ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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ようやく更新です。お待たせしました。

simasima様より、今作での香織とテイルモンの挿絵を戴きました。


【挿絵表示】


服装から構えまで自分のイメージ通りでとてもいいイラストです。改めて感謝を。

待っていただいている間に感想・評価・お気に入り登録ありがとうございます。

お気に入り登録が500件を超えまして、とても嬉しいです。

更新速度を上げたいのですが、書けるときと書けない時のモチベーションの差が激しいです。完結は何時になるやら・・・。

今話は香織が主軸です。でも、その裏で起きるハジメの様子にも注目していただけると嬉しいです。結構書き直ししました。
大したことではないのですが、前話の香織のステータスですがちょっと強すぎたかなと思い下方修正しました。

あと、あとがきでちょっとお試しをやってみました。お楽しみに。

では、お楽しみください。


10話 絶望は希望へと変わって輝く

 王宮に突然発生した霧。それはデジモンが出現する際、ある大気域の電磁波が、量子テレポーテーションで送られてきたデジモンの情報を元に大気中の元素を急速に凝縮することで発生する疑似タンパク質。これがデジモンに肉体を与え、物質世界に出現させるのだ。

 これをデジタルフィールドと呼び、6年前のデジモン出現の際に必ず観測されていた。

 そして今、異世界であるはずのトータスにデジタルフィールドは発生し、香織の前にハジメのパートナーデジモンであるガブモンと聖獣型デジモンのテイルモンが現れた。

 

「君は誰だ?なんで俺のことを知っているんだ?」

 

 ガブモンは香織を警戒しながら問いかける。テイルモンも同じように香織の様子を見ている。

 

「ええっと、わ、私はその……」

 

 香織は慌てて自分のことを説明しようとする。しかし、いきなりのデジモンとの遭遇、しかもハジメのパートナーであるガブモンとの出会いで、なかなか考えがまとまらない。

 まとまらないまま、とりあえず自己紹介をする。

 

「白崎香織。17歳。南雲ハジメ君の同級生。愛の告白をした彼女の一歩手前。一応デジモンテイマーズのメンバーです!パートナーはいないけれどデジモン大好きです!!ハジメ君も大好きです!!」

 

 だが、まとまらなさ過ぎて自己紹介だけでなく余計なことまで言っちゃっていた。

 香織はハッとするが、時すでに遅し。ガブモンとテイルモンがポカンとして香織を見ている。

 

「あううぅぅ……」

「なあ、ガブモン。この人間怪しすぎないか?」

「いや、でもハジメのこと知っているみたいだし。好きって言っているしなあ」

「ハジメというのはお前のパートナーの人間だったな?」

「ああ」

「ということはこいつもテイマーなのか?」

「いや。テイマーズにはこの子はいなかった」

「ならやはり信用できないじゃないか」

「うーん……」

 

 テイルモンの言葉に悩むガブモン。テイルモンのいうことはわかる。いきなり目の前に現れて、自己紹介をしたかと思えば、愛の告白をしただの、ハジメが大好きだの言ったのだ。普通に考えて香織は怪しい少女だ。

 でも、ガブモンは気になったことがあったので香織に話しかけてみる。

 

「えっと、香織って言ったっけ?」

「え?う、うん。そうだよ。香織です」

「なんで俺を見てガブモンってすぐにわかったの?俺は普通のガブモンと違う姿なんだけど?」

「それはハジメ君に教えてもらったからだよ。ハジメ君が自分のパートナーのことをいろいろ教えてくれたんだ」

「……それはX抗体のことも?」

「X抗体。……ガブモン君が持っている普通のデジモンとは違うプログラムって聞いているよ」

「まあ、合っているかな。……何かもう少し証拠はない?君がハジメの知り合いだっていう証拠」

「証拠……」

 

 香織は少し考えると、ふと思いついた。

 二体に少し待っていてと言い部屋に戻ると、自分の鞄の中から一つのケースを取り出す。

 それは地球から持ってきたデジモンカードのデックケースだった。その中から一枚のカードを取り出すとベランダに戻る。

 

「これならどうかな?ハジメ君が私に預けてくれたカードなんだけど」

 

 ガブモンの前に差し出されたカード。それを見たガブモンは目を見開いた。

 

「これって!?」

「メタルガルルモン。だが姿が違うな」

 

 横から見たテイルモンもカードを見る。

 カードに描かれているのは二足歩行の機械狼、メタルガルルモンX抗体。

 オルクス大迷宮に向かう前夜、ハジメが香織にお守りにと渡したカードだった。

 

「六年前の事件の後、ハジメ君達テイマーズのみんなが自分のパートナーデジモンのオリジナルカードを作ってもらったんだって。ハジメ君が持っているカードのうちの一枚を私は預かっているんだ」

 

 香織の説明にガブモンは一度目を閉じると、自分の考えをまとめる。

 

「……わかったよ。香織を信じる。このカード、この姿は俺とハジメにとって特別なものだ。それをハジメが託したっていうなら俺も信じるさ」

 

 そう言って警戒を解いたガブモンにテイルモンは少し驚いた。

 

「いいのかガブモン?正直、そのカードが本物なのかとか、話が全部嘘じゃないのかとか怪しい点は一杯あるぞ」

「かもしれない。けれど俺は香織を信じてみたいと思った。それに香織の持っているその端末」

 

 ガブモンは香織がさっきまで抱えていたタブレット端末を指さす。

 

「そこからはハジメの匂いがする。どれだけ長い間離れていたって生みの親のハジメの匂いを俺が忘れるわけない。さっきまでの話も含めて信じてみようって思ったんだ」

「……お前がそこまで言うなら、ひとまず私も信じてみるよ」

 

 テイルモンも納得し、香織への警戒を解いた。

 その後、夜風が寒いベランダではゆっくり話せないから部屋の中に入った。

 改めて自己紹介をやり直す。

 

「俺はガブモン。ハジメのパートナーデジモンだ。こっちはテイルモン」

「テイルモンだ。ガブモンの同行者というところだな」

「俺たちはデジタルワールドでリアルワールドに行く方法を探す旅をしていたんだ。そうしたら突然ハジメの声が聞こえたんだ」

「ハジメ君の?」

「ああ。俺が聞き間違えるはずがない。あれはハジメの声だった」

 

 ガブモンは語り始める。自分たちがここに現れる直前に何があったのか。

 

 ガブモンはハジメと別れた後、ハジメと同じように再会する方法を探してデジタルワールドを旅していた。

 たまに同じパートナーデジモンであるギルモン達と会ったりしながら、デジタルワールドを転々とする生活を続けていた。

 ある時、空間が歪んでいる場所があると聞き、もしやリアルワールドへのゲートがあるのではないかと思い、向かってみた。

 思った通り、その場所には確かに空間の歪みがあった。だが、無闇に飛び込んではどことも知れない場所へ飛ばされる危険があったため様子を見ていた。

 

 しかし、空間の歪みの向こうからなんとハジメの声が聞こえてきたのだ。

 

「とても苦しそうな声だった。あの声を聴いて俺は冷静でいられなかった」

「ハジメ君……」

「あとは空間の歪みに飛び込んで、もう少しでハジメのところに届いたと思ったんだ。でも、その直前で声が途切れた。それでも前に進んでいたら香織のところに出たんだ」

「そうだったんだ……」

 

 ガブモンの話を聞き終え、香織は胸を押さえた。

 ガブモンの話からハジメがオルクス大迷宮の65層の橋から落ちた後も奇跡的に生きていた可能性が出てきた。しかし、途轍もない苦痛を受けているかもしれない。そのことに香織の心は悲鳴を上げそうになる。

 しばらく香織はそうしていたが、今度は自分たちのことを話した。

 

「私は6年前にハジメ君とガブモン君に助けられました」

「俺たちに?」

「うん。6年前の夏休み。街中でデジモンに襲われていた時に……」

 

 それから香織は自分と雫が6年前にハジメとガブモンに、サラマンダモンから助けられたことから始まり、3年前にハジメと再会してからのハジメを介したテイマーズとの交流を説明した。

 ハジメのガブモンと再会し、デジモンと共存する世界を作る夢を手伝うと誓ったこと。

 親友の雫も自分と同じだということ。

 高校に入学して勉学に励み、夢に向かって頑張っていたこと。

 突然、この異世界トータスに召喚されたこと。

 召喚された目的である戦争への参加に反対してしまい、何とか生きて帰る方法を考えていたこと。

 

 そして、訓練で訪れたオルクス大迷宮でハジメが谷底に落ちてしまったことを。

 

 簡単にだがこれまでのことを聞いたガブモンは黙り込んでしまった。

 

「君にとって私たちは許せないと思う。でも私は絶対にハジメ君を助けます。それがあの時ハジメ君を助けられなかった私の償いだから。本当なら明日お城を抜け出そうと思っていたんだけど、そんな悠長なことを言っている場合じゃない」

 

 香織は用意していたバッグと杖を手に取ると立ち上がる。

 

「ガブモン君のおかげでハジメ君は生きているって分かった。だったらすぐにでも行かなきゃ」

 

 まだ真夜中だ。王都の門は閉ざされ、ホルアドまでは馬車で丸一日かかる。しかもそのあとは前人未到のオルクス大迷宮の下層まで潜り、ハジメを救出しなければいけない。

 改めて考えると無謀な計画だ。それは横で話を聞いていただけのテイルモンも思ったのか、香織に話しかける。

 

「今から向かうつもりか?どう考えても自殺行為だと思うぞ」

「……そうだね。自分でもそう思うよ」

 

 テイルモンの言葉を肯定しながら、それでも香織の決意は変わらない。

 

「ガブモン君のおかげで絶望が希望に変わった。今この瞬間、ハジメ君が生きているなら、私は助けに向かうんだ」

「それは何故だ?」

「さっきも言ったよ。――ハジメ君が好きだから」

 

 好き。(この)ましいこと。それはテイルモンにもわかるが、自分が死ぬかもしれない危険に飛び込むほどの感情なのだろうか。

 テイルモンには香織のことが良くわからなかったが、強い興味を引かれた。

 

「待ってくれ」

 

 今度はガブモンが香織に声をかけた。

 

「さっき香織は明日ハジメを探しに行くつもりだったって言ったよね?」

「うん。でもハジメ君が生きているって解ったから今すぐにでも行くよ」

「それはちょっと待ってほしい」

 

 ガブモンの言葉に香織は怪訝な顔をする。

 

「ハジメを早く助けないといけないのはわかっている。でももう少し待ってくれ。俺も一緒に行く準備ができるまで」

「ガブモン君。……うん、そうだよね。ハジメ君のパートナーデジモンの君が行かないわけもないよね」

「ああ。でも俺はこの世界のことが良くわからない。それにオルクス大迷宮ってところは香織が準備をしなくちゃいけない程危険な場所なんだろう?確実にハジメを助けるために、俺に時間を欲しいんだ」

「……わかったよ」

 

 少し考えて香織はガブモンの提案を受け入れた。香織としてもガブモンの同行は願ったりかなったりだ。治癒師の香織だけでは攻撃力不足だし、優秀な前衛がいてこそ力を発揮できる。

 

「テイルモン。君はどうする?」

「……私は少しこの世界を見てくる。この小さな体なら目立たないからな」

 

 そう言うとテイルモンは部屋の外に飛び出していった。

 

「ねえ、ガブモン君」

「何?あ、俺のことはガブモンでいいよ」

「じゃあガブモン。テイルモンとはどんな関係なの?」

「テイルモンとは少し前に知り合ったんだ。人間に興味があって、パートナーデジモンである俺にリアルワールドや人間のことをいろいろ聞いてきたんだ」

「なるほど」

 

 テイルモンというデジモンは好奇心が強いデジモンだ。ガブモンと出会ったテイルモンはその好奇心を人間に向けていた。

 テイルモンはガブモンの話を聞き、もっと人間のことを知りたいと思い、ガブモンと行動を共にするようになったのだという。

 

「さて、もう夜も遅いから休もう。俺疲れたよ」

「あはは。私も。なんだか久しぶりにゆっくり眠れそう」

 

 それから香織とガブモンは眠りについた。念のためにガブモンは机の下に隠れて、毛布にくるまって眠った。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 意識が戻る。

 鼻をつく鉄臭い匂いに周りを見回すと、周囲は血の海だった。

 下に目を向けると巨大な熊が倒れていた。

 ハジメがいる階層の主である爪熊だ。

 だが、すでに息はない。熊の胸は大きく抉られており、そこから大量の血が流れている。

 それをやったのはハジメだ。

 右腕には錬成で生み出したと思われる手甲があり、手の中には抉り出した爪熊の魔石がある。

 どんな戦いがあったのか、ハジメは憶えていない。

 魔物の肉を食べてから意識がなくなり、戻ったのはこれで三度目だ。

 

 一度目は二尾狼の群れを全滅させていた。

 

 二度目は蹴り兎を貪り食っていた。

 

 そして、今回の三度目。爪熊を惨殺していた。

 

 意識はあるが体は勝手に動き始める。右手に持った魔石を口元にもっていき、そのままかぶりつく。

 硬いはずの魔石は噛み砕かれ、ジャリジャリと咀嚼する。

 

「ガフッ、ガァッ、アアアァァッ」

 

 何故か自由にならないこの体は魔物の魔石を求めている。

 魔石を取り込む度に、魔石の魔力が強烈な痛みと共に全身を駆け巡る。それに対抗するように体の中から別の力が沸き起こり、ぶつかり合う。二つの力がぶつかり溶け合う衝撃と激痛は、魔物の肉を食べた時の痛みが擦り傷に思えるほどで、戻った意識がすぐになくなりそうになる。

 そして、取り込んだ魔石は体をどんどん変えていった。

 髪は真っ黒から白と蒼のツートンカラーになり、香織のように腰まで伸びた。

 背丈は伸び、四肢の筋力はそれに合わせて発達した。

 全身に光るラインが走り、そこを蒼い光が駆け巡っている。

 もはやハジメの体は以前とはかけ離れたものに変貌してしまった。

 そして今、意識を失っている時間がだんだん長くなっているような気がする。

 

(このままじゃだめだ。体が変わって、心まで失えば僕という存在は消えてしまう)

 

 幻肢痛の痛みにも、空腹による飢餓感にも耐える自信があった。でも、自分が化け物になって消えるのだけはダメだ。

 

(そうなってしまえばデジモンと暮らせる社会を作る夢はどうなる?地球で心配している両親やタカト達は?一緒に召喚された香織さんや雫さん達は?

何より掛け替えのないパートナー、ガブモンはどうなるんだ!)

 

 自分を飲み込もうとする力に抗うため、ハジメの心に変化が起きる。

 

(優しい僕じゃ勝てない。強い、自分に負けない俺にならないと!)

 

 自由にならない体に対抗するために、ハジメは精神をより強く強靭にしていく。

 

 爪熊の魔石を取り込みながら、優しいハジメは強いハジメになった。

 

 こうして、本来の歴史とは異なる経緯をたどりながらも、南雲ハジメは精神を作り替えていった。

 

 心優しい優しい夢を追う少年でもない。

 

 敵対者を絶滅させる魔王でもない。

 

 彼がどんな進化を果たすのか。それはもうすぐ明らかになる。

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 ガブモンとテイルモン、デジタルワールドからの来訪者との邂逅から一夜明け、香織は王宮を歩いていた。向かう先は雫の部屋だ。

 ガブモンは香織の部屋に隠れている。

 

「俺が昼間に出歩いていたら目立つから、隠れているよ。これも読んでおきたいし」

 

 ガブモンはハジメのタブレット端末を使い、ハジメが残したトータスに関するファイルに目を通していた。今夜の王宮脱出だけでなく、今後トータスで過ごすために必要なことだと。

 香織もガブモンの手伝いをしようとした。しかし、それは断れた。なぜなら、

 

「雫、だっけ。香織の親友でハジメに告白した女の子。その子にハジメを助けに行くことを伝えたほうがいいと思う。今から香織がやることは、昔の俺とハジメがデジタルワールドに旅に行った時と同じことだ。伝えても問題ない人には伝えるべきだ」

 

(ガブモン君の言う通りかな。きっと今の雫ちゃんを放っておいたら大変なことになる)

 

 そんなことを考えながら歩いていた香織の前に、一人の少年が歩いてきた。

 

「あ、香織」

「龍太郎君……」

 

 少年、坂上龍太郎は香織と出くわすとバツが悪そうな顔をして、目を逸らす。

 彼はベヒモスとの戦いのとき、光輝に同調して戦い始めてしまったことを悔いていた。

 もしも自分も光輝を止めていれば、もしかしたらハジメが落ちるような事態にならなかったかもしれない。普段はあまり考えることをしない彼だが、友人付き合いのあったハジメの死、そして泣き崩れた香織と雫の姿を目にして、自分を振り返った。そして深く後悔したのだ。

 

「今から雫の見舞か?」

「うん」

 

 香織としても龍太郎には複雑な心境を抱えている。冷静に見えるが今でも身勝手なことをした光輝と檜山への怒りが渦巻いている。光輝とは話すだけでも激情を抑える自信がないため無視をし、檜山は存在そのものを目にも耳にも入れないようにしている。それが今の香織なりの怒りのぶつけ方だった。

 ただ前者の二人と違い、後悔している龍太郎には怒りをぶつけても仕方ないと思っている。

 

「俺、今から訓練に行くから。雫のことを頼む」

「……うん」

「じゃあな」

 

 結局、龍太郎は香織と目を合わせることなく訓練場に向かった。

 だから気が付かなかった。香織もまた龍太郎以上にバツの悪い顔をしていた。

 

(私が今夜やることは、雫ちゃんをさらに傷つけることになるかもしれない)

 

 龍太郎と別れた香織は、やがて雫の部屋の前についた。部屋の前には雫の傍付きとなったメイドのニアという少女がいた。

 彼女に断りを入れ部屋の中に入る。部屋の中のベッドの上には雫が眠っていた。

 その顔は普段の凛々しい彼女とは違い、酷くやつれてしまっている。

 頬は痩せこけ、眠っているのに目の下にはうっすらとだが隈が出来ている。

 

「うう、あぁあ」

 

 小さくだが、途切れることなく魘されている。これでは眠っても休めるはずがない。

 

 目覚めてからハジメ生存を信じて奮起した香織と違い、雫は心因性のショックが大きすぎ立ち直れなかった。

 ベヒモスと檜山の魔法で発症したPTSDに加え、愛していたハジメの喪失。しかも後者は自分が動けなかったことが原因でもある。

 これらのことに彼女の心は耐えられなかったのだ。

 何とかメイドのニアや香織、愛子が支えているが、日に日に衰弱していっている。

 

(だめだ。こんな雫ちゃんを連れていけない)

 

 香織はここに来るまで考えていた。今夜王宮を抜け出すときに雫も連れていくかと。

 しかし、今の雫に魔物との戦闘などできるはずがない。

 でも、こんな弱った親友をそのままにして出ていくなんてできない。

 

(ガブモンの言った通り、抜け出すのを今夜にしてよかった。周りのことが見えてきた。雫ちゃんも何とかしないと)

 

 香織は雫のことを考えながら、彼女の寝汗を拭いていった。

 

 

 

 雫の部屋を出た香織は王宮の廊下を歩いていた。

 今夜に備えて英気を養う必要があるため、今日は訓練を休むつもりだ。

 

「あ、白崎さん」

「園部さん」

 

 今度は園部優花と出会った。彼女はハジメの裏切る可能性に対し反論した少ない生徒で、なんでもあの戦いでハジメに助けられたのだと言う。

 

「八重樫さんのお見舞いしてきたの?」

「うん。今の雫ちゃんの状態は危ないからね」

「そっか……。ねえ、聞いてもいい?」

「何?」

 

 優花はおずおずと香織に質問する。

 

「白崎さんはさ、南雲のこと好きなんだよね?」

「もちろん。ハジメ君を私は愛しているよ」

「あ、愛……。す、すごいわね。そこまで言い切るなんて」

「隠すことじゃないよ。学校でもそうだったでしょ?」

「確かにそうだったわ。えっと、じゃあ付き合っていたの?」

「まだだよ。だって雫ちゃんもハジメ君のこと好きだったし」

「そう。それが気になったの。学校だと誰も踏み込まなかったけど、こんなことになっちゃったし、ちゃんと聞きたくて」

 

 優花は躊躇いながらも気になったことを聞く。

 

「白崎さんと雫を南雲は侍らしていたの?」

「……」

「ごめん、ちょっと悪い言い方しちゃった。でも、南雲のことを知りたくて。何で南雲はベヒモスに立ち向かえたのか。何でクラスメイトでもない私たちを助けてくれたのか。……私たちは南雲のために何ができるのか」

 

 顔から表情が消え、能面のようになった香織に優花は慌てて謝る。だが、それでも優花は知りたいのか、香織に質問を重ねる。

 優花の様子に、香織はしっかりと答えることにする。

 

「まずはっきり言うけれど、ハジメ君が私たちを侍らせていたんじゃない。私と雫ちゃんが付きまとっていたっていうのが近いかな」

「そうなの?」

「私たちは学校の入学前に同時に告白したんだよ。それでハジメ君を困らせちゃってね。いろいろあってあの形に落ち着いた。まあ、時間稼ぎというか問題の先延ばしだったんだけどね」

 

 告白してからのことを思い出し、苦笑する香織。

 あの時はいろいろ大変だったなあと。

 

「夢を持っていたハジメ君を困らせることはしたくないって雫ちゃんと話し合って、ハジメ君が答えを出すのを私たちが止めた。でも、一緒にはいたい。そんな身勝手な私たちの我儘をハジメ君は許してくれた。そういう人なんだ、ハジメ君は」

 

 ハジメを自分勝手だという人もいるだろう。自己中だという人もいるだろう。香織と雫を手放したくないからどっちつかずの対応をしているという人もいるだろう。

 だが、香織は言いたい。それは私たちも望んだからなんだと。

 ハジメの邪魔をしたくない。でも自分を見てほしい。複雑な心の矛盾と葛藤をハジメは見抜き、妥協し、許してくれた。いつか、三人で笑いあえる答えを出すと誓って。

 

「優しくて、大切な人たちのために一生懸命になれる。それだけの人じゃないけれど、あの時、園部さんを助けてくれたハジメ君は、そういう人だよ」

「……そっか。もっと南雲と話してみたかったなあ」

 

 香織の話を聞いた優花は残念そうに零す。南雲ハジメという少年のことをもっと知りたいと。

 

(……園部さんもハジメ君に惹かれたんだね)

 

 

 

 香織と優花の話を廊下の曲がり角から聞いている小さな影に、二人は気が付かなかった。

 

 

 

 王宮の廊下を出た香織は、中庭を通る通路を歩いていた。そんな彼女の頭上から小さな影がとびかかった。

 

「わっ!?」

「おはよう。香織」

「その声、テイルモン!?」

 

 その影は昨晩姿を消したテイルモンだった。テイルモンは香織の頭から降りて、彼女の前に立つ。

 

「どこに行っていたの?」

「町を見にね。人間の町を見るのは初めてだったから興味深かった」

「ふーん。……ねえ、聞いてもいい?」

「何?」

「ガブモンから聞いたけれど何でテイルモンは人間に興味を持っているの?」

「ああ。そのことか」

 

 テイルモンは香織の質問に歩きながら答え始める。その後を香織が付いていく。

 

「デ・リーパーとの闘いは知っているか?」

「うん。ハジメ君から聞いているよ。テイマーズの皆が協力して解決したって」

「そう。私はそれを聞いて人間に興味を持った」

 

 テイルモンは説明する。

 デ・リーパーとの闘いはリアルワールドだけでなくデジタルワールドでも起きた。いや、戦いの大部分はデジタルワールドで起きていた。

 もちろんデジタルワールドではデジモン達が死力を尽くして戦っていた。デジモンの中でも一握りの存在しか到達できない究極体、しかも究極体の中でも最強の存在である四聖獣という四体の究極体デジモンが中心となって戦った。どのデジモンも、リアルワールドにリアライズすれば人間の兵器など歯牙にもかけない力の持ち主たち。四聖獣などもはや天災に等しい力を振るうだろう。デジモンたちの神ともいわれる存在なのだから。

 しかし、彼らの力をもってしてもデ・リーパーを倒すことはできなかった。

 その結果、デ・リーパーはリアルワールドまで侵攻してしまった。

 だが、デ・リーパーはテイマーズと人間たちの手により原始的なプログラムに退化ささせられ、撃退された。

 それを聞いたテイルモンは驚いた。

 

「究極体デジモン、四聖獣でもできなかったことを人間とそのパートナーデジモンは成し遂げた。だから私は知りたいんだ。人間とはなんなのか。私たちデジモンと人間の関係とはなんなのか」

「なるほど」

 

 香織はテイルモンの話を聞いて納得した。香織はデ・リーパー事件のことに関してはさわりしか聞いていない。それでも本当にギリギリだったというのは感じた。

 テイルモンはより深くそれを知りたいのだろう。それは香織もなんとなくだがわかる。

 テイマーズのみんなとは仲間だと思っている。でも、やはりパートナーデジモンがいないことから理解できないところもある。それをいつか知りたいと思っていた。

 

「テイルモンと私、似ているところがあるのかもしれないね」

「似ている?私と香織が?」

「うん」

 

 それから香織はテイルモンと歩きながら話した。

 その途中、訓練帰りの生徒や王宮のメイドとも遭遇したが、テイルモンは猫のふりをしてやり過ごした。

 また、一人の生徒と遭遇した。おさげに眼鏡をかけた女子生徒、雫のクラスメイトである中村恵理だった、

 

「あ、白崎さん」

「中村さん。訓練の帰り?お疲れ様」

「うん。白崎さんは今日お休みなんだね。……あれ?その子は?」

「あ、この子は迷い込んできた猫なんだ。私に懐いてくれて」

「いや、その子テイルモンだよね?デジモンの」

 

 …………。

 

「「え?」」

 

 恵里の言葉に香織とテイルモンはそろって硬直した。

 




〇次回予告
香織「ハジメ君の所に行くんだ。これは私の決めた意思。私の決意。私の愛なんだ!」
テイルモン「香織。私に力を!」
ガブモン「ハジメが俺を呼んでいるんだ。邪魔をするな!!」
香織「必ずハジメ君と一緒に戻って来る。そして地球に帰る!だから――行ってきます!!」

次回11話 「X-treme Fight/Break up!」

香織・テイルモン・ガブモン「君もテイマーを目指せ!!」
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