにタイトルはデジモンアドベンチャー39話から。無印のほうです。
いきなりの転移から無数の骸骨、さらには狂暴な怪獣の出現に、生徒たちは完全に恐慌状態になってしまった。
我先にと逃げ出す生徒達。騎士団員が落ち着けようとするが、ついこの間まで平和に暮らしていた高校生達に、恐怖を押さえつけて冷静に振舞わせるのは不可能だった。
そこに骸骨の魔物、本来なら38階層に出現するトラウムソルジャーが襲い掛かってくる。
たちまち乱戦となり、生徒たちはさらにパニックに陥る。
ただ一人の例外を除いて。
一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされて転倒する。「うっ」と呻きながら顔を上げた彼女、園部優花の目の前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
「あ」
死んだ、と思った。異世界に連れてこられて、帰ることもできずに、こんなにあっさりと死ぬ。そう思った次の瞬間、優花の目の前に誰かが割り込んできた。
「はっ!!」
左腕にはめた手甲で剣を受け流し、そのまま剣に触れる。「〝錬成〟」と呟くとトラウムソルジャーの剣は形を崩し、手甲と一体化する。
武器を失ったトラウムソルジャーに、手に入れたばかりの剣を振るうことで袈裟斬りにする。
体を斬り裂かれたトラウムソルジャーは崩れ落ち、動かなくなった。
「大丈夫? 園部さん」
優花は助けに入った人物、ハジメを呆然と見上げた。
「落ち着いて対処して。確かに今までの魔物よりも強いかもしれないけれど、騎士団の人の方が強い。だったら冷静になれば勝てるよ。こんな風にね」
奪った剣を手甲から取り外したハジメが、「〝錬成〟」と両手を地面につき、短い詠唱を唱えると、周囲で生徒達に襲い掛かっていたトラウムソルジャー達の足元が隆起し、体勢を崩す。
隆起した地面はそのまま鋭い棘となり、トラウムソルジャーを刺し貫く。
これによりトラウムソルジャー達は死ぬか、動けなくなった。
「ね?」
いやそんなことできるのはあんただけ、と優花は言いたかったが、笑顔で言い切るハジメに手を引かれ立ち上がらせられると、背中をバシッと叩かれた。
ハジメの平然とした姿に勇気づけられた優花は「うん! ありがとう南雲!」と元気に返事をして駆けだした。
優花が他の生徒の手助けをしながらトラウムソルジャーと戦い始めるのを見送ったハジメは、自身も錬成と格闘術で戦う。
戦いながら、改めて周囲の状況を確認する。
殆どの生徒がパニックに陥り、武器や魔法をめちゃくちゃに使っている。このままではトラウムソルジャーに殺される以外に、味方の誤爆や橋からの落下で死者が出る可能性が高い。
「ハジメ君! 大丈夫!?」
「ハジメ! ダメ、みんな混乱している」
そこに香織と雫がやってきた。彼女たちはハジメの指示でみんなを落ち着かせようとしていた。だが、うまくいかなかったらしい。
とりあえず、四人は背中合わせになりながら、トラウムソルジャーを倒しつつどうするか相談を始める。
「状況は悪い、な!」
「このままじゃ誰か死んじゃう、よッ!」
「アランさんがまとめているけど、無理みたいッ!」
ハジメがトラウムソルジャーを投げ飛ばし、香織が杖を昆のように振るって薙ぎ払い、雫が刀でトラウムソルジャーの頭を斬り飛ばす。
時折、香織の魔法とハジメの錬成で危ないクラスメイト達の援護をする。
しかしそれでも状況はよくならず、パニックも収まらない。
「メルド団長は?」
「あのトリケラモンみたいなやつのところ!」
「足止めしているの?」
「あれは……」
ハジメの問いに雫はベヒモスのほうを見る。そこでは騎士団員達が、光り輝く障壁でベヒモスの突進を押しとどめていた。そして、騎士団に命令をしながら光輝と言い合いをしているメルドの姿があった。
「あのバカ、何やっているの?」
雫は眉を顰めながら、見たものをハジメと香織に伝える。
「天之河君もあそこか……」
それを聞きハジメは難しい顔をする。道理でパニックが収まらないはずだ。メルドと光輝というまとめ役の二人がいないのだから。
「ハジメ君、どうする?」
「……やることは三つだ」
そう言うとハジメは錬成で周りのトラウムソルジャーを薙ぎ払い、会話する時間を作る。
「一つ。骸骨の増殖を止める。あの魔法陣を破壊すれば何とかなると思う」
「でも、どうやって?」
「骸骨が多くて近寄れないわ」
「大丈夫だよ。……頼めるかな、浩介君」
ハジメが声をかけると、そこに黒装束の浩介が現れた。
「え? 遠藤君!?」
「いつの間に!?」
「さっきからいたよ! 背中預けていたじゃん!!」
確かに、さっき
「やっぱ俺にはハジメしかいないんだ。もう南雲家の執事にでもなろうかな……」
「いや、うちは確かに稼いでいるけれど執事雇うほどじゃないよ。そんなことよりも魔法陣の破壊、頼んでいいかな? できそう?」
「……無理だ。白崎さんの言う通り近づけねえ」
「無理にやらなくてもいい。状況が動いたときに、できると思ったらやってほしい。やろうとしている人がいるだけで十分だから」
「わかった」
浩介の返事を聞くと、ハジメは残る二つを教える。
「二つ。パニックを収めること。そして最後の三つ、撤退を指揮するリーダーを連れてくること」
「二つ目は三つ目を満たせればいいわね。まとめるリーダーがいないからパニックになっているんだし」
雫の言葉にハジメは頷く。そのためにやらなければならないこともわかっている。
「……天之河君を連れてこよう。彼の火力があれば、パニックを収められる……かもしれないし、撤退を指揮できる……はず」
ハジメはそう言うと光輝の元に駆け出そうとする。
「待ってハジメ! 私が行くわ。私なら光輝を説得しやすい」
それを雫が引き留め、代わりを申し出る。
「雫さん、でもあそこは危険だ」
「大丈夫。私俊敏のステータスが高いし、こういう役目は小回りが利いたほうがいいと思うの」
雫はそう言うが、ハジメはいい顔をしない。
「ハジメ。あなたが私の身を心配してくれているのはわかる。でも、私もいつまでもあなたに気にかけてもらっているだけなのは嫌なの。だからお願い。私を信じて」
その言葉にハジメは渋々ながら雫を送り出すことにした。
「わかった。でも危ないと思ったらすぐに戻ってきて。僕も危ないと思ったらすぐ駆けつけるから」
「ええ。信じてくれて、ありがとう」
雫は微笑み、メルドと光輝のところに駆けて行った。
「む~」
「どうしたの? 香織さん」
「なんだかハジメ君と雫ちゃんのやり取りが狡いなぁって」
主人公とヒロインだよ、と不貞腐れながら、香織は近づいてきたトラウムソルジャーを身体強化した脚で蹴り飛ばす。
「そもそも最初に告白したのは私なのに、最近雫ちゃんを構いすぎじゃない?」
別のトラウムソルジャーが突き出してきた剣を躱すと、その腕を絡めとり、投げ飛ばす。
地面に倒れたトラウムソルジャーの頭部を杖で突き刺し、止めを刺す。
「私だってハジメ君のことが大好きなんだからね! ──〝光刃〟」
光系初級攻撃魔法の光の刃が放たれ、少し離れたところで生徒の死角から襲い掛かろうとしていたトラウムソルジャーを貫く。
「ふん」
「えーっと、なんかごめんなさい」
「埋め合わせ、ちゃんとしてよね」
「はい。ここから帰ったら誠心誠意お付き合いします」
「よろしい」
少し腰が引けているハジメの返事に、香織は満足そうに頷く。
それを見て、敵わないなあと思うハジメ。
香織だけじゃない、雫にも何だかんだ勝てたためしがない。
恵まれていると思う。こんな魅力的な女の子達に好意を寄せられていること。
同時に情けなくも感じる。彼女たちの伝えてくる好意に、しっかりと応えられない自分が。
でも、逃げてはいけない。必ず二人の思いに応えなければいけない。そのためにも今はこの場を生き残るのだ。ハジメが改めて覚悟を決めた。だが次の瞬間、ベヒモスを押しとどめていた騎士団員の方からとてつもない轟音、そして衝撃が走った。
「「雫さん(ちゃん)!?」」
ハジメと香織がそちらを見ると、そこにはボロボロの障壁と粉塵に包まれたベヒモスの姿があった。どうやら障壁が破られたわけではないようだ。
しかし、生徒達が突然の事態にそちらの方に目を向けている。パニックは一時的に収まったようだが、トラウムソルジャー達はまだ襲い掛かってきている。
「まずい、香織さん!」
「うん」
二人は改めてトラウムソルジャーを押しとどめるために戦闘を開始した。
■■■■■
少し時は遡る。ベヒモスが三人の騎士団員が三人がかりで展開した光系上級魔法〝聖絶〟の障壁を破壊するために突進を繰り返していた頃。
メルドと光輝、そして龍太郎は言い合いをしていた。
「ええい、くそ! もうもたないぞ! コウキ、早く撤退しろ! お前たちも早く行け!!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけにはいきません!」
「そうだぜ! 俺達だって戦えるんだ! だったら一緒に戦った方が良い」
「こんな時に我儘を言うな!」
ベヒモスの攻撃により、障壁に罅が入る。破られるのは時間の問題だと思ったメルドが、光輝に後方に行き撤退するように促すが、メルド達を置いていくことに難色を示した光輝達が自分も戦うと言い張ってきた。
このような限定された空間では、巨体を持つベヒモスの攻撃を避けるのは不可能。よってこの場を離脱するには障壁を展開したまま、押し出されるように下がるしかない。しかし、それもパニックになった生徒達がいては不可能だ。下手をすればベヒモスの攻撃に生徒達が巻き込まれてしまう。
離脱と撤退。これらを行うには離脱を光輝、撤退をメルドが担うしかない。それを説明しているのだが、光輝は自分の力なら、ベヒモスを倒せると思っているようで戦おうとする。そんな親友に龍太郎も同調する。
それは自身の失態で転移トラップを露出させてしまったことによる自責の念と、勇者なのに檜山に助けられてしまった不甲斐なさを払拭しようとする焦燥感の表れだった。
「何をやっているの光輝! 龍太郎も!」
そこに雫が駆け付けた。
「雫来てくれたのか!」
「シズク! 早くコウキを連れて撤退するんだ!」
「わかりました! 撤退するわよ光輝、龍太郎!」
雫はメルドのいうことを聞き、光輝の腕を掴み後ろへ連れて行こうとする。
しかし、光輝は動かずそれどころか、
「ダメだ! メルドさん達を見捨てて逃げるなんてできない!! 俺は勇者なんだから!!」
「俺もだ。仲間を見捨てるなんてダセェ真似できないぜ!」
「ちょっと!?」
「よせコウキ!! リュウタロウ!!」
雫の腕を振り払い障壁の前に出る。龍太郎も光輝の隣に並ぶ。
「──〝天翔閃〟」
光輝は聖剣を振るい、ロックマウントを瞬殺した魔法を放つ。しかし、ベヒモスの強固な外殻に傷一つつけることができず、魔法は弾かれて消える。
「なっ!?」
自身の魔法が効かなかったことに動揺する光輝。
「光輝! 俺が時間を稼ぐぜ!」
「龍太郎……頼んだ!」
龍太郎がベヒモスに突貫する。その間に光輝は今の自分が出せる最大の技を放つため、聖剣を構えると、
「〝限界突破〟!」
〝限界突破〟──一定時間、全てのステータスを3倍にする技能を発動させる。まさに切り札といえる技能だが、効果が切れると途轍もない疲労感に苛まれるデメリットがあり、そうなってしまえば戦闘行為ができなくなる。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!」
「ああ、もう!」
光輝が詠唱を始めるのを見た雫は当初の目論見が崩れたことを悟った。例え今連れ戻そうとしても、光輝は詠唱を止めないし、トラウムソルジャーを切り抜ける前に〝限界突破〟の効果が切れれば、皆を率いて撤退できない。
唯一何とかなるのは、光輝の攻撃でベヒモスを倒すことだけになってしまった。
「メルドさん、ごめんなさい!」
「シズク!!」
雫はベヒモスの気を引いている龍太郎に加勢する。一人で時間稼ぎをしていた龍太郎は結構ボロボロになっており、雫の横やりで何とか一息ついた。
やがて、光輝の詠唱が終わる。
「神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ! ──〝神威〟!」
構えた聖剣をベヒモスに向かって真っすぐ浮き出す。聖剣から極光が迸り、それは光の砲撃となりベヒモスへと直撃した。
これがハジメ達が見た光景。〝限界突破〟で強化された光輝の〝神威〟はベヒモスを光で飲み込み、爆発。橋に罅が入るほどの衝撃を伝える。
ベヒモスの姿は爆発によって生じた粉塵に包まれて見えない。
「これなら……はぁはぁ。うっ」
光輝は疲労感から膝をつく。まだ〝限界突破〟の効果は続いているが、今の一撃にかなりの魔力を込めた。残る魔力はごく僅かだ。
「はぁはぁ、流石にやったよな?」
「だといいけれどね……」
光輝のもとに龍太郎と雫がやってくる。回避を中心に動いていた雫はそこまでではないが、龍太郎はボロボロだった。
やがてベヒモスを覆っていた粉塵が晴れた。その先には……。
体表に多少の火傷を負ったベヒモスがいた。
「嘘……だろ……」
光輝は目の前の現実を信じられないという表情で見る。
ベヒモスは光輝を激しい怒りを宿した目で睨みながら、再び咆哮を上げる。
するとベヒモスの角が赤く染まり始める。キィィ──という音を立てながら高熱化していき、さらにそれは頭部の兜全体まで広がっていく。
「逃げろおおおおっっ!!」
「ッああああああああ!」
メルドの声に弾かれるように雫が光輝と龍太郎の腕を掴んで走り出す。火事場の馬鹿力なのか、二人が無意識に足を動かしたのかギリギリ騎士団員が張っていた障壁の内側に滑り込むことができた。
それと同時に頭部をマグマのように燃え滾らせたベヒモスがジャンプ。まるで隕石のように落下してきた。
その威力は途轍もなく、ボロボロだった障壁ではその衝撃を多少和らげるのが精々。幸い、直撃はしなかったが、障壁は破壊され、雫達は吹き飛ばされてしまった。
「きゃああああああああっっ!!!??」
視界が上下左右、滅茶苦茶になりながら転がる雫。幸い橋から転がり落ちるということはなかった。
ようやく止まるが、全身を痛みに苛まれ、立ち上がれない。
それでも何とか顔を上げるが、すぐにその顔が絶望に染まる。
「あ……ああ」
目の前にベヒモスの凶悪な顔があった。未だ強い怒りを宿すその目を見たとき、雫の脳裏に六年前の光景がフラッシュバックした。
町に突然現れたサラマンダモン。
その巨体で周囲を破壊し、炎をまき散らす。やがて、その脅威は無力な雫の命を刈り取ろうとしてくる。
その時の恐怖が蘇り、雫の体と心を縛る。
そして、ベヒモスがその角を振り下ろし、雫たちへ止めを刺そうとしたその時──!!
「全魔法陣発動──〝錬成〟!!!」
両腕の手甲に手袋、さらに隠し玉の靴に仕込んだ合計10個の魔法陣を全部使った〝錬成〟を発動させる。
錬成された地面は今まで以上の規模と速度で動き、ベヒモスを拘束していく。
それを成したのは六年前と同じ、雫を助けた人物。
南雲ハジメだった。
「大丈夫雫ちゃん!?」
駆け寄ってきた香織は雫に治癒魔法をかけ始める。その効果により雫は何とか動けるようになる。
「か、香織。なんでここに?」
「それは私のセリフだよ! すごい衝撃があったと思ったら雫ちゃんたちが転がってきたんだから!」
香織の言う通り、雫たちはベヒモスの攻撃によりハジメ達のいるところまで吹き飛ばされてきたのだ。
そのせいでベヒモスが生徒たちの近くに来たことで、パニックはさらにひどくなっている。
「し、雫。だ、大丈夫か……?」
光輝が体の痛みに顔をしかめながら近づいてくる。
どうやら〝限界突破〟の効果は切れてしまったらしく、ベヒモスの攻撃による傷だけでなく、〝限界突破〟の副作用で酷い倦怠感にも苛まれているようだ。
これではトラウムソルジャーの群れを蹴散らす火力は出せないだろう。
「香織さん! よく聞いて!!」
「何ハジメ君!?」
ベヒモスを錬成した地面で押さえているハジメが香織に声をかける。余裕がないのかその声には焦りが隠せていない。
「倒れている人を治して下がるんだ! ベヒモスは僕が引き受ける! メルドさんならみんなをまとめてくれる!! 早く撤退するんだ!!!」
「それは……でもハジメ君が!」
「急ぐんだ!! 早くしないと死人が出る。──任せたよ?」
ハジメは香織のほうを振り返り、少し笑った。
それを見た香織は、何かを言いたそうにしたが、何かを堪えるように唇を噛み締めると、首を縦に振った。
そこに光輝が割り込む。
「ま、待て南雲。俺があいつを」
「今の天之河君じゃ邪魔だ! 早く下がって!」
「じゃ、邪魔? そんなことない、うっ」
ハジメの言葉に反論しようとするが、力が入らないのか膝をつく。そんな光輝を香織は治癒魔法をかけながら引きずっていく。
それを見届けたハジメは、より一層錬成に集中する。
「さあ、しばらく僕と付き合ってもらうよ」
ベヒモスはハジメの拘束から逃れようとするが、その度にハジメが錬成しなおして拘束し続ける。まるで獲物を締め上げようとする大蛇のようだ。
「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん──〝天恵〟。大丈夫ですかメルドさん?」
「ああ、大丈夫だ」
その間に、香織はハジメに言われたように倒れていた人たちを動けるように治していく。そして今治癒したメルドにハジメの言葉を伝える。
メルドはベヒモスを抑えるハジメのほうを見る。
この中で唯一の非戦系天職である錬成師であるはずのハジメに、命運を託す事態を招いてしまった自身の監督不行き届きを恥ながら、彼の覚悟に応えるために立ち上がる。
「ハイリヒ王国騎士団! 急いで退路を確保しろ! 生徒たちはいい加減落ち着け!」
騎士団へ素早く指示を出し、生徒達を叱咤する。
メルドはそのままトラウムソルジャーを倒しながら、声を張り上げ続ける。団長として騎士団を束ねる彼の声は徐々に生徒達を落ち着かせていく。
「お前たち今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携を取って撤退せんか!」
メルドの言葉に、生徒達はベヒモスを抑えるハジメを見て驚き、慌てて連携を取って撤退行動をとり始める。
香織は光輝の治療をしながら、道を切り開いていくメルドの後ろに続く。
生徒達もトラウムソルジャーを倒しながら、メルドに率いられる形で上に上る階段に向かい始める。
これならなんとかなるとメルドが思ったその時、ベヒモスを押さえていたハジメのいる場所から再び轟音が響いた。
「グガアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
なんとベヒモスが頭部から集めていた熱を放出することで、錬成による拘束を吹き飛ばしていたのだ。
しかもハジメのもとに数体のトラウムソルジャーが向かっており、ハジメはそれにも対処しなければいけなくなっている。
このままではハジメがやられてしまう。そうなればベヒモスが解き放たれてしまい、撤退が間に合わなくなる。
メルドがもうだめかと思ったその時、ハジメに向かって一人の少女が駆け出した。
■■■■■
拘束していたベヒモスが、頭部に集めていた熱を放出した。その衝撃にハジメは錬成した地面で体を固定することで堪える。
衝撃が止み、顔を上げる。ベヒモスは頭部の赤熱化状態が解けているが未だ健在だった。
しかもその目にはより激しい怒りが浮かんでおり、その対象はハジメだ。
「……成熟期クラスってところかな」
その威圧感からベヒモスの強さを、よく知るデジモンのレベルになぞらえて、凡そ見積もるハジメ。
それはデジモンに例えるなら成熟期並みというものだった。つまりデジモンとして完成された強さということ。
侮れる相手ではない。
「大丈夫だ。完全体や究極体ほどじゃない。まだまだいける! 〝錬成〟」
しかし、ハジメは自分自身に強がりを言い聞かせて再び戦いに臨む。錬成された地面が盛り上がり、ベヒモスを拘束しようとする。
だが、ハジメにとって悪い事態が二つ起こる。
一つは錬成に使っていた地面、正確には石でできた橋が先ほどのベヒモスの一撃で吹き飛び、錬成に使える部分が減ってしまっていた。さっきまでと同じように錬成し続ければ、橋が崩壊する可能性が高くなる。
そしてもう一つは香織達が見ていたトラウムソルジャーだ。数体がハジメに向かってきていた。
限られた素材でベヒモスを拘束するために思考の殆どを回しているハジメには、その数体のトラウムソルジャーへ対処するだけでも、ベヒモスに対して致命的な隙を晒してしまう。
だがそれでも、ハジメは生き残るためにトラウムソルジャーに対処するしかない。
ベヒモスを拘束するのに割いていた思考を、トラウムソルジャーを倒すために回そうとしたその時。そのトラウムソルジャーは後ろから現れた何者かに斬り捨てられた。
「ハジメに近づくんじゃないわよ!」
それは香織の治療により回復した雫だった。
彼女はその高い俊敏を生かしながら走り、ハジメの傍に戻ってきたのだ。
「ハジメ!」
「雫さん!? なんで」
「なんでもどうしてもじゃない! 私はあなたの護衛でしょ!?」
そう、召喚された次の日に開いた異世界会議で、雫はハジメ達の護衛を行うと決めた。そのために訓練を積んできた。
それをさっきハジメに助けられたことで改めて思い出し、フラッシュバックした過去の恐怖を振り払い、駆け付けてきたのだ。
「それに私はもう十分守ってもらえた。さっきも、六年前も! だから、今度は私が護るわ。絶対に、あなたを死なせない!!」
雫は刀を構えて、ハジメをトラウムソルジャーから守るように立ちふさがる。
「だからあんな奴、倒して!」
「雫さん……うん! 任せて!」
雫の覚悟に応えるため、ハジメは再びベヒモスに向かい合う。
「〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟」
使える素材になる橋はもうボロボロだ。崩さないために慎重な錬成が必要になる。
ベヒモスの動き、橋の状態、錬成する速度に密度。他にもこの場にある全ての要素を観測し、計算して、魔法を起動させていく。
いつしかハジメの思考はとても深い、極限ともいえる集中状態に入っていった。
■■■■■
雫がそれに気が付いたのは、向かってきていたトラウムソルジャーを全て倒した時だ。
その頃には生徒達も落ち着きを取り戻しており、トラウムソルジャーの数を減らしていた。
なお、その時魔法陣を破壊しようと浩介が動いていたが、誰も気が付いていなかった。
それでもまだ撤退は完了しておらず、ベヒモスを何とかしなければいけない。
ハジメは大丈夫だろうかと振り向いた。
「〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟──状況解析完了。敵性対象沈黙のため使用可能兵装を検索。該当兵装確認。デジコアより情報を抽出。完了。──〝電子錬成〟」
「ハジメ?」
ハジメは雫の声に応えず、〝錬成〟を使用する。するとハジメの空色の魔力が、より鮮やかな蒼い光を放ちながら広がった。
そして錬成されたのは雫の記憶の中にある、しかしこのトータスには絶対に存在しないものだった。
「ミサイル、ポッド?」
ハジメは言っていた。拳銃は作れたが、それ以外に地球の重火器を再現することはできなかった。例えできたとしても弾薬や素材の関係で、見た目だけの張りぼてしかできないと。
なのに目の前に現れたこの兵器はなんだ?
ハジメはミサイルポッドを二つ錬成すると、その照準をベヒモスに向ける。
「発射」
ミサイルポッドが開き、そこからミサイルが放たれる。ミサイルは弧を描いてベヒモスに向かっていき、着弾。
「グガアアッ!?」
悲鳴を上げるベヒモス。何とミサイルが着弾した箇所が氷結していたのだ。
「冷凍ミサイル?」
「──効果を確認。さらなる武装を展開。〝電子錬成〟〝電子錬成〟〝電子錬成〟」
再びハジメの魔力が迸る。すると先に構築されたミサイルポッドがハジメの両肩に装着される。さらに両足にも新たなミサイルポッドが装着され、右腕には大型のビームランチャーが装備された。まるでパワードスーツを身に纏っていくかのように、兵装を展開するハジメ。
その姿はまるで──。
「メタル、ガルルモン?」
「《ガルルバースト》」
ハジメが身に纏った全兵装から一斉に攻撃が放たれる。ミサイルと冷凍光線が縦横無尽に飛び交い、ベヒモスに襲い掛かる。
着弾した箇所は氷漬けになり、ベヒモスの動きを鈍らせていく。
その光景は橋の右端まで撤退していた生徒達の目も釘づけにしていた。
「なんだよあれ?」
「ミサイル?」
「何で異世界にそんなのがあるんだよ!」
「ビーム撃ってるぜビーム!?」
「あれって南雲なのか?」
「あんなことできたのかよ!?」
「怪獣が凍っていく。あんな氷魔法私じゃ絶対無理だよ!?」
ハジメの姿に足を止めざわめく生徒達。そのせいで撤退行動に遅れが出始める。
するとミサイルのうちの一発がそれて生徒たちの近くに着弾した。
「きゃあっ!?」
「うわっ!?」
「何すんだ南雲!!」
その衝撃に生徒達が驚き、ハジメに怒鳴り声をあげる。
だがそのおかげで呆けていた生徒達が我に返り、メルド達は撤退を促し始める。
なお、先ほどの一発は足を止めた生徒達を気つける以外に、トラウムソルジャーを召喚する魔法陣を破壊したことで隙を晒してしまった浩介を助けるために放たれた。誰も気が付いていなかったが。
生徒達が再び撤退行動を始める中、ハジメの攻撃を受け続けたベヒモスの動きが徐々に鈍ってきた。
それを確認したハジメは最後の攻撃を加えるために頭部に、狼のようなアーマーを錬成する。
左腕にメタルストームこそないが、その姿はまさにハジメとガブモンが究極進化したメタルガルルモンにそっくりだった。
当然、放たれる技は決まっている。
「《コキュートスブレス》!!!」
頭部のアーマーから放たれた超極低温のブレスがベヒモスに直撃。
所々凍り付いていた部分を中心に凍てつき、やがて全身を氷漬けにしてしまった。
それだけでなくハジメの攻撃は、脆くなっていた橋さえも凍らせ、崩れないように補強した。
「敵性個体沈黙。戦闘終了。──うっ」
それを見届けたハジメは、倒れこむ。展開していた兵装も力を失い崩れ去る。
「頭痛い……。僕、何して?」
「ハジメ大丈夫!?」
頭を押さえながら呻くハジメを雫は抱き起す。
「雫さん? 僕、何していたの?」
「覚えていないの?」
「途中から……記憶が」
「……あれ」
雫が指さしたベヒモスのほうを見ると、その有様にハジメは驚いた。
「何これ?」
「ハジメが、メタルガルルモンみたいな力を使って、こうなったの」
「メタル、ガルルモンの?」
雫の言葉にハジメは自分の胸を見る。まるでそこにメタルガルルモンが、パートナーのガブモンがいるのかと、問いかけるように。
「ウ、ウウウッ……」
「嘘!? まだ生きているの?」
その時、氷漬けになったはずのベヒモスが唸り声をあげた。だがそれしかできないようで、氷の中から出てくる様子はない。
「早く、逃げようか」
「そ、そうね。さあ立ってハジメ」
「うん」
ハジメは雫に促されてゆっくりと立ち上がる。
退路はすでに確保されており、上に続く階段の前では生徒達と騎士団が、二人が戻るのを待っている。
そこに向けて二人は足を進める。が、ハジメはさっきの攻撃の影響なのか頭を押さえてフラフラしており、雫が肩を貸す。
「雫さん」
「何?」
「助けてくれて、ありがとう。雫さんのおかげで、あいつを倒せた」
ハジメの心からのお礼に、雫は顔が赤くなる。
「こ、これくらいいいのよ。今までいっぱい助けてもらっているし」
「はは。じゃあこれからもっと助けて貰おうかな。この世界から帰るにはまだまだ危険なことがありそうだし」
「そうね。私だけじゃなくて、香織も遠藤君も、愛子先生も、他の皆だってきっと助けてくれるわ」
絶体絶命の極限状態から解放されたからか、穏やかに話しながら歩く二人。
その様子を生徒の中から眺める香織。彼女の後ろから何かもの凄い威圧感とオーラが噴出しており、やがてそれは巨大な影を生み出す。
それは日本刀を構えた恐ろしい般若。近くの生徒達は般若を出現させた香織の迫力に動けない。表情が笑顔なのもさらに怖い。
「ふふふ。埋め合わせ、覚悟してねハジメ君」
般若が待ち構えているとも知らないハジメ。戻った時、彼に何が起こるのか。
いつの間にか生徒の中に戻っていた浩介は静かに合掌した。
助け? そんなものするはずがない。もげろ。
「天雷よ! 獄炎よ! 今一つとなり神敵を滅ぼせ! ──〝轟雷爆炎〟!!!」
何故か雫さんがメインヒロインっぽいですが、これは当初のプロット通りです。
衝動的にやったわけではありません。
なのでちゃんとこの後、メインヒロインである香織さんのターンがあるのでハジカオ勢の皆さんお待ちを。私は裏切り者ではありません。雫さんは好きですが。
実は執筆中、何度かゲートが出現してガブモンが現れる展開にしたい衝動にかられました。それはそれでやってみたいんですが、それをやったらプロットが崩壊するので。まだまだ引っ張ります。ここからが自分の書きたかった展開なので。
風音鈴鹿様、デーモン政様、評価していただき誠にありがとうございます。
ここから矛盾がないようにしたいので少し更新頻度がゆっくりになるかもしれません。ご了承していただけると幸いです。