ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る 作:竜羽
ただ予定していた部分までかなり長くなったので初めての前後編に分けます。
では前編をどうぞ。
テイルモンと共に迷宮の通路を走る香織。走りながら香織は自分にできることを必死に考えていた。
(目的はハジメ君を元に戻すこと。ハジメ君は全然正気じゃなかった。ならそうなった原因があるはず。その原因を取り除かないといけない。でもどうやって?)
あのハジメは容赦なく香織達に襲い掛かってきた。理性があるようには思えない。
まるで、魔物のようだった。
人間があんなふうになる原因なんて、香織には見当がつかない。
(ん? 魔物?)
ふと何かが引っ掛かった。
魔物。香織は王宮で学んだ、この世界に存在する魔物という存在の特徴を思い出す。
(人間も普通の動物も関係なく襲い掛かって来る自然災害のような害獣。知性はないけれど人以外で魔法を使える存在。知性が無いのは、人ではないにも関わらず神様からの
王宮で習ったこの世界のことは、結局のところ神様の賛辞になっていたのであまり参考にできないと香織は思っていた。だが、魔法を得たことで知性を無くしたという部分が、どうにも今のハジメに重なると思ったのだ。
(魔物の知性が無いのは魔法を得たからだと仮定すると、ハジメ君が正気を無くしている理由も魔法? もしもそうなら、魔法の力を取り除ければなんとかなる?)
香織の考えている通りなら、彼女にもできることがある。
「テイルモン、ちょっと思いついたことがあるの」
「思いついたこと?」
「うん。試してみたいんだ。だから……」
香織は走りながらテイルモンに作戦を伝える。テイルモンもそれを快諾した。
そして彼女たちは、ハジメとワーガルルモンが戦っているフロアにたどり着いた。
「ハジメ君!! ワーガルルモン!!」
二人が見たのは瓦礫が散乱し、天井や床ボロボロになったフロアとその中心で戦うハジメとワーガルルモンだった。
ワーガルルモンの拳がハジメの鎧を砕き、壁まで吹き飛ばす。しかし、ハジメはすぐに起き上がると周囲の岩を素材に鎧を再構築。咆哮を挙げながら周囲に兵器を生み出し、ワーガルルモンに発射する。
ワーガルルモンはミサイルや銃弾を避けながらハジメに近づくと、もう一度拳を振り上げる。
だが、ハジメはなんとワーガルルモンの拳を避けた。そして、カウンターをするように腹部に殴りかかる。
「ぐぅッ!?」
完全体の耐久力ならばダメージはないはずだが、なぜかワーガルルモンは顔を歪めるとその場を離れる。
ハジメは追撃の兵器を生み出さず、両腕を大きく広げる。
するとそこから魔力が放出され、なんと周囲の地面を引き抜き、巨大な岩として空中に浮かせた。
さらにそこに雷撃が加わり、岩が回転し始める。
次第に回転は速度を上げ、洞窟内に起こるはずのない
「何あれ!? あんなの錬成でもメタルガルルモンの技でもないよ!?」
フロアの入り口からハジメの攻撃を見ていた香織は驚く。
ハジメの話してくれたメタルガルルモンの技でも、この世界に来てからハジメが覚えた錬成の技でも、こんな現象は起こせるはずがない。
これが、この奈落でハジメが身に着けてしまった力の一端なのか。
「オオオアアアアッッッ!!!」
回転と雷撃で威力を増した岩石群をワーガルルモンに放つ。
巻き込まれれば回転によって勢いのついた岩石の質量で押しつぶされ、雷撃で感電し焼き焦がされてしまうだろう。
それに対し、ワーガルルモンは跳躍すると、躊躇いなく嵐に飛び込む。
「《円月蹴り》!!」
雷撃による感電をものともせず、衝撃波を生み出す回し蹴りで岩を粉砕する。そして腕を広げると体を回転させて、
「《カイザーネイル》!!」
嵐を引き裂く斬撃を繰り出した。
岩石を動かしていた力も断ち切られ、周囲に飛び散る。
「はぁはぁ」
着地したワーガルルモンは荒い息を吐く。
すかさずハジメがミサイルを生み出し、ワーガルルモンへ放つ。
今度は避けずにワーガルルモンは両腕でガードして耐えようとする。
「カードスラッシュ! 《高速プラグインH ハイパーアクセル》!」
だがその前に突然割り込んできた影があった。
「テイルモン!?」
「香織もいるぞ!」
香織がスラッシュした高速移動能力を付与するオプションカードの効果で、一瞬で移動してきたテイルモンだ。
「もう一枚! 《ブレイブシールド》!!」
「一緒に支えてくれ!」
「わかった!」
追加でスラッシュされた《ブレイブシールド》のカードの効果で出現した盾。防御力はピカイチだがテイルモンだけでは支えきれないので、ワーガルルモンも盾を掴み、攻撃を受け止める盾を支える。
「このまま香織のところまで下がるぞ。作戦を伝えたい」
「了解だ」
銃撃を盾で防ぎながらワーガルルモンは跳躍。テイルモンと共に香織の居るフロアの入り口まで下がった。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめん。一緒にハジメ君を元に戻そう!」
「ふっ」
香織の言葉に笑みを浮かべるワーガルルモン。
まったく。こんなに良い女の子に思ってもらえるなんて。ハジメも隅におけないものだ。
「手短に、作戦とやらを教えてくれないか? 俺もそろそろ時間がない」
王宮で進化してからここまで戦い続けていたワーガルルモン。苦戦はしていないが、長時間の完全体での活動は疲労が溜まるのだ。先ほど、ハジメのミサイルを避けずに受け止めようとしたのもエネルギーの消耗が激しいからだ。エネルギーが切れて成長期のガブモンに戻ってしまう限界は、刻々と近づいている。
「──それと俺も少しわかったことがある。それも伝えたい」
《ブレイブシールド》の陰に隠れたまま、作戦を話し合う香織達。その間もミサイルや銃撃は飛んでくるため、冷や汗が止まらない。
それでも何とか作戦を決めることができた。
「香織。俺はハジメのパートナーデジモンだ。でも、今から少しの間だけ、香織のパートナーデジモンだ。指示を頼む」
「あなたを信じているわ、香織」
「……二人の信頼、応えてみせるよ。1,2の3──GO!!」
香織の合図とともにワーガルルモンとテイルモンはブレイブシールドの陰から飛び出す。
香織はワーガルルモンの腕の中だ。
ワーガルルモンは先ほどとは違い、ハジメから距離を取りながら様子を見る。
代わりにテイルモンがハジメに向かっていく。
「香織はテイルモンの動きに注意するんだ。ハジメからの攻撃は俺が防ぐ。君に傷1つつけさせない」
「うん!」
後から香織がハジメの攻撃で傷ついたと聞けば、大きく気に病むだろう。ワーガルルモンは香織を守ることに全力を尽くす。
一方、ハジメに向かっていくテイルモン。
彼女に向かってハジメも攻撃を始める。
「カードスラッシュ! 高速プラグインT!!」
再びカードをスラッシュする香織。さっきと同じ高速移動能力を与えるカードだが、少し効果が弱いカードだ。
なぜならテイマーは同じカードを連続で使用できない。一度使ったカードはインターバルをはさむ必要がある。でないとデジヴァイスはカードを受け付けないのだ。
理由はわからないが同じカード効果の重複で、パートナーデジモンに負荷が掛かるからではないかとハジメ達は予想している。そのことを聞いていた香織は慎重にカードを選んでいく。
テイルモンは俊敏に駆け回り、向かってくる攻撃をかわしていく。
そのままハジメに接近。
「《ネコパンチ》!」
必殺技を放つ。しかしハジメは両腕で防ぐ。
技が命中した鎧の腕の部分は砕けてしまうが、ワーガルルモンの攻撃を受けた時のように吹き飛ばされることはなかった。
「ガアアァッ!!」
「くッ、やはり私の力では無理か!」
ハジメは両腕を振るいテイルモンを吹き飛ばす。
テイルモンは空中でくるりと身を翻して着地する。その顔は苦いものだった。
デジモンの必殺技はそのデジモンが出せる最大攻火力だ。それが決定打にならない、というのは勝ち目が薄いということだ。
だが、それは普通のデジモンの場合だ。
香織が一枚のカードをスラッシュする。
「カードスラッシュ! カブテリモン! 《メガブラスター》」
「《メガブラスター》!」
テイルモンが両手を合わせると、そこに雷を纏ったエネルギー弾が生まれる。
昆虫型デジモンのカブテリモンの必殺技だ。テイマーの力でパートナーデジモンは他のデジモンの技も使える。テイマーの技量次第で、パートナーデジモンの力は何倍にもなる。
テイルモンはハジメに近づき、至近距離からエネルギー弾を放つ。
「グウァ!?」
予想外の攻撃をハジメはまともに受けてしまい、体勢が崩れた。
「畳みかけるんだ、香織!」
「カードスラッシュ!」
ワーガルルモンの言葉に、香織はさらにカードを手に取る。
「ティラノモン! 《ファイアーブレス》!!」
「《ファイアー……ブレス》!!」
テイルモンが大きく息を吸い込む。そして口から深紅の炎を吐き出し、ハジメに浴びせる。
基本的なデジモンの代表格と言われるティラノモンの必殺技だ。単純だが、高温の炎による攻撃は強烈だ。
炎の勢いに押されて、ハジメはさらに後退する。
「ワーガルルモンお願い!」
「《アルナスショット》!!」
さらに空中から香織の指示でワーガルルモンが攻撃を加える。
別方向からの攻撃にハジメは体勢を崩す。
(もうハジメ君の体を気遣っている余裕なんてない。ワーガルルモンには無理でも私とテイルモンなら、攻撃できる)
「例えハジメ君を傷つけてでも、やるしかないんだっ!! テイルモン!!」
大好きな人を救うために、攻撃を加えて傷つける。
矛盾する行動に心が悲鳴を上げそうになるのを、声を張り上げて誤魔化す香織。彼女の思いを受けて、テイルモンはその小さな拳を振りかぶる
「カードをスラッシュ! メラモン《バーニングフィスト》!」
「《バーニングフィスト》!!」
紅蓮の炎の体をもつ火炎デジモン、メラモンの力がテイルモンの拳に宿り、熱く燃え上がる。
その拳でテイルモンはハジメを殴りつける。この中でハジメとの関わりがないので遠慮がない。だからこそ、テイルモンはこの役割を引き受けた。
パートナーデジモンであるワーガルルモンでは、どれだけ頭で理解していても全力で戦えない。だが彼を助ける香織の作戦を実行するためには、徹底的に叩きのめさなければいけない。
テイルモンの炎の拳は、先に放っていた《ファイアーブレス》の炎も纏いハジメを打ち抜いた。
だが、ハジメは倒れない。
数歩後退しただけで、ハジメは再び魔力を放出しながら魔法を発動し、武装群を生み出す。
生み出されたミサイルやビームが発射され、テイルモンとワーガルルモンはそれらを必死に避ける。
ここで、ワーガルルモンと戦っていた時とは異なることが起こった。ミサイルやビームが着弾した箇所が凍り付き始めたのだ。
「やっぱり、冷凍攻撃をしてきたッ」
香織はフロアに向かう途中、必死で作戦を考えた。その材料としてこれまで通ってきた迷宮でのことも思い出していた。
いくつかの迷宮のフロアは氷漬けになっていた。今思えばあれはハジメの仕業だったのだろう。冷凍兵器を持つメタルガルルモンの技ならば納得できる。
ここまで考えて香織は疑問を持った。冷凍攻撃ができるのなら全てのフロアで使用したはず。なぜ特定のフロアだけなのだろう?
攻撃のインターバルがあるのか、使う条件があるのか、ランダムなのか。
分からないが、もしも冷凍攻撃ができるのならばそれを引き出せないかと香織は考えた。
なぜなら、それこそが香織の切り札の効果をさらに高めてくれるかもしれないのだ。
そのために氷と真逆の属性である炎の攻撃を使える二枚のカードをスラッシュした。
(タイミングは、一瞬)
香織はハジメとテイルモンの動きだけに集中する。右手に一枚のカードを握って。
そして、ハジメが武装を撃ち終わって動きを止めた。
(今!)
「カード「だめだ香織!」え?」
カードをスラッシュしようとした香織。だがそれは彼女を抱えるワーガルルモンが止める。
ハジメの頭部にエネルギーが集中している。武装を撃ちながらハジメは頭部にエネルギーを貯めていたのだ。
ワーガルルモンが戦っていた時は、近接戦闘主体であったためエネルギーを貯める暇がなかった。しかし、香織達が合流してからはテイルモンを中心の戦いにしたため、エネルギーを貯める隙ができてしまった。
「ヴオオオオッッ!!!」
香織とワーガルルモンは、ハジメが何をしようとしているのか分かった。
全てを氷結させる絶対零度の《コキュートスブレス》だ。
「テイルモン離れて!」
香織の声にテイルモンは弾かれたようにその場を離れようとする。だが、ハジメの攻撃のほうが早かった。
(間に合って!)
焦りながら香織はカードをスラッシュした。
それと同時に放たれた《コキュートスブレス》。ハジメは技を放ったまま首をぐるりと一周させ、フロア全体を凍てつかせた。
威力も範囲も、かつて香織が見たベヒモスに放った時とは比べ物にならない。
香織とワーガルルモンは空中にいたため凍結から逃れた。
しかし、ハジメに近い位置にいたテイルモンは逃げることができず、氷像となってしまった。
「「……ッッ」」
「ウオオオオオオンンンンッッ!!」
香織とワーガルルモンが言葉もなくす中、氷漬けになったフロアにハジメの咆哮が木霊する。
それを聞いても大切な仲間を失い、闘志を無くしたかのような二人は何もしようとしない。
そしてハジメは次の倒す相手として、空中の二人へと顔を向けた。その時──!
「今だよ、テイルモン!」
「ああ!」
「!?」
ハジメの背後になんと氷像になったはずのテイルモンが現れた! それと同時に氷像になっていたテイルモンの姿が消える。
突然現れたテイルモンにハジメが驚き、大きな隙をさらす。
なぜテイルモンが無事だったのか。それはコキュートスブレスと同時に香織がスラッシュしたカードの効果だった。
ギリギリのタイミングだったが、カードの力をテイルモンは得ていた。
そのカードとは『エイリアス』。分身のカードだ。
効果は名前の通りパートナーデジモンの分身を生み出すもので、分身が攻撃を引き受ける完全回避ができる。
かつてルキとジェンもこのカードの効果で、パートナーの危機を救った。その話を聞いていたため、咄嗟に香織はこのカードを使ったのだ。
「カードスラッシュ!」
そして、今度こそ切り札のカードを香織はスラッシュする。
「テイマーズカード! メタルガルルモン! 《コキュートスブレス》!!」
「《コキュートス──ブレス》!!」
テイルモンの口から、先ほどのハジメと同じ絶対零度のブレスが放たれた。
先ほど使ったハジメの技の影響で周囲の温度が低下していたこともあり、ハジメの体が凍り付いていく。
やがてハジメの全身が凍り付いた。
「よし、動きが止まった! ここからは俺がやる!」
「お願い、ワーガルルモン」
ワーガルルモンがフロアに降り立ち、香織を下ろすとハジメに駆け寄る。
ワーガルルモンはハジメに近づくと、口を大きく開けた。
「いくぞ、ハジメ!!」
そして、その牙を凍り付いたハジメの体に突き立てた。自分のやったことに、噛みついているワーガルルモンの方が悲痛な表情を浮かべる。
それでも、気持ちを押し殺してワーガルルモンはハジメに噛みつき、そこからハジメの体の中にあるメタルガルルモンのデータをロードし始めた。
ワーガルルモンはハジメとの闘いの中、ある違和感を覚えていた。
香織がハジメの様子を魔物のようだと思ったのと同様に、ハジメの戦う様子がデジタルワールドで戦うデジモン達のように思えたのだ。
そもそもハジメが使っている武装も、自分たちが進化したメタルガルルモン、つまりデジモンのものなのだ。
なぜハジメにデジモンの力が宿っていて、その力を使えるのかはわからない。だが、それは人間にとって明らかな異物であることは間違いない。
それを取り除ければ、もしかしたらハジメが正気に戻るのではないかと。
その方法というのが、デジモンを倒した際にデータを取り込むロードをハジメに対して行うことだった。
できる保証はなかったが、もともとハジメに宿っているメタルガルルモンのデータはワーガルルモンのデータでもあるのだ。大本である自分に取り込める可能性は高い。
この可能性に、ワーガルルモンは賭けた。そして、この賭けは成功した。
噛みついた個所から、凍り付いたハジメの鎧は罅割れて砕けていく。その中から現れたハジメの体は、全身ボロボロで痣だらけで硬直している。暴れる様子はない。
その時、ワーガルルモンはデータをロードしながらハジメの記憶を垣間見た。
奈落に落ちた後、左腕を爪熊に喰われ、〝錬成〟で掘った横穴に命からがら逃げ延びたこと。
幻肢痛に苦しみながらも、生き延びるために神水を飲んで回復に努めたこと。
餓死しないために魔物の肉を喰ったことで、肉体が変化して暴走してしまったこと。
そして、今のような姿になった理由も見えた。
■■■■■
(もう、どれくらい経ったんだ? 体は動かせるようになったが、時間感覚が全く分からねえ)
迷宮の暗闇を歩きながら、ハジメは考える。
魔物の肉を食べてからハジメの肉体を突き動かしていた強烈な生存本能と戦闘衝動、それによる意識の消失は小康状態になっていた。それに伴い体の自由が戻ってきた。
「力に、馴染んだのか?」
声も出せるようになった。右腕も動かせる。今だって自分の意思で歩けている。
まだ意識を失う時はあるものし、魔物と出会えば衝動に襲われ体が勝手に動く。でも、状況把握に思考を割く余裕ができてきた。
「とにかく、ここを、出るんだ」
ハジメは周囲を見渡す。そこはハジメが流れ着き、横穴を掘った階層とは様子が全く違っていた。
地面は砂漠のような砂状になっており、とても歩きにくい。洞窟のような岩の壁はなく、まるで洞窟の中に砂漠があるようだった。
どうやら意識を失っている間に別の階層に移動していたらしい。
「せめて、あの石と水は、持っていきたかった」
左腕を失ったハジメを癒した神水と、それを生み出す神結晶。持っていれば攻略の大きな助けになるはずだったのだが。
取りに戻ろうにも完全に体の自由を取り戻さないと無理だ。
もっとも、実はこの迷宮の最下層部分では一度別の階層に移動すると戻ることはできなくなっている。だからハジメには神結晶を取りに戻ることはできなかった。
後に香織達が神結晶を持ってきたのはファインプレーであった。
「不幸中の幸いは、これを無くさなかったことか」
右手でズボンのポケットからデジヴァイスを取り出す。
こんな絶望的な状況で、しかも自分の体がおかしくなり、精神を作り替えるようなことになった。それでも希望を持っていたのは、ガブモンとの絆の証であるデジヴァイスがあったからだ。
「必ず、帰る。絶対に。夢を、再会を、父さん、母さん、ガブモン、タカト、ジェン、ルキ、ジュリ、ケンタ、ヒロカズ、リョウさん、シウチョン、香織、雫」
デジヴァイスを見つめながら、頭に浮かんだ大切な者たちの名前を呟き決意を固めるハジメ。
その時だった。
「ん? これは……!?」
デジヴァイスの影響画面が点滅を始めた。これはパートナーデジモンに何かが起きた時の反応だった。
「まさか!?」
ハジメは片手で手間取りながらデジヴァイスのボタンを押す。
するとデジヴァイスからディスプレイが広がる。そこには夜の闇に包まれた庭園と、剣を向ける兵士の姿があった。
デジヴァイスにはカードスラッシュと、パートナーの視界に映ったデジモンのデータを読み取ること以外にもいくつかの機能がある。その一つがパートナーデジモンの視界を映し出すことだった。
つまりこれはガブモンが今見ている光景だ。
兵士はおそらくハイリヒ王国の兵士だ。王宮で見たことがある。
では、ガブモンはハイリヒ王国にいるのか?
なぜこの世界にデジモンが?
ゲートが開いたのか?
わからないことばかりだが、この迷宮を出る目的ができたとハジメが考えていると、画面の中でガブモンは兵士たちと戦い始めた。
「ただの兵士にガブモンがやられるはずはないけれど、何とかしないと。ここからでもカードは使えるのか? くそ、片手なのが面倒くさい」
ハジメが悪態をついていると、展開していた画面に衝撃的な光景が映った。
光り輝く聖剣を振りかぶる天之河光輝によってガブモンが斬られ、血を流している光景が。
「あ? ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!?????????」
瞬間、ハジメの意識は沸騰し、冷静な部分は消し飛んだ。
デジモンテイマーにとってパートナーデジモンとは己の半身。喜びも悲しみも、痛みも心も共有してきた掛け替えのない存在だ。
脱出できる保証が全くない迷宮の深層に落とされても。
魔物に左腕を喰われて酷い幻肢痛に苦しんでも。
魔物肉を食べたことで、幻肢痛以上の激痛にのた打ち回っても。
肉体が変化し、正体不明の衝動に体の自由を奪われても。
どんな地獄に陥っても、ハジメの心の大きな支えとなっていたガブモンが殺されようとしている。それはあっという間に、ハジメを怒気で支配した。
──死なないで、ガブモン!
だがそれでも、ガブモンに生きてほしいという心だけは残っていた。その心に反応したのか、デジヴァイスから光が溢れ、迷宮の天井を突き破り飛んで行った。
この光がガブモンに進化をもたらし、香織達をハジメへの道しるべになった。
「天之河ァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
だが、膨れ上がる怒りはハジメの心すらも塗りつぶしていく。
しかもハジメは怒気に支配されただけでなく、さらに戦闘衝動にまで襲われた。
今までは抑えていたが、怒りに飲み込まれたハジメは衝動に身を任せていく。
白髪に入っていた蒼いメッシュは紅いメッシュに染まり、体を走る線まで紅くなった。
体からは紅い電撃が迸り始める。
電撃の音に反応したのか、砂の中から巨大なモグラのような魔物が現れた。
この階層では広大な砂漠の中に潜む魔物が、四六時中襲い掛かって来る。しかもどの魔物も地中での移動速度は速く、捕らえるのは難しい。
だが、ハジメにとっては関係ない。
──〝錬成〟
ハジメに襲い掛かろうとしていたモグラは、詠唱も魔法陣もなしに発動した〝錬成〟で変形した地面に絡めとられた。
──〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝錬成〟〝電子錬成〟!!
さらに錬成を繰り返す。地面の砂を材料にハジメの全身を覆う鎧を生み出していく。その姿は自然とメタルガルルモンのような姿になっていく。
鎧でハジメの姿が覆われていく中、右手のデジヴァイスも鎧の構築に巻き込まれてしまいその一部になる。
「ウオオオオオッッ!!」
そして鎧が完成した。完全に全身を覆う狼のような鎧。何故か失ったはずの左腕もついており、なんと動いている。
ハジメは両腕を大きく開き、爪を鋭く構える。その姿はワーガルルモンを彷彿とさせた。
「アアアアアアアアッッ!!!」
そのまま、まるでワーガルルモンの《カイザーネイル》のように爪を振るい、モグラの魔物に飛び掛かる。
爪には爪熊のように風の刃が形成され、さらに紅い稲妻が付与される。
風の刃はモグラの皮膚を斬り裂き、稲妻が体内を焼き焦がす。
その一撃でモグラは絶命した。
モグラを倒したハジメだが戦意と怒りは微塵も衰えない。
再び〝錬成〟が行われた。今度はベヒモスとの闘いのようにミサイルポッドやビームランチャー、そしてガトリング砲が錬成されていく。
戦闘音に反応したのか他のモグラやらトカゲやらが出てくる。だがそれらは次の瞬間には発射されたミサイルやビーム、銃弾の雨に蹂躙されていった。
こうしてハジメは暴走を開始。オルクス大迷宮の各階層を破壊しながら進んで行った。
そして、10階層目で後を追いかけてきた香織達と再会。しかし、そのときハジメの意識は完全になくなっていたのだった。
■■■■■
ハジメの記憶を見たワーガルルモンは静かに涙を流す。
あの時ハジメが力をくれたから、自分は香織とテイルモンを連れてここまで来ることができた。
だが、それと引き換えにハジメは怒りに、戦闘衝動に飲み込まれた。
あれはデジモンの持つ戦闘本能だ。ハジメの体の中に宿ってしまった自分のデータが持っていたデジモンの本能。それが暴走してハジメを苦しめてしまったんだ。
「ハジメ。ありがとう。君がパートナーで、本当によかった」
ワーガルルモンのデータのロードが終わり、ハジメが崩れ落ちる。
それと同時にワーガルルモンも退化し、ガブモンに戻った。
そこに香織とテイルモンも駆けつける。
「ハジメ君!」
「ガブモン!」
駆け寄った二人は怪我がないか、ハジメとガブモンの様子を見る。
「俺は大丈夫だ。それよりもハジメを」
「うん。今すぐに私の回復魔法で治すよ」
香織がハジメに回復魔法を掛けようとした。その時──!
「アガァ!? ぐぅああああっ!!?」
「ハジメ君!?」
「ハジメ!?」
突然、ハジメの体が大きく跳ねると悲鳴を上げながら苦しみ始めた。
ハジメを苦しめる要因は、まだ取り除かれていなかった……。
戦闘描写は久しぶりでしたので、結構苦戦しました。
いい感じにハジメの暴走感を出しながら、ワーガルルモンとの闘いを繰り広げる。香織とテイルモンのテイマーとしての戦いも盛り込み、如何にしてハジメを救い出すかっていうのが我ながら難しかったです。
後から読み返したら書き直したくなりそうです。
次回は後編。お待ちかねのハジカオタイム。頑張っていきます。
※デジモン紹介と次回予告はお休みです。