ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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感想・評価ありがとうございます。

お待たせいたしました。

遅れた理由は皆さんが大好きなあの子の場面を挿入したら思ったよりも筆が乗ったためまとめるのに手間取ったからです。

満足していただけるか不安ですが、この小説では彼女はこんな感じで行こうと思います。

では、どうぞ。



12話 再会を目指して 奈落突入!

 香織が王都から脱走した翌日。

 王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 破壊された王宮と王都の門。

 勇者すらも歯牙にかけない強さを持つ魔物のような生き物──デジモン。

 そして、神の使徒の一人であり強力な治癒師の白崎香織の離反。

 事態を把握しようにも、デジモンに関する知識など王宮の人々が持っているはずもないのでままならない。現場を見ていた唯一の王族であるランデルは、香織にほとんど無視され、他の男への愛の宣言を聞いたことで茫然自失になっていた。

 

 そして、ワーガルルモンに文字通り一蹴された光輝はというと。

 

 吹き飛ばされた光輝は城壁に激突し、深くめり込んでいた。当然意識は完全に失っており、急いで王宮の治療院に運び込まれ、王宮の治癒師達による懸命な治療が施された。

 聖鎧で守られていたため致命傷になる傷はなかったが、蹴りを防いだ両腕は粉砕骨折しており、鋤骨も半分は折れている。もしもワーガルルモンの手加減と勇者のスペックに聖鎧が無ければ内臓破裂を負っていただろう。

 王宮の者たちは光輝の容態を聞き、勇者へそこまでの傷を負わせたワーガルルモンの力に恐怖した。もしもワーガルルモンよりさらに強い究極体デジモンの存在を知ったら、どうなるのだろう? 

 

 夜通しの治療の甲斐もあり、傷が癒えた光輝は治療院の一室、特別な患者専用の病室のベッドの上で大事を取って横になっていた。しかし、癒えた身体とは裏腹に、その内心は自分の力が通じない相手、思い通りにならない現実への疑問で埋め尽くされていた。

 

(嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。俺が負けるなんて。勇者なのに、力を得たのに、訓練だってしたのに、正しいことしかしていないのに。なんでなんでなんで)

 

 答えの出ない疑問。それは途轍もない敗北感と無力感を生み出し、心を雁字搦めに縛り、動かせるはずの体も動けなくする。

 それほどまでの衝撃的だった。

 

「なんで、香織が離れるんだ。南雲を、愛しているなんて言うんだッ」

 

 香織が自分の元を離れたことが。その理由が自分以外の少年を愛しているからだということが。

 今まではすれ違いから少し疎遠になっているだけだと思っていたが、あそこまではっきりと断言されては病気レベルで鈍感な光輝でも否定できなかった。

 香織の心が自分に全く向いていないということが、光輝の心を思った以上に深く傷つけていた。

 それはかつてハジメに感じた敗北感や屈辱よりも光輝を打ちのめしていた。

 そんな光輝のベッドの傍に、誰かがやってきた。そしてそっと光輝の顔を覗き込む。

 目を向けた光輝は覗き込んできた相手が誰かすぐにわかった。

 

「恵里?」

「うん。そうだよ」

 

 少女、中村恵理はにこりと笑う。華やかさはないが慎ましい、彼女のイメージ通りの可愛らしい笑みだった。

 

「光輝君のお見舞いに来たんだ。もう目が覚めたなんて流石勇者だね」

「ああ。もう大丈夫だ」

 

 光輝は横になったまま恵里と話をする。起き上がろうとしたのだが、無理はしないでと恵里に言われそれに甘えることにした。

 

「香織は?」

「いないよ。あの後デジモンに乗って飛んで行っちゃった。多分オルクス大迷宮だね。南雲君を探しに行ったんだよ」

「そんなッ。オルクス大迷宮に行くなんて危険だ」

 

 光輝はそういうがすぐに思いなおす。自分を一蹴したデジモンが一緒なのだ。危険なはずがない。だが、

 

「光輝君の言うとおりだよ。オルクス大迷宮は危険だね」

 

 恵里の口から出てきたのは、光輝の言葉を肯定する言葉だった。

 

「あ、ああ。でもあれだけ強い、くっ、デジモンがいるなら」

「でもトラップとかあるんだし。もしかしたら白崎さんは危ない目に遭うかもしれないね」

 

 デジモンが強いから大丈夫、ということを認められない光輝は苦しそうに言うが、返された恵里の言葉に確かにと思った。いくら強くても予想外のトラップで危険に陥るのはあり得る話だ。

 光輝はそのあとも恵里と話をした。

 

「香織が危険な目に遭っているかもしれない」

「白崎さんの身の安全を考える光輝君は正しいよ。なら立ち上がらなきゃ」

「香織を守れるようになりたい」

「白崎さんを守りたいと思う光輝君は正しいよ。なら今より強くならなきゃ」

「デジモンよりも、強くなりたい」

「強くなりたい向上心を持つ光輝君は正しいよ。光輝君のステータスはまだまだ伸びるんだから、もっと頑張ろう」

 

 恵里は光輝の言葉に全て同意しながら、言葉をかけていく。同意した話題から、それを実現させる可能性のある方法を提示して。すると徐々に光輝の中から先ほどまでの敗北感と無力感が薄れていった。自分の言葉を肯定してくれる恵里の存在が、失いかけていた炎を灯し始めたのだ。彼の持つ、まっすぐすぎる正義感と激しい思い込みという炎を。

 

 そして最後に、光輝は心の中で一番強い思いを吐き出し始めた。

 

「……なぜ、南雲なんだ。勉強はできるかもしれないけれど、それだけだ。運動は俺の方ができるし、香織のことは大切に思っている。香織のためを思って出来るだけのことをして来たのに……。それに、南雲は、裏切り者だ。イシュタルさんが言っていた災厄の力を持っていて、皆にミサイルを撃ってきた危険な奴なんだ。デジモンと同じなんだ。そうだよデジモンだ。あのデジモンが香織に何かしたんだ。そうに違いない。きっとあのデジモン達は南雲の手先なんだ。デジタル技術で表彰されていたあいつならありえる! きっとあのデジモン達に洗脳されてあんなことを言ったんだ!」

 

 光輝はさもこれこそが真実であると断言するが、証拠も確証もない半ば妄想に近い内容だった。

 これは光輝の悪癖であり、不都合な事態に直面すると他人に責任転嫁して自分の行いを正当化する「ご都合解釈」だ。

 決意を固めた光輝は体を起こす。

 

「俺は強くなる。今までの俺じゃない。もっと強い俺になって!! そして香織を必ずデジモンから、南雲の手から解放する!!」

 

 香織の愛も決意も、デジモンの強さと洗脳、そしてその後ろにいる裏切り者のハジメのせいだと断じていく。

 

 その様子を恵里は満面の笑みを浮かべて眺めていた。

 

 

 

「ありがとう恵里。俺のやるべきことがわかったよ」

 

 そう言うと光輝は病室から出ていった。おそらく訓練に行ったのだろう。

 恵里はそれを見送ると、しばらく一人でいた。その姿はいつも通り大人しいものだったが、おもむろに立ち上がると病室のドアをぴったりと閉め、窓のカーテンを閉じた。

 薄暗くなった病室の中で、恵里はさっきまで光輝が寝ていたベッドの上に体を横たえた。

 

 そして、おもむろに眼鏡をはずして少し離れたところに置くと、爆発した。

 

「ギャハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!! なんだあれなんだあれなんだあれ!!??!!?? ぶっざま見苦しいかっこ悪いアハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

 お腹を抱え、ベッドの上を転げまわる恵里。

 

「ちょっと言葉を肯定しただけで!! ちょっと同意しただけで!! あそこまで解釈するとか!!! 異世界に来ても変わらないとかアハハハハハハッッ!!!! 誰も全部肯定してないのにバアアアアアァァッカッッ」

 

 恵里の言う通り、確かに恵里は光輝の言葉を肯定していた。しかしそれは一部だけであり、どれも光輝の言葉を全部肯定していない。特に最後の光輝の「ご都合解釈」については、恵里は微笑んだだけで何も同意していない。

 

「クククッ。勇者になっても地球とぜんっぜん変わらないなあ。クフッ、流石にあれだけ痛めつけられたら立ち直れないと思ったけど、杞憂だったよ。どこまでも愚かで無様だね光輝君。ちょっと言葉を肯定したら思い込みを信じて、忠告や苦情、都合の悪い現実を切り捨てる。その調子で教会と王国の理想通りの勇者になって僕たちの身を守ってね♪」

 

 ひとしきり光輝のことをあざ笑う恵里。

 

 実は光輝の悪癖である「ご都合解釈」。それを助長してきたのは恵里だった。光輝の欠点である「ご都合解釈」だが、今までそれを悪いことだと指摘されなかったことがないわけではない。特に彼の家族や通っていた八重樫道場の師範達は、彼の「ご都合解釈」が問題を起こすたびに彼を叱り忠告してきた。光輝は時たまその言葉を受けて、我が身を顧みようとした。

 もしもそこで自分の正しさを疑えるようになれば、光輝は「ご都合解釈」を止めて別の道を歩んでいただろう。

 

 しかし、そこで恵里が光輝の「ご都合解釈」を正しいことだと肯定してきたのだ。ただし、一部の正しいことだけを肯定して。すると光輝は全てが正しいのだと思い込み、「ご都合解釈」を止めなかったのだ。

 

 笑い終えた恵里は大の字になって天井を眺める。

 

「あーもう。昨日のブレイブシールドの時だって笑い転げたのに。あれわかっていてやったのなら白崎さんもいい性格しているよね~」

 

 ブレイブシールドは、真の勇者に目覚めたデジモンが進化したウォーグレイモンの盾。それが勇者の攻撃を跳ねのけた。事情を知る恵里からすれば、光輝は勇者に相応しくないと揶揄しているように思えた。

 

「それにしても、デジモンが来た、か」

 

 徐に恵里は懐に手を入れて何かを取り出す。

 

「……君もトータスに来ているのかい? 来ているのなら早く僕のところに来てよ」

 

 それは黒のカラーリングに金色の縁取りのデジヴァイス。デジモンテイマーの証。

 そう、中村恵理はデジモンテイマーだったのだ。デジモンに悪感情を持っていないのは当然だ。六年前にデジモンと出会い、絶望と孤独から救われた。

 

「イルちゃん」

 

 チュッとデジヴァイスにキスをして、パートナーデジモンの渾名を愛おし気に呟いた。

 その時の恵里の顔に浮かんでいたのは、先ほどとは全く違う穏やかな笑みだった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 光輝が再起するより少し時間は巻き戻る。

 王都を飛び立った香織達はワーガルルモンの先導でホルアドに辿り着いていた。時刻は夜中のため、町中に人はいない。

 

「あれが迷宮の入り口!」

「分かった。突撃するぞ!」

「中は私が案内する!」

 

 香織の指さす先、オルクス大迷宮への入場ゲートを見つけたワーガルルモン達は高度を下げる。

 今度はネフェルティモンが前に出るとそのまま入場ゲートへと突入した。後にワーガルルモンが続く。

 少し施設が壊れてしまったが、勘弁してくださいと思いながら香織達は迷宮を進む。

 

「そこを右! 下への階段があるよ!」

「わかった」

 

 香織の指示にネフェルティモンが従う。香織が10日間、ハジメを救うために必死に調べたことが実を結んだ。

 

 途中、魔物が現れて襲い掛かって来るが、ワーガルルモンを見るとすぐに逃げ出した。

 知性がない魔物といえども、敵わない強者には襲い掛からないようだ。

 

 やがて香織達は運命の分かれ道となった20階層に辿り着いた。

 香織は例の転移トラップまで二体を案内する。

 

「香織。これがそうなのか?」

「うん。このグランツ鉱石が65階層への転移トラップになっているの」

 

 ワーガルルモンの問いに香織が答える。

 一行の目の前には、転移トラップのトリガーになっていたグランツ鉱石があった。その周りには調査のために来た教会の魔法部隊の調査跡があった。

 

「じゃあ行くよ」

「頼む」

「気を付けて香織」

 

 香織がグランツ鉱石に触れる。するとあの時と同じように鉱石が光り、魔法陣が展開される。

 そして香織達は65階層に転移させられた。

 

「これが転移か」

「まるで光の柱に巻き込まれた時みたいね」

 

 光に包まれた次の瞬間には全く違う場所、奈落にかかる石橋の上にいた。ワーガルルモンとネフェルティモンはデジタルワールドにある、光の柱というものを思い出す。

 それはデジタルワールドから見たリアルワールドから伸びてくる光の柱のことで、この柱に飲み込まれるとデジタルワールドのどこかにランダムに飛ばされるという厄介なものだ。六年前にデジタルワールドを旅したハジメ達もこの光の柱のランダム転移に巻き込まれ、苦労した。特にルキが。

 

 それはさておき。65階層の石橋は香織達が飛ばされたときに崩落したはずだが、今は完全に修復されている。

 迷宮には崩壊したところが修復される場合があるらしい。つまり、石橋が元通りになっている事はあり得るのだ。ならば当然、石橋以外も修復されている可能性がある。

 

「二人とももうすぐ来るよ」

 

 香織が二人に警戒を促す。すると石橋の両側に魔法陣が出現する。

 片方からは無数のトラウムソルジャーが、もう片方からはベヒモスが現れた。

 

「グオオオオオオッッ!!!」

 

 あの時と同じように咆哮を上げるベヒモス。

 

「あれがベヒモスか?」

「うん。そうだよ」

「そうか」

 

 ワーガルルモンは香織に確認を取ると、ベヒモスの方へ歩みを進める。

 

「ネフェルティモン。そっちの骨どもを頼む」

「わかった」

「ワーガルルモン……」

 

 ワーガルルモンは静かにベヒモスに近づいていく。

 

「こんなことをしている暇はない。一刻も早くハジメの所に行かなくちゃならない。だけど」

 

 ベヒモスがワーガルルモンに向かって突進してくる。騎士団の精鋭が三人がかりで展開した〝聖絶〟でも、受け止めるのが精一杯だった攻撃。もっとも、

 

「落とし前はつけさせてもらう」

 

 ワーガルルモンは片腕でベヒモスの角を掴み、攻撃を受け止める。その衝撃でワーガルルモンの足元の橋が砕けるが、微動だにしない。

 ベヒモスはその事実に混乱し、さらに力を込めてワーガルルモンを弾き飛ばそうとするが、ワーガルルモンの腕力に抑え込まれる。

 それならばと頭部を赤熱化させるが、ワーガルルモンは腕の力を微塵も緩めない。逆にさらに力を込めていき、

 

「フンッ」

「ギャウッ!?」

 

 ベヒモスの角を根元からぽっきりとへし折る。その痛みにベヒモスは犬のような悲鳴を上げて怯む。

 ワーガルルモンはへし折った角を谷底に捨てると両腕の鋭い鉤爪を構える。

 

「《カイザーネイル》!!」

 

 背中のサジタリウスを展開し、その推進力と脚力を使い一瞬でベヒモスに肉薄。そのまま腕を大きく振るい、鉤爪でベヒモスを斬り裂いた。

 

「ギャアアアッッ!!??」

 

 断末魔を上げたベヒモスの体はバラバラに斬り裂かれ奈良の底に消えていった。

 

 一方、香織とネフェルティモンはトラウムソルジャー達を相手にしていた。

 

「魔法陣を破壊して!」

「《カースオブクイーン》!」

 

 香織の指示にネフェルティモンは《カースオブクイーン》を魔法陣に向けて発射。破壊する。

 これでトラウムソルジャーは追加で召喚されない。

 

「あとは一気に行くよ! カードスラッシュ! 強化プラグインW!!」

「《ロゼッタストーン》!!」

 

 ネフェルティモンの背中からデジモンの文字、デジ文字が刻まれた古代碑文の巨石が召喚される。さらに香織がスラッシュした攻撃力強化のカードの力が、巨石をさらに巨大にする。

 ネフェルティモンは巨石をトラウムソルジャー達へ放つ。トラウムソルジャー達はそのまま巨石にまとめて潰された。

 テイマーになったばかりの香織だが、戦い方が様になっていた。

 

「あの時は必死だったのに。こんなにあっさり。これがデジモンの力……」

 

 香織が呆然と呟く。それにワーガルルモンが答える。

 

「少し違うな。デジモンとテイマーの力だ」

「テイマー……私とネフェルティモンの力なんだ」

 

 少し自分には荷が重いのではないかと香織は思ったが、ネフェルティモンを見て首を振る。

 自分をテイマーに選んでくれたネフェルティモン、もといテイルモンのためにもテイマーとしてしっかりしなくちゃ、と香織は思いなおす。

 

「さあ、行こう」

「おう」

「乗って香織」

 

 ワーガルルモンがサジタリウスで、香織はネフェルティモンに乗って石橋を飛び立つ。そしてワーガルルモンがハジメの気配を辿って奈落を降りていく。

 しばらく降りていくと壁に穴が開き始める。しかもその穴のいくつかから水が噴き出して、別の穴に流れている。

 

「これって」

「もしかしたらハジメはこの水に巻き込まれたのかもしれない」

「それなら生きているのも納得できる」

 

 香織達はハジメの生存の裏付けをしていく。そして、ワーガルルモンは一つの穴の前で下降を止める。

 

「ここだ。この穴の先にハジメを感じる」

「じゃあ!」

 

 香織はその言葉に歓喜する。ようやくハジメへと繋がる道が目の前に現れたのだ。

 

「ここを通るならはぐれないようにしないと」

 

 ネフェルティモンが穴を見ながらそういう。

 確かにこの先の穴が一本道とは限らない。ハジメの場所がわかるワーガルルモンとはぐれてしまえば迷ってしまう。

 それに水が流れていることから、カードなどの荷物が水で濡れてしまう。

 荷物の中には香織の持ち物以外にも、ハジメのタブレット端末などの持ち物もある。濡れるのはNGだ。

 

「通るにはネフェルティモンがテイルモンに退化して俺が二人を抱えればいい。でも荷物はどうすれば」

「……あ、そうだ」

 

 香織が背負ったバッグにデジヴァイスとカードケースを入れる。そしてそのかばんに向かって杖を構え、呪文を詠唱する。

 

「仇敵へ戒めを──〝封禁〟」

 

 完成した魔法を鞄に向けて放つと鞄を光の檻が包み込む。光属性の中級捕縛魔法〝封禁〟だ。本来は敵を閉じ込めるのだが、今回は鞄を対象に使用。さらにサイズを小型にしたことで隙間のある檻がぴったりと閉じて箱のようになっている。

 

「ちょっと実験。水に近づいてみてネフェルティモン」

「わかったわ」

 

 ネフェルティモンが水に近づくと香織はその水を手で一掬い。それを光に包まれた鞄にかけてみる。

 すると光の檻が水を弾いた。

 

「いけそうだよ!」

「よし。行くぞ!」

 

 ワーガルルモンが両手を伸ばす。

 そこに香織が飛び込みしっかりと掴む。続いてネフェルティモンが光に包まれテイルモンに退化する。そのまま空中で体を捻りワーガルルモンに飛び込む。

 

「待っていてくれ。ハジメ!」

「ハジメ君!」

 

 ワーガルルモンは二人をしっかりと抱え込むと、水の流れの中に飛び込んだ。

 テイマーとのつながりを道標にワーガルルモンは水の中を泳ぎ、香織とテイルモンは必死にしがみつく。

 やがて水は広い空間に流れ込み、ワーガルルモン達は空中に飛び出した。

 ワーガルルモンはそのまま岸辺に着地する。

 

「ここは、やっぱり迷宮の中か。ん?」

 

 キョロキョロと周囲を見回していたワーガルルモンはあるものを見つける。

 それは焼け焦げた地面だ。しかもその周りには魔法陣の跡もある。

 ワーガルルモンの腕から降ろされた香織とテイルモンも見つけ、調べ始める。

 

「そんなに昔の跡じゃないと思う」

「ということはハジメとやらが?」

 

 テイルモンの言葉の確証を得るために、ハジメのパートナーであるワーガルルモンが魔法陣の匂いを嗅ぐ。

 

「間違いない。ハジメの匂いだ」

「やった。だったら急ごう!」

「焦らないの香織。こういう時こそ落ち着くものよ」

 

 迷宮の奥に行こうとする香織をテイルモンが諭す。成りたてのテイマーとパートナーだが、いいコンビのようだ。

 〝封禁〟を解除し、改めて荷物を抱え直す香織。いつでもカードを使えるようにデジヴァイスとカードを腰のベルトに引っ掛け、杖を構える。

 

「二人とも俺が先に進む。ついてきてくれ」

「うん」「ああ」

 

 ワーガルルモンを先頭に進んでいく。

 しばらく進んでいると違和感に気が付いた。

 

「魔物の気配がしない?」

「ワーガルルモンもか?」

「どうしたの?」

 

 デジモン達の様子に香織が声をかける。

 

「ここに来るまで魔物の気配は常にあった。だがここにはそれがないんだ」

「私が感じられないのかと思ったけれど、ワーガルルモンも感じないのなら、ここに魔物はいないのかもしれない」

「でも迷宮なのにそんなことあり得るの?」

 

 香織達は進みながら、そのことが少し気になった。

 だが、進んだ先であるものを見つけたら頭から吹き飛んでしまった。

 

「見て香織!」

「これって、横穴?」

 

 人一人が屈むことで辛うじて入ることのできる小さな横穴。今までの迷宮にはなかったものだ。

 その横穴にワーガルルモンが顔を近づけると、ハッとして顔色を変えた。

 

「ハジメの匂いだ! ここにハジメがいた!」

「本当!?」

「ああ!」

 

 ワーガルルモンの言葉を聞いた香織は、居ても立ってもいられず横穴の中に入っていった。

 

「香織危ない! ……ああ、もう!」

 

 テイルモンが制止の声をかけるが香織は止まらず、テイルモンも後に続く。

 

「……もうハジメはいないって言いたかったんだけど。はぁ」

 

 体の大きさのせいで、横穴には入れないワーガルルモンは溜息を吐いた。

 

 一方、横穴に入った香織とテイルモン。奥に進むと広がっていた。そしてそこには驚くものがあった。

 

「何、これ?」

「光る石?」

 

 壁の窪みに嵌った光る鉱石。それが横穴の中をうっすらと照らしていた。鉱石からは水が流れ出している。

 鉱石の輝きに二人は少し見惚れていたが、すぐに我に返ると中を調べ始めた。

 当然、ハジメの姿がないことはすぐにわかった。しかし、光る鉱石の嵌っている窪みは自然にできたにしては、不自然なほどに綺麗なものだった。

 

「ハジメ君が錬成で作ったのかも」

 

 香織は推測を立てる。そして、光る鉱石を見つめる。

 

「この石、すごい力があるみたいだ」

「すごい力……」

 

 テイルモンの言葉に香織は考える。

 ハジメがいた横穴の中に、錬成で作られた窪みに嵌った光る鉱石。

 もしもハジメならこの鉱石を放置していなくなるだろうか? 

 錬成師にとって鉱石とは掛け替えのないもののはずだ。こんな貴重そうなものを置いて、立ち去るなんて不自然だ。

 持っていけない、何かが起きたのだろうか? 

 

「ちょっと……」

「香織?」

 

 香織は鉱石に手を伸ばすと、窪みに溜まっていた水を一掬い。そのまま口に運んだ。

 

「んっ!?」

「ちょっと! 何しているの!?」

 

 口に含んだ水の飲み込むと、体に力が湧いてきた。しかも魔力も回復するのを感じた。

 そう、香織達が見つけたのは神結晶とそこから流れ落ちる神水だったのだ。

 

「これ凄いよ、テイルモン」

 

 香織は神水の効果を説明する。それを聞いたテイルモンは驚く。

 

「きっとハジメ君もこれを飲んでいたんだ」

 

 少し話し合った結果、二人はこの鉱石と周りの水を持っていくことにした。これから先、何があるかわからないのだ。

 

 横穴から出た二人はワーガルルモンに中の様子を伝える。中の様子と、香織が抱えてきた神結晶の効果を聞き、ハジメが生きている可能性がさらに高まったと三人は話し合った。

 

「先を進もう」

「うん」

「ああ」

 

 神結晶を持っていた布で包み込んでワーガルルモンが背負うと、三人は再び歩き始める。

 

 それからも異様な光景を目にした。

 

 中型犬ほどの大きさの兎や尾が二本ある狼の群れが死体となって、通路一面に散らかっていた。そんな光景がいたる所にあった。

 

 三メートルはある熊が胸を斬り開かれて、壁に埋まっていた。その死体はよく見ると、何かに食い散らかされたかのようだった。

 

 下の下層への階段を見つけたので、下に降りてみるとそこは暗闇に包まれていた。

 もっともワーガルルモン達の嗅覚と鋭敏な感覚は、目に頼ることなく探索することができた。その途中には胴体を食い千切られたトカゲなどの魔物の死体があった。

 この階層でもやはり魔物は現れなかった。

 

 次の階層。そこは一面の銀世界だった。

 

「寒ッ!? ここ氷河期なの!?」

「これは……」

 

 あまりの寒さに体を抱きしめる香織。ワーガルルモンはこの氷に既視感を覚えた。

 

 あとでわかったことだが、この階層は摂氏50度ほどで融解し、摂氏100度で発火するタールのような性質を持つフラム鉱石という鉱石で満たされていた。

 下手をすれば辺り一面が灼熱地獄になるのだが、数日前に訪れた者によって氷漬けにされ、無力化された。

 

 そんなことは知らない香織達。とりあえず先を進んでいく。

 途中、氷の中から引きずり出されたサメのような魔物がいた。これまで見てきた魔物と同じように、食い散らかされていた。

 

 三人はさらに階層を進んだ。

 どこの階層にも魔物は襲ってこず、食い散らかされた死体が転がっていた。

 時々、同じように氷漬けになった階層もあったりした。

 

 そして、水路から辿り着いた階層から10階層下った。ここまで全く戦闘がなかったため、約半日でたどり着けた。階層へ続く階段を降り切ったその時、

 

「ッ!!」

 

 ワーガルルモンの全ての感覚が反応した。まるで欠けていた掛け替えのない片割れを見つけたような衝動が、全身を駆け巡り歓喜を伝えてくる。

 我慢できずにワーガルルモンは香織達を置き去りにして駆けだす。

 

「ワーガルルモン!?」

「どうしたんだ?」

「追いかけてみよう」

 

 香織達も後を追いかける。必死に足を動かすが、驚異的な脚力を持つワーガルルモンには追いつけず、見失いそうになる。

 それでも必死で追いかけていると、ワーガルルモンが通路を曲がったのが見えた。

 香織達も後に続こうとする。だが、

 

 ──ドオオオォォンッッ

 

「ガアアアアッッ!!?」

 

 閃光。爆発。そして吹き飛ばされてきた──ワーガルルモン。

 

「な、ワーガルルモン!?」

「そんな……」

 

 一瞬、香織達は呆然としていた。吹き飛ばされたワーガルルモンは、壁に激突して呻いている。

 それまで圧倒的な力を見せてきたワーガルルモンが、吹き飛ばされたことが信じられない香織達。だが、テイルモンはすぐに我に返ると身構える。完全体のワーガルルモンを吹き飛ばすなど、どんな相手かと警戒を露わにする。

 

「香織。私の後ろに!」

「う、うん」

 

 ワーガルルモンが吹き飛んできた曲がり角の先から、ガシャンガシャンという音がする。十中八九、ワーガルルモンを吹き飛ばした相手だろう。

 一体どんな奴なのかと二人は身構える。

 

 そして、姿を現した。

 

 大きさは人間より一回り大きいほど。全身は鈍色の金属に覆われており、まるでロボットのようだ。

 だが、ただのロボットではない。

 姿はまるで狼のよう。そう、二足歩行の狼のようなロボットだ。頭部の目が赤く発光し、香織達を鋭く捉える。全身には赤い光のラインが走り、まるで血管のようにドクンドクンと脈を打つかのように光っている。

 

 香織はその姿を見て目を見開いた。見た目も違うし色も違う。だが、似ている。

 知らず知らずのうちに、彼女は腰のカードケースへ手を伸ばし、一枚のカードを取り出す。

 

「メタル……ガルルモン……?」

 

 ガトリング砲やビームランチャーもないが、体の姿かたちだけを見るならハジメのメタルガルルモンにそっくりだ。

 

「ハジメ、君なの?」

 

 まさかと思った香織の問いかけに狼は答えない。

 代わりに全身から魔力を迸らせ始める。

 

「ッ!?」

「《キャッツ・アイ》!!」

 

 テイルモンが動きを封じるために眼光を光らせる。

 しかし、狼は止まらない。テイルモンの技が効かない程の力がある証拠だった。

 迸る魔力は紅い稲妻へと変換される。そして、香織とテイルモンに放たれる──。

 

「やめろおおおおおぉぉ!!!」

 

 寸前、ワーガルルモンが狼を殴り飛ばす。

 狼はそのまま壁に激突し、先ほどのワーガルルモンのように壁に埋まる。ワーガルルモンの拳の威力に耐えられなかったのか、鈍色の体に罅が入り砕け散る。

 

 香織は見た。砕けた体の下にあった狼の正体を。

 

「ハジメ、君……」

 

 髪は白くなり、体格は屈強になっているが、その顔を忘れるはずがない。

 あの日、香織達を救うために暗い谷底に消えた最愛の少年だった。

 




サブタイトルはテイマーズ45話から。

・中村恵里
はい、鋭い方は気が付いていたかと思いますが今作では彼女はデジモンテイマーです。しかもハジメ達と同時期になっています。つまり香織の先輩です。
実はこの小説を書くときに決めたハジメ以外のありふれキャラの四人のテイマーの一人でもあります。(一人目は香織です)
いろいろあって光輝に対し原作と全く違う思いを抱いています。これも後々明かしていきます。
彼女をこうした理由は原作通りにしたら片手間に片づけちゃうちょい悪役になってしまいかねないからです。果たして敵か味方か何を考えているのかお楽しみに。
あと作者が眼鏡っ娘好きというのもあります。FGOの推しはマシュです。

・奈落のハジメ
奈落落ちしたハジメはもともと原作と違っていたのにさらに違う感じになりました。装甲を身に纏うってまるでアイ〇ンマンですよね。あれ?ということはキャップの立場にいるのは光輝?
彼の身に何が起きたのかも次回に書いていきたいです。ただありふれの短編みたいなのではないです。


・NGシーン

 ガトリング砲やビームランチャーもないが、体の姿かたちだけを見るならハジメのメタルガルルモンにそっくりだ。

「ハジメ、君なの?」

 まさかと思った香織の問いかけに狼は答えない。

 だが、香織は目を輝かせて歓喜した。

「ハジメ君だよね!顔は見えないけれど体の重心に体幹、仄かにに漂ってくる体臭が間違いなくハジメ君だよ!」
「どんな鼻をしているの香織!?」


面白いんだけど空気がぶち壊されるからやめました。日常ネタはまだはやかったです。


次話はついに再会したハジメ。どうなるのか、お楽しみに。
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