ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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今年最後の更新です。
原作のハジメとの違いが大きくでる戦いです。お楽しみください。


18話 ガンナーと黄金の吸血姫

 ハジメは迷宮の攻略を進めるうえで、新たな戦い方を模索した。

 デジモン達がいるとはいえ、この奈落で彼らに頼りっぱなしでは、取り返しのつかないことになるだろう。

 香織と違いハジメにはステータスプレートがないため、現在何ができるのかわからない。

 しかも、下手なことをしてまた暴走したらたまったものではない。

 

 そこでハジメは拠点を作る際に掘り進んだ壁の中から出てきた鉱石に注目した。王宮御用達の錬成師の工房や図書館で、この世界の鉱石について調べたハジメでも、初めて見る鉱石がいくつも出てきた。

 それらの鉱石と〝錬成〟という自分の強みを生かすことにした。

 ハジメは鉱石に〝鉱物系鑑定〟の技能を使った。

 これはオルクス大迷宮への訓練に行く前日に発現した技能で、あらゆる鉱物を解析し特性を知ることができる。

 しかもこの技能を使うと解析結果がステータスプレートに現れるのだが、ハジメは頭の中に解析結果を浮かべることができた。おそらく地球のアニメ等によって出来た鑑定能力に対する固定観念のせいだろう。

 ハジメは見つけた鉱石を片っ端から鑑定していき、ある二つの鉱石を見つけた。

 

 1つは燃焼石。

 可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性がある。

 

 もう一つはタウル鉱石

 黒色で硬い鉱石。硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

 

 これらの鉱石で、ハジメは王宮で断念した試みに再挑戦することにした。

 

 拳銃の作成だ。

 

 拳銃の形だけは出来ていたが、銃弾に使う火薬が無かったため後回しにしていた。しかし、燃焼石があれば、火薬の代わりになる。しかもタウル鉱石を使えば、頑丈で強力な拳銃になる。

 そして完成したのが6連装大型リボルバー拳銃『ドンナー』だ。

 銃弾は圧縮したタウル鉱石と燃焼石を組み合わせて作成。奈落の魔物であったとしても、一瞬で命を刈り取る恐ろしい兵器が生まれた。

 

 ハジメはドンナーを取り出し、突然部屋の天井から現れたサソリのような魔物、サソリモドキに照準を向けた。それに対して、サソリモドキは二本の尻尾から紫色の毒々しい液体を噴出してきた。

 ハジメはユエとユキミボタモンを抱えて飛びのいて躱す。さっきまでハジメ達がいた場所に着弾した液体はジュワーっという音を立てて、床を溶かしていった。

 毒液というより、溶解液のようだ。

 

 それを一瞥しつつ、ハジメはドンナーの引き金を引いた。

 

 ドパンッ! ガキンッ! 

 

 発砲音と同時に放たれた音速の銃弾がサソリモドキに襲い掛かるが、堅牢な外殻に弾かれてしまう。

 

「見た目通り硬いな」

 

 攻撃を受けたサソリモドキは鋏を振りかぶり、ハジメ達を押しつぶそうとする。

 

「〝錬成〟!」

 

 すかさずハジメは〝錬成〟を発動。ハジメ達が立っている地面を錬成、変形させる。そうすることでさっきまでハジメ達が立っていた場所から移動する。

 

「錬成で、攻撃をかわした? すごい」

 

 ハジメの魔法の使い方にユエが驚く。

 

「これならどうだ!?」

 

 ハジメはドンナーの弾倉(シリンダー)を回転させ、赤い薬莢がセットされている薬室(チェンバー)をセット。すかさず発砲する。

 

 ドパンッ! ドォンッ! 

 

「キイィィィッ!?」

 

 今度の銃弾は外殻にぶつかった瞬間に爆発。サソリモドキは思わぬ攻撃に鳴き声を上げた。

 

 ハジメはドンナーの完成後、それだけで満足しなかった。作ったドンナーの強化に取り組んだ。そして考えた結果、銃弾のバリエーションを増やすことを思いついた。

 見つけた鉱石を使うだけでなく、複数の鉱石を組み合わせることで様々な効果を持つ銃弾を作ってみたのだ。

 

 今、サソリモドキの体に着弾し破裂した銃弾もそうして生まれた銃弾だ。

 燃焼石に発火石という鉱石を組み合わせて作成した。

 発火石は衝撃を与えると火花を散らす鉱石だ。発火石同士をぶつけることでより大きな火花が出る。

 タウル鉱石の銃弾の先頭をワザと脆くし、着弾と同時に弾丸の内部にある発火石の粉末が露出。発火石から飛び散った火花が銃弾内に圧縮して収められた燃焼石に引火、炸裂するという仕組みだ。

 対戦車兵器として有名な徹甲榴弾をモデルにしており、香織が持ってきてくれたタブレット端末内の兵器一覧を眺めながら思いついた。炸裂弾(エクスプロード)と名付けた。

 

 なお、なんで兵器一覧などというものをダウンロードしていたのかは、オタクの嗜みで納得してほしい。男子には兵器や武器に夢中になる時期が、一定周期で訪れるものなのだ。

 

 ハジメは通常の魔物にはタウル鉱石の弾丸を、硬い外殻を持つ魔物には炸裂弾(エクスプロード)を使い分けることにした。

 他にも様々な弾丸を作成しており、階層ごとで変化する迷宮の環境とモンスターに対し、使い分けてきた。

 

 そして今も、サソリモドキに対してハジメは作り上げた銃弾を駆使して攻撃を加えていく。

 

「次はこいつらだ!」

 

 引き金を二度引く。弾倉(シリンダー)が回転し、黄、青の薬莢から銃弾が放たれる。

 銃弾は着弾した瞬間、電撃、冷気を発生させてサソリモドキへダメージを与える。

 

 黄色の薬莢には擦ると電撃を起こす雷光石を加工した銃弾。青色の薬莢には低温の冷気を纏う氷結晶の粉末を拡散する銃弾だ。

 

雷撃弾(サンダー)氷結弾(アイス)。あまり目立った効果はないか」

 

 サソリモドキの様子を見ながらハジメが苦虫を噛み潰したように呟く。

 

「だが、弾の種類はまだまだあるぜ」

 

 ハジメは残った銃弾をすべて撃ち終えると、ドンナーを口で咥える。懐から銃弾がセットされたスピードローダーを取り出し、素早く銃弾をドンナーに装填した。

 

音響弾(カノン)貫通弾(スピア)破砕弾(クラッシュ)。新開発の弾もあるから実験台になれ!!」

 

 その言葉の通り、多種多様な弾丸をハジメはどんどん撃ち、時に錬成でサソリからの攻撃を回避していく。

 ユエにはハジメが手をこまねいて、苦戦しているように思えた。

 その原因はおそらくユエとユキミボタモンだ。

 ユエは長い封印から解放されたばかりで、体調は万全ではない。手渡された神水は飲んだが、まだ戦えるほど動けない。ユキミボタモンに至っては生まれたばかりの赤ちゃんだ。

 こんなお荷物を抱えていては、満足に戦えない。

 

 ユエが足を引っ張っていることに苦々しく思っていると、戦況が動いた。

 

 一方的に攻撃されることにイラついたのか、サソリモドキが四本の鋏を振り回しながらハジメ達に猛突進する。

 

「〝錬成〟!!」

 

 再び錬成で地面を変形させ、ユエとユキミボタモンと共に回避する。

 何度も同じ方法で逃げられたサソリモドキは、回避した先に二股の尻尾の片方の先端を向ける。先端が一瞬肥大化すると、そこから溶解液ではなく、鋭い針が射出された。

 溶解液とは比べ物にならない速度で飛来する針を、ハジメは錬成で作った壁で防ごうとする。だが、即席の壁なんて針はあっさりと貫通する。

 

「ちッ!?」

 

 舌打ちしつつ、ユエを抱えてその場を飛びのく。

 しかし、サソリモドキはハジメ達を逃がさない。

 もう片方の尻尾の先端を向けると、再び針を発射する。しかもその針は空中で破裂すると、広範囲に細かい針を降らせる。

 

「まずっ」

 

 飛びのいたことで地面を錬成できず、ユエを抱えているためにドンナーも向けられない。ハジメは体を捻り、ユエを抱え込み、針の雨から身を挺して守る。

 

「がぁぁああ!?」

「ハジメッ!?」

 

 背中に十数本の針が深々と刺さり、痛みに顔を歪める。それでも何とか着地する。

 

「ぐっ」

 

 着地の衝撃で全身に激痛が走り、顔を歪めるハジメ。

 そこにサソリモドキが四本の鋏を振りかぶって迫りくる。

 

「錬、成ぇ!!!」

 

 痛みを押し殺し、錬成を使う。今度は回避ではなく、ベヒモスにやったように、地面を変形させサソリモドキを拘束する。

 これはできれば使いたくなかった。ベヒモスを拘束する際にこの技を使った時、ハジメはトランス状態のようになり、記憶を飛ばしている。あの時は何もなかったが、暴走を起こした今同じような状態になるのは危ないと思っていた。

 だが、今この状況では使わざるを得ない。

 自我を保ちつつ、サソリモドキの動きを封じるために〝錬成〟を使う。

 

「キィィィィィイイ!!」

 

 今までにないサソリモドキの絶叫。すると周囲の地面が波打ち、地面がハジメの〝錬成〟とは別の力で動き始める。

 

「固有魔法かよ!?」

 

 ハジメが〝錬成〟で地面を変形させてサソリモドキを拘束しようとするのを、サソリモドキが固有魔法の〝地形操作〟で破壊しようとする。

 ハジメがサソリモドキと魔法のぶつけ合いをする中、ユエはハジメの背中に刺さった針を抜く。それにより痛みが多少楽になったハジメは、奥歯に仕込んでいた神水の容器を噛み砕き、傷を回復しながらユエに礼を言う。

 

「悪い、助かる」

「……どうして?」

「ん?」

「どうして逃げないの?」

 

 サソリモドキはおそらくユエを逃がさないための保険だろう。だったら自分を置いていけば助かるかもしれない。その選択をなぜハジメが取らないのだろうか? 

 

「一度助けるって決めたんだ。だったらちゃんと助けるまで、見捨てるかよ。見捨てたら俺は」

 

 ハジメの脳裏に浮かぶのは、家族である両親とパートナーのガブモンと親友のタカト達に、大切な存在である香織に雫。他にも今まで出会ってきた人々の顔が浮かぶ。

 

「南雲ハジメを信じてくれる人全員を裏切る。何より、そんな奴がデジモンテイマーであるはずがない!!」

 

 その言葉に言葉以上の思いを感じたユエは、納得したように頷き、ハジメにいきなり抱き着いた。

 

「ハジメ」

「お、おう? いきなりどうした?」

「……信じて」

 

 一言だけ告げて、ユエはハジメの首筋にキスをした。

 

「ッ!?」

 

 しかしすぐに走った痛みに、キスではなく噛みつかれたのだと気が付いた。

 そしてそのまま噛みつかれた場所から、何かが抜けていくのが分かった。

 思わず振り払おうとしたが、ユエが吸血鬼族だと言っていたのを思い出した。つまり、今ユエは吸血をしているのだ。

 そこまでわかったハジメは、魔法の行使に集中した。

 サソリモドキの固有魔法による〝地形操作〟のほうが強度や攻撃性は高いが、速度と範囲はハジメの〝錬成〟の方が上だ。

 攻撃と進撃のサソリモドキに、防御と拘束のハジメ。お互いの魔法がぶつかり合う中、ようやくユエが口を離した。

 

 どこか熱に浮かされたような表情でペロリと唇をなめるユエ。幼い容姿なのに、妖艶な雰囲気を身に纏っている。封印によってやつれていた感じは微塵もなくなり、艶々とした張りのある白磁のような白い肌が戻っていた。少し痩せこけていた頬もバラ色に染まり、真紅の瞳は暖かな光を放っている。

 小さな手はハジメの頬にそっと置かれており、仕草まで何だか危ない。

 

「ご馳走様」

 

 そう言うとユエはユキミボタモンを片手で抱えながら、もう片方の手をサソリモドキに掲げた。同時に、ユエの体から莫大な魔力が吹き上がり、黄金色の魔力光がその名の通り月のような輝きを放った。

 魔力によって広がる黄金の髪をなびかせながら、一言、呟いた。

 

「〝蒼天〟」

 

 それは魔法名。魔法の効果はシンプルに火球を生み出すこと。

 しかし、サソリモドキの頭上に生み出されたのは、魔法名の通りの蒼い炎の球。一般的な炎よりもはるかに高いことを示すその色の通り、火魔法の中では最強の威力を誇る最上級魔法だ。

 10000度以上の温度を持つ火球の熱気に、サソリモドキは悲鳴を上げて逃げようとする。

 そうはさせないとハジメが拘束する。

 ユエがピンッと伸ばした綺麗な指がタクトのように振られる。蒼い火球はそのままサソリモドキの上に落ち、直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 サソリモドキが絶叫を上げる。着弾と同時に青白い光に包まれながら、ハジメの銃弾がいくら当たっても砕けなかった外殻が、ドロドロに溶けていく。

 

 ハジメが驚異的な光景を眺めていると、トサリと音がした。

 横を見るとユエが座り込み、ユキミボタモンが心配そうに見上げていた。

 

「ユエ、ユエ」

「おい、ユエ大丈夫か!?」

「ん。……最上級……疲れる」

「はは、やるじゃないか。助かったよ。後は俺が、いや、俺たちがやるから休んでいてくれ」

「ん。……俺、たち?」

 

 ユエがハジメの言葉に首を傾げる。

 そんなユエに苦笑しながら、ハジメはドンナーを仕舞う。代わりにデジヴァイスを取り出す。

 

「それ……」

 

 ユエが自分のデジヴァイスとハジメのデジヴァイスを驚きながら見比べる。

 ハジメはデジヴァイスを床に置くと、さらに懐から1枚のカードを取り出す。そして、ユエの攻撃で苦しむサソリモドキを見ながら、叫ぶ。

 

「行け! ガルルモン!!」

「ウオオオォォ!!」

 

 扉の方から咆哮を上げて、蒼き狼がサソリモドキに飛び掛かる。

 

「《フォックスファイアー》!!」

 

 ガルルモンの口から、ユエの〝蒼天〟と同じ蒼い炎が噴き出し、再度サソリモドキを焼く。

 ユエとユキミボタモンが驚く中、ガルルモンはハジメの前に降り立つ。

 

「遅いぞ。ガルルモン」

「悪い。外の相手に手間取った」

「……喋った」

 

 ガルルモンが喋ったことにユエが驚く。

 

「お前が遅いから後は止めを刺すだけだ」

「なら一番美味しいところをいただきだな」

「ふっ。カードスラッシュ! テイマーズカード! メタルガルルモン! 《コキュートスブレス》!」

「《コキュートスブレス》!!」

 

 ガルルモンの口から、今度は炎と真逆の超低温の冷気ブレスが放たれ、サソリモドキを氷漬けにする。

 高温から低温へ。急激な温度差にサソリモドキの肉体は耐えられず、自重により崩れた。

 トドメはガルルモンの体当たりで、サソリモドキはバラバラになった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 ここで終わりならあとは香織達と合流してユエとユキミボタモンを紹介すればいいのだが、そうはいかない。

 なぜならハジメの戦いはまだ終わっていないのだ。

 

「で? ハジメ君。話は以上かな? かな?」

「は、はい」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべる香織。その前で正座をするハジメ。

 ここは50階層に作った拠点の横穴だ。

 

 戦いの後、扉の前で戦っていた香織達も合流。サソリモドキの素材などを回収して、封印部屋を後にした。部屋をそのまま使うことも考えたのだが、ユエが断固拒否した。

 無理もない。300年も繋がれた牢獄に居座りたくないと思うのが普通だ。

 

 探索の拠点にしていた横穴に戻った後、一息つきながらお互いのことを話そうと思った時、香織が笑顔でハジメに正座を強要したのだ。

 あまりの迫力にハジメは素直に正座をした。そして香織は一言、

 

『なんで戦いの途中でキスしていたの?』

 

 実は香織。扉の外で戦いながら、部屋の中から聞こえた戦闘音に気が付き、様子をうかがっていたのだ。

 その時、ちょうど見てしまったのだ。ユエがハジメの血を吸っているところを。

 しかも、遠目だったため血を吸っているのではなく、キスしているように見えた。

 

 戦っている最中にキス?なして? 

 ぽっと出の女に?あんなロリに? 

 

 香織の思考が混乱し、デジモン達への指示が疎かになり、ガルルモンの到着が遅れてしまった。

 何とか戦いを終え、ガルルモンを救援に送り出してから、香織は決めた。とりあえずハジメを問い詰めようと。

 

 香織の謎の迫力に気圧されながら、ハジメは部屋の中の戦いで何があったのか、しっかり説明した。

 それを聞いた香織は何があったのか、あれがどういう行為だったのか納得した。

 そして、「はぁ~」と大きなため息をついた。

 

「何があったか分かったよ。問い詰めるみたいなことしてごめんね」

「いや、誤解してもしょうがないところ見たんだ。気にしなくていい」

 

 謝る香織に、気にしなくてもいいと言うハジメ。

 二人の様子を不思議そうに見るユエは、質問をする。

 

「二人は、どういう関係?」

「え?どういう?うーん……」

「あー……」

 

 二人は言いにくそうに考え込む。

 改めて整理すると、二人の関係はなかなか特殊だ。

 香織はハジメに愛の告白をしており、返事待ち。

 ハジメは香織の愛の告白を受け入れながらも、同じく好きだと告白をした雫もいるため、明確な返事を保留中。

 ハジメがかなりの優柔不断なヘタレ野郎だった。思わず頭を抱えて座り込むハジメ。

 ついでに香織も、返事は保留でもいいと決めた張本人なので、見方によれば男を振り回す、なかなかの悪女ではないだろうか? 香織も頭を抱える。

 

「……どうしたの?」

「いや、自分のヘタレさというか、屑さ加減に自己嫌悪が……」

「同じく、私って悪女じゃないかなあって思って……」

 

 とりあえず、この話題は無しにした。

 改めて、ユエとお互いのことを話し合う。

 

「私は白崎香織。ハジメ君の大切な人」

「私はユエ。ハジメに名前を付けてもらった女」

 

 女の子二人の自己紹介は恙無く?終わった。

 笑顔でニコニコ手を握っているのだが、ハジメは嵐の前の静けさのような雰囲気を感じていた。

 そしてデジモン達の紹介をすることにしたのだが、ここで問題が発生した。

 

「ごめん。俺、ユエの言葉がわからない」

「私もだ。まあ、わかっていたことだが」

「私も、わからない」

 

 退化したガブモンとプロットモンが、ユエの言葉がわからなかったのだ。ユエも2体の言葉がわからない。

 

「そうか。俺と香織がユエの、トータスの人と会話ができるのは〝言語理解〟の技能があるからか」

 

 ハジメが原因に思い当たる。プロットモンは王都を探索した際に気が付いていたようだ。

 

「何とかしないといけないけれど、方法がわからないなあ」

「今のところは俺たちが通訳するしかない。……ちょっと待てよ」

 

 ハジメは何かに気が付く。

 

「そういえばユキミボタモンはどうなんだ? ユエの言葉はわかるのか?」

 

 ガブモン達と同じく、言語理解の技能を持っていないユキミボタモンはどうなのだ? 

 普通に考えれば、ユエの言葉を理解できないと思うのだが。

 

「ユキミボタモン、私の言葉、わかる?」

「ミッ! ユエ!」

「ん。乗って」

「ミッ」

「できた。よしよし」

「ミ~~」

 

 ユエが両手を差し出して指示を出すと、ピョンと跳ねて両手の上に乗るユキミボタモン。

 ユキミボタモンを撫でるユエの様子を見て、ユキミボタモンはユエの言葉を理解しているようだと確信するハジメ達。

 

「ユキミボタモンの言葉はわかるか?」

「う~ん、ユエって言っているのはわかる。でもまだ幼年期だからなあ」

「トータスの言語がなんでわかるのか、教えてもらうことはできないな」

「だよなあ。まあ、進化すれば何とかなるか?」

 

 幼年期の進化は早い。もしかしたら寝て起きたら進化しているかもしれない。

 

「ハジメ、カオリ。今度は私にも教えて。あなた達の事。ユキミボタモンのこと。ハジメとカオリ、これと一緒のものを持っている」

 

 ユエは自分のデジヴァイスを掲げて、二人に質問する。

 

「そうだな。いろいろ説明するか。まず俺たちは……」

 

 それからハジメと香織はユエに自分たちのことを説明した。

 異世界から同郷の者達と共にこの世界に召喚されてしまったことから始まり、ベヒモスとの戦いで一人の身勝手な男のせいで奈落に落ちたこと、魔物を喰って生き残ろうとしたこと、その結果肉体が変化し暴走したこと、落ちたハジメを助けるために香織達が王宮を抜け出し追いかけてきたこと、暴走し暴れるハジメを助けるために戦ったこと、いくつもの偶然と香織の願いが重なりハジメを救い出したこと、元の世界に帰るために迷宮の攻略を決意したことを説明していく。すると、ユエはグスグスと鼻を啜りながら泣き始めた。

 いきなり泣き始めた故にハジメ達はギョッとする。

 

「ど、どうした?」

「何かあったの?」

「ぐすっ……ハジメ辛い……カオリも辛い……私も辛い……みんな辛い」

 

 ユエはハジメ達の境遇に泣いていた。平和に夢を叶えるために暮らしていたのに、突然別の世界に呼び出されて戦わされて、辛い目に何度もあったのだ。自分と同じくらいの理不尽であると、ユエはハジメ達を召喚した神エヒトへ憤りを抱き、悲しんだ。

 そんなユエを香織がそっと抱きしめる。

 

「ありがとう。ユエちゃん。私達のために泣いてくれて」

「……ん。ユエでいい。カオリ、ハジメのためにここまで来るなんて、すごい」

「ありがとう。でも私なんてぜんぜんだよ。ガブモンやプロットモンがいなかったらここに来られなかったから。それにハジメ君も助けられなかった。デジモン達がいてくれたから、私はここにいるんだ」

「それでも、行動したのはカオリ。行動できるだけで、勇気がある」

「えへへ。そういわれると照れちゃうな」

 

 香織とユエはぎゅっと抱き合いながら、笑いあう。

 出会ったばかりの二人だが、まるで長年の友人のようだった。

 しばらく二人が友情を深めるのを、弾丸を作成しながらハジメは見守った。

 

「さて、次はお待ちかねのデジモンについてだ」

 

 ユエが落ち着いたのを見計らってハジメが話を再開する。

 ユエはユキミボタモンを抱えながら、ハジメの話に集中する。

 

「デジモン。正式名称はデジタルモンスター。俺たちの世界地球は、実は二つの世界が隣り合わせになっている。俺たち人間が暮らしているリアルワールド。そしてデジモン達が暮らしているデジタルワールドだ。6年前、デジモンがリアルワールドに出現するようになった。その理由はパートナーを探してだ」

「パートナー? それって……」

 

 ユエはデジヴァイスを取り出す。

 

「そう。デジモンは人間のパートナーを得て信頼関係を結ぶことで力を与えられる。デジモンに力を与える人間をデジモンテイマーと呼ぶ。俺は6年前にデジモンの卵、デジタマを拾って、このガブモンのテイマーになった。いろいろあって一度離れ離れになったが、ここで再会できたんだ」

 

 ハジメはガブモンの頭に手を置き、優しくなでる。ガブモンは気持ちよさそうに目を細めた。

 

「私はハジメ君を探しに来るときに、ガブモンと一緒にやってきたテイルモン、今はプロットモンなんだけど、この子と心を通わせてテイマーになったんだ」

 

 香織もプロットモンを抱き上げる。

 

「デジモンは他のデジモンを倒し、その力を吸収することで強くなる。そして、進化する」

「進化……。さっきの狼がガブモンになったみたいな?」

「あれは退化だな。ガブモンが進化することであの狼、ガルルモンになるんだ。本来なら長い時間がかかるんだが、テイマーはデジモンを一瞬で進化させることができる」

「すごい」

 

 ユエは感心した。王族だったため高度な教育を受け聡明だった彼女には、ガルルモンの強さがよく分かった。

 最上級魔法である〝蒼天〟と同じ色の炎を吐き、サソリモドキを粉々にしたパワーを持つガルルモン。目の前のガブモンをそんな力を持つ存在にしてしまうデジモンテイマーの凄さは、途轍もないと。

 

「ああ。すごい。だがテイマーがデジモンを進化させられるかどうかは、お互いの信頼関係が重要だ」

「信頼関係?」

「ただ一緒にいるだけじゃだめだ。テイマーはデジモンのために、デジモンはテイマーのために。互いに互いを支えあう。それができたとき、デジモンテイマーは一人前になれるんだ」

 

 ハジメの言葉をユエだけでなく、香織もしっかりと聞く。

 

「互いに、互いを……」

「支えあう」

 

 香織がプロットモンを見下ろすと、プロットモンも見つめ返す。

 

「ん……」

 

 

 ユエも同じくユキミボタモンを見下ろす。が、

 

 ──―ぐうぅぅ~~。

 

「おなか、へった」

 

 おなかが鳴る音を出しながら、ユキミボタモンがそう言った。ハジメ達は苦笑いをする。

 そういえば、ユキミボタモンは生まれたばかりなのだ。エネルギーが必要だろう。

 

「とりあえず、話はここまで。メシにしようぜ」

「任せて。あ、でもユエはどうしよっか? 久しぶりのご飯があんなゲテモノ料理なのはかわいそうだし、取っておいた果物のジャムとパンにしようかな?」

 

 調理担当の香織が額にしわを寄せて悩む。

 ハジメ達の迷宮内での食事は、基本的に魔力を除去した魔物肉だ。少し前の階層でトレントモドキから収穫した果実を加工したドライフルーツやジャムに、香織が持ってきた保存がきく黒パンがあるが、数が少ないのであまり食べないようにしていた。

 でも、ユエは久しぶりの食事なのだ。どうせなら美味しいものを食べてもらいたいと、香織はジャムとパンを取り出そうとする。

 

「食事は要らない」

 

 しかし、それはユエが断った。

 

「え? 封印されていても生きているんだから大丈夫だと思うけど……」

「飢餓感は感じないのか?」

「感じる。……でも、もう大丈夫」

 

 そういうとユエはハジメを指さし、

 

「ハジメの血を飲めば、大丈夫」

「ああ。俺の血か。吸血鬼族は血が飲めれば、食事は不要なのか?」

「食事でも栄養は取れる。……でも、血の方が効率的。何より……」

 

 ユエはユキミボタモンを地面に優しく下ろすと、ゆっくりとハジメににじり寄る。

 

「ハジメ……美味」

「…………は?」

「熟成の味……その中に芳醇な香り……病みつきになる」

「……」

 

 じりじりとにじり寄るユエ。危機感を抱いて下がるハジメ。しかし、後ろは壁だ。逃げられない。そのまま、ユエに抱き着かれてしまう。

 

「いただきます」

「ちょ~~っと、待とうかな? かな? ユエ」

 

 ハジメの首筋に噛みつこうとしたユエの首根っこを、香織が掴んだ。そのままハジメから引き離す。

 

「血が必要ならハジメ君じゃなくてもいいでしょう? それにハジメ君はさっき血を吸われたんだから、今は貧血。なのに首筋からさらに血を吸おうなんてそんなうらやま、ゴホン、危険な真似はさせないよ!」

「今本音が出てなかったか?」

 

 香織の言葉にハジメが突っ込む。だが、香織イヤーには何も聞こえない。

 

「でも……もうハジメの味の虜……他なんて考えられない……」

「だったら私の血を飲んで! ハジメ君の血をこれ以上飲ませるなんてさせないんだから!!」

 

 その後、散々議論を重ねた末にハジメと香織の血を交互に飲むことに決まった。

 ハジメはその間、ユキミボタモンにパンとジャムを与え、ユキミボタモンはとても美味しそうに食べていた。

 

 なお、香織の血を飲んだユエは、その味がハジメの血と似た香りをしていたことに気が付いた。

 もしや、香織も吸血鬼族? と思ったのだが、異世界人の香織が吸血鬼族であるはずがない。気のせいだと思うことにした。

 

 食事を済ませた一同は、眠ることにした。

 ユエは先に眠ってしまったユキミボタモンを抱きかかえて横になる。封印されてから久しぶりの、穏やかな眠りだった。

 

 

 

 そして、目が覚めた時、抱きしめていたユキミボタモンを見ると、そこにいたのは水色の水滴のような形をしたデジモンがいた。

 

「ハジメハジメ!! ユキミボタモンが! ユキミボタモンが!」

 

 あわあわしながらハジメを起こすユエ。

 何事かと起きたハジメは、ユエの腕の中にいるデジモンを見て、ユキミボタモンが進化したのだと悟った。

 ガブモンも、生まれてから1日でプニモンからツノモンに進化した。幼年期のデジモンの進化は早いのだ。

 

「落ち着け、ユエ。昨日話しただろ? デジモンは進化するって」

「進化? ……でも、何もしていない」

「幼年期デジモンは進化が早いんだ」

「幼年期?」

 

 幼年期という言葉に首をかしげるユエ。そういえば、進化の世代のことを話していなかったと、ハジメは気が付く。

 

「そこのところも教える。とりあえず、まずデジモンを見せてくれ」

「ん」

 

 ハジメに言われて抱えていたデジモンを見せるユエ。騒ぎに気が付いた香織たちも目を覚まし、ユエのデジモンを見る。

 

「見たことがないデジモンだな」

「私も。プロットモンは見たことある?」

「私も見たことないな」

「俺もだ」

 

 それはハジメ達も初めて見たデジモンだった。ハジメが自分のデジヴァイスを取り出す。

 

「ユエ。デジヴァイスにはいろんな機能がある。その一つが、パートナーデジモンの視界が確認したデジモンを解析してその能力を表示するっていう機能だ」

 

 ユエにデジヴァイスのことを教えながら、ユエのデジモンの詳細を確認する。

 

「ムンモン。幼年期。レッサー型。データ種。必殺技は《ヤミバースト》」

「ムン、モン?」

 

 ハジメがデジヴァイスを見ながら読み上げた名前を、ユエが呟く。するとムンモンが目を覚まし、

 

「ん……。何?ユエ?」

 

 と、どこかユエに似たしゃべり方で答えた。

 

「とりあえず、朝飯にしようぜ。そんでまた話の続きだ」

 

 ハジメの言葉に、誰も異論はなかった。

 




〇デジモン紹介
ムンモン
レベル:幼年期Ⅱ
タイプ:レッサー型
属性:データ
透き通った水滴のような体に、ほんのりピンクの頬っぺたが可愛らしい幼年期のレッサー型デジモン。弱いが闇の力を宿している。
澄んだ心の持ち主で育てるテイマーの性格から影響を受けやすい。



ハジメとユエの戦闘とユエの自己紹介の回でした。
伏線を張りつつ、香織とユエの静かな修羅場というか、ライバル関係までもっていきたいです。目指せ、キャットファイト。
そしてユエのパートナーの進化。幼年期なので早いです。
進化したのはムンモン。つまり成長期は・・・。


次話はユエへの説明とオルクスに出現したデジモンについてやろうと思います。お楽しみに。

前書きでも書きましたがこれが今年最後の更新です。ですが、活動報告でもお知らせした通り、新年が始まると同時に特別編を別の小説として投稿します。
内容はテイマーズ編。つまり本篇の6年前でハジメとタカト達の冒険です。0章ですね。
ただ、完成しているわけではなく全6話ほどの内容のうち、2話ほど書けている状態です。
それを外伝小説として、原作名を「デジモンテイマーズ」として投稿します。
もしよろしければそちらもお楽しみください。

では皆様。よいお年を。来年もよろしくお願いします。
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