ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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かなり短いですがキリがいいので投稿します。

タイトルはデジモンアドベンチャーtriより。


08話 喪失

 ベヒモスがハジメによって氷漬けにされたのを、生徒たちは階段の前で呆然と見ていた。

 勇者である光輝ですら、〝限界突破〟を使った最強状態の最大魔法〝神威〟をもってして軽い火傷しか負わせられなかった怪獣が、錬成師という非戦系天職のハジメに行動不能にされる。この世界に来てから学んでいた常識がひっくり返される光景だった。

 

「やっぱ、南雲って凄いんだな」

 

 誰ともなしに呟かれたその言葉。

地球ではゲーム会社の御曹司で、母親が売れっ子少女漫画家で、学校の成績も常にトップで、運動神経もよく、香織と雫という美少女に好意を寄せられている。

 そして今、異世界でも勇者でさえ倒せなかった怪物を倒して見せた。

 

 ありふれた天職だったことから、ハジメを無意識に下に見ていた生徒たちは、再びハジメを特別な存在と認識し始めていた。

 

 そのことに強い劣等感を刺激された生徒がいた。

 

 一人は天之河光輝。

 彼は〝限界突破〟の後遺症で体が上手く動けず、龍太郎に背負われていた。

 

(なんで、なんで南雲なんだ……?みんなを救うのは勇者である俺のはずなのに。俺でないといけないのに!!)

 

 光輝にとって勇者になってこの世界を救うことには二つの意味があった。

 一つがこの世界を救うという正義を成すこと。とある理由から常に正しくあろうとしている光輝は、勇者としてこの世界の人間族を魔人族から救うことは当然であり、当たり前と考えている。だから勇者として正しく振舞わなくてはいけない。檜山に助けられたり、メルドを見捨てたりするなど、持っての他だと思っている。

 

 そしてもう一つが、自分がハジメより優れている存在だと証明するためだ。

 光輝はハジメと出会うまで、同年代で自分より優れた存在と出会ったことが無かった。勉強も運動も、何か一つは優れている者はいたが、他の部分で光輝は勝っており、総合的には負けたことが無かった。

 だがハジメは、全てにおいて光輝よりも上の存在だった。

 成績は普通科と国際進学科という明確な差があったし、運動でもハジメは光輝と同等の水準だった。

 しかも一年生の時、ハジメは天才少年としてメディアで取り上げられ、その時海外の大学教授がハジメを高く評価していたことで、一時期学校中でハジメが話題になっていた。

 全校集会でもハジメが何かの賞を取ったと頻繁に紹介され、高く評価されている。

加えて、疎遠になってしまった幼馴染の香織と雫がハジメの傍によくいるのだ。

まるで自分の全てが否定されたかのような感覚に光輝は陥ってしまった。

 

 それからは勉強も運動も必要以上に取り組み、さらに香織と雫と再び絆を結ぶために頻繁に話しかけた。

 しかし、二年生になってもハジメには成績では勝てず、運動はそもそも競える体育祭がまだまだ先。そして何より、香織と雫との距離はどんどん広がるばかりだった。

 

 そんな時に起きた異世界への召喚に、世界を救う勇者への覚醒。

 

 ここで勇者として活躍すれば、ハジメよりも優れた存在になれる。いや、ハジメがありふれた天職であった錬成師と告げられた時から、優れているんだと思った。

もうすぐ香織も雫も自分のところに戻ってくる。そうしたら勇者パーティーとして活躍して、この世界を救い、華々しく地球に帰ろう。

 

 なのに、香織と雫はずっとハジメのところにいて、しかもハジメは自分が倒せなかったベヒモスを倒し、今生徒達から羨望の目を向けられている。

 

「なんで、なんでなんだ。俺が、俺が、俺が」

「光輝?」

 

 訝し気に顔を覗き込む龍太郎にも気を留めず、ぶつぶつと光輝は呟き続ける。

 今この体に力があれば、今すぐにでもあのベヒモスを倒すのに。

 光輝が考えていた時、

 

「天雷よ!獄炎よ!今一つとなり神敵を滅ぼせ!――〝轟雷爆炎〟!!!」

 

 まるで光輝の考えていたことが現実になったように、巨大な業火球が氷漬けになっていたベヒモスに直撃した。衝撃がフロアの空気を震わせる。

 業火球が放たれた方へ生徒達が目を向けた。そこにいたのは――

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 光輝と同じようにハジメが活躍する現実を認められない生徒がいた。

 それは檜山大介。迷宮で急に頭角を現し、活躍していた彼だったが、出現したベヒモスを一目見た瞬間、敵わないと恐怖を感じ、周囲の生徒を押しのけて逃げようとしていた。

 実は生徒のパニックがなかなか収まらなかった原因の一つに、檜山が出鱈目に魔法や武器を使っていたからだった。

 しかし、トラウムソルジャーの大群に阻まれ、グズグズしているうちに状況が動き、流されてここまで来た。

 そうして檜山は見た。

 自分が一目見て恐怖を覚え、逃げ出したベヒモスを圧倒するハジメの姿を。

 まるで自分がハジメの下であると突き付けられたようだった。

 この訓練であの天之河光輝よりも、褒められたんだ。

 なのに、あんな勉強ができるだけのやつ以下だと。

 

(ふざけるなふざけるなふざけるな!虫けらが!!!)

 

 そうして、ハジメのコキュートスブレスによりベヒモスは沈黙した。

 誰もがハジメと彼を守っていた雫が戻るのを見守っている中、檜山がベヒモスへ目を向けると、微かに動いていた。

 

 檜山の頭にふとある誘惑が浮かんだ。

 あのベヒモスへ止めを刺し、その魔石を手に入れればどうだ?

 メルドによればあのベヒモスは、かつて最強と言われた冒険者でさえ歯が立たなかったという。そんなベヒモスの魔石の価値は計り知れない。トラップを発動させた失敗の帳消しになるし、むしろ大手柄になる。

 おあつらえ向きに、ちょうどいい魔法を手に入れたばかりだ。

 檜山は懐に入れていた、魔法陣の紙を取り出す。

 それは今朝の枕元にあったもので、火と風の混合最上級魔法の陣が書かれていた。昨日までの檜山では使えなかっただろうが、今の自分なら使えると思った。

 

 もしもそのことに少しでも疑問を覚え、踏み止まっていればこれからの世界の運命も大きく変わっていただろう。

 だが、彼にその道を選ぶ気は欠片もなかった。

 

「天雷よ!獄炎よ!今一つとなり神敵を滅ぼせ!――〝轟雷爆炎〟!!!」

 

 火種が生まれ、風が周囲の空気を圧縮し激しく燃え上がらせる。さらに渦巻く風は摩擦により放電を起こす。

 魔力量が少なく本来の威力の半分ほどとはいえ、ただ純粋に破壊することにのみ特化した火球を生み出した檜山は、その力に酔いしれながら解き放った。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「天雷よ!獄炎よ!今一つとなり神敵を滅ぼせ!――〝轟雷爆炎〟!!!」

 

 あとは階段に向かうだけだったはずなのに、生徒たちの中から放たれた魔法に、ハジメと雫は足を止めてしまった。

 ハジメは使う必要のない魔法が使われたことへの疑問からだった。今は迅速な撤退が必要な時であり、無駄な戦闘をする必要は無い。

 戦闘相手もトラウムソルジャーはほぼ全滅しているし、ベヒモスは封じ込めた。この状況でメルドが戦闘指示を出すはずがない。ということは、誰かの独断専行による行為!

 しかもその向かう先は――!!

 

「ベヒモスは!?」

 

 ハジメがバッと振り返ると、ベヒモスを封じ込めた氷に魔法が直撃していた。

 火球は氷を砕き、破壊する。

 ベヒモスも氷ごと頭部の角と兜を破壊された。

 だが、その熱と衝撃、そして痛みが氷の中で意識を混濁させていたベヒモスを目覚めさせた。

 

「〝轟雷爆炎〟〝轟雷爆炎〟〝轟雷爆炎〟!!!!!」

 

 さらに狂ったかのように撃ち込まれる魔法に氷は砕け散り、ベヒモスの上半身が氷の戒めから解き放たれた。

 

「フゥーフゥーフゥーッ」

 

 しかし、咆哮を上げる力もないのかベヒモスは荒く息をするだけ。だが、その瞳は自分を追い詰めたハジメを睨みつけ逸らさない。

 

「まずいッ」

 

 ハジメは急いでこの場を離れようとする。氷で補強されているとはいえ、これ以上橋に負荷が掛かれば崩壊しかねない。

 

「雫さん急ごう。……雫さん?」

 

 雫を促して先を急ごうとしたが、雫の様子がおかしかった。

 

「はっ……はっ、あ、ああ……」

 

 瞳は不規則に揺れ、呼吸が乱れている。体は金縛りにあったかのように硬直し、小刻みに震えている。

 

「雫さん!」

「あ、ああああ、いやああああああああああっっ!!!??」

 

 ハジメが雫の肩に手を置くと、雫は悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。そのまま両手で頭を抱え込み、泣きわめき始める。

 

「怖い、いや死にたくない死にたくない怖い死にたくない助けて助けて怖い助けて、ハジメ香織助けてハジメ香織香織香織ハジメハジメハジメ香織香織香織香織香織香織助けてお父さんお母さんお祖父ちゃん死にたくないハジメ香織お父さんお祖父ちゃんハジメ香織ハジメ香織お母さんハジメッ」

 

 狂ったかのように恐怖と助けを求め続ける雫。

 この時、雫はPTSD――心的外傷後ストレス障害を起こしていた。

 それは6年前のサラマンダモンとの遭遇時に陥った命の危機。その時に受けたストレスが、同じ大きさのベヒモスに間近で敵意を向けられたことでフラッシュバックし、さっきの魔法――巨大な炎で完全に思い出されたのだ。

 ハジメはそこまでわからなかったが、今の雫の状態では階段まで走るなんて無理だと思った。

 さらに悪いことは続く。

 

――ズガンッ!!!

 

「くっ!?」

 

 突然、橋に何度目か分からない強い衝撃が走った。

 再びベヒモスの方を振り返ってみれば、なんとベヒモスは頭部を橋に思いっきり突き刺していた。しかも、頭は煙を吹き出しながら赤熱化している。

 

 ハジメの脳裏に、ベヒモスが熱を放出することで錬成による拘束を弾き飛ばした光景が浮かんだ。

 

 次の瞬間、ベヒモスが頭を爆発させた。

 その熱と衝撃は橋の氷を全て爆砕し、その下の石の部分も粉砕。

ついに橋は崩壊を始めた。

 

(今、駆けだせば助かるかもしれない。でも雫さんは無理だ。錬成も、焼け石に水だ。考えている時間はない)

 

 ハジメの中に、雫を見捨てて逃げるという考えは欠片も浮かばなかった。それをしてしまえば、南雲ハジメは南雲ハジメでなくなるとわかっていたから。

 だからハジメはできることをやる。

 

「ああああああああっっ!!!」

 

 まるで魂の底から出しているかと言わんばかりの声を張り上げ、雫の体を抱え上げるハジメ。

 邪魔になる荷物は、雫の武器の刀に自分の手甲も含めて投げ捨てていく。

 自身も疲労がピークに達しているのに、火事場の馬鹿力で走った。

 

「ハジメ君早く!!」

「急げハジメ!!」

「早くしろ坊主!!」

 

 橋の向こうから香織、浩介、メルドが声をかける。香織に至ってはこっちに走り出そうとするのをメルドに抑えられている。

 龍太郎、鈴、恵里に加え、ハジメが助けた優花も声をかける。

 

 ハジメはそこに向けて必死に足を動かす。しかし、橋の崩壊はあっという間に進み、もうすぐそばまで迫っている。

 

 踏み締める部分が崩れ始める。どれだけ足を動かしても間に合わない。

 このままでは二人とも助からない。

 

「は、ハジメ……」

 

 ようやく雫がパニック状態から元に戻る。しかし、ハジメはそれに構わず彼女の体を抱えながら、腰を捻る。

 

「うおおおおおおああああああっっ!!!!!!!!」

 

 そして思いっきり彼女の体を投げ飛ばす。

 必ず助ける。その思いだけを込めて。

 

 思いが届いたのか、雫の体はあり得ない程投げ飛ばされ、香織達の近くに飛んで行った。

 慌てて雫を受け止める香織達。

 

 しかし、その間にも橋は完全に崩壊してしまった。

 

 橋の残骸や頭のないベヒモスの死体が、闇の中に消えていく。そして雫を投げ飛ばすのに全ての力を使い果たしたハジメに、そこから逃げることはできなかった。

 

 ハジメの体も闇の中に落ち、そして消えていった。

 

 それを呆然と見ていた香織は、自分に絶望した。

 

 昨夜の夢の中のように、闇の中に消えていくハジメ。仲間として一緒に乗り越えようと誓ったはずなのに。あんな夢の通りにしないと決意したはずなのに!!

 

「離して!!ハジメ君の所に行かないと!助けないと!一緒にいようって!」

「よすんだカオリ!」

 

 錯乱し、ハジメの元へ向かうために飛び降りようとする香織をメルドが必死に押さえつける。

 誰もが香織の悲痛な声と、目の前で起こった惨劇に心を痛める中、ハジメに助けられた雫は強い自責の念に苛まれた。

 

「私が、私のせいで、ハジメが、死んだ……?」

 

 ふっと意識を失う雫。PTSDを発症したことと愛するハジメが自分のせいで死んだということに彼女の心は耐えられなかったのだ。

 

 それからは誰も一言もしゃべらなかった。

 

 メルドによって動けないように意識を刈り取られた香織は、同行していた女性騎士が雫と一緒に抱えていった。

 長い階段の先で魔法陣を見つけ、フェアスコープで罠ではないことを確認した後、それに乗ることで元の20階層に戻ることができた。

 そうして重い空気のまま、オルクス大迷宮から生徒たちは帰還した。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「なかなか興味深かったですね」

 

 闇の中、コウモリを通してハジメ達の様子を見ていた影は呟く。

 

「あの少年、人間でありながらデジモンの力を持っていたとは。見たところ肉体というより、魂、この世界風にいうなら魂魄にデジコアの一部が同化しているのでしょうか?そこから情報を引き出し、魔力と魔法で形を与えることで融合したデジモンの力と身体能力を再現した。ふーむ、これがこちらの選ばれし子供の力ですか。いえ、こちらの世界ではテイマーでしたっけ?」

「そうだ」

 

 影の言葉に、闇の中から返事が返ってくる。

 

「おやあなたでしたか。用事は済みましたか?」

「ああ。準備と座標の設定に手間取ったが完了だ。あとはエネルギーが溜まるのを待つだけだ。それにしても面白いものを見ていたな」

 

 現れたのはもう一つの影。口調は男性だが、そのシルエットは女性的な丸みを帯びている。

 そしてその背中にはコウモリのような翼があった。

 

「んふふ。面白くなってきましたね」

 

 笑いながら立ち上がる影。ふと、さっき見ていた少年のことを思い出す。そういえば、あの少年はもう一つの影と因縁があったのではないか?

 

「先ほどの子供。あなたを倒した子供の一人では?」

「ああ、そうだ。くくくっ、懐かしい」

「そうですかそうですか。うーむ、心中複雑ではないですか?自分を倒した相手があのような最期を迎えたなど」

「最後?ふっ、何を言っている?」

 

 小さいがはっきりと確信を持って言う。

 

「デジモンテイマーがあの程度で死ぬものか。お前もそれはよく知っているだろう?」

「ふふっ。まあ、そうですね」

 

 闇の中、二つの影はハジメが生きていることを確信していた。

 

「いずれ私たちの前に姿を現すでしょう。その時こそ、楽しい楽しい物語の始まりです」

 

 光が消え、闇が蠢く中で事態は混迷を深めていく。

 




感想・評価・お気に入り登録ありがとうございます。

いつもは評価しくださった方へ名指しで感謝を伝えるのですが、ちょっと贔屓しているみたいなのとユーザー名をさらしているみたいに思ったので、今後は控えます。しかし今までと変わらないほど感謝しています。


さて今回は短いながらもいろいろな要素を盛り込みました。

まずは光輝。原作では挫折を知らなかった彼ですが、今作ではハジメがエリートだったので無意識にですが挫折を味わっています。だからステータスプレートの回とかで突っかかったんですよね。あと実はステータスが原作より若干高かったりします。限界突破こみとはいえ、現時点でベヒモスの全身にやけどを負わせていますし。

もう一人は檜山。香織に執着せず、ハジメへの妬みがマシマシになっています。あと埋め込まれたものの影響で威力は本来のものより落ちますが最上級魔法を四発撃てるようになっています。まあ、代償はありますがそれは次回。

そして雫。彼女がある意味一番つらいかも。どうなるかは見守っていてください。

今話からいくつかの分岐が生まれました。いつか何かの記念に書いてみたいですね。
特にハジメが落ちなかったルート。そうなったら愛ちゃん先生と一緒にウルに行くという展開になりそうです。

次回もお楽しみに。さあ、そろそろハジカオの時間です。
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