ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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今回は大人気なあの人物です。ちょっと自分の趣味も混ざっています。

原作のあの素晴らしいキャラを表現できているか不安ですが、お楽しみください。


20話 ご唱和ください我の名を!

 ハジメ達がオルクス大迷宮の深層50階層を超え、攻略を目指していた頃。

 

 オルクス大迷宮の64階層では、ハイリヒ王国騎士団と天之河光輝率いる勇者パーティーが、迷宮の攻略に挑んでいた。

 愛子が教会に直談判したことで、勇者パーティーには召喚された全員ではなく、戦う意思を持つ者たちのパーティー三組のみが参加している。

 

 まずは光輝が中心となっている、文字通りの勇者パーティー。光輝以外のメンバーは坂上龍太郎、谷口鈴、そして中村恵里の四人。光輝は雫にも加わってほしかったのだが、寝たきりで衰えた体力を戻すためと得物を失ったため、この訓練自体に不参加を表明した。もっとも例え参加できたとしても、彼女は光輝のパーティーに加わることはなかっただろうが。

 

 二つ目のパーティーは、かつて檜山大介がリーダーをしていた小悪党パーティーだ。しかし、リーダーのはずの檜山はいない。王宮での訓練中に、模擬戦をしていた騎士団員を再起不能になるまで痛めつけたため、謹慎処分を受けている。この訓練には不参加だ。

 

 最後に永山重吾という巨漢の生徒が率いるパーティー。永山は龍太郎と同じく格闘技が得意で、天職は重格闘家だ。メンバーは土術師の野村健太郎に、香織と同じ治癒師の辻綾子、付与術師の吉野真央がいる。

 そして、永山パーティーには臨時でもう一人メンバーが加わっていた。

 その名は遠藤浩介。

 ハジメのパーティーで暗殺者を勤めていた影が薄い男子生徒だ。

 教皇イシュタルに殴りかかったことで謹慎していたが、それが解けた後、永山パーティーに一時的に加えてもらった。

 

 メンバーが減ったことで、一人一人の負担は増えたが、その分だけ光輝達は成長し、強くなった。

 たった一週間しか迷宮を攻略していないのに、歴代最高到達階層である65層の目の前まで来ていた。

 

「光輝。いよいよ65階層だな」

「龍太郎。ああ、そうだな」

 

 65階層に続く階段の前で小休止しているとき、階段を見つめる光輝に龍太郎が話しかける。

 

「香織。待っていてくれ。必ず助けに行く」

 

 自分にだけ聞こえるように呟く光輝。

 光輝は訓練を行いながらなぜ香織が出ていったのか考えていた。最初はハジメが生きていて裏で糸を引いているのかと思っていたが、流石にあの状況で生きているわけがないと思いなおした。ご都合解釈をする光輝も、流石にあの谷底に落ちて生きているはずないと思ったのだ。

 そして、王城での出来事だけで更なる事実を決めつけた。

 香織がデジモン達に連れ去られた、もしくは騙されてついていったと。

 

『デジモン達はハジメの死を受け入れず、生きているという嘘で心優しい香織を諭した。オルクス大迷宮で、危険で無意味な探索を香織に強いている』

 

 これが、今の光輝の考えである。理由も根拠もないものだが、自分が見た現実に、自分だけの解釈を加えたことこそが、光輝の絶対不変の真実であり、正しいことなのだ。

 

 一方で龍太郎も、感慨深げに65階層への階段を見つめていた。

 

(あの時、俺が光輝と一緒に逃げていれば……)

 

 ベヒモスとの闘いで、メルド団長の逃げろという指示を拒否した光輝に追従した龍太郎。そのせいでハジメが危険な役割を引き受けることになってしまった。その結果、ハジメは奈落に落ち、雫はPTSDを発症。香織がデジモン達と共にオルクス大迷宮に向かった。生徒達も心に傷を負い、引きこもりになってしまった者もいる。

 これらの一連の流れの発端は、自分たちの身の程知らずな行動の結果だ。

 龍太郎はもうあんなことを起こさないように、実力を身に着け、考えて行動することを意識し始めた。

 この訓練中もメルド団長の指示をよく聞き、たまに突出しがちな光輝を諫めていた。

 危機的状況が、龍太郎に思慮深さという成長を促していた。

 

 そしてもう一人、次の階層のことに思いを馳せる生徒がいた。

 遠藤浩介である。

 ハジメが作ってくれた小太刀風の剣の手入れをしながら、親友のことを考える。

 

(ハジメ。俺はお前が死んだなんて思っていない。お前は凄いやつだし、白崎さんが探しに行ったんだ。だったら生きているんだろう。そんで帰るために頑張っているんだろうな)

 

 ふっと笑う浩介。刃物を持ちながら笑っているので、傍から見たら凄く危ない人間に見える。もっとも、いつものごとく誰にも気が付かれていないが。

 浩介は謹慎が終わった際、雫から何が起きたのか話を聞いた。

 その際に必要なことだったからと、ハジメの秘密も知ることになった。

 ハジメとの交流でデジモンについて偏見を持っていなかった浩介は、雫の話を信じた。ハジメが生きており、必ず戻ってくると思っている。

 

(ゲームやアニメとかのダンジョンだと、一定時間経ったダンジョンに魔物は再ドロップする。この迷宮もそうとは限らないが、魔法がある世界だ。可能性はある)

 

 浩介は謹慎中も、再び迷宮の攻略に挑んでいる間も、ベヒモスを倒す方法を考えていた。

 通じるか分からないし、強くなった光輝があっさりと倒してしまうかもしれない。

 それでも、浩介はベヒモスを倒すことを、ケジメにしようと考えていた。あの悪夢の魔物を倒さないと、ハジメを手伝えないし、親友と胸を張って言えないと思ったからだ。

 

 様々な思いを各人が抱く中、彼らは65階層に到達した。

 

 だが、彼らは知らなかった。今この瞬間、オルクス大迷宮の難易度が変わり、出現する魔物に変化が起きたことを。

 

「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるか分からないからな!」

 

 メルド団長の声が響き、光輝達が改めて気を引き締める。

 しばらく進んでいくと、大きな広間に出た。そして、浩介の予想が当たってしまった。

 

 部屋の中に浮かび上がる魔法陣。その中から、10メートルほどの巨大な魔物が浮かび上がってきた。

 

「ま、まさかあいつなのか!?」

 

 冷や汗を浮かべながら叫ぶ光輝。龍太郎たちも驚愕する中、一人予想していた浩介は武器を構え状況の把握に努める。

 

 石橋の上ではないため、トラウムソルジャーを生み出す魔法陣はない。それでも、あの悪夢の魔物は刻一刻とその姿を現す。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒したはずの魔物と何度も遭遇することもよくある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「光輝、退路の確保はしておいた方が良い。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇが、死んだら元も子もないだろう?」

「龍太郎……。だが、あいつを倒さないと先には進めない!」

「逃げるわけじゃねえ!リベンジは俺だってしたい!だが、死んだらだめだ!!同じ失敗をする気か光輝!」

「俺も坂上と同じ意見だ。戦うのは賛成だが、逃げ道は用意する。あの時とは状況が違うから、メルド団長の指示に従う」

 

 メルド団長の注意に対して、光輝が不満そうに言葉を返す。しかし、それを龍太郎がたしなめる。そこに永山も同意したことで、光輝は渋々退路を確保するように、陣形を組む。

 

 そして、遂に魔法陣から完全に現れた。だが──―

 

「ベヒモス……じゃない!?」

 

 光輝が再び驚愕する。

 現れた魔物は、見た目はベヒモスだった。だが、その体の所々は鈍色に光る金属でできており、まるでサイボーグのようなものになっていた。

 頭にある襟巻と角など完全に機械のそれだ。

 あえて名前を付けるなら〝メタルベヒモス〟だろう。そんな魔物が現れたのだ。

 予想とは違っていたが、現れた魔物に光輝達は攻撃を始める。

 

「万翔羽ばたき天へと至れ!〝天翔閃〟!」

 

 かつては表皮に傷1つつけられなかったが、訓練を重ねたことで威力が上がった光の斬撃が、メタルベヒモスに直撃する。

 

「グゥルガァアア!?」

 

 メタルベヒモスが悲鳴を上げて後退する。直撃したのは金属になった部分だったため傷は付いていないが、威力が高かったため後ろに弾かれる。

 

「いける! 俺達は確実に強くなっている!永山達は左側から、近藤達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!行くぞ、龍太郎!!」

 

 光輝の指示に、龍太郎たちが動き始める。

 体に金属の部分があるため防御力は上がっているが、基本的な動きはベヒモスと同じだった。しばらく戦っている間にそのことに気が付いた光輝達は、落ち着きを取り戻して戦いを進めていく。

 前衛が攻撃を加え、後衛の魔法使い達が魔法で援護する。そして、光輝が大きな傷をつけたところで、上級魔法を叩き込み止めを刺そうとした。

 

 その時、メタルベヒモスの頭にある角が回転を始めた。まるでドリルのように。

 メタルベヒモスは頭を振るい、後衛が放った上級魔法を吹き飛ばしてしまった。

 

「なんだって!?」

 

 予想もしていなかったベヒモスの行動に動揺する光輝達。

 すると、またしてもメタルベヒモスが予想外の行動をし始めた。上半身を起き上がらせ、二本足で立ち上がったのだ。全長10メートルのベヒモスが立ち上がると、まさに怪獣だった。そして持ち上げた前足を、思いっきり地面に叩きつけた。

 途轍もない衝撃にフロア自体が大きく揺れ、光輝達は立っていられなくなる。

 

「うわあああっ!?」

「きゃああっ!?」

 

 予想外の攻撃に悲鳴を上げる生徒達。光輝も体勢を崩し、地面に手をつく。

 そこに、メタルベヒモスが角を回転させながら光輝に向かって突っ込んできた。積極的に攻撃していた光輝に怒りを抱いているようだ。

 

「まずっ!?くうううぅぅ!!?」

 

 回避はできないタイミングだったので、光輝は聖剣を掲げて防御の構えを取る。メタルベヒモスは光輝に向かって回転する角を振り下ろす。

 ガキンッ!ギャリギャリギャリギャリッ。

 聖剣と回転する角がぶつかり、火花を散らす。聖剣は傷1つ付かず、攻撃を止めた。しかし、突っ込んできたメタルベヒモスの勢いは受け止められず、光輝はそのままメタルベヒモスに押し込められていく。そのまま光輝とメタルベヒモスは壁にまで突っ込んでいく。

 

「ガハッ!?」

 

 壁にぶつかった衝撃に、苦悶の声を漏らす光輝。意識を失いそうになるが、気合で保つ。なぜならメタルベヒモスはそのまま光輝に突進してきているからだ。

 

「ガァアア!!」

「ぐうぅっ!!?」

 

 回転する角が光輝を抉らんと突きこまれる。両手で必死に聖剣を支え、防御する。

 

「光輝ぃ!?この野郎!!」

「離れろ!!」

 

 龍太郎たちが光輝を助けようとメタルベヒモスに攻撃する。

 だがメタルベヒモスの防御力が高すぎて攻撃が効かない。

 メタルベヒモスは龍太郎たちの攻撃には目もくれず、光輝へ攻撃を加え続ける。

 

 もはや光輝を助ける術はないのか。

 このまま光輝はメタルベヒモスの回転する太い角に貫かれてしまうのか。

 

「〝限界突破〟!!!」

 

 そう思われた時、メタルベヒモスの角の先から光が迸る。〝限界突破〟を発動し、ステータスを3倍に上昇させた光輝が、メタルベヒモスを押し返していく。

 

「うおおおおおッッ!!!万翔羽ばたき天へと至れ!〝天翔閃〟!」

 

 渾身の力を込める光輝。聖剣をしっかり握りしめると、思いっきり振り抜く。

 炸裂する光の斬撃。

 メタルベヒモスは3倍になった光輝の魔法に押し負け、吹き飛ばされる。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ。神の息吹よ。全ての暗雲を吹き払い、 この世を聖浄で満たしたまえ。神の慈悲よ。この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!」

 

 そのまま光輝は聖剣を掲げ、自身の最強魔法を発動させる。

 吹き飛ばされたメタルベヒモスは、ようやく起き上がっていたところだった。その顔には縦に一筋の傷ができている。

 光輝は決めるなら今だと、聖剣を振り下ろす。

 

「〝神威〟!!!」

 

 放たれる極大の光。以前とは比べ物にならない程の威力になった魔法はメタルベヒモスを飲み込んだ。

 

「はぁはぁ。や、やった……」

 

 限界突破と最上級魔法を使用したことによる酷い虚脱感から膝をつく光輝。だが、今の全力を放ったのだ。

 きっとメタルベヒモスを倒すことができた。

 そう思ってしまったため、気を抜いてしまった。

 

「あぶねえ光輝!?」

「え?」

 

 龍太郎の声に顔を上げた光輝の目に映ったのは、自分に迫る巨大な尻尾だった。

 次の瞬間、途轍もない衝撃を受ける。

 

「ぐはぁっ!?」

 

 光輝は何が起きたのかわからないまま、くるくる回りながら吹き飛び、地面に叩きつけられてごろごろ転がる。

 

「い、いたい……?」

「光輝ぃ!!」

 

 転がっていった光輝に駆け寄る龍太郎達。

 すかさず治癒師の辻綾子が回復魔法をかける。

 

「な、何が起きて?」

「ベヒモスの奴、光輝の攻撃に耐えやがったんだ……」

「そ、そんな馬鹿な」

「……」

 

 龍太郎が無言で指を指す。光輝がそちらに顔を向けると、そこには確かにメタルベヒモスがいた。

 こちらに突進してこないように、騎士団や生徒達が魔法を撃って牽制している。

 

「な、なんで?〝限界突破〟した俺の、最強魔法を使ったのに!?」

「光輝の魔法が直撃するとき、あいつバリアを張ったんだ!」

「バ、バリア?」

 

 側面にいた龍太郎達は、光輝の〝神威〟がメタルベヒモスに直撃した瞬間を見ていた。

 砲撃が直撃する前に、ベヒモスの角の辺りから、結界魔法のような障壁が発生した。

 〝神威〟が直撃しても、障壁は罅が入りながらもメタルベヒモスの体を守った。

 最終的に障壁は〝神威〟に破られたが、威力を殆ど減衰させており、メタルベヒモスは自身の耐久力で耐えることができた。

 そして、〝神威〟を撃ち終わって膝をついた光輝に接近し、尻尾を叩きつけたのだ。

 

「ベ、ベヒモスの固有魔法は、バリアじゃ、ないはず」

「あいつはベヒモスじゃないんだ。だから魔法も違うんだよ!」

 

 光輝の疑問を一蹴する龍太郎。見た目がベヒモスに似ていたから、能力も同じだと思っていた。しかし違ったのだ。見誤っていた。

 メタルベヒモスはメタル化したことで防御力が特に強化された。それに伴い、固有魔法も頭部を赤熱化するものから、強固な障壁を展開する魔法になったのだ。

 

「全員、撤退するぞ!」

 

 メルド団長が撤退の号令をする。

 最高戦力の光輝が打ち倒されたのだ。まだ戦えるだろうが、余力のあるうちに撤退する。妥当な判断だった。

 

 もっとも、相手がそれを許してくれるかは別の問題だった。

 

 撤退行動に入った光輝達へ、メタルベヒモスは逃がすものかと突進してきた。

 メルド団長は光輝達を撤退させるため、かつてのように騎士団員と共に〝聖絶〟を張りメタルベヒモスを足止めしようとする。

 しかし、角がドリルになったメタルベヒモスは突進の貫通力も上がっており、〝聖絶〟はあっさりと破られてしまった。

 

「「「うわあああっっ!?」」」

「メルドさん!?」

 

 メルド団長と騎士団員たちがメタルベヒモスに跳ね飛ばされ、ゴロゴロと転がる。その光景に光輝が叫ぶ。まるであのトラップで転移させられた時の再現だった。

 それらに構わず、メタルベヒモスは光輝達の元に一直線に向かってくる。

 自身にダメージを与えた光輝の排除を最優先にしているのだろう。迷いのない動きだった。

 

「お、俺が何とかする!」

 

 光輝がダメージの残る体に鞭を打ち、立ち上がって聖剣を構える。しかし、メタルベヒモスはもうすぐそばまで来ていた。

 魔法を詠唱する時間もない。まだ〝限界突破〟は効果が続いているが、膂力だけでメタルベヒモスを止められるはずがない。

 今度こそ、光輝と生徒達はあのメタルベヒモスの角で貫かれるのか。

 

「ふっ。刻は満ちた」

 

 ──―その時、不思議なことが起きた。

 

 メタルベヒモスの顎の下にシャッと黒い影が入り込み、なんとそのまま顎を蹴り上げたのだ。

 

「ギャウッ!?」

 

 予想外の衝撃にメタルベヒモスは目を白黒させながら、バランスを崩す。脳を揺さぶられたのか、足をもつれさせて転倒。光輝達の横の壁に激突する。

 

「何が、起きたんだ?」

 

 剣を構えたまま、呆然とする光輝。

 彼の目の前に一人の人物がいた。

 漆黒の黒装束を身に纏い、片手で顔を覆いつつ、その指の間からベヒモスを見据える男だった。片手には小太刀のような剣を持ちながら、顔を覆う手とクロスするように構えている!

 

 誰だこれと光輝は思った。龍太郎や倒れているメルド団長達も思った。

 

「迷宮の悪夢よ。友を道ずれにした魔物の同族よ。勇者を貫かんとした鋼の魔獣よ」

 

 そんな周囲の視線も無視して謎の人物はメタルベヒモスに話しかける。

 何故か1回ターンをして、前髪をかき上げ、「ふっ」と笑った。

 

「迷宮を鳴動させる螺旋の震え。実に見事。だが!だが!!だが!!!」

 

 漆黒のコートとマフラーを靡かせ、前髪で隠れていた双眸を露わにする。

 

「貴様は見落としている。ここにいる我を!深淵より生まれし、我が存在を!!今ここにいる貴様の敵は勇者だけにあらず!!」

 

 そして、懐に右手を入れ、スッと取り出した何かを一振りする。

 それは全ての光を吸い込まんとする闇の光を放つ、一枚レンズのサングラス!!

 折りたたまれていたサングラスを、スタイリッシュな動作で広げた男はそれをスチャッと装備する。

 洞窟の中なのに、サングラス!絶対かけない方がよく見えるのに、もったいぶってかけた男は迷宮中に轟けと、声高らかに叫ぶ!!

 

 

 

「ご唱和ください我の名を!深淵卿!コウスケ・E・アビィィッスゲェェッートッ!!」

 

 

 

「「「「イエスッ、アビィィッスゲェェッートッ!!」」」」」

 

 何故か永山達や騎士団員たちはアビスゲート、もとい深淵卿モードになった浩介の名乗りに追従した。

 すぐにはっとなって、何をしているんだという顔をする。

 

 これが彼らが体験した不思議なことであった。

 

 そんな周囲に構わず、武器を構えた浩介はメタルベヒモスに突貫する。その速度は勇者である光輝でさえ、目で追えない程だ。

 メタルベヒモスに近づいた浩介は、金属になっていない生身の部分を斬りつける。

 聖剣でもない、ただの刃でメタルベヒモスに傷がつくわけがない。と思われたが、

 

「グオッ?」

 

 ブシャッと浩介が斬り裂いた部分に小さいが傷ができ、血が噴き出す。ベヒモスが突然できた傷に困惑の声を上げる。

 

「ふっ。お前の防御力は凄まじい。サイボーグとなったことでさらに固くなった。だが、生き物であるのならば必ず弱い部分が生まれる。動くための関節だ。これまでの戦いでお前の関節は特定した。そこならば我が刃はお前に届く!」

 

 浩介の声がフロアに響く。しかし、その姿が見えない。

 ベヒモスが困惑し、光輝達も困惑する。

 その間にもベヒモスの生身の部分、関節部分に小さいが確かな傷がどんどんできていく。

 浩介の天職である暗殺者の持つ高い隠密性と俊敏性だけでなく、彼が生来持っていた影がとてつもなく薄い、存在感が希薄という特性が合わさった結果だった。

 しかもそれだけでない。今の彼はある技能を発動させている。

 

 ──―深淵卿(アビスゲート卿)

 効果:凄絶なる戦いの最中、深淵卿は闇よりなお暗き底よりやってくる。さぁ、闇のベールよ、暗き亡者よ、深淵に力を! それは、夢幻にして無限の力……

 

 暗殺術の派生技能として最初から浩介が持っていた技能。発動方法も分からないし、ステータスプレートに表示された効果も意味不明だったそれを発動させる方法を探した。

 だって悔しかったから。

 親友であるハジメが、自分たちを守るためにベヒモスに立ち向かった時、何もできなかった。香織と雫も感じた無力感を、ハジメの親友である浩介が感じないはずがなかった。

 しかもその後には、ハジメの勇敢な行動を貶めるかのごとき、教皇イシュタルによる裏切り者扱い。ハジメが落ちる直接的な原因だった檜山の無罪放免(騎士団員を痛めつけたことによる謹慎には清々したが)。

 浩介は誓った。もう友人を失うような目に遭いたくない。そのために力をつける。そのためならどんなことでもやってやると、浩介は決意したのだ。

 

 イシュタルを殴ったことによる謹慎が終わり、再びオルクス大迷宮の訓練に参加し始めたとき。浩介は通常の訓練だけでなく、自身の影が薄いという特性を生かして、自主練に励んだ。

 それは単独でオルクス大迷宮に入るということ。

 実戦の中で自身の技能と戦い方を磨いた。

 そして、使用方法不明だった〝深淵卿〟の使い方をついに見つけた。

 

『──君自身が深淵になるということだ──』

 

 かつてハジメが言ったこと。それが正解だったのだ。

 ハジメが作ってくれたサングラスをつけ、去年の演劇で披露した深淵卿の演技をしてみたところ、湧き上がる力を感じたのだ。

 黒歴史を繰り返すという苦行をしながら、〝深淵卿〟の検証を続けた結果、どうやら段階的な〝限界突破〟の効果があるらしいと分かった。爆発的に力が跳ね上がるのではなく、発動中、少しずつ全スペックが強化されていくのだ。しかも使用後に疲弊し動けなくなるような副作用もない。破格の能力だったのだ。

 

 ただし発動させるためには、深淵卿という厨二病全開の言動としぐさをとる必要がある。しかも使用中には言動としぐさがどんどん厨二病のような、香ばしいものになっていく。

 

 浩介的にとても辛いものだった。しかし、強くなるために〝深淵卿〟を使いこなすと決めた浩介は、一人でオルクス大迷宮に潜っている間、積極的に使い続けた。

 今ではサングラスをつけずとも深淵卿モードになれる。コツは影で暗躍する黒幕ムーブだ。

 

 余談だが、〝深淵卿〟を発動している間は影が若干薄くなくなるようで、他の冒険者に目撃されていた。その結果、オルクス大迷宮にはとんでもなく強い謎の怪人がいると、冒険者の間ではもの凄い噂になってしまった。

 

 今回の戦いでも浩介はメタルベヒモスが出現した瞬間、〝深淵卿〟を発動させた。光輝達が戦っている間、皆のフォローをしながらメタルベヒモスに通用する段階になるまで強化をしていた。

 光輝達がこのままメタルベヒモスに打ち勝てば、自分は影の支援者として深淵に消える予定だったが、ピンチに追い込まれてしまった。

 ならば我が行くしかない。浩介は強化しきるまで我慢していた諸々の衝動(主に香ばしいセリフとか影の実力者ムーブ)を解き放ち、メタルベヒモスに戦いを挑んだのだ。

 

「更なる深淵をお見せしよう!!」

 

 浩介は一度攻撃の手を止めると、メタルベヒモスから距離を取る。

 そして、左手でサングラスをくいっと押し上げながら右手を掲げる。

 

「アビスイリュージョン」

 

 パチンと指を鳴らすと、浩介の体から三人の浩介が現れた。

 

「これぞアビスイリュージョン。深淵とは嘘と真実が入り混じる虚無の領域。そこより生まれいでし我もまた、嘘と真実の体現者なのだ」

「何を言っているんだ浩介!?」

「全然意味わからねえぞ!?」

 

 説明になっていない深淵卿の説明に、永山と野村がツッコミを入れる。

 実際は浩介の技能である〝暗殺術〟の派生技能[+夢幻Ⅲ]によって発生させた幻の分身だ。最大三人まで出現させられる。

 

「行くぞ、我らよ!!」

「深淵の底、見破れると思うな!!」

「刮目せよ!友に並ぶための力!!」

「くくくっ。今度の深淵は一味違うぞ!!」

 

 分身を含めた四人の浩介たちがメタルベヒモスに向かう。

 分身は幻なので攻撃はできない。しかし、メタルベヒモスの視界にワザと映ることで、混乱させていく。

 その隙に浩介はメタルベヒモスの生身の部分を、今度は殴り始めた。

 俊敏性と隠密性に特化している暗殺者の浩介の筋力では、例え生身の部分と言えど、柔らかい関節部分でなければダメージは与えられないはずだ。

 だが、浩介の拳は轟音を響かせてメタルベヒモスの体にダメージを与えた。

 〝深淵卿〟で強化されたステータスが、メタルベヒモスの体に傷をつけるほどまで高まったのだ。今の浩介は光輝にも匹敵する強さだ。

 

「うおおおおおおおっっ!!」

 

 黒い一陣の風となった浩介は、分身でメタルベヒモスを幻惑し、本体が殴り斬り裂く。

 修羅めいた浩介の戦いに、光輝達は何が起こっているのかわからず見ているしかできなかった。

 

「諸君」

「うわ!?」

 

 そこに、突然浩介が現れた。

 

「こ、浩介!?」

「アビスゲートと呼びたまえ。または深淵卿だ」

 

 驚く永山の言葉を、即座に否定する。今の浩介は深淵卿なのだ。

 

「逃げるなら早くしたまえ。我が引き付けていられるのもそう長くない」

 

 浩介は自身の右腕の拳を見せる。

 その拳は血にまみれ、赤く腫れていた。見せてはいないが、左の拳も同様だ。

 あまりの痛々しさに光輝達は絶句する。

 

「そ、それは一体……」

「ふっ。深淵の代償。大いなる深淵の力は同時に大いなる対価を求めるのだ」

 

 実は〝深淵卿〟で上昇したステータスに、浩介の肉体が追いつかなくなっているのだ。

 メタルベヒモスに傷をつけるほど強化したのはいいものの、浩介の肉体が悲鳴を上げ始めている。

 

「な、治すね!」

「無駄だ。この我は写し身。真の我は今もなお戦いの中だ」

 

 つまり分身。本体を模した幻だ。だから辻が治癒魔法をかけても無駄なのだ。

 

「ゆえに逃げるのなら早く決断しろ」

「浩介、お前はどうするんだ!?南雲みたいに捨て石になるっていうのか!?」

「ふっ。深淵に心配など不用」

「ふざけてんじゃねえよ!!俺たちにまた誰かを見捨てて逃げろっていうのか!?」

 

 浩介の言葉に、龍太郎が怒鳴る。

 これでは本当に以前の繰り返しだ。ハジメに全てを任せて、逃げ出した時と。

 もう二度と誰かを置いてきぼりにして逃げるなんて真似したくなかった。

 龍太郎の思いは永山達も同じようだ。何とかして浩介も一緒に逃げようと言う。だが、浩介が引き付けていないと、メタルベヒモスに追いつかれて逃げられなくなる。

 

 ちなみに近藤たちは逃げたそうだが、周囲の空気を感じ取り、逃げ出せないでいる。

 

 浩介の分身は龍太郎達を見て、こうなった時に考えていた答えを簡潔に言う。

 

「ならばそこの勇者に無駄にでかいビームを撃たせろ」

「え?」

 

 突然指名された光輝が驚く。どういうことか聞く前に、いつの間にか浩介の分身は消えていた。

 

「ど、どういうことなんだ?」

「今攻撃したら浩介まで巻き込むぞ!?」

「で、でもこのままじゃあ遠藤君死んじゃうよ!?」

 

 光輝達が混乱している間にも、浩介とメタルベヒモスの戦いは激しさを増していた。

 メタルベヒモスは体をめちゃくちゃに動かし、浩介に攻撃する隙を与えないようにしている。

 しかも光輝にも〝限界突破〟の使用時間の限界が近づいていた。

 そこに再び浩介の分身が現れた。さっきよりもボロボロで服も手足も血まみれで、痛々しい。顔にはさっきまでの余裕がなくなっていた。

 

「さっさとしろ!!!いい加減決めろこの優柔不断の腰抜け負け犬集団が!!?」

「こ、腰抜け?負け犬だとっ!?!?」

 

 浩介の分身の言葉に激高する光輝。

 言い返そうとするも、言いたいことだけ言うと分身は消えた。

 もっとも、あの言葉だけで十分だった。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!!」

「光輝!?」

 

 光輝は怒りのままに再び詠唱を始める。それにギョッとする龍太郎達。

 ベヒモスとの闘いではハジメに良いところを持っていかれ、その後のワーガルルモンとの闘いでは手も足も出ずに打ちのめされた。そのことにより、光輝は酷くプライドを傷つけられ、鬱憤を溜め込んでいた。

 迷宮の訓練での活躍で持ち直していたが、さっきの浩介の言葉で再びプライドを傷つけられた。もはや光輝は怒りのままに攻撃しようとしている。

 

「神の息吹よ。全ての暗雲を吹き払い、 この世を聖浄で満たしたまえ!!神の慈悲よ。この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!!」

「やめろ光輝!!」

「よせ!!」

 

 龍太郎達や起き上がったメルド団長がやめさせようとするが、光輝は振り払う。

 ステータスでは〝限界突破〟状態の光輝が圧倒的に勝る。詠唱中だというのにやめさせられない。

 そして、呪文が完成した。

 

「〝神威〟ッ!!!」

 

 再び放たれた極太の魔力砲撃。それを感知したメタルベヒモスはギョッとしながらも、先ほど防御に使った障壁を展開する。

 

 激突する砲撃と障壁。

 

 二撃目であり疲弊していたため、光輝の砲撃は最初より威力が低い。そのため、メタルベヒモスは余裕をもって防いでいた。

 

「だが、動くことはできないようだな」

 

 障壁の内側に、漆黒の少年が現れた。

 黒衣にサングラスをつけた浩介は、最初と違い酷い恰好をしている。

 両手足は血で濡れ、傷だらけのボロボロ。動いていたメタルベヒモスの体が掠ったのか、頭からも血を流している。

 少しでも気を抜けば、全身に走る痛みにのた打ち回りそうになっている。それでも、浩介は深淵卿として不敵に笑う。

 懐から四本の金属の筒を取り出すと、あっという間にそれを連結させる。先端には持っていた剣を取り付け、即席の槍を作り出す。

 

「これで決めさせてもらう」

 

 ふっとメタルベヒモスの視界から消える浩介。次の瞬間、メタルベヒモスは右耳に一瞬の不快感を覚え、次に激痛を感じた。

 

「グオッ!?」

 

 さらに、その後には途轍もない衝撃が脳を直撃。

 意識が遠ざかり、障壁を解除してしまう。そして、メタルベヒモスの意識は光の中に消えていった。

 

 その光景を浩介は、砲撃に飲み込まれるギリギリで離脱して、壁に背中を預けながら見ていた。

 浩介は槍を、メタルベヒモスの耳に突き刺し、上昇したステータスの全てを込めて殴りつけたのだ。その一撃は鼓膜を破り、脳を直接揺らした。

 普通のベヒモスならこれだけで倒せただろうが、防御特化のメタルベヒモスを倒せると思えなかった。だから、後詰の一撃を光輝に撃たせたのだ。

 

「闇に埋もれて眠るがいい。ふっ」

 

 闇というより光に埋もれているのだが、深淵卿だから闇なのだ。

 決め台詞を呟くと、浩介の意識は暗転した。

 

 こうして勇者たちは65階層のボスを倒した。

 幸い、浩介は深淵卿モードだったため、存在を忘れられて放置されることはなかった。永山に抱えられ、地上に帰還した。

 だが、トドメを刺したのは光輝の砲撃だったので、メタルベヒモスは勇者が倒したこととして世の中に知られていった。

 

 これに対し、浩介は別に気にしていなかった。手柄が欲しくて戦ったわけではない。ハジメに追いつくために、強くなるために戦ったのだから。

 浩介はこの後も己を鍛え続ける。

 親友と再び出会い、共に戦うために。

 深淵卿の戦いは、これからだ。

 

 これ以降、オルクス大迷宮で見慣れない、強い魔物が多数目撃されるようになった。迷宮の異常事態として、訓練は一時中断することになり、勇者たちは王都に戻った。

 

 時を同じくして、各地の農地の改革に出向いていた愛子も王都に戻った。

 久しぶりに生徒達を見て安心した愛子に、二人の女子生徒が次の農地改革への同行を申し出た。

 それは園崎優花と八重樫雫の二人だった。

 




今回は勇者sideでした。
勇者というより、深淵卿sideかもしれません。
恐らく読者が気になっていただろうことをまとめますと……。

1. 檜山は謹慎
檜山の詳細はもう少しお待ちを。

2. 光輝、メタル化したベヒモスの回転する大きくて太いもので貫かれそうになる。
魔物の攻撃で檜山とピーな展開と悩みましたが、こっちにしました。
光輝の受難はまだまだここからです。

3. ご唱和ください我の名を!Yesアビスゲート!!
みんな大好き深淵卿。ちょっと自分の好きな特撮作品の言い回しをやらせてみました。
意外とはまっているんじゃないかなと思います。
勇者に匹敵することができるのは原作アフターでもわかっていましたので、時間を駆ければ超えることができるっていう風にしました。未熟なのでボロボロになりますが、これはこれで英雄っぽいですよね。ちょっと自己犠牲が過ぎますが、今後で成長させていこうと思います。



次回はハジメ達に戻ります。オリジナル展開満載ですが、お楽しみに。
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