ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
結構難作でした。やりたいことを詰め込んだら文章が浮かばなくなり、大変でした。
すっかり週一投稿ですがもう少し投稿頻度を上げたい。でも資格試験も迫っている。ままならない物です。
感想・評価ありがとうございます。いつも元気を戴いています。
「デ、デジモン? な、中村さん。何言っているの? この子はただのネコで……」
「尻尾についているのは聖獣系デジモンの証のホーリーリング。両手のグローブはサーベルレオモンのデータをコピーした爪。好奇心が旺盛でいたずら好き。必殺技はネコパンチ。合っていると思うんだけど?」
「すごく詳しい!?」
何とか誤魔化そうとする香織だが、恵里が思ったよりも深い知識を持っていることに驚く。
「香織。これは誤魔化せないぞ」
「そ、そうみたいだね」
しばらくして驚きも収まり、二人は恵里と話をする。
「中村さん、デジモン知っていたんだ」
「うん。子供の時にデジモンで遊んでいたの」
恵里は屈むとテイルモンを見る。
「デジモンを実際に見るのは初めてだけどね。会ってみたかったから、ちょっと感動しているよ」
「中村さんはデジモンのことなんとも思わないの?」
「うん。私はテレビみたいにデジモンが危ないだけの生き物とは思わない。それに暴れたデジモンがいるからデジモン全部が危険っていうなら、犯罪者がいるから人間は全員犯罪者だっていうのと同じだと思うから」
香織は嬉しくなった。デジモンのことを受け入れてくれる人がこんな近くにいたなんて。
それから香織はテイルモンのことを説明した。
「昨日そんなことが起きていたんだ」
「うん。もしかしたら他にもデジモンがこの世界に来ているのかもしれない」
「そっか。なら急いで南雲君を探しに行かないといけないね」
「え!?」
香織は恵里の言葉に驚く。
「白崎さん、南雲君を探しに行くんじゃないの? テイルモンがいれば頼もしいと思うんだけど」
「確かにそうなんだけど……」
「私は応援しているよ、白崎さん。白崎さんならきっと大丈夫だと思うから」
「ありがとう、中村さん」
香織は恵里にお礼を言うと別れた。
「テイルモンのこと黙っているから。安心して」
「何度目か分からないけれど本当にありがとう。じゃあね」
「うん。じゃあね」
手を振りながら遠くなっていく香織の背中。それを見つめながら恵里は口元をニチャアと歪めた。
「ごめんねえ、白崎さん。僕ちょっと嘘ついちゃった♪」
恵里と別れた香織とテイルモンは急いで香織の部屋に向かっていた。
「まずいまずいまずいよ。デジモンを知っている人の可能性を忘れていた!」
「あの子が黙っているっていうのもどこまで信じられるかわからない。どうするの香織?」
「とりあえずガブモンとも相談する!」
部屋に着いた二人はすぐに中に入る。
「わっ、どうしたの!?」
「ごめんガブモン。ちょっとミスっちゃったかも」
香織はガブモンに先ほどの恵里とのやり取りを説明する。
「今の地球、リアルワールドではデジモンはあまりよく思われていないの。だから油断していたよ」
「ばれちゃったものは仕方ない。その中村さんっていう子のことを信じよう。でもこれ以上俺たちのことがばれるのは避けたい」
「うん。本当は真夜中にするつもりだったけれど、少し早めに出よう。作戦、考えてくれる?」
「もちろん」
香織とガブモンは王宮を出る作戦を考える。その様子をテイルモンはじっと見つめていた。
そして、香織はその晩に王宮から抜け出すために、行動を開始した。
■■■■■
愛子は夕食の後、自室に戻るとノートパソコンの電源を立ち上げた。
「白崎さん、一体何なのでしょう?」
手に持ったUSBを眺めながら訝し気に呟く愛子。
夕食の席で、愛子は香織からこっそりと一つのUSBを渡されていた。
USBを渡すというのは、愛子達、戦争参加に反対したグループ内での暗黙の了解で公にできない情報のやり取りをするということだ。
USBなら隠し持つことができるし、PCに表示される文章は日本語なのでトータスの人間には読めない。しかも文章にパスワードを設定すれば、万が一グループ以外の生徒がUSBの中身を見ようとしても見ることはできないと、ハジメが提案したのだ。
愛子はUSBをノートPCに挿入し、保存されていたファイルを開いて目を通した。そして、驚愕した。
『畑山先生。一杯迷惑をかけてしまい申し訳ありません。ハジメ君が落ちてから私はずっと彼のことばかりで周りが見えていませんでした。
私はハジメ君を愛しています。高校生の私が愛を語るなんて早いと思われるでしょうがこれは本心です。
多分、これから先、白崎香織は南雲ハジメ以外を愛することはないでしょう。そう確信するほど、私の心にはハジメ君がいます。
だから、私は今夜王宮を出ます』
「なにこれ? なんなんですかこれ!?」
混乱しながらも愛子は読み進めていく。
『詳しくは話せませんが、ハジメ君が生きている希望を掴みました。この希望を逃がさないために私は進みます。
この決断を、多くの人は愚かだと思うでしょう。
周りが見えていなかったと自覚したはずなのに、また見えていないと思われるでしょう。
でも、人の心って論理的で正しい行動をしているだけで満たされるものじゃないと思うんです。
満たされない心を満たすために、心が求める道を進む。それが私の出した答えです。
先生には私がいなくなった後のことをお願いしたいのです。
王国の各地の農地の改革へ出向く旅。それに雫ちゃんを連れて行ってほしいのです。
王宮を出る前に、必ず雫ちゃんを立ち直らせます。でも、衰弱した雫ちゃんを連れていくことはできません。かといって王宮に置いておくのも得策ではありません。
だから、先生が雫ちゃんを王宮から離してください。
我儘に我儘を重ねてしまい、申し訳ありません。
でも、私は必ず帰ってきます。ハジメ君と一緒に。ですから私の一番の親友のことをどうか、どうかよろしくお願いします』
「白崎さんッ……!!」
愛子は部屋を飛び出す。香織とはさっきの食堂で別れたばかりだ。
ファイルには出ていく前に雫の部屋に寄って行くと書いてあった。ならまだ雫の部屋にいる可能性が高い。
雫の部屋の前にたどり着いた愛子は驚愕する。何と雫の部屋の前に一人のメイドが倒れていたからだ。
慌てて部屋の中に入るとベランダに続く窓が大きく開かれ、夜風がカーテンを揺らしていた。
ベッドのほうを見ると雫が目を覚ましており、上半身を起こしていた。
彼女は両手で顔を押さえ、声を押し殺して泣いていた。
「よかった。よかったよぉ。……ハジメェ」
愛子が雫に近づくと彼女は真っ赤に腫れた目をしながらも微笑んだ。
「畑、山先生。ご迷惑、おかけしました。もう、大丈夫です」
「白崎さんが、来たのですか?」
愛子の問いに、雫はこくりと頷く。
泣きつかれたのか雫は上半身を横たえ、開かれた窓のその向こうを見る。
「香織、ガブモン、テイルモン。がんばって、ハジメを助けて。私も、頑張るから」
■■■■■
「香織って意外とやるのね。ロープでベランダから降りるなんて」
「ちょっと友達の道場でいろいろ教わったんだよ」
夜の闇に包まれた王宮の中を香織とテイルモンは走っていた。香織の背中には脱出のための荷物と武器の杖が背負われている。
さっきまで雫の部屋に赴き、そこで彼女にガブモンとテイルモンを紹介した。そして、ガブモンからハジメが生きている可能性があることと、今から救出に向かうことを伝えた。
当然彼女は驚き、ハジメが生存している可能性に涙を流した。その後、自分も一緒に行こうと言ったが香織はきっぱりと断った。そして、いつか自分たちが戻ってきたときのために、しっかりと体を回復させることと、愛子の手伝いを頼んだのだ。
その後、愛子と鉢合わせ無いように、窓からロープで脱出したのだ。
「それにしても、あの雫っていう子にした誤魔化し。いつまでも続かないと思うけど」
「それでも、何の希望もないよりはいいと思う」
テイルモンは気が付いていた。今の雫は香織とガブモンの言葉で立ち直りかけているが少ししたらハジメがまだ危険なこと、そんなところに香織達が向かったことに深く傷つくだろう。
それでも香織は雫にもう一度立ち上がってほしかった。何も告げずに出ていけば、あのまま雫は衰弱し続けただろう。だったら一時の気休めでも雫に希望を伝えた。そのあと、さらに絶望するのか、希望を信じ続けるのは賭けになるが。
(そう考えると希望も絶望っていうのは、本当なのかもね)
「もうすぐ使用人用の資材搬入口がある。そこからなら今の時間は誰も使わないから警備も薄いはず」
「どうしてそんなことを知っている?」
「異世界物の定番だと思って調べてみたんだ」
読んだことのある異世界物の小説で、お城に潜入するパターンの一つにあったので調べてみたのだ。なお一番よくある隠し通路とか水路は見つからなかった。
香織の言う通り、搬入口には二人の見張りしかいない。これなら、
「じゃあ私が見張りの人たちを何とかしてくるね」
「いや、それには及ばないさ」
見張り達の頭をボコリに行こうとする香織を、テイルモンが制する。代わりに見張り達の前に飛び出す。
「ニャーニャー」
「ん? なんだこいつ」
「ネコか?」
テイルモンが猫の鳴きまねをし、見張り達の注意が向く。その瞬間、
「《キャッツ・アイ》!」
「あっ」「うっ」
テイルモンの目が鋭い眼光を放つ。すると見張りの二人は短い悲鳴を上げると目の光を失った。
テイルモンの必殺技の一つ、鋭い眼光で相手を操る《キャッツ・アイ》だ。
「そこで寝ていなさい」
テイルモンの言葉通り、見張り達は門の傍に座り込むと寝息を立て始める。
香織は驚きながら出てくる。
「すごいね」
「香織はちょっと暴力的なのよ」
「うーん、確かに。召喚されてからそうかも」
苦笑いを浮かべる香織。
そのまま二人は搬入口から出ようとする。その時、
「はっ。避けて香織!」
「きゃっ!?」
テイルモンが咄嗟に香織を突き飛ばす。するとさっきまで香織がいた場所に黒い影が現れ、手刀を振り下ろしていた。
「ちっ」
「誰!?」
倒れた香織はすぐに立ち上がり、杖を構えて警戒を露わにする。
黒い影は黒装束に身を包んだ男だった。
一瞬、浩介かと思ったが彼は謹慎中なのと、香織の脱出のことは知らないはずだし、例え知ったとしたらむしろ協力を申し出てくれるはずだ。
なお、脱出のことを知らないのは香織が伝える暇がなかったというか、リスクを増やせなかったというか……と、後日香織が本人の目の前で必死に言いつくろったことからお察しである。とりあえず、香織はハジメ直伝の土下座を行う未来が待っている。
それはさておき。
香織へ手刀を落とそうとした人物は、懐から小さな笛を取り出すとそれを吹いた。
ピイイイイィィィッ────―。
「まずいっ」
香織が狼狽している間にどんどん王宮の兵士や騎士が集まってきた。彼らは香織とテイルモンを包囲する。
そして、その中から一人の人物が出てきた。
「愚かな真似はやめるのだ、カオリ」
豪奢な服を着た十歳くらいの金髪碧眼の少年。ハイリヒ王国の王子であるランデル・S・B・ハイリヒだった。
「ランデル王子。なんで」
「カオリがおかしな動きをしているようだったのでな。申し訳ないと思ったが見張りをつけさせてもらった」
ランデルはそう言うと黒装束に目をやる。黒装束は王国の諜報員で、ランデルは父であるエリヒド・S・B・ハイリヒに理由をつけて頼み込み、香織の監視に付けていたのだ。
もっとも、香織のおかしな動きに気が付いたのが今日であり、しかも優花と話をしていたのを盗み聞きし、香織が迷宮で行方不明になったハジメに嫉妬。香織の目を自分に向けるまで監視してもらおうと考えたからなのだが。
つまり、気になる女の子の話を盗み聞きし、父親を丸め込んで、国の諜報員に見張らせていたという、ストーカー一歩手前の行為だった。
なお、騎士団長のメルドには止められると思いランデルは知らせていない。
「今ならまだ遅くない。馬鹿な真似はやめるのだ!」
「馬鹿な真似、ですか?」
「そうだ! ナグモハジメなどという裏切り者のためにそなたが危険に飛び込むことはないのだ! いやそもそも戦う必要も帰る必要もないのだ! 余の専属侍女になれば安全であるし、元の世界よりもいい暮らしができる! だから」
「もういいです」
ランデルの言葉を遮る香織。ランデルとしては香織を説得しようとしていたのだが、あまりに内容が酷かった。
王宮ではハジメが裏切り者であるという噂がさも真実のように流れている。これは教皇イシュタルの推測であることに加え、勇者である光輝がそれを信じていることが原因だった。だから王族であり影響を受けやすいランデルも噂を信じ込んでしまい、香織を裏切り者に騙されている悲劇の少女とみている節がある。
それが先の発言なのだが、もう香織の怒りのボルテージは上がりっぱなしだった。
「強硬突破させてもらいます。私は行かなければならないので」
「くっ、すまないカオリ。取り押さえるのだ!!」
ランデルの命令に、兵士と騎士たちが香織を取り押さえようと迫る。
それに対して香織は──背負ったバッグの開け口を縛る紐を緩めた。
するとバッグの中から小さな塊が飛び出した。
「お願い──ツノモン!」
「任せろ!!」
バッグの中から飛び出したのは頭に一本の角に額に蒼いインターフェースを持つ幼年期デジモン、ツノモンだった!
テイルモンのように身軽ではないし見た目が目立つガブモンは、幼年期のツノモンに退化して荷物の中に隠れていたのだ。
これはハジメと暮らしていた頃から持っていた能力で、適応力が高いためにリアルワールドで暮らしやすいように身につけたのではないかと、ハジメ達は推測している。同じ目立つ姿のギルモンには羨ましがられた。
「ツノモンX進化! ──ガブモン!!」
ツノモンは空中でガブモンに進化する。幼年期と成長期限定だが、テイマーがいなくても進化できるのだ。
「なんだこいつは!?」
「魔物か!!」
「《プチファイアー》!!」
ガブモンの出現に狼狽する兵士たち。そこにガブモンは口から蒼い炎を吐き出す。
炎に驚いた兵士たちは咄嗟にその場を飛びのく。すると包囲の中に一本の道ができた。
その道の先には、香織達が向かおうとしていた搬入口がある。
「走れ!」
「ありがとう、ガブモン!」
ガブモンが駆け出し、香織とテイルモンがその後に続く。
「止めるのだ!」
「頼むテイルモン!」
「仕方ないな! 《キャッツ・アイ》」
再び発動するテイルモンの《キャッツ・アイ》。今度は兵士を眠らせず、味方へ攻撃させるように操る。
「うわっ!?」
「何をするんだ!」
突然の仲間割れに混乱が起きる。その中を香織達は駆け出す。
当然、テイルモンに操られていない兵士たちがそれを阻もうとする。
「〝剛腕〟。はぁっ!」
「ぐっ?」
それに対し、香織は腕力を強化し、杖を振るうことで払いのける。
兵士は予想以上の力強さに体勢を崩してしまい、その隙に香織は駆け抜ける。
時に杖で払い、時には拳を振るい香織は兵士たちを退けていく。
「この魔物が!」
「邪魔だ!」
一方のガブモンも剣を振り下ろしてきた兵士を相手取っていた。ガブモンの見た目から魔物と断じている兵士たちは、最初から殺すつもりで攻撃してくる。
だが、ただの兵士、ただの騎士に後れを取るガブモンではなかった。
デジモンとしては発展途上のレベルである成長期のガブモンだが、潜り抜けてきた戦いの数は豊富である。
剣による攻撃を身に纏う毛皮で弾き、パンチやキック、炎を放つ。
ガブモンの毛皮は進化系であるガルルモンのデータを集めて作ったもので、その毛はデジタルワールドの伝説のレアメタル「ミスリル」のように固い。なのに動きを邪魔しないしなやかさを持つのだ。
テイルモンも身軽ですばしっこい動きで兵士たちを翻弄する。時折《キャッツ・アイ》で兵士達の同士討ちを誘発し、混乱が収まらないようにしている。
そして、遂に香織達は搬入口にたどり着く。
門は固く閉ざされている。
当初の予定では眠らせた門番から鍵を奪う予定だったが、ここまで騒ぎになってしまったのなら仕方ない。
「壊すしかないかな。ガブモン、テイルモンお願いできる?」
「もちろん! 《プチファイアーフック》!!」
「やっぱり暴力的ね。でも賛成よ! 《ネコパンチ》!!」
ガブモンの炎の拳とテイルモンの爪のが門に放たれる。
まずテイルモンの爪の一撃が門に深い傷をつけた。
小さい体だがテイルモンは成熟期。目測とはいえハジメがベヒモスを位置付けたレベルと同等なのだ。その威力に門は耐えられるはずがなかった。
そこに追い打ちで叩き込まれたガブモンの炎纏った拳。打撃だけでなく炎の爆発が門を完全に破壊した。
「やった! ありがとうガブモン、テイルモン!」
香織は二体にお礼を言う。
門が壊されたことに兵士や騎士達が驚く中、香織達は王宮の外に飛び出す。
「そこまでだ!!!!」
そこに一筋の金色の光が立ち塞がった。
「卑劣な魔物ども!! よくも香織を攫おうとしてくれたな!!!!」
輝く聖鎧に、光を放つ聖剣。
「香織!! 今助ける!!」
勇者、天之河光輝が香織達の前に現れた。
光輝は夕食後、雫の部屋に訪れると愛子と雫に何があったのか尋ねた。そこで香織がハジメを探しに行ったと聞き、愛子と雫が制止するのも聞かずに飛び出した。勇者のスペックを全開にしながら王宮を駆け回り、この騒ぎに気が付いた。そして、状況と香織の傍にいる二体のデジモンを見て、香織が二体に攫われたと判断。割り込んできたのだ。
「万翔羽ばたき、天へと至れ──〝天翔閃〟!!」
聖剣を振るい、光の斬撃を飛ばす光輝。その狙いはガブモンとテイルモンだった。
「守護の光をここに──〝光絶〟!!」
咄嗟に割り込み、初級の光属性防御魔法を張る香織。
勇者の攻撃を防ぐには弱い障壁だったが、香織は展開した障壁を斜めに構えた。
「くっ、ああっ!?」
途轍もない衝撃だったが、斜めに構えたことで軌道を逸らすことができた。香織は倒れこむが、怪我はない。
「香織!? なんで危ないことを……。はっ、そうかその魔物たちに操られて盾にされたんだな!!」
光輝は香織の行動に驚き訝しむが、すぐにそれがガブモンとテイルモンに操られたからだと結論を出し、二体への敵意を高める。
「違う! 私は操られてもいないし、ガブモンとテイルモンは敵じゃない!」
「香織をよくもおっ!!」
香織が否定するが、光輝は耳も貸さずにガブモンとテイルモンに斬りかかる。
「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け──〝光刃〟!」
聖剣に光の刃を付与し、威力を向上させる魔法を使う光輝。香織が傍にいるため、近接戦闘用の魔法に切り替えた。
その刃の向かう先は──ガブモンだった。
「ぐっ」
その場を飛びのくことで躱すが、切っ先が掠ってしまい、痛みが走る。
「痛っ!? 俺の毛皮が」
ただの剣ならば弾くガブモンの毛皮も、伝説級のアーティファクトである聖剣に魔法が付与された攻撃は防げなかった。ガブモンの左肩が毛皮ごとぱっくりと裂け、そこから血が流れている。
「喋っただと? お前は一体なんだ? まさかお前が魔人族か!」
ガブモンがしゃべったことで光輝は魔物ではないのかと思った光輝。そして人間族を脅かす魔人族だと決めつける。
流石にそれには我慢できなかったガブモンが怒りを露わにする。
「違う! 俺はガブモン。デジモンだ!!」
「デジモンだと!?」
デジモン。その言葉に光輝はずっと心の中にあった怒りが爆発した。
六年前、香織と雫を、地球までも危険にさらした存在。
なのに香織と雫はデジモンに興味を持ち、のめりこみ始めてしまった。
光輝は二人に危険なものに近づいてほしくなくて、必死に説得した。しかし二人は光輝の言葉を聞き入れず、南雲ハジメというデジタル技術に傾倒する男と一緒にいるようになってしまった。
デジモンが現れてから光輝の大切なものがおかしくなってしまった。
というのが光輝の感じていることであった。
「あの時は子供だった。力もなかった。でも今の俺は──デジモンでも負けない!!」
「はぁ? お前何を言っているんだ!?」
脈絡のない光輝の言葉にガブモンが呆気にとられる。
ガブモンの様子に構わず、光輝はガブモンに攻撃を加えようとする。
「いい加減にやめてよ!!」
その前に香織が割り込んだ。ガブモンを庇うように手を広げる。
「なっ!? 香織ッ」
光輝は香織に聖剣が当たらないように咄嗟に攻撃を止める。
「香織そこを退くんだ。いや、操られているんだったな。すぐにそいつを倒して開放してあげ」
「この大馬鹿!!」
「ぐおはっ!??」
香織は光輝を殴り飛ばす。強化魔法の効果は継続していたため、スペックの高い勇者である光輝でもダメージを受けた。
「何が操られている、開放するなのよ! 私は操られてもいないし、連れ去られていない! 今ここで門を壊してもらって、王宮から出ていこうとしているのは私の意思! 私の決意! 私の決心! 私はここを出て必ずハジメ君を見つける!」
「あ、操られていないならなんで? 南雲は死んだんだし、生きていても裏切り者なんだ。いくら優しい香織でもそこまでする必要ないんだ。死ぬかもしれないんだぞ!! 頭のいい香織ならそのことがわからないはずがない。だから今の香織は操られているんだ!!」
「……きだから」
「え?」
小さく呟かれた言葉。聞こえなかった光輝が思わず聞き返すと、香織は光輝を睨みつけながらもう一度、今度は大きな声で叫んだ。
「私は! 南雲ハジメ君が!! 大好きだからだよ!!! 愛しているからだよ!!!!」
夜の王宮に香織の愛の宣言が響いた。
「え?」
「好きだから! 大好きだから! 馬鹿なことだってできる! 頭が悪い選択だって、私がハジメ君と一緒にいたいって、心からやりたいと思ったことは、何度だって選んで、何度だって飛び込むんだ!! それが私のハジメ君への──愛だ!!」
あまりに支離滅裂で、まとまりがなかったけれど、そこに込められた深い愛情は全員に伝わった。
混乱を収め立て直した兵士と騎士達にも、騒ぎを聞きつけ集まった使用人にも、ランデルにも、光輝にも、ガブモンにも、そして──テイルモンにも。
そして、香織の愛の言葉に呼応するように天空から一条の光がその場に降り注いできた。
「え?」
光は──ガブモンに注がれた。
「この光は、う、ああああああああああ!」
光の中でガブモンは自身の力が巨大になっていくのを感じる。この感覚は六年前、何度も感じた感覚だった。そう、
──MATRIX XEVOLUTION──
進化の力だ!
「ガブモンX進化!!」
光の中でガブモンのデータが分解され、再構成される。
かつて香織も見たことのあるガルルモンへと変わり、さらにデータが分解・再構成される。
ガルルモンの姿が二倍近く発達し、二足歩行できるようになる。
体格は格闘戦に優れたことを示すようにパワフルになり、動きを阻害しないようにクロンデジゾイドで作られた薄手の武具を装着する。
背中には俊敏性を補う機動装備「サジタリウス」が装備され、八つの光の翼が展開される。
これこそガブモンが完全体に進化した姿。
攻守のバランスに優れた戦闘のスペシャリストであり、かつてハジメの危機をその身を盾にして守った頼もしい獣人型デジモン。
「ワーガルルモンX!!!」
天空に向かって咆哮を上げるワーガルルモンの姿に、その場の全員が圧倒された。
「これがテイマーによる進化なのか……」
「今の光、もしかして……ハジメ君?」
テイルモンが初めて見たガブモンの進化に感嘆の言葉を漏らし、香織がガブモンを進化させた光にハジメの存在を感じた。
「香織の言うとおりだ。この進化は、ハジメの力だ」
ワーガルルモンが香織の言葉を肯定する。
「そして今ならわかる。ハジメは今も生きている」
ワーガルルモンは胸を押さえながら言う。
テイマーのパートナーデジモンは完全体まで進化すると、テイマーとの繋がりが強くなる。例えば、デジモンが受けたダメージがテイマーにも伝わったり、テイマーの気勢がデジモンの力を増大させたりする。
今、ワーガルルモンはその繋がりからハジメの生存を確信した。だが、
「だが、今ハジメは途轍もない苦しみに苛まれている」
「そんな!?」
「今ならハジメの場所もわかる。──どうする香織?」
「聞くまでもないよ。私も連れて行って!」
ワーガルルモンの問いにやはり即答する香織。だがそれをさせないと立ち上がるものがいた。
「だめだ……行ってはダメだ香織。南雲が生きているなんて、そのデジモンのウソに決まっているじゃないか。デジモンなんて危険な奴について行っちゃだめなんだ。俺が絶対守る。この世界を救って、皆を家に帰すから。俺を信じてくれ!! うおおおおおッッ!!」
立ち上がった光輝は再びデジモン、ワーガルルモンに攻撃を仕掛ける。
振り上げた聖剣には〝光刃〟の光が宿っており、ガブモンの強靭な毛皮さえも斬り裂いた攻撃だ。しかし──。
「フンッ」
左腕で受け止めたワーガルルモンには傷一つつけられなかったが。
「何ッ!?」
「クロンデジゾイドの防具にそんな攻撃は効かない」
クロンデジゾイド。それはデジタルワールドに存在する仮想金属で、クロンデジゾイドメタルと生物データを配合してできた合金であり、超硬度の硬さと生物の滑らかさを併せ持つ。デジモンの武具やサイボーグ型デジモンの体のパーツにまれに使われるこの金属を傷つけるのは困難で、例え勇者の聖剣でも不可能なのだ。
攻撃をはじかれた光輝は慌てて距離を取る。そんな光輝に香織が前に出て話しかける。
「ねえ、天之河君。さっきの言葉本気なの?」
「え? も、もちろん本気だとも! だから安心してそこから離れるんだ! 今の俺の〝神威〟ならそこのデジモンだって必ず倒せる!!」
「ふーん……」
光輝の返事を聞いた香織は光輝にとても冷たい目を向ける。
「嘘つき」
「え?」
香織の言葉を理解できなかった光輝が呆ける。
「ハジメ君は死んだって言ったくせに、皆は無事に帰すって言うなんて。嘘つきだね」
「え? ……あ!」
「それともハジメ君は、みんなの中には含まれないっていうことなのかな?」
「そ、それは……。だ、だってあいつは裏切り者」
「断定されていない。可能性だけの不確定な噂。それで全部を決めつけるんだね。──やっぱり信用できないよ。天之河君は」
その言葉を示すように、光輝に背を向ける香織。
逆にその香織の前にはワーガルルモンと、テイルモンがいた。
「ハジメ君を助けに連れて行って」
「ちょっと待って香織」
ワーガルルモンと一緒に行こうとする香織にテイルモンが話しかける。
「何? テイルモン」
「聞きたいことがある。今ここで」
「……うん。いいよ」
「状況は変わった。ガブモンがワーガルルモンに進化した今なら、この包囲を突破してハジメという人間を助けに行ける」
テイルモンの言葉を香織は静かに聞く。
その間、光輝や兵士たちが隙を窺っているが、ワーガルルモンの威圧感と鋭い眼光、勇者の剣を無傷で跳ね返したことから動けない。
「そしてそれに香織が付いていく必要はほぼなくなった。ワーガルルモンなら究極体が出てこない限りどんな危機も蹴散らせる。テイマーと合流できれば力は十二分に振るえる。香織が付いていかなくても問題ないだろう。それでも行くのか?」
「もちろんだよ」
またも即答する香織。テイルモンもそのことが分かっていたのか、驚かない。むしろその顔には笑みが浮かぶ。
「それはさっき言った「愛しているから」か?」
「そうだよ」
「──そうか。確かめるまでもなかったか」
香織の言葉にテイルモンは満足そうに頷くと、その小さな右手を差し出す。
「白崎香織。私のテイマーになってくれないか?」
「え? 私?」
テイルモンの言葉に、香織は驚き自分を指さす。
「ああ。昨日会った時からあなたのことが気になっていた。そしてさっき見たテイマーとデジモンの、進化さえ引き起こす絆を結ぶならあなたしかいないと思った。不確かな愛という感情のために、命の危機にさえも飛び込む思いっきりの良さ。求めるものをあきらめない強い意志。あなたなら私が知りたかった人間の強さを見せてくれると確信した。私のテイマーになってくれ」
いつかハジメが言っていた。テイマーとデジモンの出会いに偶然はない。どんなに偶然に思えてもその出会いは必然なのだと。なら香織とテイルモンの出会いもまた、必然だったのだ。
香織もしゃがみ込み、テイルモンの手を握る。
「私こそ。よろしくね、テイルモン。私のパートナー」
「ああ。香織。私のテイマー」
その時、空中から光の玉が現れ二人の間に降りてくる。
「これは?」
「その光を掴むんだ二人とも」
ワーガルルモンの言葉に従い香織とテイルモンが手を伸ばす。すると光の中からピンクのカラーリングに金色の縁取りのデジヴァイスが現れた。
「デジヴァイス!」
「私たちのなのか?」
「そうだ。それが君たちのデジヴァイス。絆の証だ」
ワーガルルモンの言葉に香織とテイルモンは顔を綻ばせ笑い合う。
「なんだよ、それ。お前たち香織に何をしたんだ!!」
二人の様子を受け入れられない光輝が気炎を上げる。香織のハジメへの愛の告白に、自分が手も足も出ない存在。そしてデジモンと絆を結んだ香織。それらの光輝の価値観を否定する出来事の連続に冷静さを失った彼は暴挙に出てしまう。
香織がいるのに聖剣に魔力を込め始める。まるで目の前の現実を消し去ろうとする様に。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ。神の息吹よ。全ての暗雲を吹き払い、 この世を聖浄で満たしたまえ!!」
その詠唱は光輝の最強魔法〝神威〟。ワーガルルモンが香織とテイルモンを守るように前に出る。
だが、香織とテイルモンはワーガルルモンの前に出た。
「香織?」
「行くよ、テイルモン」
「香織。私に力を!」
香織は懐からカードデックを取り出すと、そこから瞬時に一枚のカードを選び取る。
そしてそのカードとアークを構える。
「神の慈悲よ。この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!!」
「カードスラッシュ!」
光輝の詠唱が完了する。光輝はあのデジモン達が香織を利用するために守るだろうとご都合解釈をしてしまい、魔法を放ってしまった。
もっとも、香織はただ守られるだけの女の子でいるつもりはなかった。
この一撃は自分とテイルモンが受けきる。そうすることでこのハイリヒ王国への決別になると。
「〝神威〟!!!」
光属性の極光の砲撃に対し、テイルモンが飛び出す。
「《ブレイブシールド》!!」
「はぁっ!」
テイルモンの両腕に不釣り合いな大きさの、オレンジ色の盾が現れる。そして砲撃を受け止める。
それは真の勇者に目覚めたものが進化すると言われる究極体デジモン、ウォーグレイモンが背中に装備している最高硬度の盾《ブレイブシールド》。
ワーガルルモンの防具と同じクロンデジゾイドでできた盾は、光輝の〝神威〟を受けてもびくともしなかった。しかし、テイルモンの体格では盾を支えきれず押され始める。
「テイルモン!」
「かお、りぃ」
それを香織が一緒になって支える。
「一緒に行くよ! どこまでも!!」
「ああ! 行こう、どこまでも!!」
「「ハアアアアアアアッ!!!」」
二人の意思が一つになる。そして〝神威〟による砲撃を、耐えきった!
《ブレイブシールド》が消滅し、香織とテイルモンは荒い息をつく。
「はぁはぁ。……やったね、テイルモン」
「ああ。ありがとう、香織」
香織とテイルモンの姿に光輝と兵士達は呆ける。人間と魔物のような生き物が協力して、勇者の攻撃を防いだ光景は、異種族への差別が当たり前のトータスでは信じられないものだった。
「さあ、今度こそ行こう。テイルモン。ワーガルルモン」
「ああ。いつでもいける」
「行こう。ハジメのところに」
ワーガルルモンが背中のサジタリウスを広げる。
香織は《ブレイブシールド》とは別のカードを取り出す。
「カードスラッシュ!」
(これはハジメ君の元へ行く私たちの翼。テイルモンに新しい翼を)
「光のデジメンタル!! デジメンタルアーップ!!」
──ARMOUR EVOLUTION──
スラッシュされたカードの情報を読み込んだデジヴァイスから、白銀の光が放たれる。光の中から白銀の物体が現れる。
その物体──光の元素の力が込められた進化を促進させる古代のパワーアップアイテム、デジメンタルがテイルモンと一つに重なる。
「テイルモン! アーマー進化!!」
光のデジメンタルのパワーを受け、テイルモンは進化していく。
手足は伸び、背中には純白の翼が生える。
両腕と胸、顔にはデジメンタルから生まれた鎧が装着される。
光のデジメンタルが持つ光の力を身に着け、闇を浄化する能力を得たテイルモンの新たな姿。デジメンタルで進化した特殊な世代、アーマー体の聖獣型デジモン。
「微笑みの光!ネフェルティモン!!」
闇夜に輝く神々しい光のデジモン。その姿に周囲の兵士と騎士は思わず見とれてしまう。
その隙に香織はネフェルティモンに跨ろうとする。
「はっ、行かせるか!!」
それを見て光輝がまたまた攻撃しようとするが、
「もう邪魔をするな」
ワーガルルモンが瞬時に光輝の前に移動。軽い蹴りを放つ。
もっとも、軽いとはいえ完全体の放つ蹴りだ。その威力はベヒモスの全力攻撃以上だ。
「ぐわああああああああッッ!!!!!???」
故にチートなステータスを持つ勇者の光輝でも耐えきれず、今まで受けたことのない威力に光輝は王宮の庭の端まで吹き飛ばされていった。兵士と騎士たちは勇者があっさり負けたことに動揺する。
光輝が吹き飛ばされた方を見ながら、香織は一度目を伏せるとネフェルティモンに跨る。
「カオリン!」
「白崎さん!」
そこに騒ぎを聞きつけた鈴や優花たち、地球から召喚された生徒達が現れた。
その後ろには雫に、彼女に肩を貸している龍太郎と愛子がいる。
彼らを、特に雫を見ながら香織は一言伝える。
「行ってきます!!」
香織の言葉と共にワーガルルモンはサジタリウスで、ネフェルティモンは翼で飛び上がった。
二体は城壁を飛び越え、大通りを低空飛行で進む。そして王都の入り口である門が見えるとワーガルルモンはサジタリウスの二連レーザー砲《アルナスショット》を構え、ネフェルティモンは額の飾りにエネルギーを高める。
「撃ち抜く! 《アルナスショット》!!」
「《カースオブクイーン》!!」
サジタリウスから放たれたレーザー砲撃と赤い光線が門を破壊する。そこから二体は王都を飛び出した。
ハジメとの繋がりを感じるワーガルルモンを先頭に、二体はホルアドに向かって飛んで行った。
(ん? 何?)
その時、香織は一瞬、闇の中に黒い塔のようなものを見た。
ちょっと光輝をやらかしすぎたかな?もしかしたら神威を撃つところは少し書き直すかもしれません。
〇デジモン紹介
ワーガルルモン(X抗体)
レベル;完全体
タイプ:獣人型
属性:ワクチン
ガルルモンが進化して二足歩行ができるようになった獣人型デジモン。X抗体により覚醒したワーガルルモンは二倍近くに体格が発達しており、繰り出す豪快なキック《円月蹴り》と《ガルルキック》は重量級デジモンでも一撃で吹き飛ばすほどのパワーを持つ剛脚の戦士である。
身に纏うクロンデジゾイドの武具は身を守ると同時に、攻撃力を飛躍的に上昇させた。
背中には二足歩行になることで失った俊敏性を補う機動装備「サジタリウス」が装備されており、飛行能力と遠距離攻撃《アルナスショット》、ビーム刃を飛ばす《カウスラッガー》を得た。
攻守に優れたバランスの取れた戦闘のスペシャリストに進化したワーガルルモンは、デジタルワールドを一人で旅したハジメの強い味方だった。
必殺技は両腕の鋭い鉤爪で相手を切り裂く《カイザーネイル》。
次回予告は少しお休みです。書きダメの時間が取れなかったため内容が変わるかもしれないので。
あと予定している内容で次話予告したらちょっとネタバレが過ぎる気がするのも理由の一つです。遊戯王の「城之内死す」並みの次話予告になりそう。
そんな次話もお楽しみに。