ありふれた?デジモンテイマーは世界最強を超え究極へ至る   作:竜羽

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感想・評価・お気に入り登録。それから誤字脱字報告もありがとうございます。

少し交流のあるユーザーさんが大変なことになり、私なりの励ましのお言葉を送ったのですが、どうなったのか気になって少し投稿が遅れました。

『命はただそこにあるだけで美しい』

あるデジモンの作品に出てきた言葉ですが、多くの人に心に刻んでいてほしい言葉です。

では、最新話をお楽しみください。



21話 樹海のユエ

 ユエとムンモンが仲間に加わったことで、ハジメ達の迷宮攻略は順調に進んだ、とは言い難かった。

 なぜならこれまでの階層には現れなかった、デジモンのイミテーションが出現するようになったからだ。

 イミテーションのモデルは殆どが成熟期デジモンであり、本物と遜色ない強さを持っていた。それだけならまだよかった。成熟期レベルなら迷宮の魔物と同等の強さなので対処できる。

 だが、たまに完全体デジモンのイミテーションが出現したのだ。

 強さは本物の完全体には及ばないが、他の魔物と比べると別格だった。そんな魔物が1階層に1~2体出現するのだ。

 特にスカルグレイモンのイミテーションが出現した時は、ユエとムンモン以外の全員が顔を青褪めさせた。慌てたハジメ達は今出せる全力の攻撃で戦った。

 ユエもスカルグレイモンI(イミテーション)と戦う中で完全体デジモンの強さを実感し、本物はもっと強いと聞かされ、辟易した。

 

 それでも彼らは止まらず、迷宮の攻略に挑んだ。大体2日に1階層のペースで進み、ユエが封印されていた階層から10階層も降りることができた。

 

 今は拠点用に作った横穴の中で休息をしていた。

 

 各々が自分のできることをやりながら、迷宮攻略の準備をする中、ユエはハジメ達のことを考える。

 この迷宮攻略の中で、ユエはハジメ達のことを観察してきた。

 女王として一国の頂点に立ったことのあるユエは、人を見る目はそれなりに持ち合わせている。これから迷宮を攻略し、その後も一緒に行動することになるだろうハジメ達は、いわば運命共同体だ。だからもっと知ろうと思ったし、擦り切れてしまった感情を精一杯思い出しながら接してきた。

 

 例えば、ユエが封印されていた階層でのハジメとガブモンの場合。

 

「ハジメ。今何をしている?」

 

 ハジメとガブモンが一緒になって何の作業をしているのか気になり、ムンモンを抱えたユエは屈んで聞いてみた。

 彼らは香織が持ってきてくれた荷物の中にあった、ノートパソコンとタブレット端末を使って作業をしていた。

 

「ん?新兵装の開発だ」

 

 そう言うとハジメはノートパソコンの画面を見せる。そこにはハジメが新しく考案した武装の図面があった。

 

「これ、盾?」

「ああ。サソリモドキとの闘いで防御用の装備が必要だと感じたからな」

 

 錬成で作った即席の盾ではサソリモドキの攻撃を防げなかった。そこでハジメは防御用の装備を作ることにした。

 素材はなんとサソリモドキだ。外殻の硬さが気になったハジメがサソリモドキの死体を調べてみると、〝鉱物鑑定〟が使えた。

 つまり、あの外殻の硬さは特殊な鉱石のおかげだったのだ。

 その名も『シュタル鉱石』。

 魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度が増すというものだ。

 つまり、サソリモドキ自身の膨大な魔力を込めることで、あの出鱈目な防御力を発揮していたのだ。

 試しに〝錬成〟を使ってみるとあっさり変形し、死体から取り出すことができた。もしもあの時にこのことに気が付いていたら、あっさり突破出来たとちょっぴり凹んだ。

 

 過ぎたことは仕方ないときっぱり切り替えたハジメは、このシュタル鉱石を利用することにした。

 

 デジモンテイマーの弱点はデジモンに力を与えるテイマー自身だ。デジモンが相手なら本能でパートナーデジモンに向かうため、立ち回りに気を付けるだけでよかった。デ・リーパーとの闘いではテイマーとパートナーデジモンは融合して戦っていた。

 だがこの世界での戦いは違う。魔物はテイマーにも襲い掛かって来る。この間みたいにパートナーと離れ離れになるかもしれない。そんなときに生き残るためにと考えたのがこの盾だ。

 

「普段は背負えるように折りたたんでいるが、刻んだ〝錬成〟の魔法陣を起動させれば一瞬で展開できる。展開した後も魔力を流し続ければ鉄壁の防御力だ。香織とユエの分も作っているぜ?」

「私、怪我しても治るよ?」

「それでも怪我をしたら痛いし隙ができるだろ?気休めかもしれないが、持っておいてくれ」

「……ん。わかった」

 

 ハジメの言葉にユエは頷く。痛いのは我慢できるが、怪我で体勢が崩れたりしたら立て直しに隙ができる。

 それにハジメの好意は嬉しい。自分のことを考えてくれている。

 ユエはハジメのことを熱っぽく見つめる。今のユエは香織の着替えを着ており、サイズがあっていないのでブカブカだ。袖口から指先からちょこんと小さな指を覗かせて膝を抱えている。なんとも愛嬌があり、整った容姿も相まって思わず抱きしめたくなる可愛さだ。

 ハジメが顔を赤らめ、ユエがはにかむ。

 

「きゃああっ!?」

「へぶっ!?」

 

 そこに突っ込んできた香織。

 巻き込まれてゴロゴロと転がるユエ。ギョッとするハジメ。

 

「あ~あ。何をやっているの?香織」

 

 呆れた顔のプロットモンが近づいてきたので、ガブモンが話しかける。

 

「プロットモン。香織は何やっているの?」

「〝天歩〟の訓練中によそ見をしたのよ。それで制御を失って飛んできたってわけ」

「あ~。まあ、仕方ないか。さっきまでハジメとユエなんか良い雰囲気だったし」

 

 プロットモン曰く。

 香織がハジメの暴走を止めた後に、何故か習得していた〝天歩〟という技能。それは空中に足場を作りだすというもので、ハジメが奈落に落ちた時に遭遇した兎の魔物が持っていた固有魔法だった。なぜか手に入れていた香織は、使い熟すために毎日訓練していた。今日も訓練をしていたのだが、目に入ったハジメとユエの様子が気になってしまい、技能の制御を誤ってしまったのだ。

 

「カオリ、重い」

「ごめん、ユエ。……って重い!?ひどくないかな!?」

「事実。早くどいて」

「むぅううう」

 

 ユエの言葉にカチンとくる香織だが、乗っかっているのは確かなのでユエの上からどく。

 

「香織。訓練するのはいいが気をつけろよ」

「ごめんねハジメ君」

「……全く」

 

 ハジメの注意に手を合わせて謝る香織。ユエは静かに怒っていた。

 だが、こんなことでもユエにとっては新鮮で楽しいやり取りだった。

 その後、ハジメが設計した大盾は三人分完成した。ハジメは「アイギス」と名付けた。

 

 

 

 またそれから別の日。今度は香織とプロットモンの所にユエは近づいた。ちなみにムンモンはユエの頭の上に乗っていた。

 

「カードスラッシュ!《超進化プラグインS》!!」

「プロットモン!進化!!──―テイルモン!!」

 

 プロットモンをテイルモンに進化させる香織。

 

「違和感はある?テイルモン」

「そうだな」

 

 手足を動かし、その場で一回転飛びするテイルモン。

 プロットモンはもともとテイルモンに進化して、その姿で安定していた。しかし、ハジメを救うためにホーリーリングの力を引き出し、ホーリードラモンに進化した。そのせいで体に負担がかかり、成長期のプロットモンに退化してしまっていた。

 だが、もともと成熟期のテイルモンで安定していたのだ。迷宮を攻略する上でもテイルモンの方が良いので、休憩中に進化してテイルモンの姿を維持できるように訓練していた。

 かなり時間がかかったが、体の負担も回復してきた。もうすぐテイルモンの姿で安定するかもしれないと思い、今日も進化してみたのだ。

 一通り体を動かしたテイルモンは嬉しそうに頷く。

 

「うん。問題ないわ。このままテイルモンでいられそう」

「やったあ!よかったよう!」

 

 テイルモンの返事に笑顔を浮かべる香織。

 

「……カオリ」

「あ、ユエ!見て見て!テイルモンの体が治ったの」

「ん。よかった」

「ん。よかったよかった」

 

 ユエもプロットモンの体のことは聞いていたので、治ったことを聞き笑顔を浮かべる。

 ムンモンもユエの頭の上から降りて、テイルモンのことを祝福するように飛び跳ねる。

 ふとユエは香織の持つ進化のカードに目を向ける。

 デジモンのカードについてもハジメ達に教えてもらった。もっとも日本語で書いてあるので、ユエには読めなかったが。

 しかし、ムンモンもいつかテイルモンのように進化するときが来る。その時に魔法で援護するだけじゃなく、ハジメ達のようにカードの力を与えられたらとユエは思った。

 そこでユエは香織にある頼みをする。

 

「……カオリ。お願いがある」

「何かな?」

「……カオリ達の言葉、教えて」

「私たちの言葉って、日本語?」

「ん。カオリ達のカード、私も使えるようになりたい」

 

 そう言われて考える香織。〝言語理解〟の技能があるとはいえ、日本語を人に教えるなんて初めてだ。自分にちゃんと教えられるだろうか。

 

「……ダメならハジメに聞く」

「私が教えるよ!」

 

 悩んでいたはずなのにあっさりと引き受ける香織。

 そんな香織をジト目で見つめるユエ。

 

「カオリ。私とハジメをとおざけようとしている?」

「うっ。そ、そんなことない……よ?」

 

 ジーっとさらなるジト目を向けるユエ。冷や汗をかきながら目を逸らす香織。

 

「じーー」

「うっ。ぴゅ~ぴゅ~……」

 

 ついには口に出しながらジト目を始めたユエ。苦しまぐれに口笛まで吹き始めた香織だが、段々耐えられなくなってきた。

 

「ぅぅ。……はぁ~。……ごめんなさい」

 

 結局。根負けした香織はユエに対して土下座をして謝った。

 

「ふふん」

 

 ユエは勝ったと思って胸を張る。

 香織は頭を下げながら渋々理由を言う。

 

「だって、ハジメ君って隠れた主人公属性持っているんだもん。向こうにいた時は私と雫ちゃん以外近寄らせないようにずっと一緒にいないといけなかったの。それにハジメ君超優良物件って言われていたから裏で狙うゴ〇ブリがいっぱいだったんだもん」

「……超優良物件?」

 

 ゴ〇ブリ発言は聞かなかったことにして、ユエは気になったところを聞く。

 

「ハジメ君って結構お金持ちだったからね。玉の輿狙いの女の子が結構いたんだよ」

 

 大抵の女子はルックスがいい光輝に最初に目が行くが、ハジメの家のことを聞くと殆どがハジメの方に流れた。

 何せハジメの父はゲーム会社の社長で、母は描いた漫画が映画化するほどの売れっ子少女漫画家。ハジメ自身も天才少年と持て囃されており、大学院卒業後の将来設計プランも立てていた。

 どっちと結婚出来れば将来安泰になるのか、女子たちにわからないはずがなかった。

 このことに気が付いた香織と雫は、そんな輩にハジメが煩わされないように牽制をしていたのだ。

 

 まあ、それ以外にもハジメが恋愛フラグを立てないようにする意味もあったのだが。

 

「なのに、ベヒモスとの闘いの時に園部さんとフラグが立ったみたいだし、今はユエもなんでしょ?」

「……私?」

「ユエってハジメ君のこと好きなんでしょ?」

 

 香織はここではっきりさせようと、ユエの気持ちを聞く。

 

「…………わからない」

 

 しばらく考えたユエはわからないと答えた。

 

「……私は、誰かを好きになったことが無い。ハジメを見ていると胸が温かくなる。でも、これがカオリの言う好きっていうことなのかわからない」

「ユエ……」

 

 香織は思ってもいなかったユエの答えに悲しくなった。

 考えてみれば、ユエは王族として生まれたから普通の恋愛をしたことが無かったのだ。しかもその後に封印されたため、ますますそんな感情とは無縁となった。

 だからハジメにどんな気持ちを抱いているのか、ユエ自身わかっていないのだ。

 

「ごめん。私、ちょっと無神経だったね」

「……いい。カオリはハジメが好き?」

「うん。好き。大好きだよ。愛している」

「……そう。羨ましい」

 

 それから二人はしばらく恋バナで盛り上がった。

 なお、その後は約束通り香織はユエに日本語を教えることになった。呑み込みの早いユエはどんどん覚えていき、ガブモン達とコミュニケーションを取る手段が増えた。

 

 こんな感じで、ユエはハジメ達と交流を深めていった。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

「この階層はまさに樹海だな」

「また果物をつける魔物いたらいいなあ」

 

 ハジメ達が新たに降り立った階層は、10メートルを超える木々が鬱蒼と茂っている樹海だった。空気も湿っぽい。熱帯林のような暑さこそないが、下への階段を探すのは大変そうだ。

 

「このタイプの階層なら進化したほうがいいな。ガブモン。香織」

「オッケー!」

「任せて!」

 

 声をかけるハジメに、応えるガブモンと香織。

 ハジメは香織に自分のデジヴァイスを渡す。受け取った香織はデジヴァイスにあるカードをスキャンする溝をハジメの方に向ける。

 左腕がないハジメが、カードスラッシュをやりやすいように補助するのが香織の役割だった。

 

 テイマーにとって大事なデジヴァイスを任せることができるほど、ハジメに信頼されている香織。そんな二人の関係が、傍で見ているユエにはいつも眩しく見えていた。

 

 ハジメは取り出した進化のカードを構えると、香織が向けてくれているデジヴァイスの溝にスラッシュする。

 

「カードスラッシュ!《超進化プラグインS》!!」

 

 ──―XEVOLUTION──―

 

「ガブモン!X進化!!──―ガルルモンX!!」

 

 進化したガルルモンは身体をかがめる。

 その背中にハジメが荷物を持って跨る。

 

「それじゃあ私たちも」

「いつでもいいよ」

 

 ハジメにデジヴァイスを返した香織は、自身のデジヴァイスを取り出す。

 

「カードスラッシュ!《光のデジメンタル》!!」

 

 ──―ARMOUR EVOLUTION──―

 

「テイルモン!アーマー進化!!──―微笑みの光!ネフェルティモン!!」

 

 香織もテイルモンをネフェルティモンにアーマー進化させる。そちらには香織とユエ、ムンモンが乗った。

 

 こうして準備を整えたハジメ達は樹海の階層の探索に乗り出した。

 

 一時間後。

 

「だぁー、ちくしょおおー!!どれだけいるんだよ!?」

「喋るなハジメ!舌噛むぞ!!」

「〝縛煌鎖〟!!〝縛煌鎖〟!!〝縛煌鎖〟!!──―キリがないよ!?」

「《カースオブクィーン》!魔法解いて香織!一気に突っ切るわよ!!」

「……カオリ、ガンバ」

「……ガンバ」

「サボってないでユエも魔法撃って!!」

 

 ハジメ達は二百体近い数の魔物の群れから逃げていた。

 樹海を駆けるハジメ達は、まるで白亜紀に生きた恐竜、ティラノサウルスやラプトルのような姿をした魔物達に追いかけられ、空中を飛ぶ香織達はプテラノドンのような魔物に群がられていた。

 しかもその魔物達の頭には、

 

「なんであいつらは頭に花が咲いているんだ!?」

 

 頭の上に一輪の花が咲いていた。獰猛な恐竜なのに、頭の上には向日葵に似た花がフリフリ揺れている光景はシュールすぎた。

 

 なぜこんなことになったのか。

 探索を開始してすぐ、ハジメ達は頭に花を咲かせたティラノサウルスに遭遇した。

 シュールな花はともかく、リアルにジュラシックなワールドの様な展開に、ハジメと香織、ガルルモンはちょっと感動していたが、そんなことを知らないユエはさっさと魔法を発動。

 

「〝緋槍〟」

 

 ユエが手を掲げると、渦巻く炎が円錐状の槍になって現れる。名前の通りの緋色の槍がティラノサウルスの右目に飛んでいき、あっさり突き刺さり、そのまま貫通した。

 そして、頭の花がポトリと落ちた。

 

「映画だと最後まで生き残ったんだけどなあ」

「現実は残酷ってことだな」

 

 ハジメとガルルモンがぽつりと零す。

 その時、香織達の上から何かが向かってきた。

 コウモリのような翼膜がある翼。ノコギリの様な歯が並んだ嘴。まさにプテラノドンのような魔物が現れた。

 しかも十匹程の群れだ。

 またもやジュラシックのワールド的な展開だった。ただし、頭の上には花が咲いていたが。真っ白な百合が。

 

「ネフェルティモン。ユエ。迎え撃つよ」

「わかった」

「ん」

 

 まずはネフェルティモンが額の飾りから《カースオブクィーン》を放ち、次々とプテラノドンを撃ち落とす。

 撃ち漏らしたプテラノドンには、香織が杖を向ける。

 

「〝縛煌鎖〟!!」

 

 無数の光の鎖を伸ばす。捕縛用の光魔法で、王宮の訓練では周囲5メートル程しか伸ばせなかった。

 しかし、〝魔力操作〟を覚え、異常ともいえるくらい魔力が増大した今では、100メートル以上伸ばすことができた。香織がネフェルティモンの上に乗って空中にいるのも、この魔法を最大限に活かすことができるからだ。

 程なくしてプテラノドンを全て捕獲した。捕まえたプテラノドンにはネフェルティモンとユエが攻撃を加えて撃ち落としていく。頭の花も散っていく。

 

 ようやく魔物を全て倒したと思ったハジメ達だが、一息つく暇もなくどんどん魔物が接近してきたのだ。

 地上からはティラノサウルスだけじゃなくラプトルの様な魔物の群れ。上空からはさらなるプテラノドンの群れがハジメ達に向かってくる。

 魔物を倒していくハジメ達だが、いくら倒してもキリがない。仕方なく、その場から逃げ出したのだが、魔物達は追いかけてくる。

 こうしてハジメ達は魔物の大群との逃走劇を繰り広げることになったのだ。

 幸いなのは、魔物達の強さが今までの階層に出現した魔物よりも弱いことだ。だが、数が尋常ではない。

 

 この状況を何とかする術を考えていたら、事態はさらに悪化した。

 

「ん?この音は?」

 

 最初に気が付いたのはネフェルティモン。ブウゥゥンという、プテラノドンのものとは異なる羽音が聞こえたのだ。

 気になったネフェルティモンがそちらを向くと、こちらに高速で接近する影があった。

 次第にはっきりしてきた影に、ネフェルティモンは驚愕する。

 

「あれは!?」

「え?何?どうしたの?」

「ん?」

 

 ネフェルティモンの様子に香織とユエもそちらを見ると、ギョッとした。

 赤い甲殻に鋭く大きな顎を持つ巨大なクワガタムシのような姿。「始まりの敵」としてデジモンファン達の間で有名であり、デジモンの凶暴性の代名詞とされる昆虫型デジモン。

 その名は、

 

「クワガーモン!?」

「デジモンの気配はしない。イミテーションだ!!」

「あれが、クワガーモン……」

 

 有名なデジモンの姿に驚く香織とユエ。

 

「キシャアアアッッ!!」

「くっ!!」

 

 クワガーモンIはプテラノドンとはけた違いの速度で向かってくる。

 ネフェルティモンは咄嗟に体を捻り、クワガーモンIの突進攻撃を躱す。

 クワガーモンIの顎の力は超強力で、一度挟まれればひとたまりもない。

 

「しっかり掴まって!」

「くっ、うん!」

「ん!」

 

 香織とユエが振り落とされないようにネフェルティモンにしがみつく。

 それと同時にクワガーモンIが旋回して再び向かってきた。その進行方向にいたプテラノドンは、生すすべもなく弾き飛ばされていく。

 ネフェルティモンはクワガーモンIに追いつかれないように飛行し、何とか遠距離攻撃で倒そうとする。

 だが、香織達を乗せているネフェルティモンはクワガーモンを振り切れない。

 やがてクワガーモンIの攻撃がネフェルティモンを掠った。

 

「きゃあっ!?」

「ッ!?」

 

 高速で移動していた為、大きくバランスを崩すネフェルティモン。

 悲鳴を上げる香織。衝撃で思わずしがみつく力を緩めてしまうユエ。

 その拍子に、ユエの腕からムンモンが滑り落ちてしまった。

 

「ッ!?ムンモン!!!」

「ユエ!?」

 

 空中に放り出されたムンモンを助けるために、ユエは飛び出した。

 

「〝来翔〟!」

 

 ユエは風の初級魔法を使う。上昇気流を生み出し飛び上がることができる魔法だが、ユエの様な熟練者であれば飛翔することもできる。

 ユエはムンモンに向かって手を伸ばし、見事キャッチする。

 

「ムンモン!よかった……」

「ん。ありがとう。ユエ」

 

 ギュッとムンモンを抱きしめるユエ。ムンモンも助けてくれたユエにお礼を言う。

 そのまま香織とネフェルティモンの所に戻ろうとするが、彼女たちはクワガーモンIと壮絶な空中戦を繰り広げていた。戻ろうとすれば巻き込まれてしまう。

 仕方なくユエは樹海に降りる。

 

「ふぅ……」

「ごめんなさい。ユエ」

 

 一息つくユエに、落ちたことを謝るムンモン。

 そんなムンモンに対し、ユエは気にしてないと微笑み、ゆっくり撫でる。

 怒っていない様子のユエにムンモンはホッとするが、足を引っ張ってしまっていることを悔しく思う。

 同じパートナーデジモンであるガブモン達は、進化してテイマーの大きな助けになっている。幼年期のムンモンではユエの助けになれない。

 ユエの腕の中でムンモンが悩んでいると、樹海の中から咆哮が聞こえた。

 

「……くる」

 

 ユエが右手を掲げて魔法の発動動作をする。同時に樹海の中から、ラプトルの魔物五匹が飛び出してきた。

 

「〝凍雨〟」

 

 すかさず魔法を使うユエ。鋭い氷の針が空中に出現し、雨のように降り注ぐ。

 高位の氷属性魔法だが、チートな魔法使いであるユエはいとも簡単に発動させる。

 ラプトルたちは全身に氷の針が突き刺さり、絶命していく。

 しかし、魔物の勢いは途切れることはなく、どんどん現れる。

 ユエは樹海を燃やさないように火属性以外の魔法で倒していく。

 

 このままハジメ達が合流するまで持ちこたえようとするユエだが、異変が起きる。

 

「?……霧?」

 

 ふと気が付くとユエの周囲に霧が立ち込めていた。

 木々の間からゆっくりと、霧が立ち込めてきており、視界がどんどん真っ白になっていく。

 さっきまで襲い掛かって来ていた魔物も、いつの間にかいなくなっている。

 まるで、ムンモンの生まれたデジタマが現れた時の様な霧。しかし、今度の霧は一向に晴れる気配がない。

 そして、ユエの目の前は真っ白になってしまった。

 

「……ッ」

「……ユエ」

 

 思わずムンモンを強く抱きしめてしまう。真っ白な視界は、色こそ違うがユエが幽閉されていた部屋の暗闇を思い起こさせた。

 テイマーの不安を感じ取ったムンモンが、ユエに声をかけて不安を少しでも和らげようとする。

 ユエとムンモンが霧の中で押し寄せる不安と戦っていると、霧の中に黒い影が現れた。

 

「……ハジメ!!」

 

 それはハジメだった。

 孤独に囚われそうになっていたユエは、ハジメに駆け寄る。

 だが、ユエがハジメに抱き着こうとすると、ハジメがスッと後ろに下がった。

 

「え?」

 

 ユエが呆けていると、ハジメが背中を向けて霧の中に消えていく。

 

「ま、待って!!」

 

 ユエはハジメを追いかける。だが、一向に追いつけず、ハジメはどんどん離れていく。

 やがて、ハジメの周囲に新たな影が現れる。

 

「カオリ!?」

 

 それは香織だった。だが、彼女もハジメと同じくユエに背中を向け、ハジメと一緒に霧の中に消えていこうとする。

 

「……待って!!待ってよ!?」

 

 ハジメと香織の隣に、ガブモンとテイルモンの姿も現れる。だが、彼らはユエの方を見ず、ハジメと香織と一緒に先に進んでいく。

 

「……ああ、あああ」

 

 必死で手を伸ばすユエだが、全く届かない。

 そして、彼らは霧の中に消えていった……。

 

 

 

「嫌ああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!???」

 

 

 

「ユエ!!!」

 

 絶叫を上げるユエだったが、ムンモンの声にハッと正気に戻る。

 

「え?え?」

 

 そこでユエはようやく自身の状況に気が付いた。

 今の彼女は手足と体を樹の蔦で拘束され、空中に吊り下げられていた。腕の中にいるムンモンが、必死に声をかけている。

 

「んッ!んッ!……一体、何が」

 

 拘束から逃れようとするが、樹の蔦はビクともしない。どうしてこんな状況になったのか、ユエには全く分からない。

 

「ユエ、ハジメ達の名前を叫んで泣きながら走っていた。それでこの蔦に自分から飛び込んで行って、蔦がユエを縛った」

 

 ムンモンの説明に、ユエは霧の中に消えていったハジメ達のことは自分にしか見えていなかったことに気が付いた。

 つまり、さっきのハジメ達は幻だったのだ。

 

「……ッ。こんなの、魔法で。〝風刃〟!!」

 

 風の刃を飛ばす魔法で拘束する蔦を斬ろうとするユエ。

 生み出された風の刃は狙い通り蔦を斬り裂き、ユエを開放する。

 だが、すぐさま新しい蔦が伸びてきて、ユエを再び拘束する。

 

「ぐッ。〝螺炎〟!!」

 

 今度は、樹が燃えるのを危惧して使わなかった炎魔法で拘束を抜け出そうとする。

 渦巻く炎がユエの周囲の蔦を焼いていく。

 今度こそ脱出できると思ったユエだったが、突然、霧の中から咆哮が響いてきた。

 

「オオオオオオッッ!!!!」

「うっ!?耳、いたい……」

「この、声」

 

 その音量に集中力が切れたユエは魔法を中断してしまう。

 ユエとムンモンが顔をしかめていると、霧が蠢き、そこから何かが現れた。

 

 それはユエの背丈を優に超える巨木だった。だが、そこには巨大な老人の様な顔があり、目に当たる空洞には黄色い目が光っている。頭には髪の毛の様に緑の葉が生い茂り、赤い果実が無数に実っている。

 根っこを手足のように動かしながら、ユエの前に現れたその姿を、ユエは知っていた。

 

 香織に教えてもらったデジモンの一体。樹海の主とも呼ばれるそのデジモンの名は、

 

「……ジュレイ、モン」

 

 植物型の完全体デジモン、ジュレイモン。そのイミテーションだった。

 




〇デジモン紹介
ジュレイモン
レベル:完全体
タイプ:植物型
属性:ウィルス
非常に高い知性とパワーを得たデジモン。樹海の主と呼ばれ、深く暗い森に迷い込んでしまったデジモンを更に深みに誘い込み、永遠にその森から抜け出せなくしてしまう恐ろしいデジモンでもある。誘い込む際に体から幻覚を見せる霧を発生させる。ユエはこの霧のせいでハジメ達の幻覚を見せられ、誘い込まれてしまった。
誘い込んだ対象を枝のような触手や蔦で取り込んで自らの養分にしてしまうぞ。
必殺技は頭部の茂みに生えた禁断の木の実『チェリーボム』。食べた者の末路は死である。


今回はユエ中心のお話でした。
あの頃のユエってハジメに向ける感情がなんなのか知らないんじゃないかと思い、ちょっと綾波レイみたいな感じになりました。

ハジメは優良物件で玉の輿。原作アフターでハジメの家族の詳細が明かされたときに思っていたんですよね。会社の御曹司で売れっ子少女漫画家の息子。将来に向けてのスキル習得もしているんですよね。将来安泰じゃないですかね?

鬼畜難易度になったオルクス大迷宮。偽物とはいえスカルグレイモンが出る迷宮とか嫌ですね。誰がこんなことにした(笑)

そして、原作ではユエが頭皮を削られた階層では、ジュレイモンが出現。その能力でユエにヒュドラの黒頭と同じことをしてきました。果たして、ユエはどうなるのか。次回をお楽しみに。

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